青空の下で踊る悪魔
とある田舎の小さな村。
特別な観光地や特産品があるわけではないが、村人たちは程よく平和に暮らしていました。小さなコミュニティを大切にし、村人同士で寄り添って日々を過ごします。
そんな村に今日は珍しく外から人がやって来ました。やって来た数人の男たちは村人たちを巻き込んで大騒ぎです。
「がははははは! 金目の物を探せ! 逆らうヤツが容赦するんじゃねぇぞ!」
どうやら近くの山を根城にしている山賊たちが攻め込んで来たようです。この村の周辺には山や森などの自然が豊富で、多種多様な種族が暮らしています。すでに独自コミュニティを形成している種族たちから敬遠され、この村に流れて来たようですね。
「さぁ暴れろ暴れろ! がっははははは!」
顔にひげを生やした見るからに荒くれ者の男が手に持った斧を振り回して手下に指示を出します。どうやらこの男が山賊の頭であり、大柄な体つきは力を誇示し、見る人に恐怖を与えます。手下たちもガラの悪そうな風貌をしており手にしたナイフや剣を持って村人たちを襲います。
怒号と悲鳴が飛び交う中で、手下の一人がとある少女に目を付けました。質の良さそうなドレスを身に纏い、血のように赤く長い髪をしていてたその少女は他の村人たちよりも明らかに身分の高い装いをしています。
村人たちが逃げまどう中で、ただひとり目の前の出来事をぼんやりと眺めていました。逃げ遅れてしまい、親とはぐれ、ひとりぼっちの恐怖で動けなくなっているのかもしれません。
そんな少女を見て手下は思いました。この少女を人質にすれば村人たちも大人しく言うことを聞くであろうと。
ナイフを見せつけるように持った手下が少女の前に立ちます。
「危ない!」
「逃げろ!」
村人たちが少女の方へ向かって叫びますが、少女は立ち尽くしたままで動こうとしません。
「へっへっへっ、お嬢ちゃん、大人しくしてもらおうか!」
手下の太い腕が少女を捕らえようと迫ります。その光景を見ていた村人たちの叫び声が響き、そして――――
「……あ?」
気がついた時には手下は空高く飛んでいました。何が起きたのか分からないまま、空中に投げ出されてしまったようです。
「ぐぇっ!?」
そのまま地上へと落ち、呆気に取られて受け身もとれずに背中から落ちます。
「まったく騒々しい」
あくびをしながら気だるそうに少女が息を吐きます。
「アステリ様ー!」
「今日もステキですー!」
少女は村人たちの黄色い声援に軽く手を振って応えます。
「はいはい。みんなありがとう。けが人がいたら手を貸してあげなさい。被害が出たところは後で教えて。それからえーと――――」
「おい、てめぇ!」
少女が村人たちへ指示を出しているところで山賊の頭が少女の前に立っていました。手下を後ろに引き連れ、斧を構えてぶちギレ寸前でした。普通の人間なら恐怖ですくんでしまうはずです。
「あら、まだいたの?」
ところが少女アステリは、怯えるどころか不敵に笑います。端から見れば、山賊の頭の背丈はアステリの倍以上あります。それでもアステリはまったく臆することなく話します。
「わざわざ力の差を見せてあげたのに、まだ何かするつもりなの? そろそろ太陽が天辺にくる時間だから眠くてしょうがないの。大人しく帰るなら見逃してあげるわ」
そう言ってアステリはあくびを噛み殺します。アステリからしてみれば本心からの言葉だったのでしょう。たしかに彼女は眠そうですし、話す言葉も覇気を感じられません。
ですが、それを聞いた山賊たちは怒り心頭と言ったところでした。それぞれが怒気をにじみ出し、中でも山賊の頭は額に青筋を立てて震えていました。
「ずいぶん言ってくれるじゃねぇかクソガキが。そこまで言ってタダで済むとは思ってねぇだろうな?」
「むしろアナタたちには村に与えた損害の賠償を請求したいところなのだけど」
「そいつは悪かったなぁ。詫びの代わりと言っちゃ何だが、こいつを受け取れや!」
山賊の頭が高く掲げた斧を振り下ろします。幼い子供相手でも一切の容赦のない一撃です。まともに受ければ怪我では済まないはずです。
「……は?」
