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ハッピーエンドを求めて  作者: AiU
二章
13/50

リーモ王国

 リーモ王国、別名『恵みの国』は穏やかな気候と豊かな自然に恵まれた国だ。

 かつての初代国王は、うっそうとした木々しかなかった土地を開拓し小さな村を作った。

 家と畑を作り広げていくうちに人が増え、やがてはひとつの国となったのだ。

 初代国王はその土地の精霊と契約を交わし、毎年の行事として農作物を捧げるかわりに天候を操るといわれている神秘の力を授かることになった。

 今でもその行事は毎年必ず行い、国王も自ら育てた実りを捧げている。

 こうしてリーモ王国は他国との貿易関係と精霊の恩恵により、『恵みの国』と呼ばれるほど豊かな国となったのである。

 「平和で豊かな恵みの国、ここはとても良い国なんですね」

 簡素な門にいた門番からもらったパンフレットを読み終えたココロが笑顔で感想を言った。

 往来には至るところに露店が出ており観光客や行商人で溢れていた。

 雑貨品もあれば食材を扱っているところもある。

 行き交う人たちはみな楽しそうだ。

 「それにしても、ココロはここの世界の文字を読めるんだね」

 「え?」

 パンフレットの文字やお店に出ている看板などは、マモルの世界の文字とは違うものだった。

 「あ、ああ、こういう翻訳みたいなことは得意なんですよ。いろんな世界の文字を見てると似たような文字とかもありますからね」

 マモルの指摘にココロは慌てながら答える。

 「そっか、ココロは博識なんだね」

 「そ、そうなんです。博識なんです」

 ココロはそれだけ言うとまた周りを見ながら歩く。

 なぜそんなに慌てたのかマモルには分からなかったが、特に気にしないことにした。

 「ちょっと、お兄さんたち!」

 辺りを落ち着きなく見て歩いていると、野菜や果物を荷車に積んでいた恰幅の良いおばさんに呼び止められる。

 「あんたたち、リーモは始めてかい?」

 「そうですね、すごい人の数ですけど、今はお祭りでもやってるんですか?」

 「いやいや、ここはいつもこんな感じだよ。リーモを目指してやってきた行商人たちが勝手に商売をしてるのさ」

 「えぇ、それって良いんですか?」

 「ここいらは自由区域だからね。問題さえ起こさなければ大丈夫さ。ほら、あそこを見てごらん」

 おばさんに指を差され、マモルたちは少し遠くの露店を見た。

 そこには鎧甲冑を装着し、ヤリを持った男性が並べられたアクセサリーを真剣に眺めていた。

 その後、店主と軽く言葉を交わすと、お金を渡して普通に買い物をしていた。

 「あれは城の兵士さ。鎧を着てるから仕事中なはずなのに、こんなとこまでやってきてる」

 「ダメじゃん」

 ミヅキがツッコミを入れるが、おばさんは笑うだけだ。

 「いいのいいの。あの兵士を問いただしてもパトロール中って言われるだけさ。それに城の兵士がいるってだけで治安が安定しているのも事実だしね」

 顔まで隠してある鎧なので、表情がわからない分だけ威圧感が増す。

 さすがにあの兵士の近くで悪さをする気にはならないだろう。

 「このおおらかなところがリーモの良いところさ。堅苦しいだけじゃあ疲れちまうからね」

 「みんなが笑顔ならそれで良いいんだろうね」

