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ハッピーエンドを求めて  作者: AiU
二章
14/50

おやすみ前に

 お城の謁見の間にて、ルルディは独り悩んでいた。

 部屋の奥、少し高い台となっているこの場所には二つの玉座が備え付けられている。

 本来ならば王と王妃が座るためのものだ。

 しかしここにはルルディしかおらず、王であるコロモスもいない。

 ルルディはひとり、王が座るべき場所に鎮座して目を閉じている。

 リーモ王国の国王であるコロモスが謎の奇病により倒れてから早数ヶ月。

 方々の医者を頼り、あらゆる治療を試したが未だに目覚める気配はない。

 そのうえ黒いマモノの出現、しかもそのマモノは隣国からの攻撃手段だという話だ。

 ひとつの事件が片づく前に次の事件が起こる。

 今までコロモスに頼りきりだったルルディにはあまりに過酷な状況である。

 「それでも、お父様の代わりにわたくしがリーモを守らないと」

 コロモスは常々この国が好きだと言っていた。

 『ルルディよ。この国の民はなんと優しいことか。民のひとりひとりが美しいリーモを支えていこうと毎日勤しんでおる。だか、我らはその優しさを甘受するだけではならぬ。皆が国を支える限り、我らも全力で民に応えなければぬ』

 民が国を愛し、自分が民を愛することができることがどれだけ幸せなことだと。

 コロモスはそう言って、よくルルディの頭を撫でていた。

 まだ幼かったルルディには難しい話だったが、リーモ王国の話をするときのコロモスの優しい表情がとても好きだった。

 「絶対に守って見せる。この国も民のみんなも。たとえどんな手を使っても……」

 年端もいかない少女の肩にどれだけの重責が乗っているのか。

 知識も経験も足りないルルディには、臣下たちを頼るほかない。

 だか、その臣下たちも重なる事件に追われ疲労が出てきている。

 このままいけば王政じたいが成り立たなくなるだろう。

 「せめてひとつでも解決できれば……」

 先の見えぬ状況を打破するために、何か強い一手が必要だった。

 「……うーん」

 腕を組んで唸るルルディ。

 「ルルディさまぁぁぁぁ!!」

 「わっひゃぁぁぁぁぁぁ!?」

 考え事に集中していたルルディの背後からメリサの叫び声が響いた。

 不意を突かれたルルディは玉座から転げ落ちそうになるのを必死にこらえている。

 「め、めめ、メリサァァァァ! キサマはどうして普通に登場できぬのじゃぁぁぁぁ!」

 メリサは叫ぶルルディの正面に移動し膝をつく。

 「いえ、なにやらお考えが煮詰まっていたようでしたので、少しお肩の力を抜かれてはいかがと思いまして」

 「そ、そうか……」

 「あとルルディ様の驚いた顔が見たくて」

 「メリサァァァァ!」

 数年前のとある雨の日にルルディたちを襲った黒傷の牙という盗賊団。

 その盗賊団から引き抜いたというメリサは、コロモスの()()を受けてからルルディに異様な執着をするようになった。

 最初からしつこく付きまとうメリサに嫌気がさしていたルルディである。

 一度コロモスに相談したが、下の者を使いこなしてこその王である、と言われてしまった。

 そう言われては引くわけにはいかないとがんばるルルディだが、いまだに手に負えない感じがしている状態だ。

 「まあまあ、落ちつきくださいルルディ様」

 「いいや! 今回は許さないぞ! こんどこそ城から追放してやる!」

 「こちらに、風雲堂の桃大福がございます」

 「なに、あの風雲堂の!」

 ルルディの目が輝く。

 「本来ならば開店する一時間前から並ばなければ手に入らない一品ですが、なんとか1セットだけ確保することに成功しました」

 「おお、でかしたぞメリサ」

 メリサは買い物かごから笹で包まれた物を取り出す。丁寧に包みを開いていくと、さらに笹で包まれた丸い物が三つ出てきた。

 メリサはルルディの前に差し出すと、ルルディはさっそく一つ手に取り、包みを開く。

 中から出てきた大福はそれほど大きい物ではなかったが、小さな手のルルディには大きく見えた。

