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ハッピーエンドを求めて  作者: AiU
二章
15/50

黒傷の牙

 リーモ王国から少し離れた森の中に『帰らずの洞窟』と呼ばれる場所がある。薄暗く入り組んだこの洞窟の深くには一軒の小屋が建っていた。

 道中は一定の間隔をあけて松明が設置しているが、万全に機能しているとは言えず、歩き慣れている者ならば心配いらないだろうが、初めて訪れた者は石につまずいてしまっても不思議ではない。

 そんな場所に住み着いている者がいるとすれば、よほどの変わり者か太陽に顔向けできないような日陰者であろう。

 「……」

 小屋の中で男は独りイスに座りながら手のひらサイズの鳥の置物を布で磨いていた。美しい白塗りの陶器でできているそれは骨董品の類いであり、見る者によっては愛らしく笑っているように見えるという。

 「……」

 顔のほとんどを布で覆っているので男の表情をうかがうことは難しいが、唯一見える瞳からは真剣さが伝わってくる。

 「入りやすぜリーダー」

 ノックもせずにづかづかと手下の男がやってきた。

 イスに座っている男と同様に布で顔を覆っているが、覆い方が少し雑に見える。

 入ってきた男は、一心不乱に磨き続けている男を見てため息をこぼした。

 「リーダー、そんなに磨いたらかえって傷が付くんじゃないんすか」

 「……用件を言え」

 手の動きを止めぬままでリーダーと呼ばれた男は応じる。磨いているているように見えるその手は、優しく撫でているようにも見えた。

 その様子を見て、手下の男は再びため息を吐いた。

 「いつもの客人が来てやすが、どうしやすか?」

 「……通せ」

 「へい、わかりやした。でも、あんまり無駄遣いはしないでくださいよ」

 釘を刺しつつ男が小屋から出て行くと、入れ替わるように客人が入ってくる。

 「おじゃましますよ」

 入ってきた男は手に大きめの荷物を持っており、見た目は商人のようだった。何を隠そう、この男はリーモ王国でココロとミヅキにツボを売りつけようとした詐欺商人である。

 「……よく来た、歓迎しよう」

 リーダーはぴかぴかになった鳥の置物に満足すると、ようやく机に置く。机の上には似たようなデザインの物がいくつも並べられていた。

 磨かれてキレイになった鳥の置物は、机の上のランプに照らされて煌めいている。

 「……さて、今日はどういった用件で?」

 リーダーに促されると、商人はいかにも怪しい笑顔を作った。

 「もちろん商談のために参りました。今回もとても良い品を紹介させていただきますよ」

 「……そうか、それは楽しみだ」

 「ではさっそく……」

 商人は机の上に布で包まれた商品を置いていく。

 商品は二つあり、少し大きめのツボのような形の物と、手のひらサイズの物である。

 「……前にも言ったと思うが」

 商人が準備をしているのを見ながら、リーダーは呟くように話しかける。

 「……俺の審美眼(しんびがん)はかなりの物だ。数々の財宝をこの目で見てきたからな」

 「もちろん、存じておりますよ」

 布のほどく手を止めて、商人はリーダーの方を向いた。

 リーダーの目が睨み付けるように細くなる。

 「……もしもこれから出てくる物が贋作まがいの物だったら一目でわかるってことだ」

 「はい」

 「……その時は、そんな物をこの俺に売りつけようとした罪を(あがな)うために、相応の覚悟をしてもらうことになる」

 切り詰めた空気が小屋の中に満ちる。

 商人は笑顔のままでリーダーの視線と言葉を受け止めた。

 「ハハハ、そんな怖い顔をしなくても肝に命じておいてますって。安心して見てってください」

 「……」

 リーダーはゆっくり目を閉じると、商人の準備を待つことにしたようだ。

 「あの黒傷の牙のリーダーを前にして、半端な物を出すなんてことできないですよ。目の肥えたダンナもきっと満足できます」

 「……ふん」

 「今日持ってきたのは金運の女神の加護が施されたツボと、もうひとつはとある極秘ルートから入手しました一品でしてね。この青い宝石なんですが――――」

 黒傷の牙のリーダーと詐欺商人の商談は続いていく。

 リーダーは出された宝石と同じように目を輝かせる。その青い宝石がどのような物なのかも知らないまま。



 「黒傷の牙?」

 ロールパンにジャムを塗りながらミヅキは聞き返した。焼きたてなのか、小麦の香ばしい匂いが食欲をかきたてる。

 「うん、僕もきのう会った人から教えてもらっただけだから詳しくはないんだけど」

 マモルは少なくなった牛乳をつぎ足していく。

 顔を上げると、ココロとミヅキのコップも目に入ったのでついでに注いであげる。