 「お、良いこと言うじゃないのお兄さん」

 マモルの肩を叩いておばさんは笑った。

 「……どうも」

 叩かれた肩をおさえながらお礼を言うマモル。この辺には豪快な人が多いようだ。

 「さて、こいつは餞別だ。リーモ王国を楽しんでおいで」

 おばさんは荷車に積んでいたリンゴをマモルに渡す。

 「あ、ありがとうございます」

 ココロは受け取ったリンゴを両手で包み込むように持ってお礼を言った。

 それを見届けるとおばさんも商売に戻っていく。

 マモルたちも街へ向けて歩き出す。

 「これからどうしようかココロ?」

 マモルがリンゴをかじりながら隣を歩くココロに問いかける。

 「とりあえず、最初は換金所でこの世界のお金を作りましょう」

 「ああ、そっか。当たり前だけど僕らの世界のお金は使えないのか」

 国が変われば通貨が変わるように、世界が変われば通貨が変わる。

 なので、世界の守護翼では支給品として金や宝石を渡しているのだ。

 大半の世界では金や宝石は価値の高い物とされていることが多い。それらを売ればその世界の通貨を得ることができるということだ。

 「少しばかりの宝石をファーネさんからもらってきました。これを売ってお金にしましょう」

 人の流れに沿って、マモルたちは街の中心部へと目指す。



 換金所で宝石を売り、拠点となるの宿を決める。

 これだけの人がいると宿をとるのも大変そうだが、観光地なだけあって宿屋のほうがたくさんあって事なきをえた。

 「ねぇねぇココロお姉ちゃーん、私、一番高いところに泊まりたいなー」

 「ダメだよミヅキ、あまりココロ姉さんを困らせるんじゃないよ」

 「……」

 慣れない呼ばれ方をされながらもココロは黙って手続きを進める。

 泊まれそうな宿屋はたくさんあった。

 だが、治安が良ければ良いほど未成年の男女が泊まれるところは少なかった。

 保護者の同伴もしくは許可証を求められるところばかりである。

 このリーモ王国はとてもしっかりしているところだった。

 「これでいいでしょうか?」

 「まぁ、いいんだけどねぇ……」

 宿屋の女将の説明を聞き終えて渡された紙にサインをする。

 しかし、女将はココロたちの様子を見ると疑いの視線を向けた。

 「あんたたち、本当に姉弟なのかい?」

 「あー、えっとー、はい、長女のココロです」

 「長男のマモルです」

 「末っ子のミヅキでーす。よろしくです女将さん」

 「……」

 それぞれの自己紹介を聞いても、女将は表情は一向に晴れない。

 (ねぇミヅキ、やっぱり無理があるよ)

 (しょうがないでしょマモル先輩。私たちの中でこの世界の文字を理解できているのはココロさんだけなんですから)

 (だからって一番小さいココロが姉さんで、明らかに大きい僕が弟なんて)

 女将に聞こえないように小さな声で会話をするマモルとミヅキ。

 なんとか宿屋に泊まるために家族のふりをしているがあまりにも無理があった。

 (ほら、ココロを見てみなよ。女将さんの質問責めを冷や汗を流しながら必死にはぐらかしてる)

 (ココロさん、嘘をつくの得意そうに見えないですからねー)

 よくよく見ると、目尻に涙もたまってきている。これ以上は限界だ。

 (しょうがない、もうひとつ小芝居をうちますか。マモル先輩、なんとか合わせてくださいね)

 (まぁ、うん、わかった)

