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ハッピーエンドを求めて  作者: AiU
三章 前編
23/50

脱出準備

 「ねぇミヅキ、コレなんかどうかな?」

 「見せてください。……マモル先輩、残念ながらこれは電球です。ヒューズじゃないです」

 「おっと、それは残念。脱出系のゲームってやらないからよく分からないなぁ……」

 「ミヅキー、こっちのはどうですか?」

 「どれどれ……。ってココロさん、なんですかコレ?」

 「いえ、言われた特徴と似てる気がしたので持ってきたんですけど……」

 「透明なケースの中にねじれるように入った水色の薬品のようなもの……」

 「少しキレイじゃないですか?」

 「盛り上がってるとこ申し訳ないですが、なぜだかすごく危ない物のような気がするので、あったところにそっと戻しておいてください」

 「そうですか……。残念……」

 「絶対に割ったりしないでくださいね。……しっかしまぁ」

 ミヅキはガラクタの山を漁るのを止めると、同じ姿勢で凝り固まった腰を叩きながら立ち上がる。

 ヒューズを探している途中、他の家屋と比べて大きな屋敷を見つけたミヅキたちは、興味本意で中へと入ってみたが、意外なことに機械の部品が積み重なって保管されている部屋を見つけ出した。

 一緒に入ったマモルもココロも驚いていた。

 工場というよりは、小さな工房のようなところだったので、どうやらここに住んでいた者が趣味で作った部屋なのであろう。

 せっかくソレっぽいところを見つけたので、ペリペティアの修理に必要なヒューズを探してみることにした。

 しかし、マモルとココロはヒューズという物をきちんと理解しているか不安ではある。

 というより、現在ココロにいたっては工房内にあったブリキをツギハギして作られたロボットのような物の頭を撫でていた。

 頼りになるのはペリペティアの船長であるミラノだけだ。

 「まさかこんなお屋敷みたいなところに工房があるとは思いませんでしたよ」

 「ふふん、だから言っただろ? こういう意外なところにお宝があったりするもんなのさ」

 部品漁りをしていたミラノが得意げに胸を張る。

 ミヅキは半信半疑であったが、なるほど、数々の場数を踏んできた者というものは伊達ではないようだ。空賊の勘もバカにできない。

 「でも、なんなんでしょうねここは。お屋敷の方は見るからに富裕層の人が住んでいる感が満載でしたけど、ここにあるのはガラクタばっかり」

 置いてあるのは今までの家屋にあった電化製品よりも旧式の物が多い。

 放置されてからずいぶん経つようだが、当時でも古い物であったのではないだろうか。

 「さてね、金持ちの考えることはアタシには分からない……と言いたかったけど、壊れた物を直してもう一度使えるようにするのは悪いことじゃないね。その考え方は良い心がけだと思うよ」

 「そうですね。物に溢れた世界だからこそ、リサイクルは大切なことなんですよね」

 「アタシたちが今やってることと、なんら変わりはないさ」

 ガラクタの山から使えそうな部品を探して再利用する。まぁ、エコなことであろう。

 「そういえばミヅキ、アンタ何かと機械に詳しそうだけど、なんか専門で学んでいるのかい?」

 とはいえ、ただ探し物をするだけでは退屈なのか、ミラノはよく話を振ってくる。根詰めてやるような作業ではないので別に構わないが。

 「いえ、私の専門はあくまで化学(ばけがく)なんで。機械のことなんてゲームの知識くらいだけですよ」

 「ふーん、そっちの世界は専門的な知識を遊びに使ったりするんだねぇ」

 「まぁ、あくまで表面的なことだけですけど。そこから疑問に思ったことを深堀してます」

 マンガや小説、ドラマやアニメ、なんだったら小学生の頃に使ってた教科書ですら興味が湧けば調べるようにしていた。

 知識を得るための取っ掛かりなんて何だって良いんだ。

 大切なのは疑問を放置しないことだと、ミヅキは祖父の言葉を思い出していた。

 「そう言うミラノさんだってすごい知識量じゃないですか」

 「ん? そうかい? まぁ私の場合はペリペティアとアイツらがいるからね」

 アイツらというのはミラノのことをアネゴと呼ぶペリペティアの船員のことだろう。

 「もともとペリペティアは小さな一人用の飛空船だったんだ。ペリペティアに乗っていろんな所を冒険してきてさ、そしたらアタシに付いてくるやつが増えてきて、そいつらを乗せられるように少しずつ改造していったら、あんなにでっかくなっちまったのさ」