驚愕の声を上げたのは山賊の頭の方です。山賊の頭は本気で斧を振り下ろしました。それこそ怒りの感情に任せたままの一撃です。遠慮なんかありませんでした。
「危ないじゃない」
だから、その一撃を少女の細腕一つで容易く受け止められたのが信じられなかったのです。
アステリは斧を掴んだままで嘲るように笑います。
「こんな小さい子相手に本気で攻撃するなんて恥ずかしくないの?」
「くっ、このっ……!」
斧を外そうと引っ張りますがアステリの手から外れません。
「そんなに必死にならなくてもいいわよ。ほら」
「うお!?」
突然離されたことで山賊の頭はバランスを崩してしまいます。
「てぃ」
そこへすかさずアステリが拳を入れます。山賊の頭の顔面を見事に捉え、巨体を浮かし、後ろの山賊の集団にまでぶっ飛ばします。
「アハハ、マジで弱いじゃない! オジサンかっこわるーい!」
少し興奮した様子でアステリは凄みます。目が妖しく光り、拳を震わします。
「な、なんなんだお前は!?」
鼻から血を流してすっかり怯えてしまった山賊の頭が信じられない物を見るようにアステリを見ます。
それを受けてアステリはいっそう悦びました。
「わたしは『アステリ・グースリー』。この村、『ニフタ』の領主である悪魔よ」
そう言ってアステリはゆっくりと山賊たちへと近づいていきました。
「さぁ、今夜はしっかり悪夢を見てちょうだいね」
こうして山賊たちは、小さい悪魔にコテンパンにされ、村の外へと捨てられてしまうのでした。
昔、ニフタの村は見捨てられた村だった。首都からも遠く、大した資源もないということもあったが、何よりも周辺に住む人間以外の種族が問題であった。
基本的に他種族の間では干渉を嫌う傾向がある。理由は様々だが、血筋を守るためや技術の流出を防ぐためなどだ。それぞれの縄張りを決め、なるべく関わらず、自分たちが豊かに暮らすことを優先する。それはごく自然なことであり、当たり前のことであった。
だが、どこの世界にも変わり者がいる。種族の掟に従わず、干渉を求める者がいる。
その理由も様々だ。好奇心だったり探求心だったり。
このあたりの理由ならば平和なものだ。
しかし、実際はそれだけではない。
中には侵略行為や略奪行為を考える者がいる。争いの歴史はどこにだってある。
そして、そういうときに標的にされるのは一番弱い勢力である。
そう、それがニフタ村だった。
いつだったか、小さい背丈ですばしっこい種族であるミーニア族がニフタ村に攻め込んだことがあった。ミーニア族は別に好戦的ということはないが、その見た目の小ささから他の種族に侮られていることがあった。その扱いに堪えられなかった一部の不良グループのミーニアたちが、力を見せつけるために行ったことだった。
ニフタ村の人たちはミーニアたちの奇襲に驚き、戦うこともままならず逃げ惑うことしかできなかった。一ヵ所に捕らえられ、村は占領されてしまう。
そして、ミーニアたちは高らかに勝利宣言をする。自分たちは弱小種族ではないと。
喜びを分かち合っていたその時、高速で動く影が一匹のミーニアを殴り飛ばした。二転三転した後に壁に叩きつけられて気絶してしまう。
影は一瞬の出来事に呆けてしまったミーニアたち家屋の屋根から見下ろす。
「お楽しみのところ悪いわね、小さき者たち」
ご機嫌な様子で笑う影は少女の形となる。夜の闇の中で月を背負って立つその姿はどこか幻想的で、見る者を釘付けにする力があった。
「この村はこれからアステリ・グースリーの物となりました。ここにあなたたちの居場所はないからさっさと森へ帰りなさい」
いきなり現れてなおかつ粗暴な物言いにミーニアたちもは顔を見合わせた。何が何だが分からないが、どうやらあの少女は我々の手柄を横取りしようとしているようだ。
そんな暴挙は許さない。なにより、自分たちよりも小さい少女に小さいと罵られてミーニアたちも黙っていられない。ミーニアたちは身長をコンプレックスとしている者が多かった。
ミーニアたちは手にした弓矢を構えるとアステリへ向かって放つ。交渉は決裂した。ここまでナメられたら後になんて退けない。
「フフ、そうこなくっちゃね!」
