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ハッピーエンドを求めて  作者: AiU
三章 後編
34/50

手を取り合って

 「さっきからすげー衝撃だな。おいマモル、本当にここでいいのかよ?」

 「うん。このお城からココロの想造力(イメージ)を感じる……気がする」

 「気がするって……おい、大丈夫なんだよな?」

 「大丈夫。なんだか僕にもわかんないけど、絶対に大丈夫……な気がする」

 「そうか。ならいい」

 先を走るリキヤの背中を見ながらマモルは階段を昇っていく。

 この城に入ってきてからずいぶんと階段を昇った。

 そこらのデパートよりも高いこの城は、時折揺れたりする不思議な城だった。中には先ほどファーネたちのところにいたぬいぐるみ型のティポスが徘徊しており、進むのに少し手間取っている。

 ほとんどは先頭を行くリキヤが薙ぎ払ってくれているし、マモルもシオリもこの程度の相手には遅れをとらない。

 「ねぇマモル」

 後ろから声をかけられてマモルは速度を少し落としてシオリと並んだ。

 「どうしたのシオリ?」

 「さっきから思ってたんだけど、ココロの居場所が分かるってどういうことなの? リキヤみたいな野生の勘?」

 「いや、どうだろう。たしかに直感に近いんだと思う。だけど……」

 「だけど?」

 「声が、聞こえるんだ」

 「声?」

 ハウラの世界から帰ってきて以来、何か不思議な感覚があった。

 誰もいないところから声が聞こえてきたり、リキヤやシオリと会話しているときも次の言葉がなんとなくわかったり。

 まるで予知能力のようなものを感じている。

 「はっきりと聞こえるわけじゃないんだけど、なんというか、伝えたいことがあるんじゃないかなっていう意思を感じるというか……」

 「ふーん? なんかよくわからないわね」

 「うん……そうだね……」

 実際、マモルにもよくわかっていない。

 だが、それでも感じる。身体の奥から自分とは違う別の力が湧いてきていることが。そして、その力がだんだんと馴染んできていることが。

 「でも、ここにココロがいるのは間違いないよ。それと、他にも何か大きな何かがいる」

 「まぁ、さっきからこれだけ揺れてれば、ここで何か起こっているのは確かよね」

 頻発している揺れは激しい戦闘を想像させられる。むしろ城が崩れてしまうのではないかと不安になるほどだ。

 「うん。だから急ごう。あともう少しで最上階だ」

 「そうね」

 階段を昇りきって扉を開ける。すると中央の吹き抜け部分に出た。これでこの階の部屋のどこかにある階段をさらに昇れば最上階だ。

 城を揺らす衝撃は階を進むごとにだんだんと激しさを増している。

 (ココロ……)

 マモルは最上階の方を見上げる。

 この衝撃のなかでココロは無事だろうか。最上階には何がいるのかはわからないが戦いが起こっていることは確かだろう。

 (すぐ行くから、待っててね……)