 「空賊をやってたって聞きましたけど?」

 「ああ、アイツらに聞いたんだね。そんな大層なもんじゃないさ。冒険の過程でちょっとした宝を持っていたから襲われ易くてね。そんな奴らを返り討ちにしてただけさ。なかなかにスリリングな冒険だよ」

 ミラノは手を銃の形にすると、撃つような仕草をして見せた。彼女が使うのは弓だったはずだが。

 「そんなこったでね、ペリペティアはアタシにとっては家みたいな物なのさ。だから飛空船周りの知識については自信があるけど、他は付け焼き刃だよ」

 「なるほどです。……ああ、じゃあ世界の守護翼や想造力(イメージ)に詳しいのは、家族同然の船員さんたちのためなんですね?」

 ペリペティアがミラノにとって家だと言うならば、そこで行動を共にしているのは家族なのだろう。船員の人たちもずいぶんと彼女のことを慕っていたはずだ。

 「ええ!? な、なに言ってんだいミヅキ!」

 だが、指摘されたミラノは顔を赤らめながら慌てて手を振った。

 「良いじゃないですか、家族のために苦手なことになことも覚えようとがんばる。照れることじゃないですよ」

 「アイツらはただの手下だよ! そんなものじゃないさ。ほら、いつまでもしゃべってないで早くヒューズを探しなよ」

 そう言ってミラノは顔を背けてしまった。照れ隠しとしては、なんとも分かりやすい行動である。

 「ハイハイ、そうですねー」

 ミラノがそっぽ向いてしまったので、ミヅキも探索作業に集中する。さすがに成果なしでは寂しいものがあるだろうから、何かしらは進展させたいところだ。

 「ミヅキー、今度こそどうですか?」

 すると、またもやココロが何か見つけてきたようだ。

 「透明な容器の中に何か入っています。これこそヒューズでしょう」

 「……ココロさん、それラムネ瓶です」

 水色の瓶のなかにビー玉が入っていた。たしかにミヅキが言った特徴は捉えているかもしれないけども。

 「やっぱり違いましたか……。戻してきます」

 「ココロさん、今やっぱりって言いませんでしたか? もしかしてわざとやってません?」

 ココロが持ち場に戻ろうとしたところで、

 「キャッ!?」

 足元にあったガラクタに気がつかず、足を引っかけてしまう。

 バランスを取ろうと手をバタつかせるが、そのかい虚しく棚に頭からぶつかってしまった。

 「今日の色は白……。じゃなくて、大丈夫ですかココロさん」

 チラリと見えた何かに一瞬気を取られたミヅキが駆け寄る。ミラノとマモルも何事かと近づいてきた。

 「あぁ、うぅぅ、痛いです……」

 赤くなった額をさすりながらココロが呻く。どうやらラムネ瓶を持っていたためにうまく手を着けなかったようだ。どこかに投げ捨てればいいものを。

 「まったく、相変わらずドジだねココロ。ほら、ケガはないかい?」

 「うぅぅ、ありがとうございます……」

 ミラノが苦笑いしながら少し汚れた服をはたいてあげる。

 「おっと危ない」

 すると、同じよう駆け寄ってきたマモルが今の衝撃で落ちてきた箱を掴んでいた。

 「なんだろうコレ?」

 マモルがふたを開けると、そこには透明な容器に金属の線が付いた物が収められていた。

 「あ、マモル先輩! それ、それがヒューズですよ!」

 覗き込んだミヅキが驚いた声をあげた。

 思わぬ形で手に入れたヒューズに、感情が高ぶるのを感じながら答える。

 「え、コレがそうなの?」