 「どうやらリーモ王国で起こる盗難事件は大半がその黒傷の牙の仕業らしいよ」

 「じゃあ、もしかしたら私のライゼストーンも?」

 ココロはマモルからコップを受けとる。

 また自分が落としてしまったかもしれないと思っていたココロには少し救われる話だ。

 「まぁ、ポシェットに入れておいたライゼストーンが勝手に落ちたっていうのは考えにくいからね。可能性としては盗まれたと考えたほうがいいんじゃないかな」

 「む、ココロさん。もしかしたらあの時のエセ商人たちかも」

 「あ、そうです。あの人たちが黒傷の牙だったんですかね」

 ミヅキとココロは顔を合わせて思い出す。

 その様子を見ていたマモルはふたりに訊ねる。

 「何か思い当たることがあるのかい?」

 「はい、実は――――」

 ココロは昨日の商人たちについて話した。

 高額のツボを買わされそうになったこと。

 数人の男たちにからまれたこと。

 そして、通りすがりの女性に助けられたこと。

 「って、けっこう危ないところだったんじゃないの」

 「うーん、いざとなったら想造武器(イメポン)を出して戦おうとは思っていたんですけど。ちょっといろいろありまして」

 「え、大丈夫なのココロ。どこかケガしたとか?」

 「いえ、強いて言うなら精神的に少しダメージがあっただけです……」

 「そ、そっか。まぁ、無事ならいいんだ」

 哀愁が漂う表情になってしまったココロに、マモルはそれ以上なにも言えなかった。

 「なんにせよ、なんかドタバタがあったみたいだし、その時に落としたんだか盗まれたんだかしたのは間違いなさそうだね」

 「はい」

 「どうだいあんたたち。朝ごはんの味は?」

 マモルたちが話し込んでいると、パンのおかわりを配りに女将が近づいてきた。

 手に持つ大皿の上にはたくさんのパンが乗っている。

 「おいしいですよ女将さん。これならいくらでも入っちゃいますよ」

 一日でずいぶんと仲良くなったミヅキが元気に答える。その様子を見て女将は満足そうにうなずいた。

 「そりゃあ良かった、おかわりもいっぱいあるからたくさん食べなね」

 「……ってマモ、お兄ちゃんが言ってました」

 「え」

 「そうかいそうかい、二人ともお腹いっぱいになるまで食べるといいさ」

 マモルとミヅキの取り皿にパンが積み重なっていく。

 二人はそれを複雑な表情で黙って見守っていた。

 「そうだ、女将さん、ちょっといいですか?」

 「ん、なんだい?」

 黙ってしまった二人をおいて、ココロが女将に質問する。

 「女将さんは黒傷の牙って知っていますか?」

 「黒傷の牙だって?」

 「はい、最近この辺で話題になってる人たちらしいんですけど」

 「あら、そうなのかい? てっきりもう大人しくなったと思ったけど」

 女将は意外そうな顔をする。

 巷で話題になってるといっても場所によるのかもしれない。

 「あんたたち、あいつらに会いに行くのかい?」

 「はい、ちょっと聞きたいことがあるので。女将さんは黒傷の牙がどこにいるのか知っていますか?」

 「ああ、あいつらはここからちょっと離れたリーモ王国の外にある『帰らずの洞窟』ってところにいるよ」

 「『帰らずの洞窟』ですか……」

 名前からして恐ろしそうな場所を想像してしまう。

 数々のトラップがしかけられている即死級のダンジョンか。

 はたまた、奈落の底まで続いている地獄へのゲートか。

 どのみち危険な場所には違いないだろう。

 「なんだか危なそうな所ですけど、それでも私たちは進むしかないんです。たとえどんな困難な道でも!」

 「そうかい! なんだかわかんないけど元気があるのは良いことさ。頑張っておいで!」

 「はい! ありがとうございます!」

 決意を新たにしたココロが腕を突き上げた。

 落とした、もしくは奪われたライゼストーンを探しにマモルたちは帰らずの洞窟へ向かう。



 「ということで、帰らずの洞窟へ向かってるんだけど、本当に道はこっちでいいのココロ?」

 「はい、間違いないです。パンフレットに載ってる地図によるともうすぐですね」

 「……なんで盗賊団のアジトがパンフレットに載ってるんだろうね」

 「さぁ……」

 マモルたちは森の中を進み帰らずの洞窟を目指していた。

 女将に地図を書いてもらうように頼んだら、渡されたのは観光案内のパンフレットだった。

 最初にリーモ王国に来たときに門番から渡されたのと同じものだ。

 「『四季折々の自然が彩る散歩道を進むとちょっと不気味な洞窟が見えてくるはず。勇気を出して一歩踏み出せば都会の中ではけっして味わえない体験があなたを待ち受けるでしょう』……って書いてあります」

