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ハッピーエンドを求めて  作者: AiU
二章
12/50

はじめての異世界

 「まさか俺もシオリもバイトが入っちまうなんてな」

 「まぁ、しょうがないよ。社長さんがぎっくり腰なんでしょ。こっちはこっちでなんとかするから」

 「そうですね、リキヤとシオリはまた今度です」

 学校の資料室からミヅキが自室のように使っている化学準備室に移動させた鏡の前にマモルたちは集まっていた。

 週末の早朝なだけあって学校の中は他に誰も人がいない。

 この場にいるのはマモル、ココロ、ミヅキと、見送りに来たリキヤ、シオリ、そして紳士(ジェントル)だけであった。

 「マモル様、ココロ様」

 紳士が二人に近づいていく。

 「ミヅキお嬢様のこと、何卒よろしくお願いいたします」

 深々と頭を下げられるとマモルたちも緊張してしまう。

 「そんなに頭を下げなくても大丈夫ですよ紳士(ジェントル)さん。僕たちに任せてください」

 マモルがうなずくのを見ると、紳士は表情を和らげる。

 「ミヅキお嬢様は興味の沸いたものを前にすると、しばしば我を忘れてしまうことがあります。そのせいでご学友が少なかったりしてきました」

 「まぁ、思い当たるようなことがあるようなないような」

 ミヅキが仲間になってから少し経つが、その行動力は目をみはるものがあった。

 マモルたちもいろいろと振り回されていたが、なかなか刺激的ではあったかもしれない。

 「でもミヅキと一緒にいるのは楽しかったです。難しいこともたくさん知ってましたし、なによりミヅキ自身も楽しそうでした」

 ココロの言葉に紳士は一礼をする。

 「それは本当によかった。皆様と過ごされてからはお嬢様の笑顔を見られる回数が増えました。重ねてではありますが、これからもお嬢様をよろしくお願いいたします」

 紳士の心からの言葉にマモルたちは笑顔でうなずいて返す。

 「本当に一緒に行けないのですかシオリ先輩……」

 そんなミヅキは、少し離れたところでシオリと話をしていた。

 「ごめんねミヅキ。お父さんのお得意様が来るみたいでどうしても店を離れるわけにはいかないのよ」

 「そうですか……残念です……」

 明らかに気落ちしているミヅキ。まるでこの世の終わりのような感じだ。

 「せっかくミヅキ先輩とキャッキャッウフフな展開をいろいろ考えてましたのに……」

 「そう、表現がオジサンみたいなことは置いといて、そんな展開は断固回避させてもらうけどね」

 そう言うとシオリはミヅキの頭に手を乗せた。

 「今回は一緒に行けないけど、帰ってきたら異世界の話、いっぱい聞かせてね。マモルとココロのこと任せたわよ」

 「シオリ先輩……」

 ミヅキは乗せられた手に自分の手を重ねた。

 シオリの暖かさを感じ、ミヅキに力がみなぎっていく。

 「わかりましたシオリ先輩、話のネタになりそうなものをいっぱい見つけてきますね!」

 「うんうん、その調子よミヅキ。あと、ココロとお弁当を用意しておいたから後で食べてね」

 「わは、ほんとですか、ありがとうございます!」

 渡された重箱のようなお弁当を提げていたカバンに入れていく。

 明らかに弁当箱のほうが大きそうだが、はみ出すこともなく収まっていく。

 「じゃあ行きましょうか」

 「はい!」

 シオリとミヅキがマモルたちに近づく。

 みんなの準備も整ったようだ。

 「それじゃあマモル、ミヅキ準備はいいですか?」

 ココロは腰に着けていたポシェットからライゼストーンを取り出して確認する。

 「うん、僕は大丈夫だよ」

 「はい、こっちもオーケーです」

 二人がうなずいたのを確認するとココロがライゼストーンに想造力(イメージ)を込めていく。

 すると、ライゼストーンが反応し、淡い光が広がっていき三人を包み込んでいく。

 「お前ら、しっかりやれよ」

 リキヤが親指を立てる。

 「くれぐれも無茶はしないでね」

 シオリが手を振る。

 「お嬢様、マモル様、ココロ様、良き旅になりますよう祈っております」

 紳士が深く頭を下げる。

 「みんな、行ってきます!」

 マモルの言葉を最後に光はマモルたちを包み込み、光が散るとマモルたちの姿も消えていた。




 「災いがぁ、災いがきますぞぉ……!」

