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ハッピーエンドを求めて  作者: AiU
三章 前編
26/50

さよならぼくら

 かつてこの世界はありきたりな世界であった。

 空は澄み渡り、海は広がり、大地は茂っていた。

 生命が生まれ、育み、程よく循環していた。

 知性が発現し、歴史は紡がれ、破壊と混沌を織り混ぜながらも平和に進化していった。

 どこにでもあるような普通の世界。そんな世界が今まさに終わろうとしていた。

 どんなものにも始まりがあれば終わりがあるように、世界にもまた終焉というものがある。

 空は閉ざされ、海は干上がり、大地は崩れていく。

 廻り続けた生命が消えていく。

 人智は無くなり、歴史は意味を無くし、破壊と混沌も虚無へと変わり果てる。

 自然の循環、人の循環、そして、世界の循環。

 しかし、循環されるものはもうこの世界に残されてはいない。

 全て消えてしまった。

 まるで始めから何もなかったかのように消えてしまった。

 では、全て意味などなかったのだろうか。

 どのみち消えてしまうのならば、なかったことにされてしまうのならば、生きることに、産まれることに意味などないのだろうか。

 それは誰にも分からないのかもしれない。

 空にも海にも大地にも人にも、そして世界にも。

 最後にハウラと呼ばれたこの世界。

 全ての役目を終えて消え行く世界に、まだ動く影があった。

 その動きはまるで、ロウソクの小さな(ほむら)が消えゆく瞬間に揺らめくような、そんな動きである。

 「てやあああああっ!」

 マモルは想造力(イメージ)で紡がれた盾を叩きつける。

 数時間の休憩を挟み、ほとんど全快したマモルはまさに絶好調である。

 たかが数度の冒険であったが、マモルは戦うごとに確実に成長していた。

 多くのティポスと戦い、風狩りのジルエットと戦い、ナイフ使いのメリサと戦ってきた。

 だが、どの戦いでもそうだったがマモルの戦いには必ず仲間がいた。最初はひとりでも最後までひとりで戦い抜いたことはない。

 なので、真の意味で孤独な戦いというのは初めてのことであった。

 「ビー」

 単調な警告音を発しながら、守護騎士はマモルの盾を左腕に付いている巨大筒で受け止める。

 頑丈な体をしている守護騎士はほとんどびくともしない。そのまま巨大筒でマモルを振り払う。

 「うわっ」

 力任せに弾かれ、マモルは後ろに吹き飛ばされるが、なんとか着地をすると顔を上げた。

 今しがたマモル振り払った巨大筒がこちらに向いている。

 「なんかヤバそうかな……」

 嫌な予感がして、直感的にマモルはすぐにその場から走り出した。

 鈍い音をたてながら守護騎士の巨大筒から瓦礫のようなものが吐き出される。その中には壊れた重火器のようなものも入り雑じっていた。

 きっとこの高台であった戦いの残骸なのだろう。

 下に落ちていた兵器の数々は守護騎士が吐き出したものだったのだろうか。

 「うわああああ!」

 吐き出される瓦礫を回避しつつマモルは逃げ回る。時折かすりながらも走り続けた。

 「あんなに連続で吐き出されても反射しきれないよ!」

 マモルの反射の想造力(イメージ)も連続使用はできない。一度ならまだしも、怒涛の勢いで飛んで来る瓦礫には対処しきれないのだ。

 「近づいても、離れても、こんな調子じゃ、安全地帯なんてあったもんじゃない……!」

 放たれる瓦礫の合間を走りながら隙をうかがうマモル。どれほどの残量があるか知らないが、無限に出てくることはないはずだ。

 「ビー」

 と、ここで守護騎士の瓦礫の放出が止まった。

 「チャンスかな」

 勢いそのままにマモルは動きを止めた守護騎士に向かって走る。

 「む?」

 だが、空気の流れが変わったことに気づき、マモルは足を止めた。

 「これは、吸い込まれてる……!」

 そうだった。

 この守護騎士は吐き出すこともあれば吸い込むこともできるはずだった。

 最初に守護騎士を見たときを思い出す。

 あの時は自身よりも大きなククリ・ティポスを一気に吸い込んでいた。吸い込む対象によって筒の出入口を変えられるのだろう。それなら大きな瓦礫だって自由に吸い込むことができるはずだ。