 「ちょっと面白そう……」

 「ちなみに、カテゴリが癒しスポットです」

 「マジですか……」

 どうやら思っていたような場所とは違うのかもしれない。

 辺りには木々が生い茂っており、空から降り注ぐ木漏れ日がとても気持ちがいい。

 ときどきシカやウサギなどの野生動物が姿を見せることもあったが襲ってくる気配もなさそうだ。というより、人に慣れているような感じさえする。

 今もココロの肩にリスが乗っており、拾ってあげたドングリをかじっている。

 そんな調子で歩いていると、開けた場所が見えてきた。

 「あ、見えてきましたよ。あれじゃないですか」

 先頭を歩いていたミヅキが指差しをする先には岩肌にポッカリと大きな穴が穿っている洞窟があった。

 マモルたちは茂みに潜んで様子をうかがう。

 「あれが黒傷の牙ですかね」

 肩に乗っていたリスを地面に降ろしたココロが少し緊張しながら言う。

 入り口には布で顔を覆った男がひとり立っているだけであった。他に人影は見当たらない。

 「そうみたいだね。女将さんから聞いてた格好通りだ」

 マモルは男の姿を確認しながら答える。

 「で、これからどうしましょうか? 他に出入り口はなさそうですけど」

 ミヅキは辺りを見回す。

 人が通れそうなところは他になさそうだ。

 「気は進まないけど正面から行くしかないみたいだね」

 「まぁ、しょうがないですよね」

 「とりあえず、あの人に聞いてみようか。こっちはライゼストーンを返してくれればそれでいいんだからね」

 マモルたちは何も黒傷の牙を壊滅させに来たわけではない。

 話し合いで解決できればそれでいいのだ。

 「僕が先頭で行くから二人は後ろをついてきてね」

 「わかりました」

 「了解ですよー」

 二人がうなずいたのを見てマモルは茂みから出て洞窟へ向かって歩き出す。

 しばらくして、入り口の男がマモルたちに気がついたようだ。

 「ようこそ、ここは帰らずの洞窟だ」

 男に声を掛けられマモルたちは足を止めた。

 「あの、ここに黒傷の牙がいるって聞いて来たんですけど?」

 「ああ? たしかに俺たちは黒傷の牙だが、俺たちになんの用だ?」

 男は怪訝そうな声を出す。

 「僕たちの大切な青い石がここにあるかもしれないんです。調べさせてもらっていいですか?」

 「青い石? ああー、もしかしたらアレのことか」

 「何か思い当たることがあるんですか?」

 「ああ、そいつはリーダーが持っていた気がするな」

 男がそう答えるとミヅキとココロが顔を見合わせて喜ぶ。

 「やった、あって良かったですねココロさん」

 「はい、一時はどうなることかと思いました」

 だが、マモルたちに見えないように男は布で隠れた下で静かに笑う。

 「リーダーはこの洞窟のいちばん奥の小屋にいるはずだ」

 「そうですか、じゃあ入っても?」

 「その前に、お前ら歳は17歳以下か?」

 「え、まぁ、そうですけど……」

 唐突に年齢を聞かれてマモルは戸惑う。

 そんなマモルの様子を無視して男は懐から紙を取り出して何かを確認する。

 「ふむ、ならば中人だな……」

 「えーと……」

 「お前ら、帰らずの洞窟へはいりたいなら金を払ってもらおうか。一人あたり五百で三人で千五百だ」

 「え、ああ、はいどうぞ」

 マモルは言われた金額分の硬貨を素直に渡す。

 男はそれを受けとると腰に下げていた袋に入れ、手帳に何か書いていく。

 「しっかり記録しておかないと後でリーダーにどやされるからな」

 「はぁ、しっかりしてますね」

 「これでよし」

 男は手帳をしまうとマモルたちの方へ向いた。

 「ククク、お前たちは無事にこの洞窟を攻略して最奥(さいおう)にある秘密の宝までたどり着くことができるかな……」

 「え、いや、興味ないんで」

 唐突な男の妙な台詞回しに、マモルは素の返事をしてしまう。

 「さぁ、通るがいい冒険者どもよ。でこぼこしてる道だからせいぜい足元に気をつけるんだな」

 「……どうも」

