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第百五話 帝都ノ変(13) 駆除と姫親(きしん)

おそらく、ここまで狂った戦場はないであろう。

リブル公国に攻め行った亜種族全員が後悔した。


リブル公国上空には勇ましい龍が十体、城門には各五体の獅子が配置されていた。

不思議と姿形に統一感はなく、それぞれ架空の様な独特の様な感じがする。


それもそのはず、これは全て"微食会"の一人、坪谷勇二郎が手掛けた絵を具現化させた生き物なのだ。


かの(じゅっしん)(ちゅう)の一人、画神(がしん)が持っていたとされる伝説の戦器(せんき)"天雲筆(あまくもふで)"を持ち"マッドアーティスト"の二つ名を持つ男である。


入手経路は、異世界の宿で一泊したら知らぬ間にカバンに入っていたと言う。まるで天雲筆(あまくもふで)の意思で入り込んだかのように‥。


証拠に坪谷以外が使っても具現どころか浮き出ることもない。あくまで坪谷が手掛けたものしか具現化されないのだ。



近藤「ゆうちゃん楽しそうだな。」

茂野「まあ普通に考えてこんなの手掛けられるのは今しかないからな。」

渡邉「元の世界で出したらニュースになるからな。」

本間「それはそれでいいんだけど‥あれはなんだ?」

近藤「しっ、見るなツッコむな‥。」


微食会メンバーの左側に、怪しげなトイレとベンチに座る如何にもヤバそうな黒ツナギの良い♂(おとこ)がいる。


黒ツナギの♂(おとこ)は、じっとこちらを見ている。


大西がちらりと見ると、黒ツナギ♂(おとこ)は前のチャックを少しずつ下ろし始める。


大西は慌てて目を逸らすと、黒ツナギの♂(おとこ)の手が止まる。


星野「坪谷くん‥あれを出した意味は‥。」

坪谷「あぁ、成り行きで書いたものだから。見てて良いよ。」

星野「いやいや、怖くて見れないんだけど。」

坪谷「えぇ?じゃあ近藤‥行ってこい。」

近藤「なんで俺なんだよ!?ここは本間行けよたぶん、天国に行けるよ。」

本間「あぁあぁぁっ!ってばかちん!ここはせいっちゃんだよ。」

番場「仕方ねぇな。ほら、マッキーいくよ。」

高野「いやいや、俺を巻き込むな!?」

藤井「やばい‥俺たちの敵が"あれ"になってる。」


戦闘前にグダグダな十人の元に一人の姫が走ってきた。


エニカ「こら~!みなさん私を置いて何してるのですか!」

近藤「あぁ、エニカ"様"おはようございます。」

渡邉「前もって防衛準備をしてるのですよエニカ"様"。」


エニカ「わざとらしい様つけをやめなさい!もう‥みなさんが城で泊まってくれないから抜け出すのに時間がかかりましたよ。」


藤井「不可抗力で罪に囚われたくないっすからね。」


エニカ「そんなことさせませんよ!?どれだけ、不信感持ってるのですか!?」


星野「中世風の公国だから?」

茂野「王族国家だから?」


エニカ「うぐっ‥王国への偏見がすごいわね。」


すると、ベンチに座っていた黒ツナギの♂(おとこ)が、エニカの肩に手を置いて笑みを浮かべ‥。

黒♂「雌は帰りな。」


エニカ「誰ですかあなたは!」


黒♂「っ!」


まあ当然な反応だろう。

エニカは黒ツナギの良い♂(おとこ)の胸ぐらをつかみトイレへ向け勢いよく投げ飛ばした。


黒♂「ふっ‥やらない‥ぐはっ!?」


黒ツナギの♂(おとこ)はトイレにぶつかると、消え去った。


坪谷「あやや、傑作が‥。」


エニカ「何が傑作ですか。今のはみなさんが言う伝説の"あれ"じゃないですか。」


坪谷「よかったらもう一枚書きますよ?」


エニカ「い、いりませんよ!?とにかく今は防衛しないと‥。」


坪谷「まあまあそう焦らないで。時期に終わりますから。」


近藤「まあ、確かにな。エニカ、よかったら城壁で見物しないか?」


エニカ「け、見物って‥。」


近藤「まあ信じろ。俺たちもついていくからさ。」

茂野「うんうん、ゆうちゃんの力を見るにはその方が良いな。」

渡邉「そうと決まればささっと行こうか。」


九人はエニカを連れ城壁へと向かった。

一人の姫と九人の男たち、

ある意味危険な光景である。




そして‥城壁外では。



阿鼻叫喚、死屍累々、戦々恐々、無茶苦茶が広がっていた。


亜種族「にげろぉ!?ここは地獄だ!」

亜種族「ひっ!?こんなのいるって聞いてないぞ!?」


(そら)には龍が陣取り、ブレスを放ち

()では獅子が縦横無尽に暴れまわり、

亜種族は蹂躙の一途であった。


エニカ「よ、容赦ないですね。」


星野「こんなのがいるとは相手も想定外でしょうからね‥南無南無。」


高野「敵ながら同情に値するね‥。」


茂野「絵だけどこの強さは異常だな‥。」