 暗い部屋の一室に老婆のしゃがれた声が響き渡る。

 部屋の中には豪華な調度品がいくつも置いてあり、光が当たればきらびやかに輝くはずだ。

 しかし、今はカーテンは閉めきられ、窓からの陽光もない。

 唯一の明かりといえば机の上に置かれた水晶玉の両脇にある燭台の火だけだ。

 老婆の荒い息づかいに火が揺れて、照らされた調度品が妖しく光る。

 「急ぎ、急ぎ備えねばなりませぬぞぉ……!」

 老婆は水晶玉を覗きこんでいる。

 すると水晶玉はだんだんと黒いオーラを(まと)いはじめた。

 「そ、その災いが、我らの国を滅ぼすというのか?!」

 その様子を見ていた身なりの良い男が狼狽える。

 「そ、そなたの言うとおり、その災いが隣国からの攻撃だとしたら我々はいったいどうすれば?!」

 「落ち着くのじゃ、大臣よ」

 静かに、だが鋭い言葉に大臣は押し黙る。

 「お、王女様」

 大臣が振り返ると、そこには美しいドレスを身に纏い、頭にはティアラを乗せた王女がいた。

 「お前が取り乱したら誰がわたくしを支えてくれるのじゃ。しっかりするのじゃ」

 「は、はっ、おっしゃるとおりです」

 まだまだ幼さが残る王女は、凛とした佇まいをし、老婆と対する。

 「して占い師よ、わたくしたちはどのようにして災いに備えるべきだろうか」

 「戦争に備えぇ、兵を集めるのじゃぁ……」

 「ふむ……」

 王女は少し考え込むように口元に拳を当てると、大臣のほうを向いた。

 「大臣よ、兵力の増強は進んでおるか?」

 「は、はい、王女様。兵士の訓練と募集を進めております」

 「うむ、そうか」

 「しかし、恐れながら、我がリーモ王国は長きに渡り平和な時代が続いておりました。なので、戦力の増強には今しばらく時間がかかりそうでございます」

 「本来なら喜ばしいことなのじゃがな……」

 王女は悲しげに目を伏せるが、すぐに凛々しい表情になると大臣に告げる。

 「来るべき戦争に備え、急ぎ兵力を強化するのじゃ。お父様がいない今、我々でリーモ王国を守り抜くぞ!」

 「はっ、仰せのままに王女様」

 大臣は一礼すると部屋の外へ飛び出していった。

 「さて……メリサ!」

 王女が名前を呼ぶと、燭台の火が届かない暗い部屋の隅から一人の人間がにじみ出るように現れた。

 中性的な顔立ちに黒い髪をしたその人は、動き易そうなピッチリとした黒い服を着ていた。

 「はい、ルルディ様。メリサはいつでもあなたのお側にいます」

 メリサはルルディの近くにくると(ひざまず)いた。

 「うむ、メリサ、お前にも頼みたいことがあるのじゃが、その前にそのカメラをしまえ」

 メリサはカメラを構えたまま跪いていた。

 メリサの目が光り、シャッターを切る。

 「や、やめろ、やめてぇ、ろーあんぐるで撮らないでぇ!」

 スカートをおさえて怯えるルルディを床を転げるようにして下から撮影を試みるメリサ。

 フラッシュが炊かれるたびに部屋が明るくなる。

 「いい加減に、せい!」

 やがて一瞬の隙をついて蹴りあげた足がメリサの腹部に当たり、メリサはようやく大人しくなる。

 「あ、ありがとうございますルルディ様……」

 「はぁ、はぁ、はぁ。まったく、お父様もいったいどんな教育をこいつに施したのやら……」

 ルルディが息を整えているあいだにメリサは起き上がり、再び跪いた。

 「して、ルルディ様。ご用件は?」

 ルルディはその様子を見てため息を吐いた。

 「はぁ、まぁいい。メリサ、お前には城の外の様子を見張っていてほしい。何かあればすぐに報告するように」

 「それではルルディ様から離れてしまうのですが」

 「うむ、そうだ」

 「そのあいだのお世話は?」

 「他のメイドがやってくれる」

 「そんなっ! おトイレのお世話は私目の使命だったはずでは!?」

 「そんなことまでお前に任せたことなどないわ!!」

 尚もだだをこねるメリサにルルディは怒りをあらわにする。

 「いい加減にしないと、わたくしの側はおろか、城への立ち入りを禁止するぞ! とっとと行け!」

 「はっ、仰せのままに」

 ルルディとのやり取りにメリサはようやく満足したのか、暗闇に融けるように音もなく部屋から出ていった。

 「ぜんぜん仰せのままじゃない……」

 ルルディの疲労のこもった呟きが部屋の暗闇に吸い込まれていく。

 その一部始終を見せられていた占い師の老婆は所在なさげに見つめているだけだった。