 手を振り上げて道を空けた男の横を通ってマモルたちは洞窟に進んで行く。

 男の横を通る時にミヅキが足を止めて、手を上げたままの男を見上げた。

 「……恥ずかしくないですか?」

 「そう思うなら、とっとと通ってくれ……」



 「ハァッ、ハァッ、やっとついた、かな」

 左へ向いている矢印の上に宝箱が書いてある看板の前でマモルは息を整えている。

 「そう、ですね。ここを曲がれば、宝物が、あるみたいですね」

 「とうとう、ここまで、来れました、ねー」

 ココロとミヅキも疲労感が目立つ。

 実際、ここまでの道は楽なものではなかった。

 立ちはだかる黒傷の牙たちを相手に何度も勝負を挑まれたのだ。

 ナイフを使った的当てをしたり、岩の出っ張りを利用したボルダリングをしたり、小さな足場を跳び移っていくレースをしたりと、さまざまな勝負をしてきた。

 危ないところもあったが、マモルたちは力を合わせて突破することができた。

 「行こう、ふたりとも。あともうちょっとだ」

 マモルが後ろを向いて声を掛けると、ふたりは強くうなずいた。

 この洞窟内の冒険を経て、マモルたちの絆はより強いものとなったようだ。

 上手くいかないことを共有し合った。

 後ろからの声援で胸が熱くなった。

 無理だと諦めかけた時に仲間が手を差しのべてくれた。

 ここでの冒険は誰ひとり欠けても達成できないものであっただろう。

 三人で協力したからこそたどり着けたのだ。

 そしてもうすぐ、三人が目指したものが見つかるのだ。

 黒傷の牙が遺したと謂われる秘宝をようやく手に入れることができる。その期待にマモルたちは知らず知らずに早足になっていく。

 はたして、この坂道を登った先に何があるのか。

 高鳴る鼓動を感じながらマモルたちはたどり着く。

 「こ、これは……!」

 マモルは目の当たりにした光景に息を飲む。

 「こんなところに、地底湖が……」

 マモルの隣に立ったミヅキが呟く。

 「きれい……」

 落下防止用の柵に手をかけたココロがため息をこぼす。

 坂道を登った先には悠々と広がる地底湖があった。

 透明な水は湖の底まで映しており、上を見上げると所々から陽の光が差し込んで、辺りを優しく照らしていた。

 自然の織り成す幻想的な光景に思わず静かになってしまい、見とれてしまう。

 「帰らずの洞窟……」

 優しい沈黙を破ったのはココロだ。

 ココロは地底湖を見つめながら語り出す。

 「こんなキレイな景色を見せられたら、帰るのを忘れて見入ってしまいますね……」

 だれが名付けたのかも分からない『帰らずの洞窟』という名前は、もしかしたらそんな優しい理由からくるものだったのかもしれない。

 「マモル先輩、コレ」

 ミヅキに呼ばれて、マモルは彼女の指差す物を見る。

 「宝箱だね」

 柵の手前に木製の宝箱が置いてあった。ここに黒傷の牙の秘宝が入っているのだろうか。

 「よし、じゃあ開けるよ」

 マモルはフタに手を置く。力を込めると、宝箱にカギはかかっておらず、ゆっくりと持ちあがった。

 誰かのゴクリと息を飲む音が聞こえる。

 開ききった宝箱の中を覗くと、中には一枚の紙が入っているだけであった。

 マモルがそれを取り出して見ると、何やら文字が書いてあるようだ。

 「ココロ」

 「はい、任せてください」

 この中で唯一この世界の文字を読めるココロに紙を渡す。

 「じゃあ、読みますね」

 ココロはスゥっと息を吸い込む。

 「『ここでの冒険が何よりの宝だ』……。以上です」

 「……」

 再び沈黙してしまう一同。

 それは期待していたものなどではなく、何も残らないものであった。

 「でも」

 この微妙な空気を変えるようにマモルは言う。

 「ありきたりな文章だけど、意外とその通りかもしれないね。この洞窟の攻略は大変だった。黒傷の牙たちは強くて、危ない場面もあった。だけど、ココロとミヅキがいたからここまで来れたんだ。ふたりの大切さを知れたのは良かったことだと思うよ」