 「はむ」

 小さな口で頬張るルルディ。その表情がみるみる輝いていく。

 甘さ控えめの白いこしあんと取れたての桃のジューシーな果肉が最高のハーモニーを生み出す。

 「美味しいですか?」

 「うん♪ おいしい♪」

 口の周りを白い粉で染めながら無邪気に笑う。

 すっかり機嫌は治ったようだ。

 「してルルディ様。ひとつお耳に入れておきたい情報がございます」

 「む、なんだ?」

 ルルディは二つ目の大福に手を伸ばしながら耳を傾ける。

 「本日リーモ王国に見慣れない三人組が入国しました」

 「三人組?」

 「はい、彼らはリーモ王国の外からやってきたようでございます」

 「ふむ。ただの旅人ではないのか?」

 「彼ら、なんと例の黒い災厄たちと戦い、そして無傷で勝利しております」

 「なんと!」

 「もしかしたら、彼らが災いに対抗する手段を持っているかもしれません」

 「そうか、ようやく、ようやくこちらから反撃に出られる」

 ルルディの握った拳に力が入る。

 今まで右往左往するだけだった状況にようやく光明が見えてきた。

 「だが、街中で勧誘したら民にいらぬ心配をさせてしまうかもしれぬな」

 「ご安心くださいルルディ様。すでに手は打ってあります」

 ルルディの不安を打ち消すように、メリサは最後の大福を差し出す。

 「そうか、さすがはメリサ。お前は変態だが役に立つな」

 「恐悦至極にございます」

 大福を一口で食べてしまうとルルディは立ち上がった。

 「よし、明日はそやつらと話をしに向かうぞ」

 「はい、かしこまりましたルルディ様」

 お腹が桃とあんこでいっぱいになったことで良い気分になったルルディが高らかに笑う。

 その近くでルルディに気づかれないようにうっすらと笑うメリサは何を考えているのか。



 「あうー、食べ過ぎたですよ……」

 「そうですね。もう何も入りません……」

 「女将さん、ウキウキでどんどん料理を運んできたからね……」

 宿の部屋に戻り、マモルたちはイスに座ってぐったりとする。

 「あの女将さん、ミヅキを見る目が完全に母親のソレだったよ」

 「まさか、優しさに満ちた視線がつらいと思う日が来るとは思いませんでした……」

 街から帰ってきたマモルたちを待ち受けていたのは、テーブルいっぱいに置かれた大量の料理だった。

 食欲の進むとても良い匂いがして最初は喜んだものだが、なにぶん量が多い。

 しかも食べたそばから次々と新しい料理が運ばれてくる。

 さすがに残そうと思ったが、女将と料理を作っていた店主の優しい表情の前に、マモルたちも笑顔で料理を胃の中に放り込んでいった。

 「次からは過度な演技はやめようね……」

 「……です」

 もはや会話するのも辛くなってきた面々である。

 「とりあえず、このまま眠ってしまう前に今日の成果と明日の予定を話合っておきましょう」

 ココロが机から顔を上げる。

 「さんせー、と言いたいですけど、私はちょっと横になって聞いてますー」

 言うは早いや、ミヅキはフラフラとベッドまで行くと倒れるようにダイブした。

 ふわりと舞い上がるスカートからマモルは慌てて目をそらす。

 しばらくしてすぐに寝息が聞こえてきた。

 「まぁ、しょうがないか。料理をいちばん食べてたのはミヅキだもんね」

 「私たちだけで進めていきましょう」

 マモルとココロは互いに集めた情報を報告し合う。

 コロモス王が病気に伏していること。

 怪しい占い師が城に出入りしていること。

 巷では黒傷の牙という盗賊団が問題を起こしていること。

 「ミヅキと話し合った結果、やっぱり一度お城に行ってみるのがいいんじゃないかって話をしてました」

 コロモスの病気のことは知らないが、国の核であるところに一度ティポスについて話をしておいたほうが良いだろう。

 「そうだね。お城の王様は病気みたいだけど、今はルルディって王女様が頑張ってるみたいだ」

 「ルルディ王女に会ってティポスについて話をしておきましょう。まだ王国の外ですが、ティポスが近くに出現しているのは把握しているはずです。なんとか協力関係を築ければいいんですけど……」

