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ハッピーエンドを求めて  作者: AiU
二章
16/50

覚悟の目

 夕暮れ刻。

 一日を明るく照らしてくれた太陽が赤く染まっていき、また明日と手を振るように地平線へと沈んでいく。

 今日という日を終わりにするこの儀式は、時代が変わっても、そして世界が変わっても毎日行われている当たり前のことのようだ。

 「ふぃー、今日も仕事が終わったぜー」

 リーモ王国の門の前で兵士は大きく伸びをした。

 仕事と言っても門の前で突っ立ってるだけの平和な仕事であるが。

 しかしこの仕事、フルプレートの重装備を常に着続けているのでとてもつらい。

 動くこともほとんどないので、変に体が凝り固まってしまうのだ。

 襲撃者はおろか城を訪れる者もほとんど来ないので、門番の意味があるのか責任者は考えたほうがいいだろう。

 「そうだな、そろそろ夜勤の者が来るだろう。どうだ、このあと一杯やっていくか?」

 先輩兵士が口元で指をクイッと傾ける。

 酒ぐせが悪いが、よくおごってくれる面倒見の良い先輩だ。

 「いや、すんません先輩。今日ちょっと用事がありまして」

 「そうか。なら仕方ないな」

 酒好きの先輩兵士は少し残念そうな顔をする。

 その顔を見て、少し罪悪感が湧いた若い兵士は理由を説明するために口を滑らせてしまう。

 「実は俺、このあと彼女と会うんすけど、そこでプロポーズしようと思ってまして」

 照れながら話す若い兵士は、このあとのことを考えて鼻をかく。

 「なんだと、それは大事だな」

 「しようしようとずっと考えてたんすけど、ようやく決心がつきました。俺、この仕事が終わったらソッコーで彼女んとこ行ってプロポーズしてきます」

 長年付き添った人への告白。

 後ろ向きな考えを取っ払い、決意した者のみが未来を掴めるのだろう。

 「良いねぇ若いって。応援してるからがんばってこいよ」

 「先輩……。へへ、あざーす」

 恥ずかしくなって、雑にお礼を言う若い兵士。

 それも気にせず受け止める先輩兵士にとってはいつものことなのだろう。

 すると、今度は先輩兵士のほうが語り出した。

 「じゃあ俺も今日はまっすぐ帰って家族サービスでもしてやるか」

 若い兵士に感化されて、自分も家族のことを考えたようだ。

 「そりゃ良いっすね。もうすぐ新しい赤ちゃんが産まれるんでしたっけ?」

 「ああ、毎日のようにかみさんと子ども名前の話で大盛り上がりだよ」

 「あったけぇ話っすね」

 「お互い、仕事を終えたらやることがあるな」

 「そっすね、あとちょっとが待ち遠しいっすね」

 二人の兵士はそれぞれ帰りを待つものに思いを馳せる。

 終業間際になって、恋人や家族について考えることが、どれだけ幸せなことかこの二人の兵士は知らない。

 当たり前の平和というものは、重ねれば重ねるほど感じることが難しくなってしまうものだ。

 そして、知った時にはもう遅いかもしれない。

 そんな平和な日常というものは、少しの衝撃で簡単に崩れていまう可能性があるということに。

 「あ、先輩、アレ」

 若い兵士が何かに気がついたようだ。

 夕陽に照らされて赤く染まった城への道を数人の人間が歩いてきている。

 この辺りでは見かけたことのない服装の人間たちで、そのうちの一人である先頭を歩く者は背中に斧を背負っているのが確認できた。

 「兵士の志願者か。こんな時間にやってくるのは初めてだな」

 とは言ったものの、そもそも志願者じたいが少ないのだ。リーモ王国にいる者のほとんどが農家で、あとは観光客向けの施設運営者となっている。

 せいぜい来るのは噂を聞きつけた周辺の村人くらいである。

 城勤めとなるので給金目当ての者が多い。それでも十分ありがたいのだが。

 「うへー、めんどくさいっすね」