 マモルが素直な気持ちを口にすると、ミヅキが少し照れたような顔で続く。

 「まったく、マモル先輩はお人好しですね。普通は怒るところですよ。……でも、そんなこと言われちゃったら、私もそう思っちゃいますよ」

 照れるミヅキの横でココロも微笑む。

 「こうやってみんなで手を取り合って、絆を強くしていくんですね。私も、マモルとミヅキと冒険できて楽しかったです」

 宝物は手に入らなかったがマモルたちの顔は晴れやかだった。金銀財宝よりも価値のあるものに気づけたのかもしれない。

 宝箱に紙を戻してマモルは出口のほうを向く。

 「じゃあ行こうかふたりとも。僕たちなら、この先なにがあっても乗り越えて行けるさ!」

 「「はい!」」

 マモルたちは歩き出す。未来へ向かって。

 「って、ちがーーうッ!!」

 ミヅキの叫び声が地底湖に響きわたる。その衝撃に静かな湖面に波紋が広がっている。

 「……びっくりしました。どうしたんですかミヅキ。急にそんな大声を出して」

 ココロが驚いた顔をして振り返ると、不満そうなミヅキがココロに指を突きつける。

 「ココロさん! 私たちは何しにここへ来たんでしたっけ?」

 「伝説の盗賊団である黒傷の牙が最後に盗んだと謂われる秘宝を手に入れるためです」

 「ちっがーーうッ!」

 再びミヅキの叫び声が地底湖に響く。この場所はドーム状になっているのであちこちに反響して響く響く。

 「それはさっき黒傷の牙たちに聞かされたストーリーです。私たちの目的はライゼストーンでしょ! っていうかすごい自然に説明できてることにビックリですよ!」

 「はっ、そうでした。あまりに楽しかったんで忘れてました」

 「マモル先輩もですよ。いつまで騙されたフリしてるんですか?」

 先ほどより少し落ち着いた表情でミヅキがマモルのほうを向く。

 だが、マモルはミヅキから目を反らしたままだった。

 「……マモル先輩、まさか本気で楽しんでいましたか?」

 マモルの額に冷や汗がにじむ。目は相変わらず何もない壁を見つめるだけだ。

 「……僕たちの戦いはこれからだね」

 「せめて何か言い訳をしてくださいよッ!?」



 宝箱への看板があった場所まで戻り、矢印とは逆の方向へ進んで行く。

 するとロープがぶら下がっており、その近くには『すたっふおんりー』と書いてある看板が行く道を塞いでいた。

 ロープを乗り越えてさらに進むと、ようやく小屋の前にたどり着いた。

 「ここに黒傷の牙のリーダーがいるんだね」

 マモルは声を潜めて小屋の扉を見つめる。

 小屋の近くには人影はなく、ここまで来るのまでに誰ともすれ違うことはなかった。

 静寂さが、かえって不気味に感じる。

 「そ、そうですね。ライゼストーン、あるといいんですが……」

 「どうしたんですかココロさん?」

 ソワソワと落ち着きのないココロにミヅキが訊ねる。

 マモルも振り返りココロのほうを向く。たしかにココロは落ち着きなく辺りを見回していた。

 「な、なんでもないですよ」

 「大丈夫かいココロ。なんだか少し顔も赤いような気がするけど」

 「いえ、そんなことないです。私はいたって普通でいつも通りです」

 「そ、そう? まぁ、ココロがそう言うならいいんだけど……」

 「はい、大丈夫です。さぁマモル、早く片付けてしまいましょう」

 「う、うん。わかったよ」

 急かすようにまくし立てるココロ。よく分からないが、きっと緊張でもしているのだとマモルは納得することにした。

 マモルは改めて扉と向かい合い、2、3回ノックをしてみる。しばらく待つが返事はない。

 「……誰もいないのかな?」

 マモルがもう一度ノックしようとしたその時。

 「……誰だお前たちは」

 「うわ」

 「きゃっ」

 「ひゃっ」

 後ろから声がして、マモルたちは慌てて振り返る。

 そこには顔のほとんどを布で隠した男が立っていた。

 「……客か? ここは関係者以外立ち入り禁止だ」

 呟くような口調の男の登場に憶さずに聞き返すのはミヅキだ。

 「あ、あなたは誰ですか。急に後ろから現れて、いったいどこから!?」

 「……お前の質問にひとつずつ答えてやると、俺は黒傷の牙のリーダーだ。今はここ『帰らずの洞窟』の管理者ってところか。そして、そこの小屋の裏手にあるトイレから帰ってきただけだ」

