第百一話 帝都ノ変(9) 来光と動震
両津界人、スカル、ハイドを主とする帝都連合軍先陣部隊は崩れた防壁に陣取り火縄三段構えと後方弓隊で応戦していた。
界人「第二陣構え!放てぇ!」
スカル「後射放て!」
ハイド「いやはや、楽な戦になってきたな。」
界人「だといいがな。ん?なっ!?全員退避!退避!」
ふと空を見ると漆黒の黒龍が先陣目掛けて怒涛の勢いで突っ込んできた。
その衝撃は凄まじく、先陣の多くが吹き飛ばされた。
界人「ぐっ、黒龍だと‥」
スカル「まずい‥四散した状態でブレスをはかれたら。」
ハイド「前線が全滅する‥。」
衛兵「ひぃ!黒龍だ!」
衛兵「逃げろ!焼き殺されるぞ!」
黒龍「ぐがぁぁぁ!」
勇ましい雄叫びを上げ、灼熱のブレスを放つ。
男「なっ!」
男「ぐっ、ここまでか‥。」
衛兵「くっ!」
勇姿たちは死を覚悟した。
恐らく骨すらも残らないだろう‥。
諦めたその時、黒龍の回りに水の壁が立ち上がる。
界人「な、なんだ!?」
スカル「こ、これはウォーターシールド!?」
ハイド「しかもこんな広範囲‥と言うことは。」
見覚えのある広大な魔法に、スカルとハイドは背筋を凍らせる。
?「全く‥見てられないわね。」
?「昨日の"任せておけ俺がいる限り帝都は安泰だ"って言ってたくせに。」
黒い魔導師ローブを身につけ、瑠璃色の短髪美女と長髪美女が現れた。
スカル「り、リタ!?」
ハイド「り、リル!?」
ここで小話
短髪美女のリタ(22)と長髪美女のリル(20)は、平凡な魔導師"ヴェンセント"家の姉妹で、今から五年前たまたま飢餓に倒れた老人を救ったら、実は大賢者キトー・レーマスであると判明。
話によると、キトーには弟子が誰一人もいなく後継者を探しに旅に出るも、とある街でハニトラに引っ掛かり酒で酔わされ金を全て失い飢餓に倒れたと言う。
だが意外にも功を奏して素質がある姉妹と出会った。
キトーは助けたお礼に賢者の知恵と魔術を授けようと思い修行を提案する。
リタとリルは大喜びでそれに応じ、あっという間に平凡から高名な賢者へと成り上がった。
その後は、キトーは祖父の様に慕われ今では実家で畑仕事を黙々とこなしている鉄人爺さんとなっている。
リタ「黒龍一匹も倒せないようでは‥お爺様が決して婚約は認めませんよ?」
リル「クスッ、お爺様が居なくてよかったですね♪もしいたら‥。」
リルは予測泡を作り出すと、鍬を持った賢者キトーが髪を逆立て怒りを表していた。
キトー「わしの可愛い孫娘と結婚じゃと!身の程をしれぇぇ!こわっぱが!」
リル「と、こんな感じに‥あれ?」
予測泡が弾け、二人を見ると姿はなかった。
界人「二人なら黒龍目掛けて走ったぞ。」
リタ「クスッ、分かりやすいわね。」
リル「さすが姉さん、男の扱いが上手いですね。」
リタ「そうでもないわよ♪あの二人が単純なだけよ。」
リル「ですが、学園の生意気な生徒に押し倒されたい願望を持つ私では難しいです。」
リタ「そんなことないわよ。でも、リルの気持ちは分かるわ♪この前読んだ異世界の書物"教師と生徒"は素晴らしかったわ。生意気な生徒が美人教師を屈服させるお話はとても興味があるわ。」
界人「そっちの方が難しいぞ‥てか、年頃の娘がそんな興味持つな。」
界人がぼそっとツッコむと、リタとリルが気づく。
リタ「あれ?界人さんじゃないですか?」
リル「お久しぶりです。やはり来られたのですね。」
界人「まあな、それにしても二人が賢者とはな。募る話もあるけどまた後だな。二人とも怪我すんなよな?」
そう言い残すと界人もスカルとハイドの元へ向かった。
リタ「界人さんは変わりませんね。」
リル「あれから六年‥一年くらいの短い月日でしたけど、ギルドでは父親のように接してくれましたからね。」
リタ「えぇ、界人さんが抜けてから私たちも便乗して抜けて、それからお爺様と出会ったわね。」
リル「はい、界人さんは私たち姉妹の恩人です。絶対に死なせはしません。」
リタ「クスッ、もちろんよ。」
姉妹は杖を地面に"カツン"と叩くと巨大な加護の魔方陣が描かれる。
そして、黒龍と対峙する二人は苦戦していた。
スカル「かってぇ~、傷すらつけられない。」
ハイド「こいつ普通の龍じゃないな。」