 不安に駆られる気持ちを抑えながらマモルたちは走り出した。

 まさにその時、頭上が煌々と照らし出された。

 「うお!? なんだ!?」

 リキヤが驚いた声を出して上を見る。

 最上階から炎が吹き出していた。どこかの部屋に大きな火炎放射機でも設置してあったのだろう。

 「すげー火だなコレ」

 「ほんと。熱気がここまで感じるからね」

 眩しさと熱気でリキヤとシオリは腕で顔を覆っている。

 目を背けたくなる炎だか、マモルはその炎をじっと見ていた。すると、炎の中から小さな影が落ちてきた。

 「あれは、ココロ!」

 炎の中から落ちてきたのはココロだった。ココロはマモルたちのいる階を通りすぎて、そのまま吹き抜けを落ちていく。

 「やべぇ、落ちちまった!」

 リキヤの焦った声を聞きながらマモルは足に込めた想造力(イメージ)を解放する。

 「反射走行(リフレクション)!」

 弾けるようにマモルは飛び出すと、吹き抜けの端まで一気に跳躍した。

 真下を覗くとココロの姿を確認する。ココロはきつく目を閉じながら何か呟いていた。

 「ココローーーー!!」

 「「マモルーーーー!?」」

 迷うことなくマモルは下へ向かって跳んだ。後ろからリキヤとシオリの悲鳴のような声が聞こえた気がした。

 「ココロ、ココロ、ココロ!!」

 何度も名前を呼ぶがココロは応えない。彼女の状態がわからない以上こっちから掴まえるしかないようだ。幸いなことに、勢い良く跳んだおかげで距離は近づいてきている。

 「ココローーーー!!」

 「マモルーーーー!!」

 もう一度呼びかけるとココロはやっと応えてくれた。

 目を開けたココロはマモルの姿を確認すると、信じられない者を見るように驚いていた。

 「マモル!?」

 「掴まって!!」

 マモルは有無を言わせずココロの手を掴むと自分の方へと引き寄せた。ココロがマモルの体を掴んだのを確認すると、マモルは盾を具現化させて真下に向けた。

 「おおおおおお!! 反射攻撃(リフレクション)ーーーー!!」

 真下に放った反射の想造力(イメージ)が少しずつ落下速度を落としていく。連続で放っているうちにかなり速度を落とせたはずである。

 一階が迫ってきたところでマモルは盾を投げ捨ててココロを抱えこんだ。

 かなり速度を殺せたが、それでも着地の衝撃にマモルは片膝をついた。

 「マ、モル……?」

 マモルの胸の中で小さくなっていたココロが見上げてくる。ところどころに擦り傷をしているが、なんとか無事のようだ。

 「えーと……」

 久しぶりの再会にマモルは少し言葉を考えていた。伝えたいことがたくさんある気がするがまるで出てこない。

 「こういう時、なんて言ったらいいかわかんないけどさ」

 それでもなんとか言葉を選んでいく。今一番言いたかったこと。それは――――

 「ただいま、ココロ」

 「っ……! おかえり、なさい、マモル……!!」

 顔を隠すようにココロはマモルに抱きついてきた。その勢いで尻もちをつくが、とりあえずココロが無事で良かったと思うマモルであった。


 「私、ダメでした……。ミステルをなんとか助けたかったのに、何もできなくて……」

 「……そっか」

 マモルの胸の中で小さくなっているココロはとりあえず無事のようだ。あんな炎の中から落ちてきたときはさすがに驚いたが、目に止まるような怪我は見受けられない。

 だか、それとは別にずいぶんと疲労しているようだった。肉体的にも、精神的にも。

 「一人で苦しんで、それでもがんばっているミステルに伝えたいことがあるのに……伝えなきゃいけないのに! 私の声は届かないんです……」

 「……そっか」

 ずいぶんと激しい戦闘だったようだが、たった一人でよくがんばったと思う。

 「神の偶像(ギフト)なんて呼ばれようとも、結局一人じゃ何もできないんです……。ただ犠牲を増やすだけの私なんて……もう……」

 「……」

 孤独な戦いというのは心の負担が大きい。ましてやココロは大きな使命をその背に負っている。その過酷な使命に自分だったら耐えられるだろうか。

 「……そうだね。一人だとできることは限られちゃうよね」

 「マモル……?」

 マモルも孤独な戦いを経験していた。

 ハウラでのでの戦いはマモルに大きなものをもたらしていた。

 「僕もハウラで守護騎士と戦ったけどさ。一人で戦ったつもりだったけどさ、結局最後はだれかに助けられちゃった」

 無我夢中で戦ったせいであの時の記憶は曖昧になってしまったが、あの滅び行く世界でたしかにだれかに会って助けられたはずだった。そうでなければ、マモルは今ここにいない。