 「ぐ、ぐぐぐぐ!」

 地面に手をついてなんとか耐えるマモル。周囲の瓦礫は次々と吸い込まれていく。

 そこに、拳大の石がマモルの顔目掛けて飛んできた。

 「よっと」

 容易く石を盾で弾く。この程度なら余裕である。

 「あっ」

 だが、地面から手を離したことにより踏ん張りが利かなくなってしまった。マモルの足が地面から離れる。

 「ああああああああ」

 叫び声もむなしく、マモルは空中に浮かびながら一直線に守護騎士へと吸い込まれていく。

 聞いた話だと、たしか守護騎士は吸い込んだティポスを自身のエネルギーに変換しているのではないかということだった。

 マモルもこのまま吸い込まれてしまえば守護騎士のエネルギーになってしまう。

 「くっ、こうなったらイチかバチか!」

 マモルは盾に想造力(イメージ)を集中させていく。

 だが、もう守護騎士の巨大筒は目の前だ。筒の中は真っ暗な闇が見える。

 「……今だ! ビッグ・シールド・ガードだぁ!」

 吸い込まれる直前、マモルは盾を巨大化させた。

 いくら筒の出入口を変えられるからといって急激な巨大化には対応できないであろうとマモルは考えたのだ。

 果たしてそれはうまくいったようである。

 守護騎士の巨大筒に蓋をされたかのように、出入口に詰まることに成功した。

 「ビー」

 守護騎士は巨大筒が詰まったことにより、一旦吸引を止める。

 そしてマモルはこの時を狙っていたのだ。

 「ついでに、反射攻撃(リフレクション)!」

 マモルは集中させた想造力(イメージ)を解放させる。巨大化した盾から放たれる反射の衝撃を守護騎士は一身に浴びることとなった。

 「ビー」

 「もうひとつ!」

 バランスを崩した守護騎士に、マモルはさらに追撃をする。地面に降り立つとすぐさま盾を突き出した。

 マモルの盾が守護騎士の体に深々と突き刺さり、そのまま弾き飛ばす。

 守護騎士は後方にあった瓦礫の山に叩きつけられて動きを止めた。

 「はぁっ、はぁっ、はぁっ」

 肩で息をしながらマモルは守護騎士を見つめた。

 これで終わってくれれば良いのだが。

 先ほどの攻撃は、今のマモルにできる最大の威力である。巨大化させた盾で放つ反射攻撃(リフレクション)。盾じたいが重くなってしまい普通に持ち上げることはできないが、相手が下にいることで放つことができると思ったのだ。通常サイズの盾で放つよりもいくらか強いはずである。