 しぶしぶ頷いたマモルを確認すると、ミヅキが前に出た。

 「女将さん、どうか聞いてください」

 「うん? なんだい?」

 畳み掛ける質問から解放されてホッとするココロと入れ替わり、ミヅキが女将と向かい合う。

 「たしかに私たちは姉弟には見えないでしょう、でもそれには事情があるのです」

 「聞こうじゃないか」

 「私たちはみんな、腹違いの姉弟なんです!」

 「なんと!?」

 「そうだったんですか!?」

 女将と一緒にココロまで驚いている。

 マモルがココロの隣に立つと、ちょっと黙っているように耳打ちする。

 「最後に残った母は蒸発し、残った父は酒に溺れてしまったのです」

 「まぁ、なんて親だい!」

 「そのうえ暴力までするようになってきて、マモルお兄ちゃんがいつも助けてくれました。そうですよねマモルお兄ちゃん?」

 「え? ああ、うん。でも僕の力じゃ姉さんもミヅキも守りきれないと思って……」

 「それで私たちは、みんなで平和に暮らせる場所を求めて旅に出ることにしました」

 「そうだったのかい……」

 女将は瞳にたまった涙をハンカチで拭っていた。

 「事情はわかった。疑って悪かったね。あんたたちはそこいらの家族よりも強い絆で結ばれた家族だ。今日はおいしい料理をたくさん作ってあげるからゆっくりしておいで」

 「ありがとう女将さん。私たちにも、女将さんみたいなお母さんがいればよかったな……」

 「まったく! 泣かせてくれるねこの子は!」

 ミヅキの機転により、マモルたちの泊まる宿は決まったようだった。

 「み、ミヅキ! 私もお姉ちゃんとしてもっとがんばりますからね!」

 「は、はい。頼りにしてます、お姉ちゃん……」

 感極まっているココロを連れて、マモルたちは部屋へと向かった。



 適度な調度品と4つのベッドが備えなれている大きめの部屋に少しばかりの荷物を置くと、マモルたちは街へと繰り出した。

 目的は情報収集。

 日は傾き始めていたので、暗くなる前には宿に戻らなくてはならない。

 マモルたちはそれぞれ手分けして聞き込みを開始する。

 「といっても、なかなか有益な情報は集まらないね……」

 匂い釣られて買ってしまったクレープを食べながら街を散策しているマモル。クレープの中には色とりどりフルーツが入っており、なかなか食べ応えがある。

 これはじっくりと味わいたいと思い、マモルはベンチを見つけて腰を降ろした。

 「ふたりは大丈夫かな……」

 一息つくと、思うのはココロたちのことだ。

 ちなみにココロとミヅキは一緒である。

 女の子を一人にさせたくなかったのと、ミヅキのお目付け役としてマモルがココロにお願いした。

 「まぁ、ふたりならうまく補い合えるかな」

 なにかと流されやすいが優しいココロと行動力があるがたまに暴走するミヅキ。

 性格的には正反対に近いけど、だからこそ助け合えるだろう。

 「それに、ココロにもミヅキにも友だちが必要な気がする」

 ココロは優しいがゆえにひとりで抱え込むことがあるし、ミヅキはひとりで研究をすることが多かったようだ。

 この異世界冒険で少しでもふたりの孤独感が薄まればいいとマモルは思う。

 「すみません、隣いいですか?」

 「……え?」

 マモルは声を掛けられて顔を上げる。そこには買い物かごを持った黒い髪の女性が立っていた。

 服装からして、この辺りに住んでいる人であろう。

 「ああ、どうぞどうぞ」

 マモルは少し横にずれると、女性の座れるスペースを空けた。

 女性はお礼を言うとマモルの隣に座る。

 「あの、つかぬことお聞きしますが、あなたはリーモ王国の外から来た人なんですか?」

 「え!? それはどういう……?」

 「いえ、見かけない服を着てる方だったので。どこか他の地方から来たのではないかと思って」

 「あ、ああ、そうですね……」

 いきなり異世界から来たのがバレたのではないかと焦ったが、そうではないらしい。

 マモルは落ち着いて今の自分の服装を見る。

 たしかに、今マモルたちは自分たちの世界の普段着で歩き回っている。

 最初に会ったヴノには何も言われなかったし、いろんな国から行商人や観光客が来ているのでうまくまぎれていられると思っていたが、それでも目立っていたかもしれない。

 (クレープなんかじゃなくて、外套でも買えばよかったかな)

 多少の後悔はあったが、今さらどうしようもない。

 まさかこの女性も異世界から来た人などとは思わないだろう。

 マモルは適当に話を逸らそうと思った。

 「たしかに、僕はちょっと遠い山の集落から来たんですよ」

 「あら、そうだったんですね」

 「そうそう。見慣れない格好ですけど、僕たちのところではこれが普段着なんで」

 「そうですか。なら、声をかけて正解でした」

 「え? どういうことですか?」

 もっとつっかかって来ると思っていたマモルは女性の反応に疑問を覚えた。

 女性は真剣な表情になると、少し声を潜めて話し始めた。

 「実はなんですけど、最近リーモ王国の中でとある盗賊団のウワサが持ちきりで」

 「盗賊団……ですか」

 馴染みのない言葉にマモルはつい聞き返してしまった。

 (なんか、すごいファンタジーだなぁ)

