第百八話 帝都ノ変(16) 激震と最強
帝都に張られた結界が突如破壊された。
突然の事に連合軍と民たちは動揺していた。
リル「こ、これはこれは‥。」
リタ「あれを破るなんてどんだけ脳筋なのよ‥。」
界人「リタ!リル!やっぱり結界は破られたのか!?」
リル「えぇ、しかも破った相手はかなりの筋肉バカみたいね。」
アイシュ「これはまさか‥。」
リヴァル「くそゴリラの仕業だな‥。」
界人「こうなれば仕方ない‥。誤殺を避けるためにもアイシュとリヴァルは先に戦線を離脱し、合図を待ってくれ。」
アイシュ「わ、わかった。」
リヴァル「仕方ないか。」
界人「そうだ、後全員白襷を掛けろ。乱戦になったら目印がないとまずいからな。」
アイシュ「仕分けですね。わかりました。」
リヴァル「父上もご武運を。」
連合軍側に参戦したシャル派の亜種族一隊は急いで離脱した。
界人「二人は、強化魔法を頼めるか。」
リタ&リル「わかったわ!」
リタとリルは急いで後方に下がった。
するとその時、勇ましく物々しい雄叫びと地鳴りが聞こえる。
亜種族軍の総攻撃が始まったのだ。
時間稼ぎの壁はもうない。
このまま勢いと数で飲み込まれてしまうのは目に見えていた。
シルバー「‥あの兵力から見るに本気で潰しに来たな。」
中田「焦っているのか‥考えがあるのか‥それともバカか。」
シルバー「‥ククク、滾るな。」
中田「‥えぇ、そろそろ我々も行きましょうか。」
景勝「迎撃準備整いました。」
中田「おぉ、早かったな。やっぱりご老体方はやる気のようだな。」
景勝「えぇ、我々が年寄り扱いしていた分、ストレスを感じていたみたいで‥今は異様な光景です。」
中田「体は老いても心は若いということか。」
シルバー「はっはっ、ここは帝都ですかなら、老人とは言え一騎当千の力はありますよ。」
景勝「それは逆に怖いですね。」
シルバー「はっはっ、激戦を乗り越えた民が多いのでな。」
中田「景勝よ、とあるゲームを思い出せ。ラスボス近くの街と最初の街の住人の差だ。」
景勝「なるほど。」
スライムが蔓延る街と
ドラゴンやゴーレムが蔓延る街の差である。
現に老人が待つ広場に向かうと。
ムキムキの爺さんや、よぼよぼの爺さん。
きゃしゃな婆さんや、杖をついた婆さんなど、
ピンからキリまであった。
普通に見たら、老骨を戦地に送る愚行のように見える。
だが‥そう思ったら痛い目を見る。
景勝「えっと‥皆さん本当に大丈夫ですか?」
爺「若造!また年寄り扱いしよったな!」
爺「わしらはお主よりも強いわ!」
婆「○キでもかけてやろうか?」
婆「獄炎玉を喰らいたいのかい?」
想像以上に血気盛んな老人方に思わず景勝は謝った。
警界官「佐渡様!敵が城壁を越えました!」
景勝「わかった。陣形を崩さず応戦しろ。俺もすぐに‥。」
景勝が指示を出している隙に、老人方は瞬時に戦場へ向かった。
まるでワープでもしたかのように‥。
中田「は、はやっ!?」
景勝「う、うっそ‥。」
警界官「は、ははっ、さすが異世界。」
三人が唖然としているとすぐに大爆発や悲痛な叫び声が聞こえる。
衛兵より強い事実に、この国のパワーバランスが疑問に思うことは置いといて。
老人は時によっては強である。
シルバー「はっはっ、さすが戦友たちだ。久々の戦に血を滾らせておるわ。」
中田「はぁ、景勝。我らもいくぞ。」
景勝「は、はい!」
老人方の勇ましい戦ぶりに圧倒された連合軍は負けじと奮起した。
更にシルバー陛下と中田首相の参戦により、士気は高まり、戦況は有利には見えた。
とあるゴリラの再来までは‥。
ゴリ「ウッホッ!爺さん婆さんを痛め付ける趣味はないが‥歯向かうなら楽に送ってやるよ。」
婆「そいつはありがたいね~。わしは痛いのは嫌じゃからな。」
爺「わしも賛成だ。死ぬときは一瞬が良い。」
弱々しく語る老人方ではあるが、大剣やらハルバードなど物騒な武器を片手で持ってる時点で矛盾を感じる。
ゴリ「‥失礼だが、死ぬ気はないようだな?」