 追撃も行ったし、これなら先のククリ・ティポスにさえ大ダメージを与える自信があった。

 「もう、立たないかな……?」

 呟いてみるが反応はない。最初からロボットのような体だったので、どうにも生き物らしい仕草が見られないのが不安を助長させてしまう。

 マモルは守護騎士へジリジリと近づく。ここで急にワッと驚かされたらマモルは気絶してしまうだろう。

 「ビーーーー」

 「おわ!?」

 警告音が鳴りマモルは思わず後ろに跳んだ。

 守護騎士の頭にあるランプが赤く光り、ゆっくりと瓦礫の山から立ち上がろうとする。

 「まったく、なかなか頑丈だね。あと何回叩けばキミを倒せるんだろうね?」

 訊ねてみるが返事はない。というよりは反応がない。これではマモルの独り言で終わってしまう。

 思えば意思の疎通は可能なのだろうか。近づくものを片っ端からかたづけようとしてしまうのは守護騎士本人の意思であるのか。

 「ビーーーー」

 警告音が鳴り続ける。体からも蒸気のようなものを噴き出すその姿は怒っているように見えた。

 「よくわからないけど、少しは効いているのかな?」

 相手の呼吸(?)が乱れているのは余裕がなくなってきている証拠だろう。重ねたダメージが守護騎士の余裕を奪っていた。

 「ビーーーー」

 守護騎士が動く。巨大筒を抱えるように持ち上げながらマモルへ突っ込んでくる。

 自分よりも大きなものが迫って来るというのはなかなかの恐怖である。

 「……いいよ。真っ向勝負だね」

 一度深く呼吸をして気持ちを整えてから盾を構えると、マモルは守護騎士へ向かって走り出した。

 どのみち離れていたところでマモルに対抗手段なんてないのだから。

 「ビーーーー」

 「たああっ!」

 巨大筒と盾が衝突する。

 擦れるたびに出る火花が両者の顔を照らしだす。

 轟音を撒き散らしながら、二人の打ち合いは徐々に激しさを増していった。

 振り下ろされる巨大筒は盾の上からでも確実にマモルにダメージを与える。一撃が重く、受け続けるのは厳しい。いくら盾持ちのマモルでも辛いものがあった。受けるごとに腕が痺れていく。

 「……っ! ハァッ、ハァッ!」

 だが、打ち合いはいつまでも続かなかった。

 守護騎士の攻撃は確実にマモルの精神と肉体を追い込んでいる。

 力で押し負けるマモルに真っ向から立ち向かったところで勝機なんてなかった。

 このまま力ずくで押されて、巨大筒か瓦礫に潰されるだけだろう。

 「ぐあっ!?」

 バランスを崩したところに追い打ちをくらい、マモル大きく後ろにさがった。

 なんとか盾が間に合い倒れずにはすんだがダメージが大きい。

 すぐに立て直そうとするマモルの頭上に巨大筒が振り下ろされる。

 「ぐっ!」

 強烈な一撃だったがなんとか盾で防いだ。片ひざをつき、なんとか潰されないように耐える。防御が間に合っていなかったらこれで終わっていただろう。

 だが、守護騎士はそれで終わらなかった。

 振り下ろした巨大筒が吸引を始める。辺りにある物すべてを吸い込まんと空気が動きだす。

 「この、タイミングで、何するつもり!?」

 守護騎士は答えない。そのかわり、何か背後で物を引きずるような音が聞こえてきた。

 戸惑いながらも首だけで後ろを確認すると、大きな瓦礫が地面をこすりながらマモルへ迫って来ていた。

 「お、おお、ちょっと、まずい、かな……」

 頭上の巨大筒に耐えているマモルに、あんな瓦礫に対処する余裕なんてない。

 吸引作業している間も、守護騎士はまったく力を弱めることもなかった。

 「ヤバいヤバいヤバいヤバい!」

 焦る気持ちは積もる一方で、解決策は一向におもいつかない。

 このままでは守護騎士と瓦礫にサンドイッチされてしまう。

 「あ」

 と、ここで後ろの瓦礫が持ち上がったのを視界の端で確認した。瓦礫が迫ってくる。

 (ここまで……かな)

 身動きの取れないまま、マモルは目を閉じる。

 思い返すのは今までのこと。

 両親や妹、友達や仲間、出会ったひとたち。

 別段劇的ではない人生だったが、最後までがんばってきたと思う。少なくとも、今は懸命だった。

 心残りはあるような気がするが、どうしようもないこともあるだろう。

 結局、空いたままの左手は握りこぶしを作ったままだった。

 (……?)

 違和感があった。

 すでに諦めたはずだ。もう、こぶしを握る必要はない。このまま力を抜けばすべて終わる。

 さすがに自分よりも大きな瓦礫に押し潰されれば即死であろう。

 だが、一向に左手は開く気配がない。熱を持ち、掴むべきものを求めている。

 (でも、今さら何を求める……?)

 筋肉を愛し、強くなりたいと思ったリキヤにはダンベルが、料理が好きなシオリには身近にあったフライパンがそれぞれ具現化された。

 ならばマモルは?

