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ハッピーエンドを求めて  作者: AiU
四章
40/50

眠くなる前に

 丑三つ時という言葉があるが、これはだいたい午前2時頃を差す。

 そんな時間ならばほとんどの生き物は眠りについてしまうだろう。夜を生きる者を除いて、眠りにつく時間だ。

 それは世界をティポスの脅威から救う組織である世界の守護翼ビャコ支部とて例外ではない。

 夜勤者が結界の維持のため起きてはいるものの、ほとんどの照明は落とされ、必要最小限の明かりしか点いていない。廊下にも照明はあるが明かりは弱く、少し離れれば足下も見えなくなってしまう。

 こんな中でわざわざ作業をする者はいない。とっとと床に入ってしまい、翌日に備えることが普通の考え方である。

 「……違う。これじゃない」

 だが、どこにでも例外と呼ばれる者は存在する。良い意味でも悪い意味でも使われる例外という言葉だが、この場合はどうだろうか。

 「早くしないと見つかっちゃうってのに……」

 場所は執務室。ビャコ支部のトップであるファーネの部屋だ。彼女はこの部屋で各部署への指示や資料の取りまとめなんかをしている。

 もちろんここはファーネの部屋ではあるが、だからといって彼女が一人になることは少ない。

 報告やら連絡やらで彼女のもとを訪れる者は多い。これは神の偶像(ギフト)という特別な立場にいるココロよりもだ。

 人望も厚く、ある種のカリスマ性を持つファーネはビャコ支部の支柱的存在なのだ。

 「ちくしょう。だいたいなんで未だに紙媒体で保存してるんだ。電子化すれば管理も楽なのに」

 ぶつくさ文句を言いながら資料をペラペラとめくり続けるこの者は、声変わりもしていない声でため息を吐いた。

 手元がギリギリ見える程度のランタンのようなものを置き、辺りに光が漏れないように注意を払う。

 床には確認済みの資料が散乱しており、その量からこの少年は何時間もここで資料を読んでいたことが伺える。

 「支部長が代々直接管理している資料になら手がかりがあると思ったんだけど……」

 なおも手を止めず資料を読み漁る少年。仮にこれを今から棚に戻すとして、朝までに間に合うだろうか。

 「うーん、もしかしたらこの資料の多さがそのままセキュリティに繋がるとでもいうのか……」

 あまりに長時間暗い中で作業をしていたため、少年はそんなことを言い始めた。疲労が溜まっているようだ。

 こんな時間に人目につかないように資料をひっくり返しているこの少年は、もちろんファーネに許可を取ってここにいるわけではない。そもそもこの執務室でさえ、鍵がなくては入ることすらできない。

