支部会 ~神の偶像と守り人~
のど元に突き付けられた黒い剣先。そこから発せられる敵意と熱気にマモルは動くことができなかった。少しでもおかしな真似をすれば容易く真っ二つである。
いや、真っ二つというのも正確ではないのかもしれない。この剣が本来の用途で振るわれていたら、マモルの上半身は吹き飛んでいただろう。
それほどまでにこの剣は大きく、そして破壊力に満ちていた。
「どう? これで理解った?」
目の前の少女が不敵に笑う。自身の背丈と同じか、もしかしたらさらに大きく見える黒い大剣を片手で持ちながら。力を誇示するように。そして、力量の差を見せつけるように。
それにしても少女は悠々と軽そうに大剣を持っていた。この大きさの大剣が鉄でできていたらいったいどれ程の重さなのだろうか。実際は鉄に見えるだけで発泡スチロールなどの軽い素材でできているのかもしれない。
そんなある種の現実逃避のような考えがマモルの頭をよぎったが、ちょうどその時、頬をつたう汗が大剣の上に落ちた。大剣から感じる熱気か、はたまた命を握られている緊張からか、マモルの額には汗がにじんでいたようだ。汗の滴は、そのまま剣先に触れるとジュッと音を立てて蒸発してしまった。
「……」
その光景を見たマモルはただ絶句する。
どうやら現実逃避はできそうにないようだ。この大剣は、発泡スチロールどころかただの鉄ですらない。高温を秘めた熱鉄板だ。
だが、そんな熱々の大剣は少女の細腕一つで支えられていた。ミスマッチな光景に見えるが、不思議としっくりくるような気もする。
「この程度の剣戟に反応できないようじゃ、到底守り人の任なんてできないわ」
長く赤い髪を空いている左手で払いながら少女は続ける。そんなことをしても大剣はピクリとも動かないが、生殺与奪を握られているマモルとしてはヘタに動かないでほしいと願うばかりだ。
「ティポスと戦って世界を救うというのはとても責任のあることなの。想いを懸け、命を懸け、そして存在を懸けるということ。その覚悟があなたにある?」
「えっと――――」
「それに!」
『ある?』と聞かれて言い返す言葉を頭の中で考えたところですぐに少女が喋り出してしまう。熱さと緊張で判断力が鈍っているところにこの速さで言葉を続けられてしまったらついていけない。
「守り人が大事なわけじゃないのよ。本当に大事なのは、世界を救うことに必要なのは私たち神の偶像なの。その事を本当に理解できてるの?」
少女は熱く語り続ける。まるで自身の持つ熱を放つ大剣のように。
しかし、マモルはというと発せられる熱気にいささか本気で参っていた。大剣に触れなければやけどすることはないが、この熱気を充てられ続けるのは意識を朦朧とさせるには十分だった。
全身から汗が吹き出し、立っているのが精一杯だ。もはや少女の言葉も話半分である。
「まったく。こんなのがジルエットの代わりだなんてね。少しは期待していたのだけど所詮はこのていど。こんな調子でココロを守っていけると思って――――」
ココロ名前が出た瞬間、マモルの体に電気が走った気がした。熱気でぼやけていた視界がはっきりと晴れ、直情的な反抗心が駆け巡る。
突発的な感情が想造力となって右手に集まり、そして、視界が黒く――――
とある日の午後、ビャコ支部支部長であるファーネに呼ばれ、マモルとココロは支部長室を訪れていた。程よく広い部屋にはファーネのための広目の机と話し合い用のちょっとしたソファー、そして、あちこちに知らない文字で書かれているファイルなどが見てとれる。ここで様々な世界の資料を読むための辞書のようなものだろうか。
どれも知らない文字だと思っていたが、中にはマモルの世界の文字で書かれた本、というか国語辞典が納められているのを見つけてマモルは少し安心感のようなものを感じた。自身の世界についてもいろいろと調べられているのだろう。
「二人とも、よく来てくれましたね」
ファーネはイスに座ったままでマモルたちを迎えた。机の上はお世辞にも片付いているとは言えず、積み重なった書類の束や、開かれたままのファイルなどが所狭しと置かれていた。
「本当はお茶でも出してゆっくりお話ししたいと思っているのだけれど、ご覧の通りちょっといろいろ溜めていましてね。このままで容赦してください」
そう言ってファーネは少し長く息を吐いた。言葉の端々に疲れが滲んでいる。
「それは構わないんですが、ファーネさん」
「なんだか疲れているように感じます」
マモルとココロが心配そうに声を掛けるが、ファーネはふふっと笑うだけだった。
「そうね、仕事が溜まっているのはいつものことです。でも今はいろいろと考えることがあって。そうだ、ココロ」