 「僕もココロも、一人じゃできることも限られてるんだと思う。まだまだ未熟なんだろうからね」

 守護騎士には勝てたが、ハウラからの脱出は不可能だっただろう。まぁ、マモルもそのつもりではあったが。

 「だから、僕たちは力を合わせるんだ。一人じゃ無理でもみんなで手を取り合えばできることも増えるはずだよ」

 「みんなで、手を取り合って……」

 「うん。だから、そのミステルって子がひとりぼっちでがんばっているなら。僕たちでそれを教えてあげないとね」

 マモルはココロを降ろして立ち上がる。

 その後ろには息を切らしているリキヤとシオリがいた。

 「大丈夫。心を込めた言葉ならきっと届くよ!」

 「はい、私、ココロ込めます!」

 ココロの戦意も復活したようだ。晴れた顔からはやる気を感じる。これで後は件のミステルを助ければ解決するだろう。

 そう思っていたマモルの肩にリキヤが腕を乗せてきた。

 「よう、マモル。話は、ついた、みたいだな……」

 「どうしたの二人とも。そんなに息を切らして」

 「どうしたのじゃ、ないわよ……」

 シオリも肩で息をしていた。ずいぶんと急いできたようだ。

 「マモルが、下に行っちゃったから、慌てて降りてきたん、でしょうが……」

 「ああ、そっか。ご苦労さまだね」

 マモルも夢中でココロを追いかけてしまったので二人のことを完全に忘れていた。

 「とりあえず、ココロも見つかったようだし、後は引き上げるだけだな」

 「えっと、リキヤ、それがですね――――」

 帰ろうとするリキヤにココロが声をかけると事情を説明した。

 リキヤもシオリもうんうんと頷いて聞いていた。

 「つまり、ここから出るためにも、そのミステルって子を助けないといけないわけね」

 一通り聞き終わったところでシオリそう言った。もともとはココロを助けるために来たわけだが、そういう事情なら聞き入ってくれるだろう。

 「はい、今も苦しんでいるミステルを助けたいんです」

 「へっ、そういうことなら任せておけ!」

 リキヤは腕捲りをしてやる気を見せつける。引き締まった筋肉が、今か今かと唸っているようだ。

 「念のため聞いておくけど、リキヤ、やること分かってる?」

 確認のためにマモルがリキヤに声をかける。ちゃんとしておかないとリキヤは真っ直ぐに暴れに行ってしまうから。

 「大丈夫だよ。ようは俺たちがそのドラゴンを何とかして、ココロがミステルを何とかすればいいんだろ?」

 「そんな、簡単に言いますけど……」

 ココロが少し呆れ気味に言うが、シオリとマモルは頷いた。

 「リキヤにしては理解が早いわね」

 「どうやらリキヤもまた強くなったみたいだね」

 「ふっ、よせやいお前ら。俺の進化は止まらねぇからよ」

 「ま、まあ、皆さんがそれで良いならいいんですけど……」

 笑顔が引きつっていたココロだったが、すぐに真剣な表情に戻る。

 「相手は元ぬいぐるみでも、ドラゴンの見た目通りの動きをします。もしも危ないと感じた際にはすぐに退いてください」

 「うん、わかったよ」

 マモルが頷くと、リキヤとシオリ続けて頷いた。

 「ありがとうございます。それじゃあ行きましょうみなさん! 階段で!」

 「え、マジで?」

 ココロが階段へと歩き出したのを見て、シオリが驚愕していた。

 「もしかして、またあの階段を昇るの?」

 「それしか道がありませんし……」

 「エレベーターとかないの?」

 「このお城には不釣り合いだからねぇ」

 「……マジで?」

 シオリは普通に嫌がっているようだった。

 城の構造上において一階ずつの高さが他の家屋と比べて高いので、一階を昇るだけでも大変なのだ。

 かくいうマモルもココロもできれば遠慮したいとは思っていた。

 「なんだシオリもうへばったのかよ。俺だったらまだ三往復は余裕だぜ!」

 ただ一人だけ元気なリキヤがその場でもも上げを始めていた。

 「じゃあ、私の分も頼んだわ……」

 シオリはため息混じりで肩をおとす。

 「がんばりましょうシオリ。私もがんばります」

 「うぅ、わかったわよ。ココロがやるって言って、私が行かないわけにもいかないもんね」