 しかも、場違いなことを考えていた。

 そんなマモルの考えを知らずに女性は話を進める。

 「はい。その盗賊団の名前は『黒傷の牙』と呼ばれています」

 「なんか、虫歯みたいな名前ですね」

 「たしかに、ちょっと間の抜けた名前ですけど腕はいいみたいなんです」

 「そうなんですか?」

 「はい。観光客を狙って盗難や強盗の被害が多発しているみたいなんで、こうやってリーモ王国の外から来た人に注意するように王女様から言われているんです」

 「へー、それはわざわざありがとうございます」

 「いえいえ、この国の者はみんなルルディ王女が好きなんですよ」

 「慕われているんですね、ルルディ王女」

 「そうです!」

 唐突に語気の強くなった女性に、マモルは息を飲んだ。

 「ルルディ王女。身長130センチ体重31キロ。血液型はB型。好きな食べ物は桃で嫌いな食べ物はピーマン。最近は趣味の園芸などを始められました。見た目も美しくそして可愛らしく、母君に似た淡いピンク色のロングウェーブ、たおやかな目元と幼さが残るぷっくらしたくちびる。体型もお歳と相応で凹凸の少ない幼女体型(パーフェクトボディ)。最近のお召し物の傾向として、身につけているものにウサギのワンポイントを入れたいご様子。まだ9歳の身でありながら倒れられたコロモス王に代わってこの国を支えられております。時にたくましく、時にあどけなくおられる様には見ている者すべてを虜にしてしまう魅力があることでしょう。そんなルルディ王女のためならばどんな苦境にあろうとこの身を捧げるのが最上の幸せというものです。もはや我々リーモ王国の国民はルルディ王女のために生まれてきたと言っても過言ではないでしょう。ああ、ルルディ様に会いたいとてもルルディ様に会いたい!」

 「……」

 だんだん早口になっていく女性に軽く引きながらマモルは半分放心状態で聞いていた。もはや最後のほうは願望になっている気がする。

 (なんか、ヤバい人に捕まったかな……)

 いろんな情報が耳を通り抜けていったが、今のマモルはそれしか思わなかった。

 「ということで」

 「え、ああ、はい」

 自分の世界に入り込んでいたような女性が我にかえったかのようにマモルのほうを向いた。

 急に話しかけられてマモルは一瞬だけ戸惑う。

 「黒傷の牙には用心してください」

 「そういえば、そんな話でしたね」

 「では、私はこれで」

 話を終えた女性はおもむろに立つと、買い物かごを持って歩きだしてしまった。

 「あ、ちょっと」

 マモルが呼び止めようとするが、女性は一度も振り返ることなく人混みに消えてしまった。

 「なんだったんだろうか……」

 ひとり残されたマモルの声に答える者はいなかった。



 「そうですか、ありがとうございましたー」

 ミヅキがお礼を言うと、店先に立っていたお姉さんは仕事に戻っていった。

 ミヅキは買ったお茶を一口飲む。ほうじ茶のような味わいで口の中がさっぱりとする。

 これまでミヅキとココロは数件のお店を巡り、情報収集に励んだが、結果は芳しくはなかった。

 物怖じしないミヅキは普通の喫茶店だけでなく、大人の集まる酒場にも足をはこんだ。目つきの悪い人たちに睨まれてココロが少し怯えていたが、ミヅキはすぐに馴染んでしまい、仲良くなってしまっていた。

 そんな危険を冒しても得られた情報は少なく、王様が病で倒れたこと。

 その後に占い師の老婆が頻繁に城に出入りしていること。

 城の地下から化け物の唸り声を聞いた者がいること。

 そして、リーモ王国が戦争に備えて兵士を募集していることくらいである。

 (やっぱり一度お城を訪ねたほうがよさそうですかねー)