 若い兵士はため息をついた。ようやく帰れると思っていたところで仕事が増えたのだ。

 仕事気分ではなくなっていたがゆえに、これはつらい。

 「ぼやくな。これが終われば帰れるからな。本日最後の仕事だ」

 「了解っす。最後までちゃんとやりますよ」

 「ああ」

 兵士たちは背筋を伸ばし、やってきた旅人風志願者を迎える。

 「止まれ」

 先輩兵士が手のひらを突きつけて制止をかける。志願者たちはおとなしく足を止めた。

 「城に何の用だ。用件を述べよ」

 先頭にいた斧を持つ志願者が前に出る。

 「ここで兵士の募集をしていると聞いたんだが、まだ募集しているか?」

 やはり志願者であったようだ。先輩兵士は大きくうなずく。

 「ああ、よくぞ参られた。我が国の王女ルルディ様は、何時(いつ)いかなる時でも志願者を迎えいれろと仰せだ。では試験場へ案内するのでついて参られよ」

 「あ、ちょっといいか」

 先輩兵士が大門を開けようとしたところで、斧を持つ志願者が呼び止めた。

 「なんだ?」

 「兵士の試験ってのはいったい何をやるんだ?」

 「一対一による模擬試合だ。そこで兵士の素養があるかを見極める。見たところ、お前はずいぶん腕が立つように見えるから問題なかろう」

 「そうかそうか。ようは力を見せつければいい訳だな」

 志願者は邪悪な笑みを浮かべると、兵士たちを押し退けて大門の前に立つ。

 「あ、ちょっと、何をする気っすか?!」

 兵士たちが慌てて槍を向けるが、志願者はまったく意に返さず、背負っていた斧を振り上げる。

 「リーモ王国の兵士になってやるために来たヴノ様だ! 強いかどうかしっかり見極めてくれやっ!」

 ヴノは渾身の力を込めて斧を振り下ろした。

 何百年と歴史を積み重ねてきた大門は、凄まじい轟音と共に破壊され無惨な瓦礫の山へと姿を変える。

 「な、なんということを……。ぐはっ?!」

 大門が破壊される様を呆然と見ていた兵士たちの頭に、盾と玉の一撃が炸裂する。とっさのことで反応できなかった兵士たちは気を失ってしまった。

 「悪いけど、ちょっとのあいだ眠っててもらうね」

 「言われた通り気絶させましたけど、ここまでする必要があったんですかマモル?」

 「いや、なんだかこの二人に変なフラグが見えた気がしたんで」

 「フラグ?」

 よく分からず首をかしげるココロだったが、上手く説明できないマモルはそれ以上何も言えなかった。

 「いいんじゃないですかココロさん。こっちも急ぎですし。なにより下手に戦闘になるよりもここで眠ってるほうが安全ですよ」

 銃に試験管を装填しながらミヅキが答える。

 「まぁ、それもそうですね」

 これからマモルたちは何十人という兵士たちを相手にしなければならないのだ。手早く済むに越したことはない。

 「じゃあみんな」

 マモルはそれぞれを顔を見回す。

 ココロとミヅキは真剣な顔をしているが、ヴノだけは早く暴れたくて仕方ないようだ。

 すでに城の中では先ほどの破壊音を聞いて騒ぎになっているようなのでのんびりはしていられない。

 「僕たちの目的はライゼストーンの奪還とルルディ王女の説得だ。ティポスへの認識を改めてもらって無駄な戦争を止めなくちゃね」

 マモルたちはこの世界を平和にするために来たのだ。みすみす争いになるようなことは本意ではない。

 「みんな無理はしないでね。それじゃあ行こう!」

 マモルたちはそれぞれ武器のを掴み、城へと侵入していく。



 エントランスホールでは、すでにたくさんの兵士たちが待ち構えていた。

 鎧を身に纏い、槍を構える様はマモルたちを完全に敵と見なしていた。

 「おーおー、ぞろぞろと待ち構えやがって。見てるだけで嫌になってくるわ」

 言葉とは裏腹に、ヴノは上機嫌で斧を肩に乗せた。かなりの重量である斧をまるで意にかえかず扱う。

 「な、なな、何者だお前たちは!」