 「はい、しかも未使用品みたいですし、規格が合えばコレでいけそうです」

 「そっか、見つかって良かったね。ココロのおかげで」

 「はい、ココロさんのドジのおかげで!」

 「ココロのドジは愛されてるねぇ」

 「う、うぅぅ……」

 嬉々としている一同の中でココロだけが顔を赤らめてうつ向いていた。



 「よっと! そっち行ったよマモル!」

 「りょーかい!」

 ミラノの放った矢を避けたティポスがマモルの前に飛び出す。

 「てぃっ、やぁっ!」

 ティポスの振り回す鎖をかいくぐり、何度か盾を叩きつけ、バランスを崩したところにもう一撃入れる。

 「反射攻撃(リフレクション)!」

 盾に込められた想造力(イメージ)を解放し、ティポスを壁に突き飛ばした。

 「そら、こいつでラストだよっ!」

 壁に張り付いたティポスにミラノがトドメの矢を放つ。矢はティポスの中心を貫き、ティポスは空気に溶けるように消えていった。

 「やった、やりましたねマモル!」

 「うん」

 小走りで駆け寄ってきたココロとハイタッチを交わす。ココロの想造武具(イメポン)である玉が、喜びを表すようにふわふわと空中を舞っていた。

 「ここら辺のティポスは鎖を持っているのが多いね」

 屋敷に入って三回目の戦闘だが、通常のティポスと一緒に輪っかの付いた鎖を振り回す個体が何体かいた。

 「そうですね。ティポスはその周りにあるものに感化されるので、どこかに鎖があるところがあるのでしょう」

 鎖がたくさんある場所、工事現場とかだろうか。あまり想像できない気がする。

 「なかなかやるじゃないかマモル」

 マモルとココロがそんな会話をしていると、先ほどペリペティアで見たときよりも小さくなった弓を持ちながらミラノもやってきた。

 さすがに室内では、ロングボウは大きすぎるようだ。どうやらショートボウとロングボウを使い分けているのだろう。

 「さすが、あのジルエットを倒しただけのことはあるね」

 「いや、僕一人で倒したわけじゃないけどね」

 ジルエット。

 かつてはココロの守り人として世界の守護翼で大活躍していた神速の剣士だ。

 とある世界からココロたちを逃がすために単身ティポスの群れと戦ったが、ティポスに敗れ、その後にマモルたちの世界にてティポスに侵蝕された状態で再会する。

 そんなジルエットを助けるために、マモルたちは戦い、四人がかりでやっと勝利したのだ。

 「でもでも、マモルはジルエットと一対一で戦ったじゃないですか。それは凄いことですよ」

 ココロがそう言うと、ミラノが首を縦に振る。

 「ああそうさ。あの風狩りに一人で立ち向かうなんて、アイツの実力を知ってるやつからしたら自殺行為だって思われるさ」

 「ねね、ココロさん」

 話を聞いていたミヅキがココロに話しかける。

 「そのジルエットさんは、そんなにすごい人だったんですか? シオリ先輩から話を聞いてはいたんですけど、複数人だったとはいえ、想造力を覚えたてのマモル先輩たちに負けちゃうくらいの人なんですよね?」

 「それは、ティポスに侵蝕されていたからですよ。ジルエットは世界の守護翼に来た時からかなり強い人でした。とある世界にあるお城に私が幽閉された時はひとりの死者を出すことなく救出してくれたり、人里を襲う巨大なドラゴンを相手に一人で立ち向かったり、それぞれが強者である守り人トーナメントで優勝したりと、数々の伝説を残してきた人なんです」

