黒縁眼鏡三つ編み文学少女最強説!!
16歳の4月新学期。
無事に高校2年生に進級できた鬼堂ひかりは、今年こそ新入生が入ってきて文学話に花が咲く・・・そんな期待を胸に「文学研究同好会」の部室にいた。
春風の優しい風に吹かれ、ひかりは『芥川龍之介 藪の中』を読みながら静かなひとときを過ごしていた。
が、その静けさとは真逆の「ガラッ!」と無機質な扉を開ける音が部室内に響いた。
時間を邪魔された・・・ひかりは扉の音がするほうを鋭く睨んだ。
「ハァ・・・ハァ・・・す・・・すまん!かくまってくれ!」
睨んだ先には、グレーの縦縞が入った如何にも新調した様なスーツを着た男性が、部室の入り口付近で下を向いて息を切らしながらうつむいていた。
生徒にしては、身なりが学ランではないし
先生にしては、午後の南西からの光を反射して光る左耳のピアスがやけに目立ち過ぎて、その答えには至らない風貌だった。
見知らぬ男性は息が多少直ったのか、ひかりのほうを向き少しニヤけるように笑みを浮かべた。
「な・・・な・・・」ひかりが戸惑って最初の一言が出ずにいたが、男性は返事を聞かず、ひかりとの距離を歩くことで縮めていった。
このままでは、何かされる!そう感じたひかりは、怖がるかのように目をつむって椅子に座りながらも、身体を強ばらせた。しかし、10秒くらい経過しても何も起きないことに、不思議と思い恐る恐る目を開けると男性は目の前から消えていた。
「な・・・何?今の」
ひかりがそう呟いた後、ひかりの座っている背もたれの高い椅子の後ろから「シー!」という先ほども聞いた男性の声が耳に入ってきた。
ひかりは、その場から動かないように甲高い声で男性を威嚇する。
「なっ・・・なんですか!あなたは?」
ひかりの強い口調とは違い、男性は周囲を気にするかのように小声で話す。
「関係者なんだ。助けてくれよ。」
「関係者?・・・私にはそうは見えませんが!不審者で通報しますよ。」
そう言った途端、ひかりの椅子が180度時計回りで回転し、回転した先には片膝をついた男性が待っていた。見知らぬ男性は右手の人差し指を自分の唇に触れるように立て、その指でひかりの会話を止めるかのように、ひかりの唇に軽く押し当てた。
驚きなのか、ときめいたのか、ひかりは自分の意思とは関係なく心臓が高鳴った。
それと同時に、生臭い「ぐちゃ」という低音が現実に戻すかのように外部から聞こえてきた。