 身なりの良い格好をした男が階段の踊り場に立ち、マモルたちを睨んでいる。

 「大臣様、お気をつけて」

 「あ、ああ」

 近くにいた兵士が大臣の身を守るようにしていた。

 「なんだか偉い人みたいだね」

 マモルとミヅキがヴノの後ろから顔を出して確認する。

 「もしかしたら、あの人に事情を話せば戦わなくて済んだりしないかな?」

 「どうでしょうね。すで結構なことをしでかしちゃってますから聞いてくれるかどうか」

 建造物破壊に人的被害までだしている。もはや、侵入者というより襲撃者だ。

 こんな状況から説得できる方法がはたしてあるのだろうか。

 「ものは試しって言うし、とりあえずやってみようか」

 マモルが前に出て事情を話そうとする。

 「あのー、すみません」

 「何だお前は?」

 突然前に出てきたマモルに対して、(いぶか)しい視線を向ける大臣。

 そんな視線を特に気にすることなく、マモルは淡々と説明する。

 「ここまでやっといて何ですけど、僕たちルルディ王女に会いたくて来ました」

 「な、なんだと」

 大臣の眉がピクリと動く。

 「貴様らの目的はルルディ様の命か!?」

 「いや、そういうことではないんですけど」

 「ルルディ様の命を狙うとはとんだ不届き者よ。皆の者、この蛮族たちを引っ捕らえよ!」

 マモルたちへの敵意が膨らんでいく。もともと話を聞く様子はなかったようで、マモルの声も届きそうになかった。

 「ごめん、無理だった」

 「向こうも向こうだが、お前、言うほど説得する気なかっただろ」

 ヴノの指摘を受けてマモルは肩をすくめる。

 「だってしょうがないよ。ヴノさんが楽しそうに門を壊しちゃったんだから」

 「ぶっちゃけちまうと、アレはメチャクチャ気持ち良かったぜ」

 「ほらね? それに」

 マモルは改めて、今にも突撃してきそうな兵士たちを見た。どの兵士たちも必死の形相だ。

 「ルルディ王女の名前を出しただけで、あの人たちの目の色が変わった。街の評判を聞いてた通り、この国の人たちは本当にルルディ王女を大切に思ってるみたいだね」

 兵士たちは誰一人として逃げようとしない。慣れない槍を構え、マモルたちを睨み付ける。

 「なら俺たちは、民の愛する王女の命を狙う悪役ってところか」

 「そういうことだね。こんな襲撃者みたいなことしちゃったんだし、もう後には引けない。だからさ、ヴノさんの強さ、見たいな」

 「ハッ、そう言われたら頑張ってやらねぇとな」

 マモルとヴノが顔を合わせて笑みを浮かべる。周りが敵だらけの中で気持ち高揚しているようだ。

 「まったく、男子は楽しそうでいいですねー」

 ミヅキはそんな二人を見てため息をこぼす。

 「まぁ、二人が大暴れしてくれればココロさんもやりやすいでしょう。適当に援護はしてあげますんで、しっかりやってください」

 ジリジリと距離を詰めてくる兵士たち。それに応えるようにマモルたちも武器を構える。

 「かかれー!!」

 大臣の号令により、兵士たちがマモルたちに殺到してくる。金属が擦れる音は、まるで鎧が歌っているようだった。



 「おっとっと。またすごい揺れですね。マモルたち、やり過ぎてなければいいんですけど」

 揺れる城の衝撃でバランスを崩しかけたココロは壁に手を付きつつ、マモルたちよりも兵士たちの心配をしていた。

 この世界の人たちは争い事とはかなり無縁の生活を送っていたようだったので、実戦を経験しているマモルたちのほうが強いだろうとココロは思っている。

 「ヴノもあんなに大きな斧を簡単に振り回しているんですから相当な使い手でしょうし」

 本当はヴノにも想造力を目覚めさせようとしたが、そんな得体のしれない力はいらねぇと断られてしまった。もとからヴノはかなりの実力者みたいだったので、ココロたちも無理強いすることなく、想造力は必要に迫られたときでいいだろうと判断した。