 体の感覚が戻ってきて、地面に降り立つと、マモルはゆっくりと目を開いた。

 さっきまで学校の中にいたはずなのに、今は完全に外だ。

 森の中だろうか。

 人の気配はなく、周りは木々が生い茂っている。

 「ここが、異世界?」

 周りを見回しても判別できるものがなく、マモルは疑問を呟くことしかできない。

 「そうです、無事に転移できましたよマモル」

 隣にいたココロが声をかけてくる。

 ココロは光を失ったライゼストーンをしまうと、マモルの正面に立ち、顔を覗き込んだ。

 「どうでしたかマモル、ライゼストーンの転移を経験した感想は?」

 「うーん、なんだか不思議な感覚だったね。立ってるような水の中に浮いているような……」

 「そうですか、まぁ、私も初めての時はそんな感じでした。ふわふわ浮いているような」

 ココロはクスクスと笑う。なぜだか少し上機嫌だった。

 「なんだか楽しそうだね?」

 「……そうですね。まさかマモルと異世界にまで一緒に行けるとは思っていませんでしたから、なんだか嬉しくて」

 「そっか、それもそうだね」

 マモルもつられて微笑む。

 まさか自分が異世界に行くなんて考えもつかないだろう。

 こうやってココロとミヅキと共に――――

 「あれ、そういえばミヅキは?」

 もう一人の同行者であるミヅキの姿が見えない。マモルが辺りを見回すと、ミヅキは近くで何やら機械を操作していた。

 少し大きめの電話の子機みたいで、アンテナが伸びている。トランシーバーだ。

 スピーカー部分からは雑音が鳴っていた。

 「なにやってるのミヅキ?」

 「あっ、ちょっと待ってくださいねマモル先輩」

 ミヅキはダイヤルを回しながら何かを調整している。

 雑音が大きくなったり小さくなったりして、やがて声が聞こえてきた。

 『ザ……ま……か……ザザ……。ミヅキ……ん、ザ……ザザザ……こちらファーネで……。ミヅキさん、聞こえますか?』

 「やった、繋がった」

 ミヅキが小さくガッツポーズをする。

 「こちらミヅキです。ファーネさん応答願います」

 『はい、こちらファーネです。やりましたねミヅキさん』

 「いやー、ファーネさんのおかげですよ。ありがとうございます」

 聞こえてきたのはファーネの声だった。

 ミヅキとファーネは喜びを分かち合っているようだ。

 「すごい、ファーネさんと通信できているんですか?」

 ココロが驚いた声をあげていた。

 「そんなにすごいことなのココロ?」

 「はい、今まで異世界間を跨いでの通信は確立されていませんでした。それをあんな小さな機械で成し遂げてしまうなんて」

 今まで異世界と異世界を結びつけ、会話するためにはライゼストーンのマーキングを利用するしかなかった。

 しかし、それには時間と労力を要する。

 基本的に異世界に来る理由はティポスからの脅威を排除するためだ。

 その間にマーキングをしやすい場所や物を発見できれば良いのだが、ティポスがうろついている中でのマーキングは難しい。

 なので、連絡の取れない状態が長く続いてしまうことがあった。

 だが、ミヅキのおかげでそれが解消されつつあるようだ。

 「まぁでも、近くにライゼストーンがある時限定ですけどね。今はココロさんのライゼストーンを基地局代わりにしてなんとか繋いでいる状態です」

 『ティポスが多い所や、世界に満ちる想造力(イメージ)が乱れている所では使うことができませんね』

 限定的な連絡機ではある。

 いつでも使えるとは思わないほうが良さそうだ。

 「でも、逆に言えば、安全な場所に行けばファーネさんからのアドバイスを聞けるってことだね」

 マモルの言葉にトランシーバーの向こうから微かに笑ったのが聞こえる。

 『ふふっ、そうですね。マモルさんの言う通り、何か聞きたいことがあったら連絡してきてください』

 「そっちからも連絡があったときは履歴が残るようにしてありますからね」

 『わかりました。ではみなさん』

 ファーネの声色が少し真剣になる。

 『今回みなさんにはそちらの世界の調査とティポスの侵攻度を調べてもらいます。協力者を見つけて世界の抵抗力を上げられれば二重丸ですが、決して無茶はせずに、無理だと判断したらこちらに連絡を入れるか安全な場所でライゼストーンの想造力(イメージ)が溜まるまでじっとしていてください』