飛んでくる矢を避けながらアステリは先ほどよりも口を歪ませる。こんなところで諦めてもらったら興ざめだ。せっかくの良い夜が台無しである。
アステリは力を溜めるとミーニアたちへと突っ込んだ。圧倒的なフィジカル差にミーニアたちはただただ蹂躙されるだけであった。
そういう経緯の果てにアステリはニフタ村を奪い取り、領主となることになったのだった。
村の中心から離れた鬱蒼とした森の中にアステリの屋敷はあった。昼間はめったに、夜はいっさい人の通らない道を抜けると湖のある拓けた場所に出る。そのほとりに屋敷は建っていた。
普通の人間が暮らすには不便な場所であるが、ちょっとした悪魔が居を構えるにはうってつけなのだろう。洋館めいた見た目は、日中はともかく日が沈めばいかにも悪魔がいそうな雰囲気をかもし出してくれるはずだ。
「「お帰りなさいませアステリお嬢様」」
門を通り抜け、玄関へと近づいたところでアステリは二人のメイドに迎えられた。まるでずっとそこで立っていたかのように待ち構えており、深々とお辞儀をする。
「ええ、いま帰ったわ」
いつものようにアステリが応えると、歩く速度を落とさせないようにメイドが素早く扉を開けた。二人のメイドはまるで合わせ鏡のように顔も息もピッタリだ。
「村の様子はいかがでしたか?」
左手に付いたメイドが尋ねる。その間に右手に付いたメイドが注意深くアステリを見ていた。怪我などの異常がないのか確認しているのだろう。
「外から来た連中が騒いでいたからちょっと遊んできちゃった。寝る前にとんだ労働をしてしまったわ」
「それはそれは、大変でございましたねお嬢様」
「まあ、なんてことないけどね。それよりも面倒なのは村長の方だったわ。街に続く道に木が倒れて通れなくなったからってわたしを派遣させるなんて。人を重機か何かと勘違いしているんじゃないの」
「人間が撤去作業をすると半日はかかってしまいますが、お嬢様なら数分で済みますからね」
「まったく、人間って脆弱ね」
「恐れ入ります」
ため息混じりに息を吐くと、そのまま自室へと向かっていく。
「まあいいわ。もうこんな時間だしわたしはこのまま寝るわ。引き続き屋敷のことは任せたからね」
「「かしこまりました」」
メイドの二人に見送られアステリは自室へと入ろうとした。
「おねえちゃーん!」
だが、遠くから聞こえてきた少女の声にアステリは扉を閉めようとした手を止める。声のした方を振り返るとアステリよりも少し小さい女の子が駆けて来るのが見えた。
どうやらまだ寝ることは許されないようだ、と覚悟を決めてアステリは両腕を開いて迎え入れるようにする。駆けて来た少女はそのままアステリの胸の中へと飛び込んだ。
「おかえりなさいおねえちゃん! 今日はずいぶん遅かったのね!」
「ええ、少し村の連中のためにがんばってあげたの」
「わぁ、さすがおねえちゃんね。お話に出てくる勇者みたい」
「フフ、どちらかと言えば私たちはその勇者に倒される存在よ」
「えへへ、それもそっか」
リムニは姉であるアステリに抱きつく力を強くする。アステリも応えるようにリムニの背に手を回した。
「り、リムニお嬢様……。待って、ください」
すると、リムニの来た方向から息を切らしながらメイドが走って来た。
「ミティ、リムニお嬢様から目を離すとは何事ですか」
「離れちゃ、ダメ」
「ひぃ、ごめんなさいお姉さま方!」
怯えた様子で平謝りするミティ。まあ、感情の昂った状態のリムニの相手をするのは骨が折れるということをアステリは理解している。しかし、マティもアフティも主人の前ということもあるので、妹の失態にも厳しく当たらなければならないのだろう。気の毒な話である。
「おねえちゃん、少しお話をしましょう。話したいことがあるの!」
そんなミティの苦労も知らないまま、リムニは姉にしがみつく。
「あ、ダメですよリムニ様。アステリお嬢様はこれからご就寝されるんですから」
「えー、やだー、つまんないー」
駄々をこねるリムニにミティはどうやって諦めさせるか戸惑っているようだ。姉たちからの視線もきつくなる一方である。
「ねー、おねえちゃん、お話しましょうよ」
「まったく、しょうがない子ね。少しだけよ」