 胸を張って、誇らしそうに語るココロ。

 やはり、ココロとジルエットの関係は並々ならぬものらしい。

 「はー、それは恐ろしく強い人なんですねー」

 ミヅキがため息混じりに感想をいった。

 「そんな人相手に戦って生き残ったんなら少しは誇っても良いんじゃないんですかマモル先輩?」

 「でもまぁ、ひとりで勝てる相手じゃなかったし、やっぱりみんなのおかげだよ」

 知らないところで評価が上がっていて、なんだか恥ずかしくなってくる。

 「良いじゃないか、素質バッチリってことで。ゆくゆくはジルエットのようになってくれるんじゃないかい?」

 「まぁ、そうなれればいいね」

 伝説レベルの人間になれるとは到底思わないが、少しでも近づけるのらがんばりたいと思う。

 だが、

 「そんなことあるわけないじゃないですかっ!」

 一瞬、時間が止まったかのように場が凍りついた。

 突如怒鳴るような口調になったココロに、マモルたちは息を飲む。

 つい先ほどまでとは様子が違いすぎるが、ココロは構わずに続ける。

 「マモルが、ジルエットと同じようになるなんて、そんなこと、絶対……!」

 「こ、ココロ?」

 あまりの変化に戸惑いながらマモルが声をかけると、ココロはハッとした顔をする。

 頭によぎる不安を振り払うかのように頭を振ると、無理やり笑顔を作った。

 「えっと……ほら、マモルは別に私の守り人じゃないですからね? ジルエットのようにはなりませんよ」

 「あ、ああ、そういうことだったのかい。何事かと思っちまったよ。そうかいそうかい、マモルは守り人じゃないのか――――って違うのかいっ!?」

 「おお、ノリツッコミする人なんて初めて見ました」

 ミヅキが感慨深そうに見ているが、ミラノはそれどころではないと言うようにマモルに詰め寄る。

 「え、アンタ、守り人じゃないのかい?」

 「実はそういうことで」

 「いやでも、ココロと世界の守護翼の一員として活動してるじゃないか?」

 「僕とミヅキは仮登録ってことにしてもらってるんでね」

 「あ、マモル先輩、私はもうちゃんと本登録してありますよ」

 「ええっ、いつの間に……」

 ふふん、とミヅキが胸を張る。

 「仮登録のままだと、あんまり情報を教えてもらえないみたいだったんで。学校を優先していいってファーネさんが言ってくれたので本登録しておきました」

 「相変わらず、ミヅキはフットワーク軽いね」

 ミヅキは興味を持つと一直線だ。その行動力には感心する。

 そんなマモルとミヅキのやり取りを見ていたミラノはため息を吐く。

 「まあ、アンタたちがそれでいいなら構わないけどさ。でも、マモルがちゃんと籍を置いてくれたほうがココロも安心するんじゃないかい?」

 「……いえ、それはマモルが決めることなので」

 一瞬何か言いたそうな顔をするココロだが、ミラノはまたため息を吐くだけだった。

 「なんだか面倒くさいねぇ……。まあ、マモルも前向きに考えとくれよ。いつだってアタシたちは仲間を探しているんだからさ」

 「うん、わかったよ」

 マモルの返事を聞くと、ミラノは一同を見回す。

 「じゃあとっととペリペティアまで帰ろうか。きっとみんな首をながーくして待ってるよ」

 歩き出したミラノに続いてココロも行ってしまう。

 マモルの前を通りすぎたときに横顔を見たが、やはり少し元気がないように見えた。

 しかし、結局声をかけることができず、マモルは握りこぶしのまま後を追いかけるだけであった。



 「うおいマモル! お前らいったいどこに行ってやがったんだ!」

 ペリペティアに帰ってきていきなりヴノに詰め寄られてしまった。