「はい、なんですか?」
「ミステルの調子はどうですか?」
「え、ミステルですか?」
思わぬところでミステルの名前が出てきてココロは聞き返した。
先のいざこざで療養していたミステル。元々は別世界からの避難者であったが、想造力が覚醒したことで世界の守護翼に一目置かれる存在となった。ミステルもそれは快諾し、今は想造力を操る力を鍛えるべく訓練生として励んでいるようだ。
「とても頑張っていますよ。想造武具の本から出てくるがおたんもとても良く懐いています。この間、とても小さいですが火を吹けるようになりました」
「そう、それは良かったですね」
「ミステルの様子が知りたかったんですか?」
支部長であるファーネなら簡単に会いに行けるはずである。わざわざココロに訊ねることもないだろう。
すると、ココロの疑問に答えるようにファーネはいえ、と言った。
「ミステルのことは個人的な興味です。実は彼女の本にいる『グレープ王子』に会いたくて」
「グレープ王子……。あの絵本の?」
「そう、ファンなんです」
ファーネはやんわりと微笑んだままそう答えるが、なんだかそれだけではないとマモルは思った。思慮深いファーネのことだからもっと別の理由があるのではと。
「それはそうと」
その理由を聞こうとマモルが口を開きかけたところで、ファーネは話を進めてしまった。気にはなったが、今は話を聞くべきと判断してマモルは口を閉じる。
「お二人を呼んだのは『支部会』に行ってきて欲しかったからなんです」
「支部会?」
思わずマモルは聞き返してしまう。正式加入したばかりなので、知らないことばかりだ。
だが、そんなマモルの隣でココロは神妙な表情でうなずいていた。
「……そうですか。もうそんな時期なんですね」
ココロにしては珍しく渋い顔をしていた。
「ねぇココロ、支部会って?」
「支部会は、各支部の神の偶像と守り人が集まって情報交換する場です。ティポスについてや新しい世界について話し合いをします」
「なるほど。ようはトップの人が集まる会議ってことか」
「そうですね。それぞれの支部のちょうど中間地点にあるホームステーションで行われるんですよ」
「ということは、今回は世界間の転移はしないんだね」
てっきりまたライゼストーンを使って別世界に行くと思ったがその必要はないようだ。
「でもライゼストーンは使いますよ。メインステーションまでは距離があるので簡易転移を使います」
「ライゼストーンも便利な物だね」
つくづく世界の守護翼の技術には驚かされるばかりである。
「前回は」
と、ファーネが説明を引き継ぐ。
「ココロの守り人が不在でしたので私が代わりに出席していました。でも今はマモルさんが新しく守り人となってくれています。今回は新しい守り人のお披露目と顔合わせが主な目的です」
「なるほど」
ということは、ファーネの前はジルエットがココロの守り人として参加していたはずだ。
そして、各支部から集まる神の偶像と守り人。つまり、ジルエットと同等の力を持つ者たちが来るということである。
「なんだか気後れしちゃいそうだね。僕なんかが参加していいんだか……」
「大丈夫ですよ!」
及び腰なマモルを後押しするようにココロが声を大きく張り上げた。
「マモルは何度も私のことを助けてくれていますし、一緒にいてとても心強いです。だから、マモルなら大丈夫です!」
拳を握って胸の前でブンブンと振りながら熱弁するココロ。ここまで言ってくれて無碍になんてできない。
「それに正式に守り人になったので、遅かれ早かれ他の皆さんには顔合わせしなければならないですし」
「まあ、それもそうだね」
意を決してマモルは頷いた。
「分かりましたファーネさん。支部会、参加します」
マモルに不安な気持ちは確かにあった。だが、それとは別に興味もあった。自分と同じように守り人たちが、いったいどういう者なのか。
「よろしくお願いしますねマモルさん。本部には私から連絡しておきますので日時は追ってお知らせします」
少し安心したようにファーネは言うと、書類の上にノートパソコンのようなものを出し、何かを打ち込み始める。
「それと、これは注意事項ですが」
ファーネがパソコンから顔を上げる。
「本部であるホームステーションは非武装地帯になっています。緊急時意外は想造力と想造武具の使用は控えるようにお願いします」
「ティポスとか出たらどうするんですか?」
「もちろんビャコ支部と同じように結界は張ってありますから滅多なことなんておきませんよ」
「そりゃそうですよね」
「そうですよマモル。本部はとても安全なんです。戦闘になるなんて絶対ありえませんよ~」
「そうだよね。ははは」
「あはは」
「うふふ」
そして支部会当日。