爺「もちろんじゃ、孫の成長を最後までみたいからな。」
婆「お前さんも家族がいるなら、こんなことやめて孝行した方が良いぞ?」
ゴリ「‥調子狂うな。これだから老人はやりにくい。」
ペースを乱されこめかみをかき始めるゴリラの前にドレスを着た女の子が飛び出してきた。
?「それなら無駄な戦をやめて帰りなさい!」
ベージュ髪でツインテールの女の子は自分より大きなゴリラに堂々と物申した。
ゴリ「ウホッ?今度は孫か?」
爺「ナーシャ様!?なぜこの様なところに!?」
婆「危ないですから、早くにげ‥ふぐっ!?こ、腰が‥いたたっ。」
ナーシャ「私は逃げません!みんなが命を懸けて戦っていると言うのに、私だけ安全なところで隠れているのは辛いです!」
彼女はナーシャ・グレイム。
シルバー・グレイムの孫娘で、大人顔負けの度胸の持ち主だ。歳は13才にして手を出したら犯罪者になることは間違いない。だが、ここは異世界‥結婚レベルは平安時代並である。一応異世界に習えば合法だ。
ゴリ「く、ククク、あはは!なんだこの国は~?子供と老人をかり出さないと戦えないとは‥よく代表国を名乗れたな?」
ナーシャ「‥確かに‥今の帝都は衰退しています。あなた方‥亜種族との度重なる戦で多くの勇姿を失い‥そしてお父様‥お母様‥お兄様‥多くの家族を失いました。」
ゴリ「だから、俺たちのせいだと?もしそうなら勘違いするなよお嬢さん?ここまで弱くなったのは、帝都が弱すぎるからだ。」
ナーシャ「っ!」
ゴリ「弱き者は強き者に喰われる‥それは世の常だ。嘆くなら弱い己らを恨むのだな。」
弱肉強食の異世界では至極もっともな答えだ。
帝都の歴史も血で血を争い。弱きものを踏み台にして成り立っている。これは異世界だけではない全世界のすべての国が持っている黒い歴史である。
ナーシャは顔を下に向け答えた。
ナーシャ「‥帝都は‥‥ありません。」
ゴリ「ウホッ?何か言ったかな~?」
ナーシャ「っ!帝都は弱くありません!例え衰退したとしても根が枯れない限り何度でも再興できます!」
ゴリ「あはは!ならばその根ごと駆逐してやろう!」
ゴリは右腕を上げた。
爺「ナーシャ様!お逃げを!」
ナーシャはその場を動かず堂々としていた。
絶体絶命の瞬間、誰もが可憐な姫様が潰されることを覚悟した。
その時、ゴリに向け一際大きな槍が飛んで着た。
ゴリ「っ!なんだ?」
槍に纏った物々しい気に思わず後ろへ下がるゴリラ。
ナーシャ「ナイスタイミングです。本田様‥。」
余程無理をしていたのだろう。
ナーシャは後ろへ倒れ込むと、
春桜学園最強の男。
本田忠成に抱えられた。
忠成「ナーシャ殿、見事な戦ぶりでしたぞ。」
ゴリ「ウホッ?貴様何者だ?」
忠成「‥本田平八郎忠成。貴様を討つ者だ。」
目の前のゴリラに腰をも抜かす力強い圧をかける。
ゴリ「っ、ウホッ‥この殺気‥人間を越えてるな。」
忠成「武人故‥。ご老体、ナーシャ殿を頼む。」
爺「わ、わかりました。」
ナーシャを爺さんに引き渡すと、忠成は更に圧を強くさせ、愛槍の人間止主を手に取った。
ゴリ「ウホッウホッ!いいね!俺も滾って来た!本田平八郎忠成‥俺を楽しませろ!」
忠成「いざ、参る!」
ゴリは真っ正面から忠成に突っ込んだ。
忠成もゴリに合わせて真っ正面から迎撃した。
二人のまわりには激しい衝撃波が生まれ突風が起きる。最強と最強の本気の戦、武骨な忠成も思わず笑みを浮かべ楽しそうにしていた。
そんな様子を三年生義勇軍は血を滾らせていた。
三年男子「す、すげぇ!忠成の本気を初めて見た!」
三年男子「やべぇ、俺も滾ってきた!」
忍「待て、御影が来るまで我慢しろ。」
三年男子「そ、そうだな!陽動作戦が決まるまで‥だよな。」
時奈「‥勝利のためには我慢も必要だ。合図が来れば思う存分戦えば良い。」
三年男子「おぉぉっ!!」
今朝まで帝都付近の街にいた三年義勇軍。
帝都までの道のりとナーシャに会うまで時間を考えると早すぎると思うだろう。
それにはこんなエピソードがあった‥。