 なにやら軽く疲労感が見られるので、少し戦闘をしていたのかもしれない。

 「ああ、ごめんヴノさん。ミーティング中も寝ちゃってて、揺さぶっても起きないから船員の人たちに任せてきたんだ」

 ミーティングをしているさなかで、いつになく静かに聞いていると思ったが、残念ながら普通に寝ているだけであった。

 「でも、そんなに焦った感じで、何かあったの?」

 「何かあったのかだと? お前に俺が味わった恐怖体験がわかるか……!」

 ヴノは手をわなわなと震わしている。よほど恐ろしい目にあったのだろう。

 「少し酒を飲んで、少しうたた寝をして……」

 「爆睡だったよね」

 「そしたらよ、目が覚めたら、目が覚めたら……!」

 「目が覚めたら?」

 「ゴツいカラダつきのアンちゃんたちが、邪悪な笑顔で俺を見おろしていやがったんだよ!」

 「……ああ」

 マモルは想像する。

 うららかな昼下がり。そよ風が入り込む自分の部屋で、風に揺らめくカーテンを眺めながら軽く微睡(まどろ)んでいく。

 何者にも縛られない幸せな時間だろう。

 そして、(かす)かな気配を感じてゆっくりとまぶたを開いてみる。

 するとそこには、筋骨隆々の漢たちが鼻息荒く、笑顔で見おろしていた。

 「うん! わりと地獄だね!」

 「だろ!」

 想像するだけでもしんどいものがある。

 その様子を少し距離を置いて眺めていたミラノが船員に話しかける。

 「で、アイツの実力はどうだった?」

 「なかなか良いカンジだったぜアネゴ。想造力(イメージ)も無しにティポスと渡り合っていたぜ。並みのティポスならいくらでも相手できるだろう」

 「ふーん、そうかい」

 「ま、オレたち足下くらいにはおよぶ力は持ってそうだぜ」

 ミラノは最後の言葉を聞き流すと、ヴノに近づいていき、耳を掴んで引っ張っる。

 「アデデデデ?! テメ、何しやがる!」

 「とりあえず、アンタはその調子でペリペティア周りの警備を頼んだよ」

 「アァッ!? 何かってにきめ、アデデデデ!?」

 「というわけで、マモル、ココロ、ミヅキ」

 ミラノはマモルたちの方を向く。

 「これからアタシたちはペリペティアの修理に取りかかる。作業が終わり次第すぐに出発するからそれまで休んどいておくれ」

 「あ、ミラノさん」

 ミヅキが手を上げる。

 「私もついていっていいですか? ペリペティアの仕組み、興味があります」

 「ああいいよ。それじゃあ行こうか」

 「はい。それじゃあマモル先輩、ココロさん、また後で」

 「アデデデデ! わかった、わかったから手を離しやがれミラノ!」

 騒がしいまま、ミラノたちはペリペティアの中へと行ってしまった。

 残された二人はお互い顔を見合わせるが、すぐに背けてしまう。少し空気が重たい。

 「じ、じゃあ僕らは少し休ませてもらおうか。ココロも疲れたよね?」

 「あ、ちょっとマモル――――」

 「また後でね!」

 先ほどまではココロと話をしたかったはずなのに、今度は無性に逃げ出したくなってしまった。

 自分でも感情を抑えられないまま、マモルはペリペティアへと駆け込んだ。


 「はぁー、何やってんだろうな僕は……」

 甲板まで走り抜けたところで、マモルは柵に背中を預けて座りこんだ。

 「さっきまであんなに話したかったのに。気まずくなったら逃げ出すなんて、最低だ……」

 自己嫌悪に(おちい)りつつも、考えてしまうのはココロのことだ。

 なぜココロはあの時あんなに怒ったのだろうか。

 守り人になる気がなかったから?

 ジルエットのように強くないから?