 「私もしっかりやらなくちゃ。みんなが戦ってるうちにルルディ王女を見つけないと」

 ココロは人気のない廊下を進む足を早める。城の中の兵士は皆マモルたちの方へと向かっているのだろう。

 ココロは今、ルルディを探すためにマモルたちとは別行動をとっている。

 帰らずの洞窟での問答の際、ココロだけがあの場におらず、顔を見られている不安が少なかったので、この役に抜擢(ばってき)された。

 城の兵士たちの敵意を惹き付けるために、マモルたちは派手に暴れているはずだ。

 この間にココロはルルディを見つけて説得しなければならない。

 「……あれ?」

 廊下を進むココロが足を止める。そこには少し重い感じの鉄の扉があった。

 「なんでしょう、この扉の先からティポスの気配がするような?」

 冷たい鉄の扉は今までこの世界で感じていた暖かな雰囲気のものとは違っていて、触れるのも躊躇(ためら)われた。

 ココロが意を決して扉に触れると静かに開いていく。

 「……地下ですか」

 扉の先は下へと続く階段となっており、先程までいた帰らずの洞窟よりもよほど暗い場所であった。冷たい空気が流れている。

 「行って、みましょう」

 ココロは地下への階段を下りることにした。ティポスの気配が気になったからだ。

 最小限の明かりを頼りに階段を下りていくと、金属音と、人の唸り声が聞こえてきた。

 階段を下りきった先には扉があり、格子付きの窓から中の様子を覗けるようだった。

 「ガァァァァ!!」

 「……っ!」

 窓から中の様子を見たココロは、その光景に言葉を失う。

 どうやらここは地下牢のようだ。牢屋は二つあり、その中の一つにはすでに人間が入っているようだ。

 そして、檻の前で跪いて手を組む少女がいた。

 綺麗なドレスが汚れることも(いと)わずに、少女は悲痛な表情で祈りを捧げている。

 牢屋の中の人間は鎖で手を繋がれており、苦しそうにもがいている。

 そして何より、中の人間には見覚えのある特徴があった。

 「あれはティポスの紫水晶……!」

 牢屋の人間の額には、はっきりと紫水晶が付いていた。ティポスからの攻撃で精神にダメージを受けて侵蝕されている証拠だ。どれだけの時間が経ってしまっているか分からないが、急いで額の紫水晶を破壊すればまだ助かるかもしれない。