 「リーモ王国自体がドタバタしてるみたいだし。とりあえず話をして危機意識を持ってもらうくらいでいいんじゃないかな」

 「そうですね。あんまり強引にいって話がこじれるのは避けなくちゃいけないですからね」

 大切なのはティポスについて知ってもらうことだ。

 さっきも観光客を見かけたが、この世界は一般人が武器を持つことを許されているような世界らしい。

 ゲームなんかに出てくるモンスターなどには出くわさなかったが、旅というものが日常の世界なら護身の(すべ)はいろいろあるはずだ。

 そこに想造力(イメージ)を合わせれば世界の抵抗力を上げることができるだろう。

 「この国の人たちは王様のこと信頼してるみたいだし。ティポスについてもちゃんと対策してくれるでしょ。僕たちにできることはそんなになさそうだね」

 「王様と国民たちが信頼し合っているなら、とても良いことですね」

 小さな村から始まったリーモ王国は国民との関係もずいぶんと近いものなのかもしれない。

 たとえ王族といえど、みんな家族のように接することができれば争いなんて生まれることはないだろう。

 「まぁ、それなりに平和な世界みたいだし、明日お城に行ったら、リキヤたちにおみやげを買って、初の異世界旅行は終わりかな」

 マモルは腕を上げて軽く伸ばす。

 「どうでしたかマモル、異世界に来て何か発見はありましたか?」

 ココロもイスに背中をあずけてリラックスする。

 「うーん、どうだろうね。楽しかったのは確かなんだけど」

 今日マモルがやったことといえば、外でお弁当を食べて街で買い食いをした程度だ。

 はっきりいって、ピクニックと観光しかしてない。

 「なんだか物足りなそうな顔をしてますね」

 「まあね、僕が探しているものは、そんなに簡単に見つからないみたいだ」

 「『ハッピーエンド』ですか?」

 「……改めて言われるとちょっと照れくさいね」

 マモルは鼻の頭をかく。

 いつだったかココロと話をしたときに、マモルが幸せに終わる人生を目指していると言ったことがある。

 自分の目標を見つけられないマモルにココロはハッピーエンドを探しているんだと諭したのだ。

 その言葉に感銘を受けたマモルは、すこしでもハッピーエンドに近づくために日々考えるようになった。

 「そもそもマモルの考える幸せってなんですか?」

 「ん~。そう言われると何も言えないんだよね」

 初めてティポスに襲われた時にとっさに出た言葉だったので、これといった目標は見つからないままである。

 「ここは幸せについて本気出して考えてみるべきですよ」

 「そうだね。ココロもいるし、何か新しいことに気がつけるかもしれない」

 「はい、まかしてください。ここでマモルのお悩みを解決しちゃいましょう」

 意気揚々と胸を叩くココロ。

 「お、頼もしいね」

 「ではまず、好きな物から広げていきましょう」

 「好きな物?」

 「好きという感情はポジティブなものですからね。気持ちを高めてくれる物を突き詰めていけばおのずと幸せになれるはずです」

 「そういうものかね?」

 「そういうものです。では改めて、マモルの好きな物はなんですか?」

 「甘い物だね」

 「即答ですね……」

 「頭に浮かんだ物を答えただけなんだけど」

 「そもそもマモルはなんでそんなに甘党になったんですか?」

 巨大パフェをひとりで完食してしまったり甘い匂いで人避けの結界を越えてきたりと、マモルの甘い物好きは少し度を過ぎている節があった。

 「うーん。なんでだったかな……。たしか、いつだったか聞いた物語の中で、誰かが甘い物を食べてる姿が幸せそうだったからかな」

 「つまり、お話に影響されたんですか?」

 「うん、ちゃんとハッピーエンドで終わる話だったしね。良い話だったよ」

 「ちなみにどんなお話なんですか?」

 「とある世界にいたひとりぼっちの女の子の話なんだけど。誰にも会わないからずっと笑わないで生きていたんだ。楽しいことがあっても悲しいことがあっても表情が変わらない。そんな女の子だった」

 「それは寂しいですね……」

 「そうだね。でも、そんな女の子をかわいそうに思った神様がその女の子にひとりのお友達を作ってあげたんだ」

 「お友達ですか?」

 「お友達は女の子のためにいろいろやった。いっしょに遊んだり買い物に行ったりご飯を食べたり。時には失敗することもあったけど女の子の表情を変えさせたくてがんばったんだ」