 「それとは別に、ジルエットのようになれないと言われたことに軽くショックを受けている気がする……」

 話が出るたびに持ち上げられるジルエット。そんな彼の代わりに近づけるかもと言われた時は正直嬉しかった。

 だが、他ならぬココロにきっぱりと否定されてしまった。

 自惚れがあったわけではないが、やはりココロとジルエットの関係の強さみたいなものを見せられた気分だ。

 「僕は、いったいどうしたいんだろうか……」

 ため息をこぼしつつポケットに手を入れるとキャラメルの箱を取り出す。軽く振ると、中身がだいぶ少ないことがわかった。

 「あんまりないな……。また補充しないと」

 とりあえず一粒口に放り込む。

 いつもの優しい甘さがゆっくりと口の中に広がっていく。

 「ここにいたんですねマモル」

 ちょうどその時、両手にコップをもったココロが甲板へとやってきた。

 「ココロ……」

 「となり、いいですか?」

 「ああ、うん。どうぞ」

 床に座っているのでスペースに余裕はあったが、マモルは黙って横にズレた。

 「ありがとうございます」

 ココロはお礼を言うと、マモルと同じように柵に背中を預けて座った。

 「あ、コレどうぞ。船員の人に淹れてもらいました」

 「う、うん。ありがとうココロ」

 紙コップを受け取ると、そこには湯気が立つミルクティーが入っていた。

 「ちゃんとお砂糖たっぷりでお願いしときましたからね」

 「気が利くね。じゃあ、お礼にコレをあげよう」

 そう言って、キャラメルを一粒ココロに手渡した。

 「ありがとうございます。さっそくいただきますね」

 包み紙を外し、口の中に入れる。

 「おいしいですねマモル」

 「うん、そうだね」

 しばらく二人でお茶の時間を楽しむ。会話は特になかったが、先ほど感じていた気まずさのようなものも感じることはなかった。

 「……さっきはすみませんでした」

 しばらくして、ココロがそう口火を切った。

 「急に大きな声を出してしまって」

 「……うん」

 やはりその話なのかと思った。

 直前までは普通に会話していたのに、人が変わってしまったかのように変貌したココロ。

 ジルエットのことを話していたことと関係があるのだろうか。

 「聞かせて、もらえるのかな?」

 「……はい」

 お互いに意を決してという感じだ。

 話したい気もするし、聞きたい気もする。

 しかし、言いたくない気もするし、聞きたくない気もする。

 反する気持ちを抱えたまま、ココロはコップに浮かぶ不安そうな自分を見つめた。

 「あの時、ミラノがマモルに、ジルエットの後任としてぴったりだと言ったとき、不安になってしまったんです……」

 「不安?」

 「はい。たしかにマモルはとてもがんばってくれています。マモルたちの世界でジルエットと戦った時も、リーモ王国でルルディやメリサと戦った時も、私の想像以上の活躍をしてくれました」

 「……」

 マモルは黙ってココロの話を聞く。そのどちら戦いでも、マモルは一人で戦い抜くことはできていない。

 そう弁明をしたかったが、話の腰を折らないよう言葉を飲み込んだ。

 「このまま行けばミラノだけでなく、ファーネさんからも勧められると思います。私の守り人になることを」

 世界の守護翼はいつだって人手不足だと聞いている。その状況下で守り人不在の現状は決して好ましいことではないのだろう。

 「マモルは優しいですから、きっとビャコのみんなでお願いされたら断りきれないでしょう。でも、それじゃあダメなんです」

 ココロは顔を上げると必死の形相でマモルを見た。

 「マモルにはマモルの人生があるはずです。誰に何を言われてもそれを優先してください」

 「ココロ、キミはずっと心配してくれていたのかい?」

 マモルがそう聞き返すと、ゆるゆると首を振って下を向いてしまう。

 「不安なのはそれだけじゃないんです。この状況が、『あの時』とあまりにも似ているんです……」

 「あの時って……」

 「……ジルエットが、一人残ってティポスの足止めをしたあの状況に」

 「……」

 ようやく合点した気がした。

 たしかにこの状況、話に聞いていたジルエットの最後と酷似している。

 滅びゆく世界で、ティポスの攻撃から防衛しなければならない。

 (なるほど、ジルエットのようにか……)

 ココロは思い出してしまったのだろう。

 独り背を向けて戦うジルエットの姿を。

 そして、それを見ていることしかできない無力な自分を。

 それはココロにとってとても悲しい記憶だ。

 だからこそ、マモルがジルエットのようになるかもしれないと言われた時に全力で否定したのだろう。

 ココロはただマモルの心配をしていただけだった。

 (それなのに僕は……)

 とたんに情けない気持ちになったマモルは残っていたミルクティーを一気に飲み干すとココロの方を向いた。まだ少し熱かったミルクティーが体に染み渡っていく。

 「ココロ」

 名前を呼ぶとゆっくりとココロの顔が上がった。青い綺麗な瞳に自分の顔が写っている。

 「キミの言いたいことはよく分かったよ。僕を心配してくれていることはよく伝わった」

 「マモル……」

 「だからね」

 マモルはそっと小指を立てた拳を差し出した。

 意味が分かっていないのか、ココロが首をかしげる。

 「これは指切りっていう、えーと、約束をするときのおまじないさ。まぁ、子ども同士でやるような簡単なものだけどね」

 「指切り……」

 マモルの顔と小指を交互に見るココロ。

 それを見てマモルはこう続けた。

 「約束する。この先、僕は何があっても自分が生き残るために最善を尽くす。懸命に生きようとする。最後の最後のその瞬間までがんばってみせるよ」

 だから、とそれだけ言って、マモルはココロの出方を待った。

 ココロはしばらく目を閉じて考えると、マモルの小指に自分の小指を絡ませる。

 「わかりましたマモル。あなたの言葉を信じます」

 「うん、ありがとうココロ」

 触れ合う小指が温かくなるのを感じる。

 「「指きった!」」

 そして、二人は同時に指を離した。

 「よし、これで大丈夫だね」

 「……はい、そうですね」

 二人は微笑み合うと、作戦開始の時がくるまで殺風景な外を見て過ごしていた。

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