 あの時はただココロを守りたいと思った。その結果掴んだものが盾である。

 「なら、()()()()()()()は……」

 一瞬の間に記憶を、想いを手繰り寄せる。

 支える手が視界に入った瞬間、心が動いた。注目したのは小指。

 『約束する』

 (そうだ、約束したはずだ)

 ココロを安心させるために思いついた小さな約束。

 契約や誓約のように強いものではないが、マモルにはそれで充分だった。

 「守るものは、ある……。それは――――」

 左手に想造力(イメージ)が集約していき、輝きだす。

 「僕自身!」

 左手に集まった眩い光が解放され、そして弾ける。

 守護騎士は突然の衝撃に吹き飛んだ。反対側にあった瓦礫も彼方へとすっ飛んでいる。

 「ひとりぼっちになったけど、だからって守るものがなくなったわけじゃない」

 本来ならば他人よりも重要視しなければならないはずのもの。

 ココロを守りたいと思う気持ちが順序が変えてしまったが、ようやく追いついた。

 光が弱まっていき、視界が戻る。

 そこには両手に盾を携えたマモルが立っていた。

 「まだ僕がここにいる。約束を守るため、そして、想いを守るために、僕は戦う!」

 誓いを立てるようにマモルはそう叫んだ。



 「これは……?」

 マモルは少し呆然としながら盾を見た。

 右手と左手にそれぞれ与えられた盾。元から持っていた方の盾も形が変わっていた。

 今まではただの円形であり、例えるならナベのフタのようなものであったが、新しい盾は下部が剣先のように尖り、白と青のラインが描かれていた。

 「は、ハハハ……」

 盾を見ていたマモルの口から乾いた笑い声が漏れる。

 「こんな、こんなどうしようもない状況になってから強くなったってね……」

 もはや滅びゆくハウラと共にすることが決まっている。このまま消えゆく身であるマモル。

 「せめて、あと数時間早かったらなぁ……」

 もしかしたら、変えられた運命もあったかもしれない。

 「でも、すごいな。体全体に想造力(イメージ)が巡ってる感じがする」

 盾を持つ手だけではない。体の中心から手や足の先までほんのり暖かいような気がする。

 これが新しい力なのだろうか。

 自身の状態を確かめていたマモルだったが、大きな影が覆っているのに気がついて顔を上げた。

 瓦礫の塊が迫っていた。

 「あ」

 そう、今は戦闘中である。

 マモルが自分のことを確認している間に守護騎士は再び瓦礫を吸い込み吐き出していたのだ。

 (跳ね返す? 避ける? ……ダメだ、どれも間に合わない)