 「お友達、偉いですね」

 「でも、女の子の表情は変わらない。嬉しいことも悲しいことも無表情のままだとうまく伝えられなかったんだ」

 「想いが伝わらないのはつらいですね……」

 「それでも女の子は自分のためにいろいろしてくれるお友達にお礼がしたくて、ある日お友達のためにケーキを作ろうとした。でも、誰かのために何かをしたことがなかった女の子にはどうしてもうまく作れなかった」

 「そんな……」

 「でも、その様子を見ていたお友達が女の子を手伝ってあげたんだ。ふたりで協力してやっとケーキが出来上がったんだ」

 「やった」

 「出来上がったケーキを一口食べたら、女の子がようやく微笑んだ。ぎこちない笑顔だったけど、ちゃんと笑うことができたんだ。お友達を笑顔にさせたいと思ったからこそ、女の子も笑顔になれたんだね。こうして女の子とお友達が笑い合ってケーキを食べてお話は終わり」

 「素敵なお話でしたね」

 「うん、たしか絵本だったのかな。その時の女の子とお友達の幸せそうな笑顔が印象に残っててね。子どもだった僕には甘い物食べれば幸せになれるって思ったんじゃないかな」

 「私もその絵本、読んでみたいです」

 マモルの話に興味が沸いたココロはそんなことを言った。

 「うん、もちろん良いよ。たぶん実家にあると思うから帰ったら持っていくよ」

 「ありがとうございます。約束ですよ?」

 「わかってるよ。約束する」

 ふたりはそんな約束を交わした。

 たあいもない会話から交わした小さな約束だったが、ココロはなぜだか無性に嬉しかった。

 「もしかしたら僕のルーツとなりうる絵本かもしれないからね。気に入ってくれると嬉しいよ」

 幼少期に何気なく触れた物語が、後の人生の道しるべとなることもあるだろう。

 「まぁ、それでもマモルの甘党ぶりは異常ですけどね」

 「うーん、そうかな?」

 「だってマモル、おなかいっぱいだって言ったのに、食後のデザート、私とミヅキの分まで食べちゃったじゃないですか」

 「だって、残しちゃ悪いし」

 「そうですけど……」

 「あと甘い物は別腹だし」

 「それは女の子が言うセリフでは……」

 ココロは肩をすくめる。

 マモル自身が好きで食べている以上、ココロも何も言えないようだ。

 「まぁ結局のところ、マモルは甘い物を食べていれば幸せじゃないんですか?」

 「それはそうなんだけど……。なんかこう、決定的なものが欲しいんだよね」

 「決定的なもの……ですか?」

 「生まれてきた意味……なんて大げさなことは言わないけど。『このために生きてきたんだー』とか『これまで生きてきて良かったー』って思えるような瞬間が欲しい……のかな」