 「……よしっ」

 ココロは少し目を閉じて心を落ち着けると、扉を開け放った。

 「だ、だれじゃ!?」

 突然開いた扉の音に驚いて、少女は慌てて振り返った。よほど熱心に祈っていたようだ。

 「なんじゃお前は?! このような場所に入ってきよって」

 淡いピンクの髪を揺らしながら少女は取り乱す。

 「えっと、もしかして、あなたがルルディ王女?」

 「む、いかにも、わたくしがルルディじゃが……」

 少し落ち着きを取り戻してきたルルディが答える。

 だが、突然の侵入者に警戒しているようだ。

 「こ、こんばんはルルディ王女。私はココロと言う者です」

 とりあえず名乗ってみるココロ。

 「ライゼストーンを返してほしくてここまで来たんですけど……」

 「ライゼストーン? ああ、メリサが持ってたアレのことじゃな。……ということはお主、あやつらの仲間か?」

 「そうですね。そうだと思います」

 あやつらとはマモルたちのことだろう。ココロはうなずいて答える。

 「あんな石ころのためにここまで来たのか」

 「む、石ころとはなんですか。私たちにとってライゼストーンは大切な物なんです」

 ライゼストーンをぞんざいに扱われて、ココロは少し怒って言い返す。

 「ご、ごめん、なさい」

 帰らずの洞窟にてヴノに喝を入れられたのがよほど効いているのか、ルルディは反射的に謝った。

 「でも先に済まさないといけないことがあるみたいです」

 ココロはそう言うと、牢屋の中へ指差した。

 「その中の人をなんとかしないといけないですね」

 「な、なんだと」

 ココロの目が牢屋の人間に向いて、ルルディは目の色が変わった。

 「貴様、この者に何かするつもりか……!」

 「はい、今から助けようと――――」

 「させん!」

 「え? きゃっ!?」

 ルルディの怒気を含んだ声とともに、一筋の電撃が飛んできて、ココロは反射的に後ろに跳んだ。

 先程までココロが立っていた場所が少し焦げている。

 「この者は、あの災いからわたくしをかばってくれた勇敢な兵士じゃ。指一本触れさせはせぬぞ」

 視線を戻すと、指先に雷を纏っているルルディが睨んでいた。

 「お父様のように剣を出すことはできないけど、精霊術ならわたくしにも使える。覚悟せい!」

 「……しょうがないですね」

 ルルディの必死の表情を見てココロも決意する。

 あの目はマモルやジルエットと同じで、覚悟した者がする目だ。言葉では止まらないだろう。

 ココロも想造武具を具現化させる。

 光る(ぎょく)がココロの近くに浮かび上がった。

 「ちょっと乱暴かもしれませんけど、強引にいかせてもらいますよ!」

 対峙するココロとルルディ。

 想造力に反応して、牢屋の中の兵士が叫んでいた。



 群がる兵士たちをヴノが次々となぎ倒していく。

 マモルも少しずつ兵士を倒していくが、ヴノの強さはかなりのものだった。

 「がっはっはっはっ、どうしたどうした! こんなことで大事な王女様を守れるっていうのか! あぁ!」

 力任せに兵士を吹き飛ばしていくヴノ。

 それを見ていたミヅキは銃を撃ちつつ若干あきれていた。

 「すごいですね。ヴノさん」

 「うん、そうだね。向かうところ敵なしって感じ」

 「この、蛮族がぁ!」

 「よっと!」

 マモルは突き出された槍を弾き、懐に潜って想造力を解放する。兵士は吹き飛ばされて他の兵士を巻き込みながら倒れていった。

 マモルはひと息つくためにミヅキの近くまで下がる。

 「まぁ、あそこまで楽しそうに斧を振り回すのは、分かりやすい悪役だよね」

 「城に乗り込んでる時点で私たちも悪役ですよ」

 「それもそっか」

 軽口を言えるくらいには余裕はあるようだ。

 マモルたちがそこそこ強いのもあるが、リーモ王国の兵士たちが戦い慣れていないのも要因の一つだろう。

 長い槍を振るう兵士たちの動きは、マモルにとって早いと呼べるものではなかった。

 先の戦いで高速の剣戟を振るう剣士ジルエットと戦ったことのあるマモルは、それほどまでに戦い慣れしていた。この程度の者たちに遅れはとらない。

 「なんだというのだ、やつらは……」

 大臣は悔しげに拳を震わせていた。

 突如現れたマモルたちに兵士たちはまったく歯が立たなかった。

 「大臣殿」

 黒いメイド服を着た女性が大臣の隣に現れる。

 「メリサ殿か」

 「ここは私に任せて一度お退きください」

 「しかし……」

 「どうか、陛下とルルディ様の護衛を頼みます」

 「メリサ殿……」

 メリサがルルディに固執しているのは城の人間には周知の事実だ。それを他の人間に任せるのはもってのほかであろう。

 それほどまでに、メリサの覚悟は強いようだ。

 「わかった。兵士たちよ!」

 大臣が大声で兵士たちに呼び掛ける。

 「ここは一度引くぞ。負傷者に手を貸して引き上げよ!」

 指示を受けた兵士たちは迅速に動き出す。持っていた槍をその場に置いて城の奥へと消えていった。

 「……」

 マモルたちはそれを黙って見送った。

 ココロのことは気がかりだが、背中を向けた兵士たちに攻撃するほどの気概は持ち合わせていなかった。

 そして、新たに現れたメリサの冷たい視線に、マモルたちは目をそらすことができなかった。

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