 すでにどの行動も無意味なほどに瓦礫は近づいている。

 せっかく新しい力に目覚めたのに、このままでは何もしないで終わってしまう。

 「くっ!」

 それでもマモルは動いた。もはやただの反射的行動だったかもしれない。

 間に合わないと分かっていながらも横に跳んで回避しようとしたのだ。

 土を蹴ろうと力を込める。

 「おっとっと」

 気がついたら高台の端が見えてきたので慌てて減速する。

 もう少しで落ちてしまうところであった。

 「……あれ?」

 マモルは振り返る。

 先ほどまで自分がいた位置から軽く10メートル以上離れてしまったようだ。

 体が軽くなったどころの話ではない。

 「そりゃあ焦って跳んだけど、これは……」

 先ほどの感覚、地面を蹴った瞬間にまるで()()()()ような気がした。

 それは、いつも盾から出している反射の想造力(イメージ)のような。

 「……なるほど。短距離走なら一番になれそうだね」

 新しい力に対し少しずつ理解していくマモル。

 すると、守護騎士がまた瓦礫を飛ばそうとマモルを見ていた。

 「距離は遠いな。けど、今の僕なら……!」

 瓦礫が吐き出されると同時にマモルも走り出した。

 盾を前面に構え、守護騎士に向かって一直線である。

 瓦礫との距離が近くなった瞬間、マモルは足に想造力(イメージ)を込めた。

 「反射走行(リフレクション)!」

 反射の想造力(イメージ)が足から放たれ、一瞬だけスピードが速くなる。

 飛んできた瓦礫をすり抜けるように斜めに避けた。

 「ビーーーー」

 続けざまに守護騎士が瓦礫を吐き出す。

 「まだまだァ!」

 マモルも避けるためにジグザグに弾き抜ける。

 足に慣れない反動が返ってくるが、歯を食いしばって耐えていく。

 「反射反撃(リフレクション)!」

 最後ひとつを跳ね返す。

 それは守護騎士に払われてしまったが、ようやく目の前まで来ることができた。

 「いくよ、こっからが勝負だ」

 「ビーーーー」

 再び打ち合うマモルと守護騎士。

 棍棒のように振るわれる巨大筒を二つの盾で受け止める。

 先ほどは劣勢であったマモルだが、今は拮抗していた。

 相変わらず守護騎士の攻撃は強烈ではある。だが、想造力(イメージ)を扱う効率が上がったマモルも強くなっていた。

 振るわれる巨大筒を時には弾き返し、時には避ける。

 そして少しずつ隙をついて守護騎士にダメージを与えていった。

 「うあっ!?」

 「ビーーーー」

 お互いの渾身の一撃が同じタイミングで放たれ、またもや両者の間に距離が開く。

 すぐさま追撃に備えるために盾を構えるが、守護騎士は動かなかった。

 「……?」

 倒した訳ではない。巨大筒を地面に立てて衝撃に耐えた体勢のままマモルを見ている。

 「――――ピ」

 だが、頭のランプが赤く光っていたそれではなく、黄緑色の物へと変わっていた。

 「ピコピコ」

 「……」

 発する音も警戒音ではなく、ただの単調な機械音となっていた。

 マモルも守護騎士の変わった様子をじっと見つめる。

 「……うん。そうだね」

 しばらく見つめ合ってから、マモルはそう言った。

 会話を始めたのだ。

 「確かにキミの言う通り、今さらがんばったところで意味なんかないかもね」

 「ピコピコ」

 「いや、そんなことは思ってないさ。脱出の手段がここにあるなんて都合のいいことは考えてない」

 なんとなくではある。

 なんとなくではあるが、マモルには守護騎士の伝えようとしている言葉のような意思が理解できた。

 マモルは右手を上げて盾を見つめる。

 そこにあるはずの想いを思い出す。

 「僕()さ守りたいモノがあって盾を掴んだはずだったんだ。突発的な想いだったけど、間違いではなかったと信じてる。まぁ、最後はその人を悲しませちゃったかもしれないけど」

 あの悲痛そうな顔だけは、消えゆくその時まで忘れることはないだろう。

 「ここに来たのはさ、ただ気になっただけなんだ。守護騎士と呼ばれてるキミが、滅びゆく世界で何を守っているのか」

 世界の崩壊は守護騎士も感じているはずだ。それでもここを離れる気配はない。

 いったいどれほどの想いが守護騎士をここに留めているのだろうか。

 「良ければ聞かせてくれないかな。キミの守っているものについて」

 マモルはそう問いかけてみた。

 守護騎士から話をきくことができれば、これ以上争うことはないだろう。

 「……」

 しかし、守護騎士はなにも語らない。

 黄緑色のランプの光を点滅させるだけであった。

 それを見ていたマモルは小さい息を吐く。

 「そっか。キミは()()()()()()()()()()()()()()()()()ほどの長い時間を戦い抜いてきたんだね……」

 記憶が風化しても想いだけが残ったのだ。

 その想いだけで、守護騎士はこの場所を守護してきたのだろう。

 長い、長い間、たった独りで。

 「確かめようとは思わなかったの?」

 「ピコピコ」

 「そっか、キミは真面目なんだね。僕だったら、耐えられるかなぁ……」

 マモルは自身に置き換えてみようと思ったが、すでに意味のないことと気がついて首を振る。

 (考えても、虚しいだけかな……)