 自身の中に溢れる想い。

 それをうまく言葉にできずにマモルはモヤモヤとした気持ちになる。

 幼なじみのリキヤやシオリのように熱中できるものがないマモルは想いだけが先走ってしまい焦っているのだ。

 「うーん、それは私じゃお役に立てそうもありませんね」

 申し訳なさそうに言うココロ。自信満々だった手前、不甲斐なさを感じているようだった。

 「いやいや、いいんだよココロ。気長に探し続けるしかないさ」

 マモルは慌てて手を振る。

 どうも自分のことで引け目を感じさせるのが嫌なようだ。

 しばらく考える仕草をしていたココロだったが、ここで何か思いついたかのように手を打つ。

 「そうだ。せっかくだからもっといろんな人の話を参考にすればいいんじゃないですか?」

 「え? どういうこと?」

 突然顔を上げたココロにマモル面食らってしまう。

 「せっかくいろんな世界に行くことができるんですから、もっといろんな人に意見を聞いていきましょうよ。もしかしたらマモルの目指す幸せが見つかるかもしれません」

 「なるほどね。それは良いかもしれない」

 マモルにもココロにも、幸せを語れるほどの経験が足らない。ならばもっとさまざまな意見を取り入れるのも良いことだろう。

 「ありがとうココロ。おかげで僕の方針が決まったよ。君に相談して良かった」

 「えへへ。お役に立てたならうれしいです」

 真っ直ぐにお礼を言われてココロは頬を赤らめる。

 「よし、幸せになるために明日からもがんばっていこう!」

 「おー!」

 マモルとココロは明日への意気込みを込めて拳を振り上げた。

 「う、うぅぅん」

 その時、ベッドの中のミヅキが身じろぎをした。

 目をこすりながら起き上がるとぼんやりとしている。どうやら寝起きが良いほうではなさそうだ。

 「あ、起こしちゃいましたかミヅキ」

 起き上がったミヅキに駆け寄ろうとするココロ。

 「待ってココロ」

 そこで何か思いついたマモルがココロを呼び止める。

 「なんですかマモル?」

 「いや、せっかくだからさっき言ったことをさっそく試してみようかと思って」

 「?」

 不思議そうに首をかしげるココロをおいて、マモルはミヅキのそばに近づく。

 「ねぇミヅキ」

 「……ふぁい?」

 ミヅキはあくびのような返事をする。どうやら少し寝ぼけているようだ。

 「ミヅキの考える幸せってなにかな?」

 「しあ……わせ……」

 ミヅキはマモルの言葉を繰り返しながら考えようとする。

 「ちょ、ちょっとマモル」

 ココロがマモルの腕を引っ張った。

 「なにもこんな状態のミヅキに聞かなくてもいいんじゃないですか?」

 「いや、今だからこそさ」

 「え?」

 ココロから軽い非難の言葉を受けるが、マモルには考えがあるようだ。

 「今ミヅキは文字通りの夢心地の中にいる。いつも難しいことを考えているミヅキからまっさらな想いを聞くには、頭の回転をオフにしてる今しかないと思ってね」

 「うーん。まぁ、そうかもしれないですけど。なんだか盗み聞きしているような気がします」

 「でも、僕たちにミヅキが幸せになるための手伝いができるかもしれない」

 「そう、ですね……」

 言ってることは正しいかもしれないがやってることはグレーゾーンである。

 「さぁミヅキ。君の考える幸せについて教えてちょうだい」

 マモルは先を促すようにミヅキに話しかける。

 ココロもしぶしぶだが、見守ることにしたようだ。

 「わたしのぉ……しあわせはぁ……」

 ミヅキをゆっくりと口を開き語り始める。

 「しぇかいを……せいふくして……しおり……しぇんぱいと……いっしょに……しあわしぇに……ぐへへぇ……」

 愛らしい顔でそう語ったミヅキは、糸が切れた人形のように、再びベッドに倒れていった。

 「……」

 「……」

 マモルとココロは無言で顔を見合わせる。

 ミヅキは穏やかな寝顔とは裏腹に壮大な野望を抱えているようだった。

 「これは、あれだね」

 先に沈黙を破ったのはマモルだった。

 ミヅキにシーツを掛けながら幸せそうな寝顔を見つめる。

 「最後にラスボスとして登場するのはミヅキかもしれないね」

 「それは、ドラマチックですね……」

 ミヅキの夢のような野望は、ふたりの胸のうちにしまっておくことに決めたのだった。



 「んぐ、んぐ、んぐ、ぷはー。寝起きの一杯は冷たい水にかぎりますねー」

 「うん、そうだね」

 ミヅキは机の上に空になったコップを置く。

 軽い仮眠をとったミヅキはだいぶ回復したようだ。

 「いやー、よく眠りました」

 「そんなに時間は経ってないけどね。ミヅキはショートスリーパーってやつなのかな」

 「どうでしょう。まぁ、昔から寝つきは良いほうとは言われてきましたが」

 「そっか」