城壁には微食会以外にリブル公国の兵と学生義勇軍がドン引きながら見ていた。


一部では外に出て迎撃したい者もいたが、

危険な味方の攻撃に巻き込まれることは目に見えているため、今は城壁から指を咥えて見ていることしかできなかった。



近藤「‥やっぱり、チートも良いところだな。」

本間「ま、まあ安全だけどね。でも、絵を描くのに時間がかかるからとんとんじゃないか?」

茂野「ところがゆうちゃんに至っては刀や銃とか普通に使えるから隙がないんだよな。」

近藤「分かる~、この前不意打ちしようとしたら空気砲で反撃食らったな。」

茂野「俺はトリモチバズーカだったな。」


本間「大概だな‥。」

藤井「この中で坪谷くんに勝てる奴はいるのか?」


微食会「一対一のさしならいないな。」


エニカ「こ、こら~!?わ、私も話に混ぜなさいよ!?」


姫様を取り残し盛り上がる九人に、エニカは寂しさからツッコンだ。


渡邉「いやいや、エニカに取っては下品な話だから混ざらない方がいいよ?」

星野「確かに、姫様の品が下がるかもな。」

微食会「うんうん。」


エニカ「む、むぅ‥。私も外のお話を聞きたいです。そ、そうだ!私も覚悟を決めました!」


近藤&渡邉「家出は駄目ですよ?」

エニカ「なっ!?誰が家出ですか!私もそちらの世界で勉学に励みます!」


微食会「っ!?」


エニカには、以前から現実世界への憧れを持っていた。しかし、公族の立場もありその夢はおろか、城の外に出ることも困難であった。


だが半年前に微食会の十人と出合い。

手助けのもと城の外に出る機会が増え、その夢も現実へと近づいた。


これは微食会十人が恐れたことであった。


エニカの春桜学園の編入。

それはすなわち、微食会十人がエニカの護衛に振り回されると言うことを意味していた。


もし何かあれが十人仲良く(さら)し首だ。


肩身の狭い学園生活だけは送りたくない。


十人の表情はひきつり苦笑いをした。



エニカ「なによ?不満そうね?」


近藤「あ、あはは‥おい、せいっちゃん‥黙ってないで何か言えよ。」


番場「ふっ、一抜けた!」


一同「なっ!?」


番場は鼻で笑い城壁から飛び降りた。


番場「番場誠太!一番乗りだ!」

渾身の拳を地面に叩き込むと地は裂け、半径一メートルの地が割れた。


近藤「ぬ、抜け駆けは卑怯だぞ!」


番場に続いて近藤も身を乗り出すと、首根っこをエニカに掴まれ引きずり下ろされる。


エニカ「尚弥~♪話の途中なんだけど~♪」

近藤「いやいや、せいっちゃんが行くなら続くだろ!?」


近藤がエニカに捕まった隙に、残りの七人は一斉に逃げるように城壁から外に出た。


近藤「あっ!?おい!お前ら何してるんだ!?」


渡邉「すまん!あとは頼む!」

本間「グッチョブ!幸運を!」


近藤「あっ!?おい!?」


エニカ「クスクス‥尚弥~♪」

近藤「‥はぁ、ん?あれはなんだ?」

エニカ「えっ?」


よくある低級な騙し方に、まんまとエニカは後ろを振り向いた。その隙に近藤は城壁から飛び降りたのだが、首に縄がかかった。


近藤「うぐっ!?」

エニカ「私もナメられたものですね♪」

近藤「ぐ、苦しい‥。」

エニカ「安心してください♪すぐに引き上げますから♪」


可愛らしい笑みを浮かべ、近藤を引き上げる。


その光景に七人は合掌し、思う存分暴れ回ったと言う。


ちなみに、リブル公国の攻防戦は一日もかからず幕を閉じた。


この機に乗じて、リブル公国は帝都への援軍を決意。エニカ姫を主力とした公国軍と学生義勇軍と共に向かうのだった。


もちろん、親衛隊にはエニカの推薦により微食会の十人が選抜された。


近藤は、ニコニコと嬉しそうに九人を見つめた。


近藤「いや~♪みんな選ばれてよかったな♪」

本間「喜んでるのは近藤だけだと思うが?」

近藤「そんなに嫌がったら‥次は臣下だよ?なんなら、推薦を‥。」

藤井「安心しろ、それならエニカに近藤も推薦しているから。」

近藤「ふっ、そんな冗談通じるわけないだろ?」


エニカ「本当よ尚弥♪あなたは今日から私の臣下いえ、家臣よ♪」

近藤「‥はい?えっ、あっ、あはは、いや~♪参ったな♪最近耳が遠くて‥いててっ!?」


惚ける近藤の耳を引っ張り、耳元で伝える。


エニカ「今日から尚弥は私の家臣よ?」


間違いない。

やはり、家臣と言っている。

しかも同意なしの強制である。

まさに、中世らしいやり方だ。


近藤「俺だけ‥ですか?」


エニカ「クスッ♪」


近藤「ま、まさか‥。」


渡邉「‥察しの通りだよ。」


まさかの全員家臣確定のようであった。


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