 「ああ、あなたがリーダーさんでしたか」

 ひとつひとつ丁寧にリーダーは答えてくれた。

 「マ、マモル」

 ココロがリーダーの言った言葉の中に何か気づいたようだ。

 「ん?」

 「ちょ、ちょっと急用ができたんでここは任せていいですか!?」

 「え、うん。構わないけど……」

 「ありがとうございます!」

 言うや早いや、ココロはリーダーに近づくと何か耳打ちする。

 「……ああ、構わんから行ってこい」

 「ありがとうございます!」

 リーダーに確認を取ると、ココロは小屋の裏手へ駆けていった。

 「ココロさん、だからソワソワしてたんですね」

 何かを悟ったミヅキがココロの行く先を案じていた。

 「……で、改めて聞くが、お前たちは誰だ?」

 一通り落ち着いたところで、今度はリーダーが質問する。

 「えーと、なんだかドタバタしちゃってすみませんね。僕たち、リーダーさんが持ってるっていう青い石を見せてもらいたくて来たんです」

 「……なんだと」

 リーダーの目が細くなる。

 「……お前ら、いったいどこからその話を」

 空気が重くなったのを感じる。

 先ほどまでは興味のなさそうだったリーダーの雰囲気に敵意が混じり込んだ。

 だが、それでも引くわけにはいかない。ライゼストーンがなければマモルたちも帰ることができないので必死だ。

 「その石はもともと僕たちの物なんです。返してもらいたいんですけど……」

 「……そうか、お前たちはあの石の価値を知る人間か。だから奪いにきたってわけか」

 リーダーが腰に差してあるナイフに手を掛ける。

 「ちょ、ちょっと待って」

 膨らんだ敵意に対し、マモルたちは想造武具(イメポン)を具現化させる。

 「ほぅ、どうやらただの観光客ではなさそうだな」

 何もないところから現れた盾とショルダーバッグを見て、リーダーの警戒心はいっそう高まってしまった。

 「話を聞いてはくれなそうだね……」

 それでも説得を試みるマモルだが、リーダーは静かに首を横に振る。

 「……どのみちアレは俺が買い取った物だ。ただで返すつもりなどない」

 リーダーはまだ抜かないが、マモルとミヅキを睨み付ける。

 「……最近は盗賊稼業とは無縁だったが、ここまできたらやるしかないな。ここからは相応の覚悟をしてかかってこい」

 「……くっ!」

 戦うつもりはなかったが仕方がない。マモルとミヅキはそれぞれの得物を構える。もはや衝突は避けられないだろう。

 「リーダー! 大変だ!」

 その時、一触即発の空気の中に黒傷の牙の手下が駆け込んできた。

 「……なんだ、今いいとこなんだが」

 マモルたちから視線を外さずにリーダーが聞き返す。

 だが、手下はこの場の雰囲気が目に入らないくらいに慌てていた。

 「やつらが、リーモ王国のやつらが攻めて来やがった!」



 洞窟の前はすでに兵士によって囲まれていた。

 重装備の鎧に槍を構えた兵士が10人程度並び、何人たりとも通すつもりはなさそうだ。

 「お久しぶりですねリーダー」

 そんな兵士たちの前に立つのは、場違いな黒いメイド服に身を包む女性であった。

 「……ふん、メリサか。これまたぞろぞろと引き連れて来やがって、客がひびってしまうだろうが」

 腕を組んでリーダーはメリサと対峙する。

 「……お前のとこの王に言われた通り、帰らずの洞窟の管理はしっかりとやっているが、不満でも言いにきたのか?」

 「いえいえ、今日は黒傷の牙に用はありません。我々の目的はそこの方々です」

 メリサはマモルたちに向かって指を差す。

 「あ、あなたは昨日助けてくれた……」

 ミヅキが思い出したように声を上げる。

 メリサはマモルに黒傷の牙への忠告をし、ミヅキとココロをエセ商人から助けた人物であった。

 「おや? もうひとりいらっしゃったはずですが?」

 指を差したメリサが首をかしげる。

 「あ、今ココロさんは、えっと、ちょっと急用で」

 「そうでしたか。では、先にお二人に自己紹介をさせていただきます」

 メリサはスカートの裾を摘まむと、軽く会釈をする。

 「リーモ王国にて、メイド兼情報収集を担当しておりますメリサと申します。そして」

 メリサと兵士が道を開けるように並ぶと、奥からきらびやかなドレスを着た少女が前に出てきた。

 「リーモ王国国王コロモス様の子女であらせられます、ルルディ・フォン・エザフォス様でございます」

 「ソナタたちがメリサの言っていた旅人か」

 ルルディは腕を組んでマモルたちの方を向く。

 「突然の来訪、脅かせてすまないのじゃ。災厄に立ち向かえる者と聞いて話をしに来たのじゃ」

 「災厄?」

 マモルが聞き返すと、ルルディは大きくうなずいた。

 「聞けばソナタたちはあの黒い災厄のことに詳しいのであろう」

 「ああ、たぶんティポスのことですよ」

 「なるほど」

 ミヅキがマモルに耳打ちをする。

 どうやらリーモ王国ではティポスのことを問題視しているようだ。

 「わたくしたちはアレと戦える者を探しておったのじゃ。その力を我が国のために使ってほしい」

 ルルディの要求はマモルたちにとって願ったり叶ったりだ。もともとはそのつもりでこの世界に来たのだから。

 「それはもちろん良いけど、その前にちょっと事情があって――――」

 マモルがライゼストーンを探していることを伝えようとすると、ルルディが手を上げて遮る。

 「ふっふっふっ、分かっておるぞ。お主たちの探し物はコレじゃな」

 ルルディが上げていた手をメリサに向ける。

 「失礼ですが、この青い宝石はこちらで預からせていただいております」

 「あ、ライゼストーン!」

 メリサの持つライゼストーンに驚きの声を上げるマモル。

 「ちょ、ちょっと待ってください!」

 ミヅキはリーダーに詰め寄る。

 「リーダーさんが持っていたっていう青い石は何だったんですか?!」

 「……なんだ、お前たちの探し物はコレじゃなかったのか」

 リーダーは懐から青く輝く石を取り出した。

 「……こいつは水の精霊の加護が付いていると云う秘宝中の秘宝だ。なんでもこいつを持っているだけで運気が上がるらしい」

 「それって、怪しい商人から買いました?」

 「……ああ、良く知ってるな。コレと一緒に金運の女神の加護が付いているツボも買ってやった。これで俺はもうすぐ億万長者だ」

 「それは、良かったですね……」

 しっかりと騙されているリーダーに、ミヅキはかける言葉を見つけられなかった。

 「何はともあれ見つかって良かった。じゃあ早速返してもらって」

 マモルが手を出してメリサに近づこうとするが、メリサはライゼストーンを再びしまってしまう。

 「あれ?」

 「まあ落ち着くがよい。この石はちゃんと返してやるさ」

 ルルディは笑みに怪しさが混ざる。

 「ただし、すべてのことに決着がつくまではこちらで預からせてもらう」

 「えぇ、そんな……」

 すんなり返してもらえると思っていたが、どうやらうまくいかないらしい。

 「隣国からの攻撃である災厄が片づいたら返してやるぞ。それまで我が国の兵士として働いてもらう」

 「隣国からの攻撃? ティポスはそんなんじゃ――――」

 「よい、詳しい話は城でしてもらう。一緒に来てもらうぞ」

 (どうしようかな……)