「わーい! やったー!」
アステリから離れてクルクルと回り出すリムニ。アステリは苦笑いを浮かべるしかない。
「よろしいのですか、お嬢様?」
マティがそっと耳打ちをしてくる。たしかにアステリも疲れが溜まっていた。夜中の内に村の状態を把握し、他種族への警戒、そして山賊との戦闘をしている。普通ならすぐさまベッドへと倒れるところだ。
しかし、こんな時間に起きているリムニを邪険になんてできない。アステリと同じく悪魔の一員であるリムニも日中よりも夜のほうが過ごしやすいのである。というより、リムニはまだ日光の耐性がまだまだ弱いのだ
吸血鬼が灰になる程ではないが、それでも陽の光を浴びれば著しく体調を崩してしまう。屋敷の中のほとんどの部屋はカーテンを閉めきっているが、何の拍子に日光に触れられてしまうか分からない。注意が必要だ。
(なにより、可愛い妹がわざわざ誘ってくれているのに、それを断るなんて姉として終わりだわ)
妹に甘いアステリであった。
「ええ、構わないわ。紅茶を淹れて……そうだ、ミティ」
「え、はい! なんでしょうかお嬢様?」
アフティに静かに叱られていたミティに声をかける。
「あなたが淹れなさい。そうね、カモミールがいいかしらね」
「あ、はい。かしこまりました。すぐにお持ち致します」
バタバタと前のめりでキッチンへとミティは向かっていく。
そして、アステリはアフティを視線を送る。目配せをするとアフティは軽くうなずいてミティの後を追っていく。これで紅茶の心配はいらないだろう。
「じゃあ行きましょうかリムニ」
「うん!」
アステリはリムニに手を引かれながら自室へと入っていく。自室に入ると少し落ち着いた。天蓋付きのベッドが視界の端に見えたが、睡眠欲を振り切ってテーブルについた。
部屋の中は掃除が行き届いており、窓もカーテンも閉めきってい閉塞感はなかった。
テーブルにはすぐにお茶が用意されていく。急な話なのに準備がいい。
「あのねあのねおねえちゃん!」
対面に座ったリムニが身を乗り出して話しかける。アステリとしても話してくれることは嬉しいと思うがもう少し落ち着いてほしいとも思う。さて、紅茶は効くだろうか。
「わたしね、今日はふたつも悪夢を食べたの」
「あら、ずいぶんがんばったわね」
アステリは素直に驚いた。普段であればひとつ食べるだけでも四苦八苦していたはずだ。
「夢魔としての能力が上がってきているのね。偉いわリムニ」
「えへへ」
顔を赤らめるリムニを見ると、体調も良さそうだ。この土地にもずいぶんと慣れてきたのかもしれない。
「魔界からこっち世界に引っ越してきた時は少し不安だったけど、その調子なら正解だったみたいね」
「うん。こっちに来てからはすごく体が軽いんだ。もう少しで飛べるようにもなれるよきっと」
「あっちは強すぎる魔力を垂れ流しにしてるアホがいっぱいいたからね。ゆっくり成長するには窮屈でしょうがなかったわ」
住んでいたところが悪かったせいもあるが、以前いたところは有名な悪魔の巣窟といってもいいところだった。どこの世界でも強い力を持つ輩は周りの言葉を聞かなくなる。いくら言っても魔力を抑えることはしてくれなかった。いつの世もご近所トラブルは絶えない。
「真っ正面から戦うわけにもいかないもんね」
「そうね、妖怪大戦争なんてゴメンだわ」
アステリは紅茶を一口飲む。カモミールの香りが疲れた体に優しく染み渡る。
それを見ていたリムニもアステリの真似をするように紅茶を飲んでいた。
「そうね、このまま夢魔としての力が増していけば、そろそろ太陽の下を歩いてもいいかもしれないわね」
「ほ、ホント!? おねえちゃん!?」
先ほどよりもリムニの食い付きがいい。身を乗り出した際に食器が音を立てたので手を上げて軽く諌めるが、興奮はおさまっていないようだ。
「ええ、さすがにすぐには無理だけど、この調子で悪夢を食べて夢魔らしくなれば陽光耐性もできてくるはずよ」
「そ、そっかー」
リムニは自分の手を見つめながらアステリの言葉を噛み締める。どうやらよほど嬉しいようだ。
「そんなに陽の下を歩きたかったの? 変わった子ね」
「そういうことじゃないんだけどね……」