ライゼストーンによる転移を終えてマモルとココロはホームステーションまでやってきた。感覚的には異世界に行くのと変わらなかったが、同世界間の転移はほとんど想造力を消費しないらしい。条件が良ければ連続使用もできるようだ。
転移の霧が晴れてきて、マモルは辺りを見回す。白い小さな部屋の中央に魔方陣のようなものが描かれているだけの場所。どうやらこの魔方陣がライゼストーンの転移先を決めるためのものらしい。
「ようこそおいでくださいました。ココロ様。そしてマモル様でいらっしゃいね?」
この部屋の唯一の扉の前に女性が一人立っていた。制服からして世界の守護翼のスタッフだろう。
「ビャコ支部からココロ、そして守り人のマモルが参りました。お久しぶりですピスティ。今日はよろしくお願いします」
「あら、私のような一スタッフの名前まで覚えていてくださるとは感激です」
ココロが挨拶をすると、ピスティも同じように頭を下げた。
「他の支部の方々はすでにお待ちです。参りましょう」
そう言うと、ピスティは扉を開けて歩き出した。ココロがついて行くように歩き出したのでマモルもそれに倣う。扉の向こうは長い廊下だった。
「そういえばココロ、何を持ってるの?」
今日のココロは紙袋を持参していた。紙袋には喫茶店『KURO』のロゴが入っている。
「コレですか。マスターに今日は大事な会議があるって言ったら持たしてくれたんです」
「おやっさんが?」
「なんでも新兵器、もとい新商品が入っているみたいです。KUROの一員としてしっかり宣伝してくるように言われました」
「商魂たくましいね」
抜け目のないおやっさんに苦笑いを隠せない。
「そうだ、ピスティ」
「はい、なんでしょうか」
ココロは先行くピスティに声をかける。
「準備をしたいのでキッチンをお借りしてもいいですか?」
「え、それは構いませんが、すでに皆様お待ちですよ。これ以上お待たせさせるのはちょっと……」
少し困ったようにピスティは言う。神の偶像は世界の守護翼内でもかなり上の立場なので、あまり反対意見を言いたくないようだ。
「じゃあ僕が先に行って事情を説明しとくよ。ピスティさん、道を教えてください」
マモルが手を挙げて提案する。たしかに待たせるのは悪いだろうが、ココロの意見も尊重してあげたい。とりあえず片方だけでも行けば顔は立つだろう。
「すみませんマモル。みんな優しいので事情を話せばきっと分かってくれるはずです」
「……分かりました。ではマモルさん、説明しますね。この廊下を50メートルほど直進していただいて、それから――――」
マモルはピスティから道を聞く。複雑ではないようだが距離はありそうだ。
外からホームステーションを見たわけではないので建物の形や大きさは分からないが、とても広いらしいことが伝わってくる。
「うん、ありがとうピスティさん」
「……ご武運を」
「え?」
「では参りましょうココロ様」
「はい。それじゃあマモル、また後でです」
手を振るココロにマモルも振り返す。そのままココロとピスティは行ってしまった。
「……なんか、猛烈に不安になってきた」
ココロはともかくピスティの表情が気になる。まるで戦地に向かう友を見送るような、そんな顔だった。
「まあ、気にしててもしょうがないか。行こう」
マモルは気持ちを切り換えて支部会会場である広間を目指す。
ほとんど通路と扉しかないような殺風景な場所を歩き、ようやく目的の場所を見つける。迷うことはなかったが時間はかかってしまった。
「遅れちゃったかな。急ごう」
意を決して部屋の中に入ると、確かにもう人が集まっていた。
部屋の中は広大で、大きな円形の机を中心とし、それぞれ東西南北の頂点を埋めるように人が居るようだ。どこも二人組であり、それぞれ本を読んでいたり会話をしていたり思い思いに過ごしていた。
その中の一人、赤い髪をした少女が入ってきたマモルを見るなりずんずんと近づいて来た。一緒にいた腰に剣を携えていた男が止めようと手を伸ばしていたが、少女は完全に無視である。
「アンタがココロの新しい守り人?」
マモルを観察するようにしながら少女は聞いてきた。睨むようにキツイ視線でマモル見てくる。
腰まで届くほどの赤い髪やレースをあしらった黒いワンピースからはココロの装いと似通っているように感じた。
「そうだけど、キミは……」
「ふーん」
聞かれたことに答えても少女はマモルの言葉に大して興味を持っていないようだ。一方的に観察されて居心地が悪い。
「……ダメね。弱すぎ。もう用はないから帰りなさい」
「は?」
あまりにも唐突で辛辣な一言にマモルはすっとんきょうな返事をしてしまった。今この少女はなんと言った?