 「はい、了解です」

 ミヅキが返事をする。

 『それともうひとつ、最近、他の隊員からの報告でティポスを率いている者がいるのを見たとの情報がありました』

 「率いる、ですか……」

 ココロが不安そうな声をもらした。

 『まだ確かな情報ではありませんが用心してください』

 「了解です」

 『こちらからは以上です。みなさん、くれぐれもお気をつけて』

 「はい、ありがとうございました」

 ミヅキは返事をすると、トランシーバーの電源を切った。そのままショルダーバッグにしまう。

 「何か不穏なことを言っていたね」

 マモルはココロのほうを向いた。

 やはり、ティポスに関して一番詳しいのはココロだからだ。

 「そうですね、ティポスに侵食されて操られる状態とは違うみたいですけど……」

 侵食された人がティポスと共に襲ってくることはあるらしいが、率いるという言葉は正しくないだろう。

 「そもそもティポスは現象のようなものと考えられてきたので、人為的にティポスを出現させるみたいな話は聞いたことがありません」

 「じゃあ、考えてもしょうがないですね」

 話を切り上げるようにミヅキが声をあげた。

 「これからどうします?」

 ミヅキの疑問にもココロが答える。

 「人を探しましょう。街や村を探して、まずは聞き込みですね」

 「了解でーす。じゃあココロさん、マモル先輩、行きますよ!」

 気分が高揚しているミヅキが歩き出してしまう。

 早く探索に行きたくてしょうがないようだ。

 「僕たちも遅れないようにしないとね」

 「……そうですね」

 一抹の不安は残るものの、止まっていては何もわからないままである。

 マモルとココロもミヅキの後を追いかけて歩き出した。



 森の中を歩いていると街道のようなものを見つけたので道に沿って行く。

 まだそれほど歩いたわけではないが、通行人はおろか小動物にすら出会うことはない。

 気候は穏やかで散歩するにはちょうど良い陽気だった。

 「なんか、せっかく異世界に来たのにファンタジーなことってなかなか起きないですねー」

 ただ歩くだけの行為に早々に飽きてしまったミヅキがぼやいた。

 「襲われないに越したことはないですよ」

 ココロの言う通り、ここが治安の良い場所かどうかもわからないのだ。

 山賊や盗賊、野生動物やモンスターなんかに出会う可能性も十分に考えられる。

 「まぁ、気持ちは分かるけどね」

 マモルもミヅキ同様に多少なりファンタジーに憧れを抱いていた。

 剣と魔法が当たり前の世界に夢や憧れを抱くのは誰でも一度はあることだろう。

 そして、それが目の前にあるかもしれないのだ。期待せずにはいられない。

 「とりあえず、楽しむのは何か情報を得てからだね」

 「うー、分かってますけどー」

 マモルは自分の気持ちを押さえてミヅキを諭そうとするが、ミヅキはくちびるを尖らせて返事をする。