ゲドゥルム「へぇ~、こいつを相手にしてまだ死んでないんだ。」
突如黒龍の背に舞い降りた赤髪の男。
立派な紅い竜の尻尾を生やし、おぞましい圧をかける。
スカル「っ!なんだと!」
ハイド「貴様何者だ!」
ゲドゥルム「死に逝く者に名乗る名はない!死ね。」
ゲドゥルムは二人目掛けて突っ込んだ。
スカル「ぐはっ!?」
ハイド「ぐふっ!?」
目にも映らないほどの速さと威力。
二人はそのまま吹っ飛ばされた。
界人「スカル!?ハイド!?」
ゲドゥルム「よそ見するな!次は貴さ‥ごはっ!?」
界人「おせぇよ!」
目にも映らないほどの速さであるはずが、ひらりとかわされ殴り飛ばされる。
ゲドゥルム「ぐっ!ば、ばか‥普通の人間がどうして‥。」
界人「さあな、だがお前の動きは、はっきり見えてるぞ。」
ゲドゥルム「ぺっ‥人間風情がぁ!この竜王に勝てると思うな!」
普通の人間に殴られ、舐められたゲドゥルムは、正気を失い龍の姿に姿を変える。
界人「わざわざ的を大きくしてくれるとは‥ありがたいな。」
ゲドゥルム「ほざけぇ!」
界人「っ!ぐはっ!?」
想像以上に早い尻尾攻撃に反応が遅れ直撃した。界人は城壁に叩きつけられ、界人自信も死を感じた。
ゲドゥルムは人型に戻り界人に詰め寄り髪を引っ張る。
ゲドゥルム「どうだ人間よ。さっきの威勢はどうした?」
界人「‥‥。」
当然返事は帰ってくることはなかった。
ゲドゥルム「ちっ、死んだか‥。少しは驚かせてくれたが所詮は人間か。」
返事のない界人に止めの灼熱炎弾を三発見舞った。
ゲドゥルム「さぁ、前線は崩れた!全軍進め!」
ゲドゥルムの号令に大打撃を受けた亜種族たち息を吹き返す。
リヴァル「先を越されたな。」
アイシュ「あぁ、だが‥我らが動かなければ進めないとは情けなくも落ちたものだな。」
リヴァル「仕方あるまい‥。亜種族の力は全盛期よりかなり落ち込んでいるからな。」
アイシュ「‥そうだな。」
?「あらあら~♪平和を乱す悪い子たちはあなた方かしら?」
リヴァル&アイシュ「っ!?」
突如二人の耳元で妖艶な声が聞こえた。
慌てて後ろを振り向くと、巫女服を着た金髪の妖狐が立っていた。
?「あら?もしかして私の気配が分からなかったの?」
リヴァル「くっ何者だ貴様‥。」
アイシュ「‥その姿、獣族か。」
?「もう~、質問は順番でお願いよ?コンコン♪」
リヴァル「‥では、俺からだ。貴様は何者だ。」
稲荷「クスッ、私は両津稲荷‥平和をもたらすお姉さんよ♪」
アイシュ「平和をもたらすだと‥?」
稲荷「コンコン♪実は暇潰しに様子を見てたら‥ちょうどお父様に酷いことした悪い子を見たものだから‥ちょっとお仕置きをね。」
優しい顔から徐々に表情が険しくなる。
脅しついでに殺気も飛ばす。
アイシュ「っ!」
リヴァル「‥貴様も亜種族か。」
二人も引くような殺気に肝を冷やす。
稲荷「クスッ、ちがうわ♪私は妖怪‥異世界の者よ♪」
わざとらしい隙を見せていることは、二人も察するところであった。
この狐は試している。
もしここで手を上げれば、瞬時に殺しにかかるだろう。
しかし、
こんな危険な化け物と敵対してるのもまた事実。このままではゲドゥルムが殺されるだろう。殺るなら今しかない。
リヴァル「‥稲荷よ。あなたはお仕置きをすると言ったな。どうお仕置きするのだ?」
リヴァルはジリジリと一撃で倒せる間合いに迫る。
稲荷「それはもちろん‥お父様にした仕打ちと同じことよ。」
リヴァル「そうですかなら‥なら‥。(よし間合いに入った。死ねぇ!)」
稲荷「クスッ、警戒しすぎて殺気がただ漏れよ?」
リヴァル「っ!」
もふもふの尻尾が鋭利な刃物のようにリヴァルに襲いかかる。棍棒は弾かれ喉元に九本の尻尾が突きつけられる。
リヴァル「くっ‥(なんだ、この強さは‥。)」
アイシュ「‥‥っ。」
アイシュも刀に手をかけると、稲荷が忠告する。
稲荷「やめなさい‥あなたでは私には勝てないわ。でも‥死にたいのなら相手になるわ。」
目を赤く染め、冗談ではないと威嚇する。
アイシュは渋々刀から手を離す。
稲荷「クスッ、さてと~♪大きなドラゴンさんにお仕置きしないとね♪」
そう言い残すと稲荷は去っていった。
二人の幹部は緊張がとけその場で腰を抜かしたのだった。