「聞こえなかった? アンタに守り人は無理よ。おとなしく帰りなさい」
「いや、そんな一方的に……」
マモルは何がなんだか分からないまま手を伸ばす。さすがにここまで言われておめおめと帰るわけにはいかない。これでもビャコ支部の代表みたいな立場としてここまで来たのだ。
しかし、少女の姿がブレたと思った瞬間、マモルは激しい熱気に固まってしまったのだった。
その後、少女になにやら文句のような事を言われ続けていたが、熱気に充てられ意識が朦朧としていたマモルにはほとんど届いていなかった。何を言われてもほとんど耳に入らない。
「こんな調子でココロを守れると思って――――」
だが、そんな状態のマモルでも、ココロの名前を出されれば別であった。
たしかにまだ未熟者という自覚はある。最近守り人になったばかりのマモルには知識も経験も足りていない。それでも少しずつでも頑張って行こうと決意を固めていた。
その想いまで否定されてはマモルにも反抗心が芽生えてしまう。想いは右手に集まり、盾へと姿を変える。
「いい加減しろぉーい!」
だが、知らない声と共に目の前の少女のスカートが一気にめくり上がったことにより、マモルは動きを止めた。それは凄い勢いで、ピンクと白のストライプ柄のパンツはおろか、へその辺りまで見えてしまうほどだ。
「話を聞かないどころか就きたての新入りを脅してんじゃねぇっつーの」
少女のスカートが元の位置に戻ったタイミングでマモルが顔を上げると、少女の後ろに男が立っていることに気がついた。この少女と先ほどまで一緒にいた男だ。
へらへらとした笑顔やロングの茶髪からチャラそうな印象を感じたが、いくつかの装飾品や高そうな服装からまるで貴族のようだともマモルは思った。
少女が自身のことを神の偶像と言っていたので、きっとこの男が少女の守り人なのだろう。
「いきなりけんか腰で突っかかってんじゃないの。そんなんじゃそっちの新入り君も話なんかできんだろーが。すこーし冷静に――――って、おわっ?!」
男は諭すように話続けるが、迫る大剣を避けるために中断させられる。
男が顔を上げると、そこには顔を真っ赤にしてプルプルと震える少女がいた。
「冷静に、ね。たしかにアンタの言うとおりだわフィロス……!」
「ちょ、ちょっと待てよカルディア……。落ち着けって」
「私は落ち着いているわ……。アンタのおかげで先にやらなくちゃいけないことが分かったからね……」
少女の――――カルディアの体から想造力の昂りを感じる。それは怒りとなって文字通り爆発しそうだった。
「なんだ? パンツ見られたことが恥ずかしかったのか? 大丈夫だって似合ってたよ。ちょっとガキっぽかったけどな」
「消し炭になれぇぇぇぇ!!」
カルディアが大剣を振り回して男に――――フィロスに襲いかかる。
大剣の熱が上がり、若干赤くなっていた。
「うひぃぃ! お助けぇぇ!」
カルディアの斬撃を避けながらフィロスは広間全体を転げるように逃げ回る。フィロスも想造力を使って身体能力を上げているようだが、それにしても素早い。どれも紙一重でかわしていく。
「燃えろぉ!」
大剣を避けるために空中に跳んだフィロスに向かってカルディアの手から炎弾が放たれる。アレ一つでミヅキの使っていた銃の何倍もの火力があるだろう。
「へっ、ナメんな!」
フィロスが想造力を解放する。ヒラヒラと淡い紺色の布をフィロスは覆うように纏った。フィロスの想造武具は外套のようだ。
「そいや!」
炎弾はフィロスのマントに払われるとあっさりとかき消えてしまった。何度も撃ち込んでいるが結果は同じだ。
「ちっ、やっぱり厄介な能力ね!」
苛立たしく舌打ちをするカルディア。自分の守り人の能力を憎たらしく思っているのだろう。
「けど、これならどう!」
カルディアの指先から小さな火が飛び出す。先ほどの炎弾より威力は低いが、その分速い。
火はフィロスの着地地点に当たると同時に小爆発を起こした。
「ぬぉっ!?」
爆発に足を取られてフィロスが転倒してしまった。ダメージはないようだが完全に隙をさらしてしまう。
「死ねぇぇぇぇぇぇぇ!」
高く跳んだカルディアはフィロスに向かって大剣を振りかざした。その勢いで振り下ろせばフィロスはおろか、床ごと叩き切ってしまうだろう。
「ヒイィィィ!」
フィロスの悲鳴が響く。もはや運命は決まってしまっただろう。このまま無惨にも真っ二つになるか、衝撃で爆散するか。どのみちろくな最後にはならないであろう。
だが、その二人の間にマモルは飛び込んだ。両手に盾を持ち、カルディアの一撃を受けた。
「ぐ、ぐぬぬぬぬぬ……!!」
あまりの重い衝撃にマモルの口から声が漏れる。少しでも気を抜けば先ほど思ったフィロスの運命をマモルが辿ることとなるだろう。
「このっ、邪魔するつもり!?」
突然現れたマモルにカルディアは少し驚いていたが力を緩めることはしなかった。
「い、いや、さすがに見過ごせない、って……!」
マモルはなんとかそれだけ言うが、カルディアは片手でこの一撃なのにマモルは両手で耐えている。もう片方の手を使われたら耐えられる自信はない。
「なら、一緒に焼き切れなさい!」
カルディアの空いていた手が大剣に伸びようと動いた。余力も残ってないマモルは絶望するだけだ。
だが、その切っ先がマモルを切り裂くことはなかった。