 「なにかイベントがあってもいいじゃないですか。こう宝箱が落ちてたり、お使いを頼まれたり――――」

 その時、近くで金属がぶつかり合うような音が聞こえてきた。

 「誰か襲われてる人を助けたり……」

 突如鳴り響いた音に、ミヅキの声が小さくなっていく。

 「マモル、ミヅキ、この先で誰か戦っているみたいです!」

 ココロの緊張した声に、マモルも身構える。

 金属音は街道を少し外れた森の中から断続的に聞こえてきた。

 「……そうみたいだね。とりあえず、慎重に近づいてみよう」

 マモルが先頭を歩き、ココロとミヅキが後に続く。

 茂みを避けて進んで行くと、少し開けているところが見えた。

 マモルたちは茂みの側にしゃがみこみ、ゆっくりと顔を出す。

 視線の先には斧を振り回す大柄な男性と、爪を構えて男性を囲っているティポスの姿が見えた。

 男性は怪我をしているのか、時折ふらつきながら斧を振るっている。

 「大変だ、助けに入ろう」

 マモルの言葉に反対するものはいなかった。

 「ようやく、コレを試せる時がやってきました!」

 ミヅキがカバンからピンク色の銃を取り出す。

 マモルも想造力(イメージ)を集中させて、盾の想造武具(イメポン)を具現化させた。

 「ココロとミヅキはあんまり前に出過ぎないようにね」

 「わかりました、マモルも気をつけてください」

 ココロも(ぎょく)の想造武具を具現化させながらマモルを心配する。

 「うん、わかったよココロ。それじゃ行くよ!」

 マモルは茂みから飛び出すと、一番近くにいるティポスに向かって走りだした。

 「くらえ、反射攻撃(リフレクション)!」

 ティポスに盾が当たると同時に想造力(イメージ)を解放する。

 弾き飛ばされたティポスは他のティポスを巻き込み消失していく。

 突然現れた乱入者にほとんどのティポスはマモルの方へと意識が向いた。

 ティポスたちがマモルへと群がる。

 「やらせません!」

 そこへココロの玉が飛んできた。

 ココロが大きく腕を振ると、玉も弧を描いてティポスに襲いかかる。

 「当たれ、ケミカルバレット!」

 ミヅキの構えた銃から2発の試験管が射出される。

 試験管はそれぞれティポスに命中すると小爆発を起こした。

 「うわ、すごい威力ですね……」

 ミヅキの隣にいたココロが呆気にとられる。

 ティポスはすぐに消失してしまい、跡も残らない。

 「これでも爆発が広がらないように調整しているですけどねー」

 シリンダーに試験管を装填しながらミヅキは答える。

 ミヅキの銃には4つまで試験管を装填できるが、撃ち尽くしてからの装填などはしないようにしている。

 「やろうと思えば辺り一面を火の海にすることもできますけど?」

 「絶対に止めてください!」

 ココロたちのやり取りを聞きながら、マモルは安堵する。

 (これは心強いね)