リムニがモジモジしながら後ろに控えていたミティへと視線を送る。ミティは待ってましたと言わんばかりに笑顔でうなずくと部屋を出て行こうとした。
「「走らない」」
「……はい」
勢いよく駆け出したところで双子の姉たちに諌められる。ミティは少しオーバーに静かに歩いて部屋を出ると、また走っていく音が聞こえてきた。
それを聞いていたマティとアフティはため息を吐いていた。双子なのは分かっているが、挙動がまったく同じなのは素直にすごいとアステリ思う。人間の双子とはこういうものなのだろうか。
しばらくするとミティはすぐに帰ってきた。部屋に入るギリギリのところで歩くことを思い出したのは成長といえるだろうか。
部屋に入ってきたミティは両手に植木鉢を抱えていた。中にはすでに土が入っており、何かが植えられていることが伺える。ミティはそれらをそっとテーブルに置くとリムニの後ろに戻った。
「あのね、お姉ちゃん」
ミティが戻ったところでリムニが口を開いた。
「わたしね、お花を育てようと思うの」
「花?」
突拍子のないことにアステリは聞き返す。夜を生きる夢魔のような者には、陽の光を浴びて生きる花を育てようとするなんて考えもしないことであった。屋敷の周りにも花は咲いているが、それは草花に詳しいミティが育てているものだ。
「この鉢はミティに教えてもらいながらわたしが用意したの」
「あら、良いじゃない。ちょっと夢魔っぽくないって思ったけど、昼間に動いている私もたいがいだし」
活発なリムニにしてはおとなしい趣味だと思うが、ずっと屋敷に閉じ込めてしまっているような状態なのだ。新しいことに興味があるならやらせた方がよいだろう。
「それでね、おねえちゃん」
リムの話にはまだ続きがあるようだ。
「このお花が咲いたら一緒に見てほしいの」
「ん? それはもちろん構わないけど……」
「太陽の下でね」
(ああ、そういうことね)
アステリはようやく合点がいった。リムニはこの花を自身の成長の証と捉えているようだ。
夢魔として成長して陽光耐性を獲得し、今より自由になったことをアステリとお祝いしたい。なるほど、それはアステリにも喜ばしいことであった。
「ええ、分かったわ。きっとこの花が咲く頃にはアナタも陽の下を歩けるようになるはずものね」
「うん! ありがとうおねえちゃん!」
リムニの嬉しそうな笑顔につられてアステリも微笑むと、そっと植木鉢のふちを指でなでた。
「いったいどんな花が咲くのかしらね」
「わたしも知らないけど、きっとキレイなのが咲くと思うな」
いつか開花するリムニとこの花を思い浮かべながらアステリはゆっくりと紅茶を楽しんだ。
「クソ、なんだったんだあのガキは……!」
ボロボロになった体を引きずりなが山賊の頭は悪態をついた。
あちこちに青アザができており、相当なダメージを負っている。後ろに続く手下たちも同様だ。
ニフタ村の襲撃に失敗した山賊たちは、まさしく敗戦の途をたどっていた。
「この俺様にこんな目に合わせやがって……。いつか絶対に痛い目に合わせてやる……!」
復讐を誓う山賊の頭であったが、手下たちはうんざりしていた。このままこの頭に付いていっていいのかと思うほどに。
「おやおや、どうされましたかそこの御仁方」
「あ?」
突如聞こえてきた男の声に山賊の頭は足を止める。そこには見慣れない格好した男が立っていた。
全身をローブで包み、顔もフードかぶっておりよく見えない。ただ、わずかに覗く顔立ちから端正な青年であることが予想できた。
「なんだニィちゃん?」
訝しみながらも山賊の頭は声を掛けた。
「いえ、物騒な言葉が聞こえてきたので思わず声を掛けてしまいまして。なんでも痛い目がどうとか」
「けっ、テメェには関係のない話だ。すっこんでろ」
山賊たちは怪しげな男を無視して歩き出す。満身創痍の山賊たちには他のことを気にしている余裕はなかった。
「……フフフ」
山賊たちが通りすぎたところで男は静かに微笑んだ。
「哀れに敗北した端役に新しい役を与えてあげましょう。存分に踊ってください」
怪しく微笑むその男の両手には、赤色と紫色の宝石のようなものがそれぞれ握られていた。