突如空中から大量の水が降ってきて、カルディアの動きは止まったのだ。水はカルディアもマモルも、そしてマモルの後ろのフィロスも巻き込むほどの量だった。
「いい加減にしないかカルディア」
本のページをめくりながら青い髪の少女が言った。
「読書の邪魔だ。暴れるなら外でやれ」
「さすがは我が人魚姫」
側に立っていた執事風の男がニヤリと笑って掛けていた眼鏡を掛け直す。
「麗しき仲裁の業。この私もその美しさに流されるようでした」
「お前もだサージュ。黙って突っ立ていろ」
一切顔を上げずに少女は読書を続ける。これだけの騒ぎがあったのに、肝が座っている。
「クール! いきなり何すんのよ!」
カルディアは水に濡れても冷めやらない熱気を少女へ――――クールへと向ける。敵意むき出し視線だ。
それでようやく顔を上げるが、視線は冷ややかなままだ。
「うるさいと言っただろう。煩わしくてしょうがない。頭を冷やしたいならもっと水をかけてやろうか?」
「まさに、水を『射つ』というわけでございます」
「『差す』だ。たわけ者」
「そっちこそうるさいわね!」
クールとサージュのやり取りを振り払うようにカルディアはマモルに向かって指を差す。
「そもそも、コイツがこんな弱っちぃのが悪いのよ。ジルエットの後任が決まったって聞いたから来てみたものの、期待外れもいいとこだわ」
ずいぶんと酷い言われようだが、なぜかマモルは怒る気にならなかった。水を掛けられたショックなのか少し冷静になったようだ。
カルディアの理不尽に近い物言いもなんとなく理解できる。それは――――
「そんなの他の支部の私たちには関係ないことだろう」
「関係ないことないでしょうが。コイツがやられちゃうのは知らないけど、ココロがやられちゃったらどうするの。あの子はすごく弱っちぃんだから!」
「私、そんなに弱っちぃですか……」
ちょうどその時、バイト時に着ているメイド服姿のココロが広間へと入って来た。後ろにはコーヒーやお菓子を載せた台車を押すピスティがいる。
「こ、ココロ……。いつからそこに……?」
カルディアが驚いた顔で振り向くが、ココロはうつむいてしまう。
「そうですよね……。神の偶像の中でも群を抜いて能力低いですからね……」
「あ、あの、ココロ?」
「大丈夫です。分かっているんです。ちゃんと分かっていたんです。ただ、カルディアにそう言われるのが少し悲しかったというか……」
「ち、違うのココロ!」
目尻に涙を溜めたココロを見てカルディアはあたふたと弁明をする。持っていた剣も消えてしまった。
「別にココロを責めているわけじゃないの。たしかに弱っちぃとは言ったかもしれないけど、それはそのー……そう、良い意味で弱っちぃってことよ!」
「ふん、弱いという言葉に良い意味があるなら教えてもらいたいものだ」
「アンタは黙ってなさいクール!」
「もぉ~、ケンカばっかりしちゃダメだよみんなぁ~」
「わっとっと」
最後に残った一人の少女がココロに後ろから抱きついた。ふわふわとした色の濃い金髪が揺れる。
「わわわ、話の邪魔しちゃ怒られちゃうよヘルチェ」
慌てた様子の男の子が追いつく。法衣のような衣装に、尖った耳が特徴的だ。
「いいのだよムート~。ヘルチェたち神の偶像は家族みたいなものだからね~。ほらココロ~スリスリ~」
「あはっ、くすぐったいですよヘルチェ」
「えへへ~」
ヘルチェは人懐っこそうにココロの頬に自分の頬を擦り合わせる。
「かわいい服着てるねココロ~。せっかくなら笑ってくれてるほうがヘルチェ嬉しいなぁ~」
「ああ、まったくだ」
いつの間に近くまで来ていたクールがココロの頭をなでる。
「カルディアに苛められてかわいそうに。あんな奴は放っておいて、私たちたちで行こうか」
「ちょっとクール! 苛めてなんていないわよ!」
神の偶像たちはワァワァ騒ぎなから部屋を出て行ってしまった。
「それでは守り人の皆さま方」
台車を押すピスティが神の偶像たちを追って部屋を出る前に振り返る。
「いつもの通り、神の偶像と守り人は別れて話し合いしていただきます。後ほどお茶をお持ち致しますので、今しばらくご歓談ください」
そう言って、ピスティは部屋を出て扉を閉めた。
何やら嵐のような時間だったが、生きて乗り越えることができたことにマモルは安堵の息を吐いた。
「よぉー! 助かったぜ新入り君!」
フィロスがマモルの首に腕を回してまとわりついてきた。
「いやいや、むしろ助けてもらったのは僕の方だったような」
「ハッハッハ、気にすんなって。お前、名前は?」
「僕はマモル。相澤マモル」
「マモル君ね。オレはザクス支部のフィロスだ。親しみを込めて『フィロっち』って呼んでくれよな」
「ああ、うん。よろしくフィロス」
「お、良い性格してんなマモル。せっかくだし他の奴らも紹介しとくか」
そう言ってフィロスはムートを指差した。
「あの女の子っぽいのがムートだ。男だから気をつけろ」
「どんな紹介の仕方だよフィロスっ!」
ムートは迫力を感じさせない起こりかたをすると自分の胸に手をあてた。法衣から出た手も白く細く、たしかに女の子のようだ。
「はじめましてマモル。ブゲン支部のムートです。エルフ族の一人なんだ。マモルはエルフを見るのは初めてかな?」
「うん。初めてというか、エルフって、本当にいるんだね」
「ははは、そうだね。たしかに珍しい種族ではあるよ。エルフのいない世界がほとんどだね。でもほら」