 後ろからの援護に期待しながら、マモルもティポスを減らしていった。

 「これで最後です!」

 最後の一体をミヅキが倒して、ようやく静かになった。

 「初勝利ですー!」

 「やりましたねミヅキ!」

 ココロとミヅキがハイタッチをして喜んでいた。

 ティポスは多くいたが、安定して戦えたようだ。

 「二人とも大丈夫そうだね」

 マモルは一息つくと、男性のほうを向いた。

 男性は地面にうつ伏せで倒れていた。

 「うわ!? 大丈夫ですか!?」

 慌ててかけ寄ると男性は小さく呻いた。

 先ほどは後ろ姿で、しかも外套をしていたのでよく見えなかったが、近くで見ると大柄な体に見合う体つきをしており、丸太のように太い腕がよく見えた。

 特に怪我をしているところは見受けられないが、動こうとする様子はない。

 「どうですかマモル?」

 ココロたちも来たようだ。

 「うん、見た感じは怪我してるようには見えないけど……」

 「う、うぅ」

 「あ、気がつきましたか?」

 マモルが容体を診ていると、男性に反応があった。

 首だけ動かしてマモルを見る。

 「おぉ、どこの誰だか知らないが助かったぜ……」

 「それはいいんですけど、大丈夫ですか? どこか怪我でもしてるとか?」

 男性はうつ伏せのままで、起きあがろうとはしない。もしかしたら動けないほどの怪我なんだろうか。

 「いや、怪我してるわけじゃねぇんだが少し辛くてな……」

 その時、男性のお腹から大きな音が響いた。

 マモルたちの目が点になる。

 「助けてもらっておいて悪いんだが、ついでになんか食いものを恵んじゃくれねぇか……」

 マモルたちは顔を見合わせる。

 「それじゃあ、少し早いですけどお昼ごはんにしましょうか」

 ココロの提案で男性の介抱をしながら昼食となった。



 「マモル先輩、そっち持ってくださーい」

 「おっけー」

 ミヅキがカバンから取り出したレジャーシートを二人で広げていく。

 「ねぇミヅキ、朝から気になっていたんだけど」

 「なんですか?」

 「そのカバン、なに?」

 ミヅキが肩から斜めに提げているカバンを指さしてマモルは訊ねる。

 少し膨らんだ三日月型のショルダーバッグだが、そこまで大きな物ではなく、朝に詰めこんだお弁当やこのレジャーシートが入るものではない。

 「そういえばマモル先輩には言ってなかったですね」

 ミヅキはそう言うと見せびらかすようにカバンを持ち上げた。

 「これはマモル先輩の盾と同じで、私の想造武具(イメポン)です」

 「そ、ソレが?」

 これまでいくつかの想造武具(イメポン)を見てきたマモルだったが、これはまた異質な物なんだろうと思った。

 「そう、コレがです。このカバン、なんと中の広さが小さな倉庫くらいあるんですよ」

 「なるほど、そういうことなんだ」

 だからカバンよりも大きな物をしまうことができたのだ。

 「まぁ、開け口が大きくならないので入れられる物は限られますけど、収納量はかなりの物です。これがどういうことなのか分かりますか?」

 「うん? 便利そうではあるけど……」

 マモルが普通に感想を言うと、ミヅキは指を振った。

 「ちっちっちっちっ、甘いですね先輩。このカバンはズバリ言うところの!」

 「……ところの?」

 「RPGとかにある、あの有名な『ふくろ』と同じ物なんですよ!」

 「そ、そうか!」

 ゲームをしていて思うことの一つとして挙げられることがある。

 それが『そんな大量のアイテムをどこにしまっているんだ?』ということだ。

 野暮なことではあるが、何種類もの武器や防具を運びながら旅をするのはもちろん無理なことである。

 それを『ふくろ』や『そうこ』と言ったものに入れておくことがゲームでは主流なのだ。

 「きっとゲームの中の冒険者たちもそういう不思議な『ふくろ』を持っていたんだろうね」

 「そうですね、そんな一つの奇跡が私の手のうちにあるなんて感慨深いです」

 「良いものを手にしたねミヅキ」

 「マモル先輩なら分かってくれると思いました」

 昼食の準備を進めながら互いに微笑み合って二人は思いを共有する。

 「よし、こんな感じかな。おーい、ココロー」

 準備を終えて、男性の近くで介抱していたココロを呼ぶ。

 ココロはマモルに気がつくと、男性の体を支えながら近づいてくる。

 男性はふらつきながらゆっくりと歩き、レジャーシートに腰を降ろした。

 「大丈夫だったココロ?」

 マモルは大柄な男性を連れてきたココロを心配する。

 「はい、私は大丈夫です。この方、見た目よりもしっかりと歩いていたので」

 「ふらついているように見えたけど……」

 「なんというか、ふらついて歩くことに慣れているような?」

 「うん?」