 「でも、気分が良いのは幸せな夢を見たからかもしれないですね。起きたら忘れちゃいましたけど」

 「そっか、思い出さないといいね」

 「はい……はい?」

 「それで、明日のことなんだけど」

 マモルはココロとの話し合いの結果を伝える。

 「ふむふむ。やっぱりお城に行くことになりましたか」

 一通り聞いたミヅキが、当然と言わんばかりにうなずく。

 「この世界にティポスがいるのは事実ですし、一度国の偉い人に会って注意を促すのが妥当でしょう」

 「それじゃあミヅキもそれでいいね?」

 「はい、了解しました」

 マモルが確認するとミヅキは再度うなずいた。

 「さて、明日のことも決まったわけですし、今日はそろそろ休みましょう」

 「あ、ちょっと待ってください」

 ココロがベッドに向かおうとしたところで、ミヅキが呼び止める。

 「どうしましたかミヅキ?」

 「あれかい、起きたばかりだから自分は眠れないと言いたいのかい?」

 「いえ、それもあるんですけど」

 ミヅキは想造武器(イメポン)であるショルダーバッグを具現化させた。

 ミヅキの唐突な行動にマモルとココロは首をかしげる。

 「なんだいミヅキ。これからバトルでもしようってのかい?」

 「え、ダメですよ、こんなところで?!」

 身構えるふたりの様子を見てミヅキはため息を吐く。

 「そんなことするわけないでしょう。少しは常識的に考えてください」

 「まさかミヅキに常識を諭される日が来るとはね」

 「びっくりです」

 「お二人とも、たいがい失礼ですよねー」

 再びため息を吐きながらミヅキが取り出したのはトランシーバーだった。

 この世界に来たときにファーネと連絡を取り合った物である。

 「おやすみする前にファーネさんに連絡しておこうと思いまして」

 「ああ、なるほど。たしかにしておいたほうが良いだろうね」

 ミヅキはトランシーバーの電源を入れるとダイヤルを回して調整する。

 しかし、いっこうにファーネと繋がる気配がなかった。スピーカーからはノイズが流れるのみである。

 「あれ、おかしいですね……。電波悪いのかな……。ココロさん」

 「はい、なんですかミヅキ?」

 「すみませんけど、ライゼストーンを出してもらえませんか。どうも調子悪いみたいなんで」

 「わかりました、ちょっと待ってくださいね」

 ココロは腰に付けていたポシェットを前に持ってくる。

 そのポシェットに疑問を持ったマモルは、ポシェットを指さしながらココロに訊ねる。

 「そういえばココロ。そのポシェットは今回から付けるようにしてるの?」

 「はい、シオリが作ってくれたんですよ。前にマモルたちの学校でライゼストーンを落としたことを覚えててくれたみたいで」

 「まぁ、たしかにそれなら無くさないでしょうね」

 ポシェットは小さい物で、ライゼストーンがちょうど一つだけ入れられるようになっている。

 「ということで、はいどうぞ」

 ココロはポシェットから取り出した物を机の上に置いた。

 「はいはい、ありがとうございます」

 ミヅキはトランシーバーを机の上に置かれた物に近づける。

 「うーん、ダメですねー。壊れちゃったかなー」

 「ね、ねぇミヅキ」

 「なんですかマモル先輩。今ちょっと集中したいんですけど」

 「顔を上げてごらんよ」

 「?」

 マモルに促されてミヅキはトランシーバーから顔を上げる。

 その視線の先には――――

 「……リンゴ?」

 リンゴがひとつ、机の上に置かれていた。

 普通のリンゴよりも一回り小さいが、真っ赤に熟れていて、ひときわ強い存在感を放っていた。

 「なんだか小さいリンゴだね」

 「これは姫リンゴですね。縁日で売られてるリンゴ飴なんかで見たことがあるんじゃないんですか?」

 「ああ、それだそれだ。ミヅキは物知りだね」

 「いえいえそれほどでも」

 「……」

 「……」

 マモルとミヅキは無言で固まっているココロに視線を向けた。

 ココロは自分で置いたリンゴを目を点にしながら見つめている。

 「えーと、ココロさん。これは……?」

 「……リンゴ、ですね」

 「私がお願いしたのはライゼストーンなんですけど……」

 「私も、ライゼストーンだと思って出しました……」

 「そ、そですかー。じゃあしょうがないですねー。あははー」

 「……」

 「はは……」

 ミヅキの乾いた笑いが虚しさを強調する。

 「ココロ」

 そんな重苦しい空気の中、マモルが切り込む。

 「もしかして、()()かい?」

 「……………………はい」

 観念したかのように、ココロは短くそれだけ返事をする。

 前回の学校探索の時と同様に、必須目標の中にライゼストーン捜索が追加された。

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