 強行しようとするルルディ相手にマモルは戸惑う。

 たしかにティポスのことを知ってもらうのは当初の目的であった。

 しかし、ルルディたちは先に間違った認識をしてしまっているせいか隣国との戦争をするつもりだ。

 このまま付いていってもマモルたちは兵士の一人として無駄な戦争に巻き込まれるだけかもしれない。

 「さぁ!」

 圧をかけてくるルルディ。

 どのみちライゼストーンを押さえられている以上、マモルたちには行くしかない。

 額に浮かんだ汗が首筋にまで垂れたその時、

 「お、いたいた。うぉぉい、マモルー!」

 突如聞こえてきた野太い声に、マモルの思考は中断させられた。

 「あ、あなたは、ヴノさん!」

 声のする方を向くと、この世界に来たときにティポスに襲われていた酔っぱらいのヴノがそこにいた。

 大きな斧を背負い、皮袋を手に持つヴノは兵士やルルディを素通りして近づいてくる。

 「ヴノさん、なんでここに?」

 マモルの質問にヴノは豪快に笑って答える。

 「がっはっはっ、お前たちが何とかの洞窟に向かったって聞いてな。追いかけてきたぜ。見てみろ」

 ヴノは皮袋を見せつける。

 「街で適当な害獣駆除の仕事をしたら食材をたんまりいただいてな。ココロはいるか? あいつの料理の味が忘れられなくてよ。コレでなんか作ってもらおうと思ってな」

 「そっか、ココロも喜ぶよ」

 平和的な理由にマモルは安堵の息を吐く。

 「お、おい、なんじゃキサマは!」

 「あ?」

 怒鳴るような声にヴノは振り返る。

 彼の目には少女が駄々をこねているように見えた。

 「なんだチビッ子。俺に用か?」

 「ちちちチビッ子だと!? キサマ、わたくしに言ってはならぬことを!」

 憤慨した様子のルルディ。すっかり場の雰囲気は変わってしまった。

 だが、ここでルルディは大きく息を吐いて冷静になろうとする。王族の気品を守るために。

 「ふ、ふん。ヴノとやら、多少の無礼は見逃してやろう。わたくしは寛大であるからな!」

 「そうかい」

 「腹が減っているのなら、キサマも城に付いてくるが良い。見たところ、キサマも強そうだからな」

 「城? 城ねぇ……」

 ルルディの誘いにヴノは考える。

 城勤めとなれば給料も良いだろうし、食いっぱぐれはないだろう。

 心が揺らいだヴノに、さらにルルディは続ける。

 「こんなところで出てくるような料理よりも、よほど美味しい物を出してやるぞ」

 「……あ?」

 「リーモ王国の兵士になれば将来は安泰であるからな。他のどんなところより良い条件を――――」

 「おい」

 ルルディの話は、ヴノが地面に突き立てた斧の音によって中断させられた。

 ヴノの顔は怒りに歪んでいる。

 「え、え、なんで、そんな怒って……」

 ルルディは何が起きているか理解できずに戸惑う。

 「お前、俺の好きな物をバカにしやがったな」

 「え?」

 「そりゃあ城に行けば旨い物が食えるんだろう。けどな、俺はココロの料理をうまいと思ったんだ」

 ルルディにそんなつもりはなかったが、自分が好きだと思った物が侮辱されたと思い、ヴノは怒っていた。

 「人の好きな物を侮辱したんだ。覚悟はしてるんだろうな」

 斧を引きずりながらルルディに近づいていく。

 「あ、あわわ、ああああ……」

 後ずさったルルディは尻もちをつくと、近づいてくるヴノを見上げることしかできない。

 「失礼します」

 すると、ルルディとヴノの間にメリサが割って入った。

 「あ? なんだてめぇは?」

 突然現れた人物に、ヴノは足を止める。

 ヴノの怒りを前にしても、メリサは余裕の表情を崩すことはなかった。

 「我が主君が無礼をいたしました。この場は引き上げますので、どうかお見逃しください」

 「……ふん」

 ヴノは潔く斧を収める。

 メリサの見せる余裕ある態度に、何か思うところがあったようだ。

 「め、メリサ! この者たちを引っ捕らえよ!」

 ルルディは怒鳴るように命令するが、メリサは首を横に振った。

 「申し訳ありませんルルディ様。この場ではさすがに分が悪い。ここは一度引きましょう」

 「だ、だけど、だけどぉ……!」

 悔しそうに涙目になるルルディに、メリサはそっと耳打ちをする。

 (それに、お召し物を変えねばなりません)

 (ひぅっ!?)