 世界の守護翼の特殊な技術で作られている鍵なので複製もピッキングもほぼ不可能なはずである。

 そのセキュリティを突破し、易々と資料を手に取るこの少年は何者なのか。

 「はぁ、もうどこにもないのかな……」

 少年は諦めに近い無造作な動きで辞典のように分厚い資料を机の上に置いた。

 だが、あまりにも資料を重ね過ぎていたため、資料は滑るように落ちてしまった。

 「あーあーあー……ん?」

 反射的に拾おうと屈んだところで、机の下に金庫のような物が置かれているのを発見する。

 部屋の来訪者には決して見えず、ここに座るファーネからは常に見えている位置にあった。

 調べてみると、タッチパネルに0~9までの数字があり、4ケタの数字を打ち込むと開く仕掛けである。

 少年はしばらく金庫とにらめっこをするように見つめた。4ケタの数字の組合せは一万通りだ。時間があれば全て試すことはできるが、はたしてどれだけ掛かるのだろうか。

 「……まさかな」

 少年は頭に浮かんだ文字の並びを打ち込んでいき、最後にenter(エンター)を押した。

 しかし、金庫は警告音を発っし、タッチパネルには『error(エラー)』と表示されるだけであった。

 「じゃあ、これならどうだ」

 再び数字を打ち込んでいく。だが、結果は変わらない。再び警告音とerrorだ。

 「……ダメか」

 落胆する気持ちがため息と共ににじみ出る。たった4ケタの数字がここまで憎たらしく感じられることになるとは。

 「……いや、まだあるか」

 あと一つだけ、少年には思い当たる数字があった。

 しかし、少年はあまり気が進まないようだ。当たっても当たらなくても憂鬱になりそうなものなのだ。

 「やるだけやってみるか」

 意を決して、少年は数字を打ち込む。

 こんなはずない、当たっているわけがない。そう思いながらも間違えることのない数字を打ち込んでいく。そして最後に、若干ためらいがちにenter(エンター)を押した。

 軽やかな電子音が鳴ったかと思うと、金庫はその重い扉をゆっくりと開いていった。

 「まさか本当に開くなんて……」

 この結果に誰よりも驚いていたのは少年のほうだった。

 「今どき暗証番号が『誕生日』だなんて、うかつにもほどがあるだろう」

 だが、開いたことは事実である。少年はさっそく金庫の中を調べる。わずかに開いたすき間からすでに光が漏れていた。

 「おあつらえ向きだぜ」

 少年は嬉しさのあまり思わず呟いた。目的のものがそこにあったのだ。

 年期の入った本が二冊と淡い光を放つ宝石『ライゼストーン』。ライゼストーンの青い輝きで、金庫の中も青く光っていた。

 少年はライゼストーンを掴むとポケットの入れた。その手つきからはまったくためらいは感じない。

 そしてそのまま本も一冊だけ取り出した。明かりを手元に置き本を読み始める。タイトルも書かれていないこの本は、どうやら日記帳のようなものだった。

 パラパラと流し読みをし、主要な単語が出てきたところからじっくり読む。

 「この辺か……なになに……」

 文字を指でなぞりながら丁寧に、だけどなるべく急いで読み進める。すでに予定よりも時間が過ぎてしまっていた。

 見回りでも来ようものなら一発アウトだ。

 「悪魔……鬼……」

 日誌のような日記のような、日々の出来事を書いている中で討伐記録を厳選して読み進める。

 「騎士の血筋……夢魔……魔神……小さき物の……この辺りか」

 目的の記述を見つけ、注意深く読んでいく。とある騎士が悪魔を統べる魔神と戦った時の話だ。

 「……やっぱりそうだ。この力があればオレはこの呪いから解放されるかもしれない」

 興奮気味にさらに本を読み進める少年。

 「何をしているのかしら」

 聞き慣れた女性の声と共に部屋の照明が点き、少年は本を落としそうになったのを慌てて抱えこんだ。

 「こんな時間に部屋が開いていると思って来てみれば……いったい何をしているのかしら?」

 女性は同じセリフを二度言う。

 確認するまでもない。この部屋の本来の所有者であるファーネが来たのだ。

 夜もふけた時間だというのにファーネはビャコ支部の制服を身につけ、凛とした態度で入り口に立っていた。

 「まさか、こんなに早くバレるなんてな……」

 少年が小さく呟いて後退りをする。

 逃げようにも部屋の出入り口は一つ。当然そこにはファーネが立っている。窓もあるが開いておらず、開ける暇も突き破る隙もくれるとは思えない。

 ファーネは動かないままの少年を見て、抱えている本に気がついた。

 「……『ソレ』はまだアナタには早いわ。金庫に戻して自室に帰りなさい」

 静かに、そして諭すようにファーネは言う。咎めるつもりはないようだが、話し合うつもりもないように感じた。

 「……」

 それを受けて少年は、無言でポケットに手を入れるともう一歩後退りをした。

 本を抱える手に力がこもる。

 「そう……。どうあっても言うことを聞かないつもりなのね」

 少年の態度を反抗的とみたのか、ファーネの声が少し低くなる。

 「アナタの気持ちも分かるけど、これもアナタの為なの」

 「いや、違う」

 ファーネの言葉を振り払うように少年は否定した。

 「やっと見つけた手がかりなんだ。この呪いを解いてオレは自由になるんだ」

 「呪いなんてとんでもない。それはアナタを守るお守りですよ」

 「違う! これでオレは縛られているんだ!」

 少年が力強く叫ぶと、今度はファーネが後退りをした。

 少年に気圧され、わずかに動揺する。

 そして、その動揺のせいで気付くのが遅れてしまった。

 少年の周りに転移の霧が現れていることに。

 「ここに書かれていることが事実なら、オレはこれであの人に近づける。偉大なるあの人に!」

 「ま、待ちなさい――――!」

 ファーネは手を伸ばすが、少年はライゼストーンに導かれて異世界へと転移してしまった。

 静寂の戻った執務室でファーネは伸ばした手を降ろした。

 「大変なことに、なってしまいましたね……」

 資料が散乱する部屋に残されたファーネは、しばらくの間ただ立ち尽くしていた。

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