第百三話 帝都ノ変(11) 犯行と腐虫
今日で攻防戦に終止符を打とうと戦に望んだ亜種族軍であったが、結局大損害の末一時の休戦に入った。
元後言えばあの妖狐のせいである。
ゲドゥルム「‥くそ、あの妖狐のせいで作戦は失敗だ。」
リヴァル「‥すまないゲドゥルム。不覚にもなにもできなかった。」
アイシュ「あれは‥我々以上‥いや、元老級にまずい相手だ。」
ゲドゥルム「‥いや、魔王級だ。」
三人が揃って稲荷の話をすると、徳川の爺さんが配下をつれて現れる。
徳川「おやおやお三方?帝都も落とさず何をなさっておるのかな?」
リヴァル「‥何のようだ徳川殿?」
ゲドゥルム「‥その後ろの者は何者かな?」
アイシュ「‥穏やかではないようにも見えますが。」
徳川「ククク、言わなくてもわかってるようですね。なら‥死んでくださいませ。」
不適に笑みを浮かべると、老人の姿から魔神のような牙を生やし人成らざる者へと姿を変えた。
リヴァル「っ!徳川てめぇ‥。」
アイシュ「裏切るつもりですか。」
ゲドゥルム「‥この狸め本性を‥っ。」
その時ゲドゥルムの脳裏に界人が発した言葉を思い出す。
界人「仲間か‥それが本当ならいいよな?」
ここに来てその言葉の意味を理解する。
ゲドゥルム「‥答えろ徳川‥誰の差し金だ。」
徳川「‥そうですな。上‥とでも言いましょうか。」
ゲドゥルム「っ!なるほど‥とうとう親王派が尻尾を出したか。帝都の攻防で弱った俺たちを殺る算段ってとこか。」
徳川「ククク、あはは!その通りよ!気づくのが遅すぎましたな。本当は帝都も落としてくれれば野望も果たしやすかったのですがね?」
リヴァル「‥くっ、腹が立つ野郎だ。」
アイシュ「‥こんな屈辱許せない。」
徳川「‥ククク、殺れ、」
魔人「おぉ!」
徳川の配下は三人に襲いかかる。
当然三人も抵抗するが、体に異変を感じる。
ゲドゥルム「ぐっ、はぁはぁ。」
リヴァル「ちっ、体が重いな。」
アイシュ「はぁはぁ‥何かしたみたいね。」
徳川「ご名答‥この周辺に弱体陣を手掛けさせていただきました。」
ゲドゥルム「なるほど‥それならバレずにできるってわけか。だが‥」
リヴァル「ククク、味方も巻き添えだな。」
徳川「なに?」
魔人「はぁはぁ‥はぁはぁ。」
アイシュ「魔方陣を書き間違えたようね?さすが低能な元猿ね。」
徳川「‥ちっ、あのばかどもめ‥まあいい、少なからず貴様らより弱ってはない。勝つのは我々だ。」
ゲドゥルム「なら試してみるか?黒龍!」
ゲドゥルムは大声で黒龍を呼ぶ。
すると雄叫びと共に空を巡回していた黒龍が舞い降りた。
だが、徳川は依然と余裕な素振りを崩さなかった。
徳川「おやおや、忠実なトカゲが来よったか。仕方あるまい‥貴様らは帝国側の暗殺で処理したかったが、反逆者として‥亡霊に囚われた邪魔なシャル派を皆殺しにしてくれよう。」
ゲドゥルム「死ぬのは貴様らだ‥。」
リヴァル「‥シャル様の侮辱は許さんぞ。」
アイシュ「その首を跳ねて晒してあげるわ。」
ゲドゥルム「ふっ、雑魚は下がってな。黒龍、二人を頼むぞ。」
リヴァル「っ!雑魚だと!」
アイシュ「な、何を言ってるの‥きゃっ!?」
黒龍は手際よく二人を背中に乗せるとゲドゥルムが拘束術をかけ動けないようにする。
リヴァル「ゲドゥルム!何しやがる!」