 マモルは気を取り直して守護騎士を見る。

 「なら、最後くらいその想いを見てみたいと思わない?」

 「……」

 マモルのその言葉を聞いて守護騎士は再びランプを点滅させた。

 守護騎士自身も気になっている。

 自分がなぜこんなところで、こんなになるまで戦っているのか。

 そこには大切な願いがあったはずだ。だが、思い出せない。

 確かめたい。

 だが、その願いを叶えるためにはかつての大切な願いを破らなければならないのか。

 守護騎士という役目を放棄しなければならないのか。

 「ああ、ごめんよ」

 自分の使命と想いの中で葛藤していた守護騎士の思考をマモルは声をかけることで止めた。

 「別にキミに守護騎士を辞めてほしいわけじゃないんだ。キミはそのままでいい」

 そう言うとマモルは柔らかく微笑んだ。

 「僕が勝手にキミを越えていくだけだから」

 世界が揺れる。滅びはすぐそこまでやって来ているようだ。

 もうこの高台しか大地は残っていないのだろう。他は真っ暗な闇が広がっている。

 そんな絶望しかない中でも、マモルは守護騎士の想いを汲み取って微笑んでいた。

 何も考えていないような顔で。ただ目の前にあるものが全てだと言わんばかりに。

 「ピコピコ」

 守護騎士は巨大筒を空に向かってかざすと、吸引作業を始めた。

 その勢いは先ほどまでの比ではない。

 守護騎士の背後の瓦礫の山を除いて全ての瓦礫を吸い込んだ。

 そんな強力な吸い込みであったが、なぜかマモルは吸い込まれることはなかった。

 どうやら守護騎士がマモルを吸い込む対象から除外したようだ。

 そんなマモルは守護騎士を見つめるだけだった。

 守護騎士の邪魔をするという気にさえならない。

 ただ、見守るだけだ。

 そんなマモルの想いを知ってか知らずか、守護騎士は黙々と作業を続ける。

 巨大筒を空に向けたまま、今度は吐き出していく。

 積み重なっていく瓦礫の山々。

 それはマモルと守護騎士の間に壁として積まれているようだ。

 マモル側からではもう守護騎士の姿は見えなくなってしまった。

 「いいね、これは強そうな盾だ」

 見上げるほどの瓦礫の山は硬いバリケードとなってマモルを阻む。

 「さて」

 静かになった頃合いをみて、マモルはバリケードから離れる。

 一歩、二歩、三歩、四歩。

 「こんなところかな」

 助走距離としては少し短いが、これくらいが限界だろう。

 あまり高台の端にいって、外の闇を見たくはない。

 マモルはバリケードに向かい合うと、盾の持ち方を変えて祈るように手を組み前へ突き出した。

 新しい盾の尖った下部がピッタリと合わさる。

 そのまま想造力(イメージ)を集中させていく。

 これで最後だ。残った全ての想造力(イメージ)を込める。

 「ありったけの想いを、キミに贈ろう」

 準備は整った。あとは、突き進むだけだ。

 マモルは足に込めた想造力(イメージ)を解放する。

 先ほどの四歩分の距離を一気に越えて、猛スピードでバリケードに突っ込んだ。

 「たあああああああ!」

 バリケードとなった瓦礫をはね飛ばし、マモルは前へと進む。

 すれ違う瓦礫の中には、やはり壊れた重火器が見えた。

 これらの武器にも想いがあるはずである。誰かを、もしくは自分を守るために造られた兵器の数々。

 その重圧にすら耐えてマモルは突き進んだ。

 やがて光が見え、突き抜ける。だが、突き抜けた先にはさらにバリケードができていた。どうやらひとつだけではなかったらしい。

 「まだまだァ!」

 弱まったスピードを補うために、さらに想造力(イメージ)を解放する。

 勢いを取り戻し、バリケードへと突っ込む。

 押し返される重量感に歯を食いしばって耐えながらバリケードを進む。

 まるで山を掘削してトンネルを作るような作業である。

 大量の瓦礫をはね飛ばし抜けるとようやく守護騎士の姿が見えた。

 マモルの突進に備え、腰を落として待ち構えている。

 そんな守護騎士にマモルは真っ正面から衝突した。

 巨大筒と双盾(そうじゅん)がぶつかり合う。

 「たあああああああ!」

 激しく衝突するふたつの想造武具(イメポン)。その衝撃で、お互いの武器に亀裂が走った。

 幾たびの打ち合いを経て、もはや互いに限界だ。このままでは共倒れになってしまう。