 それはいったいどういうことなのだろうか。

 「あと、なんだか夜のマスターと似たような香りがしました」

 「おやっさんと?」

 ますます分からなくなっていくマモルだが、真相はすぐに明らかになる。

 「おぉ、ごちそうじゃねぇか……」

 広げられたお弁当を前に男性の目が輝きだす。

 重ねられたお弁当の中身は和洋折衷、様々なおかずが綺麗に敷き詰められており、一番下の段にはたくさんのおむすびが入っていた。

 マモルたちもレジャーシートに座る。

 「たくさんあるので、ゆっくり食べてくださいね」

 ココロがおかずを紙皿に取り分けて男性の前に差し出す。

 男性はそれを受けとると、肉じゃがを一つ割りばしで掴み口に運ぶ。

 咀嚼(そしゃく)して飲み込むと、目が見開いた。

 「う、うめぇ! うめぇよコレ!」

 美味しそうに食べる男性を見て、マモルたちが微笑んだのもつかの間。男性は腰に付けていた瓢箪(ひょうたん)を掴むと栓を開けて中身を呑みだした。

 「んぐんぐ、ぷはー。酒によく合うぜ!」

 男性は一気に上機嫌になり食事を再開する。

 飲み食いするスピードが早い。

 マモルたちが呆気にとられている中で最初に口火をきったのはミヅキだった。

 「お、オジサン、もう大丈夫なんです?」

 「んぐんぐ、ぷはー。おぅよ、助けてもらった上にこんなごちそうまでいただけるなんて、ありがとな!」

 「それは、よかったですね……」

 「まぁ僕たちもいただこうか」

 「そうですね、いただきましょう」

 マモルたちも手を合わせて食べ始める。

 「それにしてもすごい量だな。アンちゃん、そんなヒョロい見た目で大食漢なのかい?」

 「いや、そんなことはないですけど」

 「じゃあそっちの色白嬢ちゃんか?」

 「いえ、私もそんなに……」

 「なんだ、じゃあそっちのインテリ嬢ちゃんか」

 「とりあえず、『漢』じゃないですよ……」

 「がっはっはっはっ、それもそうか!」

 豪快に笑いながら瓢箪を煽っていく。

 「そういえばオジサンはなんで――――」

 ミヅキが男性に訊ねようとすると、男性は口元を腕で拭いミヅキのほうを向いた。

 「オジサンオジサンってなぁ、俺には『ヴノ』って立派な名前があるんだぜ」

 「そうですか。ちなみに私はミヅキ、白い(かた)がココロさんでヒョロい(かた)がマモル先輩です」

 「ヒョロい……」

 ヒョロいと言われ続けて少し落ち込むマモル。

 「ま、マモル、コレでも食べて元気出してください」

 ココロから取り分けられた玉子焼きを食べる。

 甘味が強く、マモルの好きな味だ。

 「ああ、甘くて美味しい……」

 「よかった、それ私が作ったんですよ」

 「そっか、ココロも腕を上げたね」

 「えへへ」

 「おふたりさん、ちょっと静かにしてもらってていいですか」

 ミヅキはひとつせき込むと、再びヴノのほうを向いた。

 「で、ヴノさんはあんなとこでなんでティポスに襲われていたんですか?」

 「あの黒い奴ら、ティポスっていうのか。まあ、話せば長くなるんだが、俺はな、ちょっと遠くの山の中にある集落で暮らしてたんだ」

 「ふむふむ」

 「でよ、腕で自信があったからよ、集落の用心棒みたいなことをしてたんだよ」

 「はいはい」

 「けどよ、集落は平和でやることがないから毎日酒を呑んで英気を蓄えていたわけよ」

 「……ん?」

 「そしたら長に追い出されちまってな」

 「でしょうね」

 「都会に行けば養ってくれるやつがいないかと思ってここまで来たってわけよ。そしたらあの黒い奴らを見つけてな。軽く蹴飛ばしてちょっかい出したらいっぱい増えやがってな。こっちは酒しか呑んでいなかったからちょっと手こずっちまったってわけよ。ひでぇ話だろ?」

 「たしかに酷いですね……」

 訳を聞けば聞くほど自業自得な行いにミヅキはため息を吐いた。

 「ちょっと待ってください」

 話を聞いていたココロが手を挙げる。

 「都会ってことは、この近くに街があるんですか?」

 「ん、ああ、そこの街道をもうちょい行けばリーモ王国って場所に着くぜ。人の往来が多い観光地って話だぜ」

 ヴノは持っていた箸で道を示す。

 それはマモルたちが歩いていた方角だった。

 ココロはマモルのほうを見る。

 「目的地が決まりましたね」

 「うん、これを食べ終わったらリーモ王国へ向けて出発だ」

 リーモ王国へ行けば何か情報を得られるであろう。

 ティポスのことで困っていることがあれば手助けをし、協力関係を築かなければならない。

 マモルたちはまだ見ぬリーモ王国へ思いを馳せながら、ヴノが猛烈な勢いで減らしていくお弁当に手を出していった。

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