 少ない情報をまとめても、お城に何かありそうなのは明らかであるとミヅキは思った。

 「日も落ちてきたし、マモル先輩と合流しましょうかココロさん」

 頭のなかでの整理をおえてココロのほうを振り返った。しかし、そこには誰もいなかった。

 「あれ? ココロさん?」

 さっきまで後ろにいたはずのココロがいない。

 ミヅキが辺りを見回すと、ココロは近くの路地に入って行くのが見えた。

 はぐれたのではないかと思ったが、近くにいて安心する。

 ミヅキが後を追うと、ココロは人通りがまばらな路地に布を敷いているだけの露店の前にしゃがみこんでいた。

 「どうしたんですかココロさん?」

 ココロに近づいて話しかけると、ココロは少し興奮した様子で商人の持つツボを見ていた。

 「あ、聞いてくださいミヅキ! このツボ、すごいらしいですよ!」

 「ツボ?」

 ココロに促されて、ミヅキもそのツボ見てみる。

 見た感じは、茶褐色の普通のツボにみえるが。

 「いらっしゃいお嬢さん。お嬢さんさんも見てってくれよ」

 「はぁ」

  怪しい商人は見せつけるようにツボをつきだす。

 「このツボは金運の女神から加護を受けた由緒正しい伝説のツボさ」

 「……ふむ」

 「このツボを持っているだけで金運の女神に愛されて、ものの数週間で大富豪になれるのさ。なんと、このリーモ王国の国王であるコロモス様も部屋に飾っているそうだ」

 「へぇ……」

 「この国宝級のお宝を特別価格でご提供だ。本来ならば十万リンのところを、スタイルの良いお嬢さん方のために、半額の五万リンだ! こんなチャンスめったにないぜ!」

 「ほらミヅキ、この人本当のことしか言わないですよ」

 「ココロさん……。まさかスタイルの良いってところに釣られちゃったんですか……」

 日頃から自らの発育の悪さを気にしていたからといって、このレベルのインチキ商売には引っ掛からないでほしいものだ。

 「ダメですよココロさん。こんなあからさまなやつに引っ掛からないでください」

 「えぇ、でも、私のことをスタイルの良いお嬢さんって……」

 悲しそうに呟くココロの手を引いてその場を去ろうする。

 「おっと、待ちな」

 しかし、いつの間にか囲っていた数人の男たちに阻まれてしまっていた。

 商人の男がツボを持ったまま立ち上がる。

 「冷やかしは困るなぁお嬢さんたち。ここまで聞いたのに何も買わずに行ってしまうなんてひどいじゃないか」

 ミヅキは振り返ると、ニヤニヤ笑う商人と対峙する。

 「いやー、ごめんなさいね。買ってあげたいのはやまやまなんですけど、あいにくお金がないんですよー」

 「おっと、それなら心配ないさ」

 商人は笑いながらツボの中に手を入れると、ナイフを取り出した。

 「足りない分はカラダで払って……」

 そう言いながら商人はココロを見た。

 少し考えるような仕草をするが、すぐにため息を吐いてしまう。

 「まぁ、物好きな奴が買ってくれるか……」

 「ねぇミヅキ、なんであの人はかわいそうな目で私のことを見るんでしょうか?」

 ココロがミヅキの袖を引っ張る。

 しかし、ミヅキに答えられるわけがない。

 「大丈夫ですよココロさん。ここは私がガツンと言ってやりますよ」

 「……何が大丈夫なんでしょうか」

 ミヅキは前に出ると、商人を指差した。

 「さっきからずけずけと失礼なことを言いますね! ココロさんがどれだけ気にしているかも知らないくせに! いくらココロさんのおっぱいが小さいからって言って良いことと悪いことがありますよ! ココロさんだって努力しているんです。毎日牛乳飲んだり、バストアップ体操したりとがんばっているんです。効果がでているかはわかりませんが、それでも諦めないでいるんです。それを笑うことはこのミヅキが許しません!」