 「あと、もう一歩……!」

 だが、マモルにはまだ力が残っていた。

 ふたつの盾に残された想造力(イメージ)が。

 「届け、反射二重擊(ディスリフレクション)!!」

 ふたつの盾から放たれる反射の想造力(イメージ)が三角錐の衝撃波となって巨大筒を砕き、守護騎士を背後の瓦礫の山へと弾き飛ばす。

 その衝撃で瓦礫の山は吹き飛ばされ、中から小さな建物が出てきた。

 最後に残った守護騎士の本体のようなものが建物の扉を破り、そのまま中へと消えていく。

 「はぁっ、はぁっ、はぁっ。や、やった……」

 マモルはヒザから崩れ落ちると地面に手をついた。

 消耗が激しい。このままでは世界よりも早くマモルが終わってしまう。

 「追い、かけないと……」

 震える足を叱咤し、なんとか立ち上がると、マモルはフラフラと建物へ向かって歩き出した。


 建物の中はボロボロであった。

 壊れた調度品が散乱しており、元々どのような建造物だったのか想像できない。

 ただ、あちこちから伸びている鎖が集まる場所だけが異質なような神聖なような、不思議な雰囲気を漂わせていた。

 「ピコ……ピコ……」

 そんな鎖の集まる場所へ向かおうと守護騎士がもがいていた。

 集めたガラクタが全て剥がれ、ただの掃除機へ

と戻った守護騎士は、壊れたアームを伸ばし、這うように動いている。

 「ピコ……ピコ……」

 だが、散らばっている調度品が邪魔で思うように進めない。

 理由はわからない。何か感じたことのない衝動が守護騎士を動かしていた。

 「ピコ……ピコ……」

 だが、届かない。

 あと少しなのに、あと少しの距離がどうしても遠かった。

 「よっと」

 マモルは守護騎士の近くへ行くと、そのボディを持ち上げた。

 少し重いが運べない重さではない。

 「手伝うよ」

 「ピコ……ピコ……」

 「うん。気にしないで」

 足下を気にしながら進み、鎖の集まる場所へたどり着く。

 「ここでいいかな。よいしょっと」

 鎖の中心に守護騎士を置くと、マモルは壁際へと向かった。

 壁に背中を預け、そのままズルズルと座り込む。

 「……ふぅ、ちょっと、疲れたな」

 ひどい疲労感がマモルを襲っている。

 想造力(イメージ)を使い果たしたマモルの体は休息を欲していた。

 気を抜けばこのまま眠ってしまうだろう。

 「うらめしやー」

 「ああ、幻聴まで聞こえてきた。僕もここまでかな」

 マモルは幻聴を無視して深い眠り入ろうとする。

 「……うらめしやー」

 しかし、しつこい幻聴である。

 落ち着いて眠ることも許されないのだろうか。

 「うらめしやああああ!」

 「うるさいなっ!?」

 いい加減しつこい幻聴にマモルは睡魔を押し殺して顔を上げた。

 「お、やっと顔を上げてくれた。聞こえてないのかと思っちゃったよ」

 見上げた先には女の子が立っていた。

 いや、『立っていた』という表現は正しくないかもしれない。

 なぜなら目の前にいる少女には足下がぼやけており、体が半透明なうえに少し浮いていた。

 「あ、オバケだ」

 「ふふふ、そうだねぇ、オバケだねぇ。うらめしやー」

 マモルが率直に思ったことを口にすると、少女は愉しそうにクルクルと回った。

 なにがそんなに愉快なのかはわからないが、どうやらこの建物にずっといたようである。

 「オバケに会ったっていうのに、ずいぶんと落ち着いているんだねぇキミは」

 「あー、いつもならもう少しちゃんとリアクションするんだけど、今はちょっと疲れててね」

 「大丈夫、分かっているさ」

 少女は守護騎士の近くで回るのをやめると、優しくその体を撫でた。

 「このコがずいぶんと世話をかけたね。助けてくれてありがとう」

 「……そっか。最初にこの世界に来たときに聞いた声はキミのだったんだね」

 『助けて』、その声は確かにマモルに届いていた。寝ぼけていただけだと思っていたが違ったようだ。

 「長い間」

 と、少女は守護騎士を撫でながら話し続ける。優しく労るように、慈しむように。

 「ずっとボクのことを守ってくれていたんだ。ほんのささいな思いつきだったけど、ボクのためにまさかこんなになるまでがんばってくれるモノがあるなんて知らなかった。すがられることはあっても、すがることはなかったからね」