 あきらめてシオリも歩き出した。その横を寄り添うようにココロが並ぶ。

 なんやかんや言いつつも、シオリもココロのために動こうとしてくれる。それが素直に嬉しかった。

 「じゃあ僕たちも行こうかリキヤ」

 「おぅよ。せっかくだから上まで競争な」

 「せっかくだけど遠慮しとくよ」

 マモルとリキヤも階段へと歩き出す。時間はかかっても登り始めればいつかは着くだろう。

 と、それぞれ覚悟を決めて階段へ向かったその時、マモルの後ろから大きな衝撃が響いた。まるで隕石でも落ちてきたような衝撃にマモルたちもよろけてしまう。

 「な、なんだ!?」

 リキヤが驚いて後ろを振り向く。

 辺りは土煙が舞って視界が悪いが、晴れてくるとシルエットがみえてきた。

 全体像はわからないが、今見えているだけでもかなりの大きさなのがわかった。

 「がおたん……!」

 「がおたんって、これが例のドラゴン?」

 ココロにつられてマモルもがおたんを見上げる。全体的に重量級な見た目をしていて、軽く一軒家くらいありそうだった。

 『ガオオオオオオ!!』

 体の奥まで響くような咆哮がマモルたちの体を硬直させる。大した迫力だ。

 「まさかここまで追ってくるなんて……!」

 「でも、おかげで階段を昇る必要がなくなったね」

 どれだけ強がっても、登り階段はつらい。どのみちがおたんの元へは行くつもりだったので好都合である。

 がおたんの姿を観察していると、背中のところにしがみついている少女がいた。あの子がきっとミステルだろう。

 ミステルはがおたんに唯一残されたぬいぐるみ部分を掴み、振り落とされないよう必死だった。

 「ミステル!」

 ココロが声を張り上げた。その声からは懸命さが伝わってくる。

 「もうやめてください。ティポスに感情を支配されないで!」

 「イヤ! イヤァァァァァァ!!」

 『ガオオオオオオ!!』

 ミステルがかぶりを振って叫ぶと、それに反応するかのようにがおたんも叫ぶ。

 くるりと背中を向けると、太い尻尾をマモルたちに向けて叩き落としてきた。

 マモルたちはそれぞれ横に跳んでそれを避ける。だが、まともに当たればただでは済まないだろうことが容易に想像できる一撃だった。

 「ミステル……!」

 悔しそうなココロの声が聞こえる。きっと上でも何度も説得しようとしたのだろう。だが、ティポスによって意識が混濁している状態では届かなかった。

 声を届けるには、一度落ち着かせるしかない。

 「ココロ、もう一度戦おう! ミステルに声を届けるために!」

 「……はい!」

 ココロが決心したように(ぎょく)想造武具(イメポン)を具現化させた。陣が広がり、(ぎょく)の操作範囲が展開される。

 「ミステル、今度こそあなたを助けてみせます!」

 『ガオオオオオオ!!』

 ココロの想造力(イメージ)に触発され、がおたんが叫ぶ。ティポスに侵蝕されているがおたんは想造力(イメージ)に敏感になっているようだ。

 マモルたちも想造武具(イメポン)を具現化させ、がおたんへ散らばりながら走り出す。

 『ガオオオオオオ!!』

 がおたんはココロに向かって走り出した。この中で最初に想造力(イメージ)を使った故だろう。後ろの壁ごと砕かんとする勢いの突撃。やはりまともに受けきれない。

 その両者の間にマモルが滑り込む。

 「今の僕はやる気全開だよ! 想造強盾(シルト)!」

 想造力(イメージ)でできた透明な盾が宙に具現化される。がおたんは盾に頭から突っ込んだ。

 「ぐ、ぐぐぐ……!」

 その衝撃にマモルは少し後ずさったが、さらに想造力(イメージ)解き放つ。

 「反射反撃(リフレクション)!!」

 反射の想造力(イメージ)よってがおたんの頭が思い切り跳ね上がる。真正面からのがおたんのパワーにマモルは耐えきった。

 態勢を崩したがおたんの側面を目掛けてリキヤが走る。バーベルをさらに変化させて攻撃に特化させたメイスの想造武具(イメポン)を振りかぶった。

 『ッ……! ガオオオオオオ!!』

 だが、がおたんはリキヤの姿を捉えていた。回り込んできたリキヤへ尻尾を叩きつけようとする。

 「させません! シュピラーレ・クルン!」