 「ミヅキ……もういいです……もういいですから……」

 熱を帯びて語るミヅキとは対象に、だんだんと意気消沈していくココロ。 

 ミヅキに悪気がないだけ余計たちが悪い。

 そんなふたりのやり取りを無視するように、商人はツボをつきだしてくる。

 「ごちゃごちゃうるさいな。どのみち逃げ場はないんだ。おとなしくツボ買うか、その残念な体を売られちま――――!」

 「あらあら」

 その時、女性の声が聞こえたかと思った瞬間、商人の持っていたツボが粉々に割れてしまった。

 ツボの破片と一緒に石ころが転がる。

 「そんな安物が五万リンだなんて、いい商売してますこと」

 その場にいた全員が振り向くと、そこには黒髪の女性が立っていた。

 手には買い物かごを持ち、不敵に微笑んでいる。

 「誰だお前は! 俺たちの大事なツボを割っちまいやがってからに!」

 激昂する商人たちは、ミヅキたちを放って、黒髪の女性に詰め寄っていく。だか、女性の体をなめ回すように見ると、またニヤニヤと笑いだした。

 「へっへっへっ、割っちまったもんはしょうがないが、きちんと弁償してもらわないとなぁ。向こうの残念なお嬢さん方と違って、アンタならよーく稼げそうだ」

 商人は手に持っていたナイフを女性の首に突きつけようとする。

 「あら、ずいぶんと美味しそうな物をお持ちで」

 「あ?」

 いつの間にか、商人の持っていたナイフが別の物になっていた。

 「なな、なんで俺はペロペロキャンディーなんか持っているんだぁぁぁぁ!?」

 カラフルな渦巻き状のキャンディーを掲げながら商人は驚愕していた。先ほどまで持っていたナイフがペロペロキャンディーに変わってしまっているようだ。

 「お、俺のナイフは……」

 落としたのではないかと、足下を探す商人たち。

 「探し物はコレですか?」

 女性はナイフを空中で回転させながら商人たちを見下ろしていた。

 「て、てめぇ、そいつを返しやがれ!」

 商人たちは女性に手を伸ばして殺到する。

 だが、女性は素早く移動すると商人たちを避けていく。

 するするとすり抜けていく様は、まるで実体のない影のようだった。

 商人たちは女性を掴むどころか触れることもできずに、ぶつかり合って倒れていく。

 「ぬぐぐぐ、なにやってんだお前ら! 早くどけ!」

 一番下になっていた商人が抜け出そうともがいている。

 その目の前の地面にナイフが突き刺さった。

 「ひっ!?」

 「おっと失礼、落としてしまいました」

 ナイフは拾おうとせずに女性は腕を組んで商人たちを見下ろす。

 「あなたたちでは私に触れることすらできません。おとなしく諦めるならよし。ですが、これ以上暴れるなら相応の覚悟してもらうことになりますがいかがしましょう?」

 にこやかに話す女性の目が一瞬だけ冷たくなる。

 「お、覚えてやがれよぉぉ!」

 商人たちは完全に気圧されて、置いてあった商品をまとめると、すぐに逃げていった。

 「まったく、なんて分かりやすい小悪党だこと」

 女性は逃げていった商人たちを見ながら独り言を漏らす。

 「ありがとうございましたお姉さん!」

 ミヅキがお礼を言うと、女性はゆっくりと振り向いた。

 「お二人ともお怪我はないようですね」

 「はい、お姉さん強いですねー」

 ミヅキが先ほどの光景に興奮していると、女性は微笑む。

 「いえいえ、必死に避けたら彼らが勝手に倒れただけですよ」

 「またまたー、謙遜しちゃってー」

 ミヅキが女性を肘でつつく。

 初対面の人にやる行為としては馴れ馴れしい気がするが、女性は特に気にしている様子はない。

 「まぁ、リーモ王国は平和な国ですけど、少し大通りから外れると危ないこともあるので気をつけてくださいね」

 「わかりましたー」

 「でも、彼らもただの悪い人間というわけではありませんでした」

 女性はそう言うとココロのほうを向いた。

 「な、なんですか?」

 急に見つめられたココロが少し強ばる。

 女性はココロに近づくと、ココロの服に付いた土埃を軽く払い、優しく微笑んだ。

 「あなたのその幼女体型(スタイル)、大切にしてください」

 「え」

 「では、私はこれで失礼いたします」

 女性はそれだけ言うと、大通りへと歩いていってしまった。

 「カッコいい人でしたねー。颯爽と風のような動きで。……って、ココロさん、どうかしましたか?」

 ミヅキの声を聞き流しながら、ココロは女性の歩いていった先をボーッと見つめていた。

 「今、一瞬だけティポスの気配を感じた気がしました」

 「え、ホントですか?」

 ミヅキは辺りを見回す。

 さっきの騒ぎで少し通行人がいたが、もうほとんど治まってしまった。

 近くにあるのはツボの破片くらいだ。

 「……気のせいじゃないですかー」

 「……そうですね。ホントに一瞬だけでしたし」

 「とにかく、一度マモル先輩と合流しましょう。マモル先輩、真面目そうだからちゃんと情報収集してくれてるだろうし」

 「わかりました。まぁ、マモルのことだから甘いものに釣られてさぼっていなければいいんですけどね」

 「あはは、いくらマモル先輩が甘党でもそこまでの人じゃないでしょー」

 たわいない会話をしながら路地を後にするふたり。

 しかし、ふたりは気がつかなかった。

 女性が落としたナイフ。そのナイフが黒く染まっていき、そして消えていったことを。

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