 「……そっか」

 この少女にどれだけの人生があったかマモルには分からない。

 だが、少女の笑顔の裏に陰があるような雰囲気を感じることはできた。

 「ピコピコ」

 すると、少女の声に反応したかのように守護騎士の頭のランプが点滅する。

 ボロボロになった体ではあるが、想いを伝えるくらいのエネルギーは残っているようだ。

 「……大丈夫。最後にはキミに会えたからね。ボクにはそれで十分だったよ。ありがとう」

 「ピコピコ」

 ひたすらに優しい想いを伝え合う少女と守護騎士。

 過酷な人生の果てに出会うことができた掃除機は、少女にとってどれほど救われた存在となったか。

 「ああ……よかった……ね……」

 二人のやり取りをぼんやりと眺めていたマモルは、襲いかかる睡魔と必死に戦っていた。

 「最後に……こんな幸せな想いを……見ることができたなら……僕も幸せ……かな……」

 マモルは鉛のように重くなった腕を動かして、ポケットに手を入れた。

 そこからキャラメルの箱を取り出す。

 「最後の晩餐にしては……ちょっと寂しいかな……」

 だけど好物ならいいだろうと、箱を開けて中身を出そうとする。

 「……あれ?」

 しかし、箱を逆さまにしても何も出てこない。どうやら空っぽだったようだ。

 「……はぁ。世知辛いなぁ……」

 力が抜けて腕が落ちる。もう指一つ動かすこともしんどかった。

 建物が揺れを感じてマモルは目を閉じる。

 この揺れに身を任せた瞬間、なぜか心地好い揺れに感じて、そのまま深い深い眠りへと落ちていった。


 「おや、寝ちゃったのか。激戦だったからしょうがないかな」

 「ピコピコ」

 「いやいや、ちゃんと見ていたさ。声は届かなくてもずっとキミを見ていたんだよ? 100年間ずっと」

 「ピコピコ」

 「長い時間だった気がするけど、終わってしまえば一瞬だったね。なんにせよお疲れさまだったよ」

 「ピコピコ」

 「さて、それじゃあお待ちかねの、100年間お待ちかねのキミの願いを叶える時間だ」

 「ピコピコ」

 「そう言わないでおくれよ。ボクだって準備してきたんだ。時間かかったけど。……やっと叶えられる。誰かの願いを叶えること。それがボクの願い……」

 「ピコピコ」

 「……なんだい? 自分で言うのもなんだけど、いま浸ってて良い気分なんだ」

 「ピコピコ」

 「え、いいの? 『コレ』があればきっと、いなくなった神父さんの元へ行けるよ?」

 「ピコピコ」

 「……いや、まいったな。そんな風に言われたら何も言えなくなっちゃうよ。ずるいなぁ」

 「ピコピコ」

 「じゃあもう『コレ』はいらないか。……どうしようか『コレ』……」

 「ピコピコ」

 「え、あの子?」

 「ピコピコ」

 「ふーん、ずいぶん気に入ったんだねあの子のこと。なんだか妬けちゃうなぁ」

 「ピコピコ」

 「ふふふ、冗談だよ。わかってるさ。ボクたちがまた会えたのはあの子のおかげだもんね。何かご褒美がないと。ついでに『オマケ』も付けてあげよう。ボクにはもういらないモノだしね」

 「ピコピコ」

 「……これでよし。じゃあボクらも行こうか。大丈夫、キミがいてくれれば何も不安はないさ」

 「ピコピコ」

 「え、なんだい? 聞きたいことがある?」

 「ピコピコ」

 「何で自分が『守護騎士』だったのかって? なんだ、わかってなかったのか。だって似てるじゃないか。語感が」

 「ピコピコ」

 「『掃除機』の発音で『守護騎士』って言えるでしょ? 役割も相まって我ながら完璧だと思ったね」

 「ピコピコ」

 「ええー、似てないかなぁ。良いと思ったんだけどなぁ。じゃあ、他の呼び方を考えようか。そうだなぁ、何がいいかなぁ――――」



 そしてハウラは消え去った。

 約50億年の歴史に幕を閉じたのだった。

 終わってしまえば時間なんて無意味なものであるし、そんな長いこと在ったということを知るものもいない。

 だが、その時間の中に莫大な想いがあったことも事実である。

 最後の最後まで想いのきらめきを感じとっていたハウラという世界は、果たして最後に何を想ったのだろうか。

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