ムートは髪をかき上げると、尖った耳を強調してきた。
「この白くて尖った耳がエルフの特徴なんだ。良かったら覚えていってね」
「……ねぇムート」
その耳を見て、マモルの中に抑えられない感情がわき上がった。
「何かな?」
「触ってみてもいい?」
「えっ、耳に?」
ムートは少し驚いたようだが、マモルは無言でうなずく。
「い、いいけど……」
そう言うと、ムートはさらに耳にを近づけてくれた。
「や、優しく触ってね……」
マモルは手を伸ばすと、そっとムートの耳に触れた。
「んっ」
触れた瞬間、ムートがピクリと体を震わせた。
「すごいね。エルフって空想のお話しだと思っていたけど、質感は人と同じだ」
マモルの中でエルフとはゲームの中くらいでしか見ることのできない存在だった。それに今、直に触れているのである。マモルはとても昂っていた。
「あっ、そんなに先っぽをこすったらダメだよぉ」
「あ、ゴメン」
夢中になっていた手を放すと、ムートは耳を押さえて後ずさった。顔が真っ赤である。
「ごめんねムート。つい興奮しちゃった。痛かったかな?」
「う、ううん。大丈夫。エルフに興味を持ってくれて嬉しかったよ。これからよろしくねマモル」
不躾だったマモルにも笑顔で対応してくれたムート。とても良い子である。
「戯れは終わったか?」
少し離れたところからサージュが鋭い目付きを向けてきた。煩わしそうに眼鏡を掛け直す。
「なんだぁサージュ。お前も仲間に入りたいのか?」
「なっ!? この俺を寂しがりやようの言うんじゃない!」
サージュは狼狽えた際にズレた眼鏡を掛け直す。
「こんな『ブドウ』の衆の中にこの俺が入っていることすら認めたくないものだな」
「『烏合』、だな」
ため息と共にフィロスはマモルを向いた。
「分かると思うが、コイツはバカだ」
「えっと……」
マモルが苦笑いを浮かべているとサージュは冷たく微笑む。
「まぁ、お前が望むのなら少しくらいは仲良くしてやってもいいだろう」
サージュが手を差し出してきた。
「セリユ支部のサージュだ。あまり馴れ馴れしくするなよ?」
「ああ、うん。よろしくサージュ」
「マモル君は大人だねぇ」
差し出された手をマモルはがっしりと握った。サージュも同じように返してくれる。
「さて、自己紹介も終わったし、同じ守り人同士、仲良くやろうぜ」
「うん」
「はい」
「ふん」
それぞれ返事をして席へと向かう。クセの強そうな人たちだが、仲良くなれそうだと安心してマモルは席についた。
神の偶像というのは世界の守護翼の象徴的存在であり要である。ティポスによる世界侵攻を阻止するためには神の偶像の能力である『想造力覚醒』をし、各世界の抵抗力を上げる必要があるのだ。
なので、世界の守護翼および各支部は神の偶像のために存在していると言っても過言ではない。支部長という階級はあるが、神の偶像が実質のトップである。支部の方針を決めるのは神の偶像なのだ。
「ハァ。結局はいつも通りの話合いだったわね」
つまらなそうな顔しながらカルディアがため息を吐いた。
「異世界への転移を続けてティポスを駆逐しつつ想造力の活性化をしろって、何も変わらないじゃないの」
「同感だな」
カルディアの隣を歩いていたクールも不満があるようだ。
「進展もないのにわざわざ集まる意味もない。上の連中も事務的なことしか言わない。まったくもって時間の無駄。せめて、支部会の時くらいは顔を見せてもらいたいものだ」
「そうだねぇ。もうずいぶん天使の人たちに会っていないし、久しぶりに会いたいねぇ」
「そうですねヘルチェ。今ごろ天使の皆さんは何をしているんでしょうか」
ヘルチェの言葉にココロも考える。
かつて世界の守護翼という組織が発足した時にいた天使という存在。普段はこの本部であるホームステーションの遥か上空にある『天域』というところにいて、世界の守護翼を見守っていると謂われている。
「私たち神の偶像の産みの親ですからね。たまには会ってみたいですよ」
「いないヤツのことなんて考えてもしょうがないでしょ」
カルディアがココロの方を見た。
「それよりココロ。最近目撃されてるティポスのボスみたいなヤツに会ったんでしょ?」
「シューメスのことですか?」
リーモ王国での事件の原因だった少年のことだ。ティポスを率いており、神の偶像であるココロのことを少なからず憎んでいる節があった。
「たしかに会いましたけど、シューメスがティポスのボスかはまだ分かりませんよ」
「そんなことはどうでもいいの。どう? 強かった?」
「ふん、戦闘バカが」
「クールは黙ってなさい」
「いえ、結局シューメスとは戦いませんでした。他のことでこちらもいっぱいいっぱいだったので。シューメスを追撃できるほどの余力はありませんでした」
実際、あの時シューメスが素直に退いてくれて助かりはした。あのまま戦っていたら被害はもっと大きくなっていただろう。
「なによ、つまんないわね。アタシのところに来たらコテンパンにしてやるのに」
「せいぜい足下をすくわれんようにな」
「アタシは平気よクール。アンタと違って強いからね」
「ふん、言ってろ」
「もぅ~、二人とも仲良くしてよぉ~」
「「断る!」」
「あはは……」
こんなやり取りもいつも通りだとココロは苦笑いをしながら思った。
(でも、たしかにこのままでいいんでしょうか?)