 メリサはルルディを抱え上げると、マモルたちの方を向く。

 「この場は一度引き上げさせていただきます。明日の朝にもう一度来ますので、どうか良い返事をいただければと思います」

 メリサは一礼すると、ルルディを抱えたまま兵士たちと共にリーモ王国へ帰っていく。ルルディは最後まで涙目でヴノを睨んでいた。

 「ひとまずは、助かったかな」

 緊張感から解放されてマモルとミヅキは深く息を吐いた。

 「これからどうしましょうかマモル先輩?」

 「うーん、結局ライゼストーンは向こうが持ってるからね。どうにかしないと……」

 マモルたちの問題は解決しないままだった。

 「なぁ、そんなことよりもよ」

 ヴノが何事もなかったかのように言う。

 「いいからなんか作ってくれよ」

 そんな様子のヴノにため息を吐いて、マモルはリーダーの方を向いた。

 「キッチン借りていいですか?」

 「……もう、好きしろ」



 「はぁ、私がトイ……急用を済ましている間にそんなことがあったなんて」

 お玉で鍋をかき混ぜながらココロは呟いた。

 「無事で良かったです」

 出来上がった肉じゃがを持って机に運ぶ。すでに机にはいくつかの料理が置いてあり、マモルたちは食事を進めている。

 「そうだね、ヴノさんが来てくれなかったらどうなっていたことか。ありがとうヴノさん」

 マモルがヴノにお礼を言う。

 ヴノは豪快に笑うと瓢箪(ひょうたん)の中の酒を飲んだ。

 「気にすんなって、こうしてまた旨い料理にありつけるんだからな。こいつは良い嫁になれるぜココロ」

 「そ、そうですかっ。えへへ……」

 よほど気に入ったのか、上機嫌でヴノは次々と平らげていく。

 「でもマモル先輩、まだこれからですよ。メリサさんが明日の朝にまた来るって言ってましたからね」

 「うん、そうだね」

 ミヅキの言う通り、明日になったらメリサたちが来てしまう。もしかしたら、さらに大勢の兵士を連れてくるかもしれない。

 いくらなんでも、そうなってしまえばどうにもならないだろう。おとなしく投降してリーモ王国の兵士になるしかない。

 「明日メリサさんたちが来るまでに、どうにかして防備を強化するしか……」

 「どうやって?」

 「うーん」

 マモルは頭をひねって考えるが特に良い案は浮かんでこない。ココロとミヅキも黙りこんでしまった。

 「なぁお前らよ」

 出された料理を食べ終わり、箸を置いたところでヴノが訪ねる。

 「ようは、あのネェちゃんに用があるんだろ?」

 「うん、そうだね。メリサさんの持ってるライゼストーンさえ取り返すことができれば、ひとまずは安心かな」

 「いや、待ってください。それだけだとダメですよ」

 結論付けようとしたマモルにココロが身を乗り出して待ったをかける。

 「ティポスのことをきちんと説明しないと。このままだと無駄な戦争になって多くの人が傷ついてしまいます」

 「ああ、そうだね。でもなんでそんな事になっているんだろう……」

 ティポスを隣国の仕業にして戦争を起こさせようとしている。それはつまり、ティポスを操ることができる者がいるのかもしれない。

 「ティポスを使って戦争を起こして。たくさんの人が犠牲になるだけなのに」

 「まぁ、ごちゃごちゃした話は知らないけどよ。全員の目的は城にあるってことだ」

 ヴノはそう言うと酒を飲む。

 そんな様子見てミヅキは首をかしげる。

 「その様子だと、ヴノさんもお城に用があるんですか?」

 「おぅよ。なんでも兵士の募集をしてるみたいだからな。いっちょ俺の強さを見せつけに行こうかと思っていたところだ」

 「……さっき守るべき人を襲おうとしてませんでしたっけ?」

 「がっはっはっ、気にすんなって。改めて俺の強さを見せつければ、あんなチビッ子の心なんてすぐに変わるだろう」

 「……だといいですね」

 やれやれといった感じでミヅキが首を振る。

 「でもそうだね、このまま待っていてもしょうがないし、こっちから出向いてあげよう」

 「お、さすがはマモル。俺が見込んだやつだぜ」

 上機嫌なヴノは立ち上がると、腕を突き上げた。

 「行くぜ野郎ども! 城攻めだ!」

 意気揚々なヴノに合わせて、しぶしぶ腕を挙げるマモルたちであった。



 そんなマモルたちの様子を部屋の外からリーダーは覗いていた。近くにいた手下が話しかける。

 「なぁリーダー、いいんですかい。このままあいつらの好きにさせて」

 「……」

 リーダーは黙ったまま考えていた。

 自分たちのシマで好き放題されて良い気分なわけないだろう。

 盗賊稼業から足は洗ったが、誇りまでは失うつもりはなかった。

 「……いや、このままでは済まさん。黒傷の牙の名において、俺の恐ろしさを思い知らせてやる」

 静かに熱意を燃やすリーダー。

 さまざまな思惑が交差し、城での決着は近い。

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