 高速で回転させたココロの玉ががおたんの顔の近くで踊るように暴れる。追撃による衝撃でさらにがおたんが仰け反った。

 「おもっいっきり行くぜ! マキシマム・インパクト!!」

 先端の重心に力と遠心力を加えたリキヤの一撃が、バランス崩して隙だらけのがおたんの脇腹にめり込んだ。

 『が、ガオオオオオオ!!』

 「うおっ!?」

 かなりのダメージを負ったはずだが、がおたんもなんとか耐えると尻尾を振り回してきた。

 リキヤがバーベルでガードするが、勢いを殺しきれずにマモルたちの前まで飛んできた。

 「リキヤ、大丈夫?」

 「ああ、このくらい屁でもねぇや」

 手首をパタパタと振って余裕を見せるリキヤ。さすが頑丈な体だ。

 「だけど、さすがドラゴンだな。やりごたえのある相手だ」

 「まったくだね。これだけ強ければ強キャラポジションも頷けるよ」

 ドラゴン系のモンスターは大半のゲームで強敵の部類に入る。そんなモンスターを倒した時に得られる達成感を求めてゲームをする人もいるだろう。

 「ドラゴンスレイヤーの道は遠いね」

 「そんなの目指してないけどな」

 そんなことをマモルとリキヤは話し合っていたら、がおたんが大きく息を吸い込み始めた。

 その様子を見てココロが慌て出す。

 「いけない! またブレスがきます!」

 「ブレスって、もしかしてさっき上で見た火炎放射?」

 ワンフロアを丸々炎で埋め尽くした攻撃である。マモルたちがひとかたまりになったことで、がおたんがチャンスと見たのだろう。

 「ヤベぇじゃねぇか!」

 「はい、ヤバい状態ですよ!」

 「今、盾を……!」

 そうこうしている間にがおたんの口の中が赤く光り出した。

 マモルは盾を突きだし、ココロは防御結界を張るためそれぞれ想造力(イメージ)を集中させる。

 だが、そこへフライパンを構えたシオリがマモルたちの前に立った。

 「おいシオリ、危ないぞ! こっちこいって!」

 「……」

 シオリは黙ってがおたんを見上げていると、フライパンに想造力(イメージ)を込めていく。

 「ここは……任せて!」

 「任せてって、おい!」

 「きます!」

 ココロの叫び声とともにがおたんから炎が吐き出されてきた。マモルたちをあっという間に飲み込んでしまう炎が迫ってくる。目を背けたくなる光景だ。

 「はあああああ!!」

 だが、シオリは一歩も引かずにフライパンをつき出す。その姿が一瞬で炎に包まれた。

 「シオリーーーー!?」

 リキヤの叫び声が響く。マモルたちの近くまで熱気が届いてきて思わず唸ってしまうほどだ。まともに受けたシオリが心配だが、炎が邪魔でよく見えない。

 だが、その炎の様子がおかしい。流れる炎が一点に向けて集束していく。その先にはシオリが立っていた。

 「おいシオリ! 大丈夫なのかよ!」

 「ぐぬぬぬぬ……!」

 シオリは熱気に耐えながらフライパン構え続けている。フライパンがだんだんと赤みを帯びていく。

 「お台所に立つ人が……火を恐がってちゃ……ダメでしょうが……!」

 吸い込む炎の量に応じてフライパンがさらに赤くなっていく。やがてがおたんのブレスが止むと、シオリはフライパンを振るった。

 「マモル、リキヤ。攻撃のチャンスを作って! 私が決める!」

 「えぇ!? そんないきなり!?」

 シオリに何か考えがあるようだ。その言葉にマモルは驚いたが、リキヤは不敵な笑みを作った。

 「よっしゃ、任せとけ! 行くぞマモル!」

 「あ、待ってよリキヤ!」

 リキヤが走り出してしまったので、マモルも慌てて追いかける。

 「俺は右に行く。お前は左な」

 そう言ってリキヤはブレスを吐いて疲れているがおたんの右足へと向かう。それを察してマモルも左足へと向かうが、マモルには少し不安があった。

 (反射攻撃(リフレクション)でなんとかなるかな……)

 マモルにはリキヤほどの力がない。このままがおたんに攻撃して隙を作れるだろうか。

 ――――行くぜ俺の筋肉、このまま一気にやってやるぞ!

 「え?」

 リキヤの声が聞こえた気がして彼の方を向いた。だがリキヤはがおたんの方を向いたままマモルに話しかけた様子はない。

 (……なんだろう。聞こえるはずのないリキヤの声が聞こえたような?)

