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ハッピーエンドを求めて  作者: AiU
三章 後編
35/50

また始めるために

 ロッカーを開けると、いつものメイド服がかかっている。最初に着たときにはあまりの場違い感に戸惑っていたが、今ではすっかり慣れてしまった。

 もしティポスがいなくなってすべての世界に平和が訪れたら本格的にメイドとして働くのもいいかもしれない。

 (なんて、バカなこと考えてないで早く着替えないと)

 ずいぶんと前向きなこと考えた自分に少しばかり笑って、ココロは服を脱ぎだす。

 どうやらココロが一番だったが、すぐにでも喫茶店KUROは人でいっぱいになるだろう。

 「あ、ココロ。早いわね」

 「シオリ。お疲れさまです」

 着替えを進めているとシオリが入ってきた。学校が終わってまだそんなに時間は立っていないので寄り道せずにまっすぐ帰ってきたのだろう。

 シオリはココロの隣に立つと制服を脱いで仕事用の少しラフな格好に着替え始める。

 自分の家なのだから自室で着替えればいいと思うのだが、仕事をするときは最低限の切り替えがしたいそうだ。心構えのようなものだろう。

 「私よりも早く来るなんて気合い入ってるようね」

 「そう、ですね。なんて言ったって、今日はみんなが来ますから」

 ここ最近の労いとマモルの正式な世界の守護翼への加入を兼ねて、ファーネが催しを開いてくれた。いろいろとあったのでここらで一区切りつけたいとのことだ。

 「リーモ王国からルルディとメリサ。それにビャコ支部からはヴノとミラノとミステルと、最近仲良くなったアレグレも来てくれるそうですから」

 「みんな違う世界から来るのよね。なんだかすごい話。そういえば、ミステルはもう大丈夫なの? たしかいろいろと検査してたのよね」

 「はい、ミステルには少し大変な思いをさせてしまいました」

 一度とはいえティポスの力を自ら受け入れた行為はティポスと戦う組織として見過ごすことはできなかった。

 しかし、ミステル自身が想造力(イメージ)の使いすぎにより衰弱していたのと、事情が事情だっただけに温情措置が取られた。とりあえず治療施設へと移され治療に専念させることで決まった。だが、治療と検査でベッドで過ごす毎日が続いたようだ。

 面会できない時もあったが、それでもココロはなるべく顔を出した。ミステルに寂しい思いをさせたくなくて。

 だが、ココロがお見舞いに来るたびに、必ず新しいお見舞いの品が増えていた。

 司書の人やアレグレ、ミラノやファーネも来ていたらしい。ヴノが来たときは酒を飲みながら病室に入ったため看護士に怒られてたそうだ。

 「みんなミステルのことを心配してくれてたみたいで、私の考えは杞憂だったみたいです」

 「そう……。でも、ココロの想いもちゃんとミステルに届いているはずよ。ココロだって何度もお見舞いに行ってるんだからね」

 「はい、そうですね」

 病室いっぱいに積み重ねられた本の中心で「こんなにたくさんよめないの」と、困った顔で微笑むミステルを見て、ココロは嬉しかった。自らを孤独と思いながらも、ミステルは決して孤独ではなかったのだ。

 「今日の会でミステルにも新しい友だちができると嬉しいですし、場所を提供してくれたマスターには感謝の気持ちでいっぱいです」

 「お父さんは騒ぎたいだけよ。商店街の人たちも来るみたいだし、今日は本当にパーティーって感じね」

 「お料理たくさん作らないといけないです」

 「ふふっ、そうね。腕が鳴るわ」

 料理の腕を振るう機会があって、シオリも楽しそうだった。マモルやリキヤもミヅキもすぐに駆けつけてくれると言っていた。

 みんな揃えばすごいことになりそうだ。

 「じゃあ急いで準備しないとですね」

 「そうね、下ごしらえはお父さんがやっといてくれてたから、後は仕上げるだけ……」

 エプロンを装着して準備万端のシオリが、ふとココロの方を向いて動きを止めた。

 「どうしましたかシオリ?」

 「いや、何か忘れているような気がして……」

 シオリが何かぶつぶつと独り言を言いながら考え事をしだしてしまう。

 「あの時……ココロの部屋に転移したのはリボンがあったからと思ったけど……あそこはココロ部屋だからの着替えもあったはず……」

 「あの、シオリ……?」

 メイド服は着るのに少し時間を要するので、まだココロは下着姿が見えている。中途半端なところで止まっているので、ピンク色のショーツがチラチラと見えてしまっていた。あまり凝視されると同性でも恥ずかしくなってしまう。

 「……ねぇココロ。あなたの持ってる下着はもしかしてピンク色が多かったりする?」

 「は、下着ですか?」

 よくわからない質問にココロは戸惑ってしまう。シオリは裁縫の趣味もあるので、下着も作ったりするのだろうか。

 「ど、どうでしょう。マモルにリボンを買ってもらった時にピンク色が似合うと言ってもらったので、無意識にピンクを選んでいたかもしれません……」

 自分でも単純と思いつつも、着飾ることのなかったココロとしては誰かの意見に流されてしまいがちである。

 「に、似合いませんか?」

 「いや、とても似合ってる。写真を撮って飾りたいくらい」

 「絶対にやめてください!」

 いったい何なのだろうか。

 「それは冗談として、もうそろそろマモルも来る時間よね?」

 「え、マモル? たしかにもう来てもよさそうな時間ですけど……」

 「そう……。私、ちょっとマモルに用事を思い出したわ。先に行ってるからココロはしっかり準備を整えてからいらっしゃい」

 「わかりました……けど、どうしてフライパンを具現化させているんですか?」

 「気にしないで。それじゃ」

 シオリはそう言って部屋を出ていった。笑顔が若干怖かった気がしたが気のせいだろう。

 「……さて、私も早く準備しないと」

 着替え再開して、服装を整えていく。たくさん人が来るので粗相のないように鏡の前で入念にチェックをした。

 最後にマモルが似合ってると言ってくれたリボンを手に取った。

 「……あの時はマモルに頼っちゃいけないと思いましたけど、やっぱりずっと付けていたいです」

 鏡を見ながら頭にしっかりと付けて、ロッカーを閉めた。

 「よし、準備オッケーです。行きましょう!」

 きっと今日は楽しい1日となるだろう。

 そう思うと気分が高まる。

 気合いを入れて部屋を出て行こうとしたとき、まるで楽しい時間の始まりを告げるように、どこか遠くで小気味良い音が響いた。

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