このままずっと終わりのない戦いを続けることが正しいのかは分からない。増えるティポスとのいたちごっこをいつまでやるのか。
(せめて、何か打開策があれば……)
「いい加減にしやがれ!」
考え事をしていたココロだったが、先ほどまで集まっていた広間に戻ったところで唐突な怒鳴り声が聞こえて顔を上げた。
見れば、カルディアの守り人であるフィロスがクールの守り人であるサージュの胸ぐらを掴んでいた。フィロスは興奮しているようだが、サージュの方は冷ややかな目をしていた。
その近くでヘルチェの守り人であるムートが仲裁しようとおろおろとしており、さらにその近くでマモルは何かを考えるようにあごに手を充てていた。
「ふざけんじゃねぇぞサージュ!」
ココロたちが帰ってきたことにも気づかず、フィロスはサージュへと詰め寄る。
「お前の考え方は前から気に入らないと思っていたが、今回は我慢ならねぇ。それはただのエゴだろうが! そんなんじゃあ世界は救われない!」
「ふん、何を世迷い事を。貴様の方こそ少しは考えて発言するんだな。万人が俺の意見に賛同すること間違いなしだ」
「お前のその色眼鏡で見たような考えなんて誰も賛同しねぇよ。公平になってみやがれ」
「ほぅ、この俺に眼鏡を外せと言ったな。生きて帰れると思うなよ」
「上等だ。かかってきやがれ」
「わわわ、止めてよ二人とも!」
ムートの声には耳を貸さずに今にも戦いが始まりそうな雰囲気だった。
「どうやら、我々よりもよほど熱心に会議している連中がいたようだな」
クールが少し微笑んでサージュを見ていた。
「まったく、バカのくせに熱くなっちゃって。ホントしょうがないんだから」
カルディアも少し表情を和らげてフィロスを見る。
二人とも口は悪いが自分の守り人のことを信頼しているのだろう。
「ねぇねぇムート。何があったの?」
ムートが二人に突き飛ばされて離れたタイミングでヘルチェが近づいた。
「ああ、ヘルチェおかえりなさい。会議はどうだった?」
「いつも通りだったよ。それよりこれは?」
「ああ、これね。二人とも前から仲良くはなかったんだけど、今日はちょっとヒートアップしちゃってね」
「そっか。でも熱心だねぇ。世界の行く末についてあんなに熱く語って」
「いや、あれは――――」
「だから!」
一際大きな声が聞こえて一同の視線が渦中の二人に集まった。
「女性の魅力はお尻にあるんだって! あの曲線美を愛することで世界と人は救われるんだ!」
「貴様はなにも分かっていない。生きとし生けるすべてのものは皆おっぱいを求めるのだ。それが答えであり、全てだ」
「何が全てだ。お前の勝手な持論で全てを語っているんじゃねぇ!」
「愚か者が。これはアカシックレコードにも書かれていることだ」
「嘘つけ!」
なおも二人は熱く語り合う。最早この言い合いは止まることはないだろう。
「っていうことなんだけど……」
「二人とも、男の子だねぇ」
朗らかに微笑んでいるヘルチェにムートは苦笑いを浮かべるしかなかった。
そして、ヘルチェとは対照的に、カルディアとクールはとても冷めた表情で二人を見ていた。それはまるでゴミを見るような眼差しで。
「ダメね。少しでも見直そうとしたアタシがバカだった。ダメなヤツはホントにダメね」
「そうだな。これ以上支部の恥をさらす前に一刻も早く黙らせなければ」
「ま、まあまあ。カルディアもクールも落ち着いてください」
ココロがなんとかなだめようとしている中で、フィロスとサージュは新たな局面にいた。
「なら……そうだな。ここは新入りのマモルに決めてもらおうじゃねぇか」
フィロスはマモルの肩に手を置いた。その手に力がこもる。
「マモルがオレとお前のどっちの意見に賛同するか。票の入った方の意見が正しいってことで」
「ふん、いいだろう」
サージュも納得するとマモルの肩に手を置いた。
「新入りを試すにはもってこいだな。この俺について来れるか見極めさせてもらおう」
いきなり勝手なことを言われたマモルだが、マモルはいまだ考える姿勢を崩さない。
「さあマモル、お前は女性のお尻とおっぱい、どっちに魅力を感じるっ?」
急かすようにフィロスがマモルに問いただす。世界一どうでも良い質問であったが、この中に興味がある者がいた。
(マモルは、なんて答えるんでしょうか……)
カルディアとクールをなだめながらもココロは聞き耳を立ててしまう。何も考えていないような顔のマモルが何と答えるのかココロは興味があった。
「……僕は」
やがてマモルは顔を上げると、ゆっくりと口を開いた。
「膕とか、どうだろうか?」
「膕――――!?」
「――――だと!?」
マモルの答えにカルディアとサージュは驚愕し、後ろに一歩下がってしまった。
(膕って――――なんだろう?)