 最近ある空耳現象が今回も聞こえたようだ。どうしてこんなのが聞こえるのかはわからないが、リキヤの方を見た時その想造武具(イメポン)が目に付いた。強烈な一撃を放てるリキヤのバーベル兼メイス。

 (アレがボクにも使えれば……)

 リキヤの想造武具(イメポン)があればマモルにもリキヤほどではないにしても、強い一撃が放てるかもしれない。

 (リキヤの力があれば……)

 そう思った瞬間、マモルの盾が輝き出した。

 「うわ、なんだ!?」

 驚きとともに光は強くなり、光が消えると同時にマモルの盾はリキヤの持つメイスへと形を変えていた。

 「これは……」

 姿形は完全にリキヤのメイスだ。若干ながら重さも感じる。

 「よくわからないけど、これなら……!」

 マモルは手にしたメイスを振りかぶりながらがおたんの左足へと着いた。反対側ではリキヤも同じようにメイスを振りかぶっている。

 「「マキシマム・インパクト!!」」

 二人で同時に想造力(イメージ)を解放する。メイスの先端に重みが増して威力が最大限となった。

 『ガオオオオオオ!?』

 強烈な一撃が両足に響いて、がおたんは前のめりに倒れた。さすがに耐えられなかったようだ。

 「ナイスよ、二人とも!」

 倒れたがおたんの頭の位置が、ちょうどシオリの目の前である。

 シオリは炎で赤くなったフライパンを構えた。

 「こんがり焼き尽くす……! ターン・オーバー!!」

 往復ビンタの要領で振るわれたフライパンが、がおたんの両頬を捉えた。小気味良い音とともにがおたんの顔がこんがり焼かれる。

 『ガオオオオオオ!?』

 断末魔のような悲鳴が響いて、がおたんは倒れ伏す。完全に伸びてしまったようだ。

 「行って、ココロ!」

 「はい!」

 ココロがシオリを飛び越えてがおたんの頭に乗っかると、そのままミステルへ向かって走り出した。

 そして――――


 「ミステル、落ち着きましたか?」

 「……」

 ココロに抱きしめられたまま、ミステルはずっと俯いていた。あれほど大きかったがおたんも今は肩に乗れそうなほど小さくなってしまった。

 ティポスの核を壊され、想造力(イメージ)も使い果たしたミステルに戦う力は残されていないだろう。

 「もう大丈夫です。これ以上戦う必要はないですよ」

 「……でも、ほん、さがさないと」

 ミステルは泣きそうな声をしぼりだす。

 「パパと、ママの、ほんをさがさないと、いけないの……」

 「ミステル……」

 「わたしが、がんばらないと、いけないの。じゃないと……じゃないと……」

 ミステルの声からは焦りと悲しみを感じる。悲痛な想いを前にマモルたちは何も言えなかった。

 ココロを除いて。

 「そうですね。ミステルの願いを叶えるためにはミステル自身のがんばりが必要です」

 ミステルの視線をまっすぐに受け止めて、ココロは優しい表情のまま想いを伝える。心を込めて。

 「でもねミステル。その想いを叶えるために、他のものを捨てる必要なんかないんです」

 「でも……」

 「私も一人でミステルを助けられると思ってここに来ましたけどダメでした。助けたいという想いはあっても力不足だったんです」

 ジルエットとマモルを失ったと思ったココロは、これ以上の犠牲を望まなかった。叶えたい想いはあれど巻き込みたくはない。

 それでも一人でできることには限界がある。それを越えるために人は手を取り合うのだろう。

 「だけど、みんなが助けに来てくれました。私の想いを叶えるために大切な友だちが駆けつけてくれました」

 ココロはチラリと後ろを振り返る。マモルたちは応えるように親指を立てると、ココロは微笑んだ。

 「一緒に探しましょうミステル。ミステルの大切な本を。そのためなら、ここにいるみんなも、ビャコ支部の皆さんも、きっと手を貸してくれます」

 ミステルの瞳が震える。ココロの笑顔にかつて失った何かを見たかのように。

 「……いいの?」

 「もちろんです。むしろ頼ってくれないと悲しいです」

 「……ありか、とう」

 ミステルは最後にお礼を言ってココロの胸の中へと倒れる。そのまま寝息を立て始めた。これほどの世界を作るほどの想造力(イメージ)を使ったら限界が来て当然だ。

 「おやすみなさいミステル。次に目を覚ましたら、優しい世界が広がっていますように」

 憑き物が落ちたような穏やかな寝顔を見ながら、ココロは優しくミステル頭を撫でる。まるで母のように。

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