アイシュ「拘束を早くほどきなさいよ!?」
ゲドゥルム「黒龍行け!そしてドラゴニアたちに四散させろ!」
ゲドゥルムの命令に、黒龍は従順に従い飛び立とうとする。
徳川「させるか!者共行け!生きて返すな!」
魔人「おぉぉ!」
徳川の命令に一斉に魔人らが襲いかかる。
ゲドゥルムは、得意の炎魔法で炎壁を作り、数体の魔人を焼いた。
ゲドゥルム「ナメるな!雑魚ども!貴様らの相手はこの俺だ!」
退路をたち死を覚悟したゲドゥルムに、リヴァルとアイシュは名を呼ぶことしかできなかった。
ゲドゥルムは弱体陣の中、雄々しく戦い魔人の屍を重ねる。このまま行けば徳川を殺して生還できると思った。
だがその時‥数発の発砲音がした。
ゲドゥルム「か、はっ‥。な、なんだ‥‥。」
膝をつき顔を上げると、本来持ち込めないはずのハンドガンを持ち、額に向けている徳川がいた。
徳川「所詮‥竜王もこの程度か。せめての情けだ‥何か言ってみろ。」
ゲドゥルム「はぁはぁ‥ふっ、くたばれ‥くそ狸が。」
"くそ狸"徳川はそれを聞くと引き金を引いた。
ゲドゥルムはその場に倒れ込み息絶えた。
ゲドゥルムの死は、離れたリヴァルとアイシュ、黒龍にも伝わった。
リヴァル「っ!ゲドゥルム‥ばか野郎‥ぐぅ。」
アイシュ「っ!うぅ、ばか‥。」
黒龍「グルルッ、グオォォ!」
黒龍の雄叫びも悲しそうに叫ぶ。
その頃、地上のドラゴニアたちは徳川の配下と交戦中であった。
だが、黒龍の雄叫びにより生き残ったドラゴニアは四散し、それに続いてリヴァルとアイシュの配下も戦線を離脱した。
魔人「申し上げます。シャル派の軍勢は被害多くそれぞれ四散しました。再起はほぼ不可能かと思います。」
徳川「‥四散だと?」
魔人「は、はい‥もう訳ございま‥がはっ!」
魔人「っ!」
徳川「‥皆殺しと言ったはずだ。貴様ら‥早く逃げた奴等を殺せ!」
魔人「は、はい!」
自ら余裕ぶって漏らしたくせに、その罪を配下に擦り付けるとはいいご身分である。
だが、徳川の圧に押され魔人らは逆らえず追い討ちに出た。
徳川「‥元老に伝えろ。数名逃がしたが再起は不能であると。あと、増援を送るように伝えるのだ。」
魔人「はっ!」
徳川「‥ククク、次は帝都‥そして次は亜種族の王‥そして、次はこの世界‥全てをこの手にしてやろうぞ。」
野望と欲望にまみれた身中の虫がいた。
平和を脅かす波乱に満ちた戦慄を詩う者がいた。
世界と亜種族がもたらす共存の可能性。
友を救わんと死を選んだ竜王。
そして今二つの黒き希望が飛び立った。
翌日の帝都グレイム。
雲一つもない晴天の朝である。
そんな皮肉な頃、帝都の大鐘が鳴り響く。
昨日の戦闘で散った勇姿たちの弔いだ。
シルバー「‥昔はこんなことしなかったのだが、今は尊く思う。」
栄角「平和は良くも悪くも日常化すれば命の価値も変わります。」
シルバー「戦争が日常の時は、ただただ兵は兵として扱い。その者たちの尊い命を踏みにじっておった‥。今思えばわしは悪魔より悪魔であったな。」
栄角「陛下‥そのお気持ちが続く限り必ず未来に続きます。もし過去の霊に思うところがあるのであれば、ここで意を表しましょう。」
シルバー「うむ‥そうしよう。」
皇帝シルバー・グレイムは、
剣を地に突き刺し、片膝をつき全ての霊魂を慰めたのだった。