知らない言葉にココロが考えていると、マモルは語り出した。
「確かに珍しい部位ではある。二人が驚くのも無理はないよ。でもね、だからこそ膕を見て欲しいと僕は思う。座っている時には見えず、たとえ立っていても長めのズボンやスカートを履いていたら見えない場所だけど、だからこそ注目する価値がある。前に僕の友達の女の子が言ったことがあるんだけど、『オシャレは見えないところからやる』んだって。見えないところを着飾ってどうするんだろうって僕は思ったんだけど、どうやら見えないところに人の本性が出るらしいんだ。確かにと思ったね。見えないところ、そして注目されないところもキレイにしている人なら、きっとどこを見ても、そして見えない心の中もキレイなんだと思う。たしかにお尻やおっぱいも魅力的な箇所であはあるよ。でも、ふとした時に見えた膕に注目してほしい。その膕がキレイだったら、きっとその人心の中もキレイなんだなって」
長く語ったことで少し疲れたのか、マモルはゆっくりと息を吐いた。
「い、いや、騙されないぞ」
黙りこくってしまった二人だったが、サージュがいち早く我に返った。
「それは所詮内面的な話だ。我々はそういう話をしていたわけではないぞ!」
「……そうだね。これは実際に見てもらわないと分からないよね」
マモルはそう言うと後ろを振り向き、ココロを見た。
「ココロ、ちょっといいかな?」
「え、あ、はい」
マモルに呼ばれてココロが小走りで近づいた。
「前におやっさんに教わったっていったメイドターンを見せてくれないかな?」
「え、はい。いいですけど……」
ココロはマモルから少し離れると、右足に力を込める。そのまま右足を軸にクルリと横に一回転した。スカートをふんわりと持ち上がり、裾がひざの上まで上がった。
「……どうだろうか」
「ほほう、これは」
「なるほど。なかなかだな」
フィロスとサージュがまじまじとココロのターンを見ていた。
「ひぃ! 恥ずかしいけど、どこを隠していいかわかりません!?」
膕の部位が分からないココロは顔を赤らめながら上半身と下半身を押さえていた。
それを放ったままで、二人はマモルの方を向いた。
「なかなかやるなマモル君。お前とは仲良くやれそうだ」
「これからよろしくね。フィロス」
フィロスの差し出された手をマモルは握り、熱い握手を交わす。
そして、今度はサージュが懐から何かを取り出した。
「受け取ってくれ」
「これは?」
「友情の証だ」
マモルがそれを開けると、中には眼鏡が収められていた。渡された物はメガネケースだったようだ。
「ありがとうサージュ」
「マモル、どうやらお前は俺と語り合うに値するようだ。これからお前に会える日が楽しみになる」
どうやらマモルは二人と仲良くなれたようだ。それはとても喜ばしいことである。
「よし、じゃあ帰るぞカルディア。さっそく今日のことを支部の連中に知らせてやらな――――ぶへらっ!?」
突如飛んできたカルディアの右ストレートがフィロスの顔面をキレイに捉え壁までぶっ飛んだ。
「最低なヤツね。戻ったらその性根、叩き直してあげるわ」
気を失ったフィロスの首根っこを掴んで、カルディアはそのまま出でいった。
「ふん、うるさい連中だ。ではクール様、我らも帰りましょう。一刻も早く今日のことを日記に記さなけれ――――ブクブク」
突如降ってきた水の玉がサージュの顔を包み、喋れなくなる。
「黙れサージュ。これ以上セリユ支部の恥をさらすな」
「ブクブク」
何を言っているか分からないが、クールとサージュもまた退室していった。
「それじゃあヘルチェたちも帰るねぇ。バイバ~
イ」
「あ、待ってよヘルチェ。マモル、ココロ、ボクたちも失礼します」
ヘルチェとムートも自分の支部へ帰っていった。
後にはこの広間にココロとマモルが残された。
「えっと、どうでしたかマモル。支部会は?」
「うーん」
マモルはしばらく考えるように唸ると、顔を上げた。
「しばらくはいいかな……」
「ですよね……」
疲れた体を引きずって、ココロとマモルもビャコ支部へと帰るのだった。




