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短編

『エクセラマクロ』の宮廷魔術師、自動化マクロで帝国を支えていたのに「自動化なんてけしからん!」と老害たちによって追放。よその国にマクロを提供したら一気に超便利国家になり、追放した国は一気に不便国家に

作者: 佐藤謙羊
掲載日:2020/10/25

「ここにおるワードナは、エクセラマクロなる魔術を用い、帝都内の計算を自動化しておるという!

 これは、人間の能力を軽視しておるも同然であり、我らが人間に対する冒涜である!」


「それだけではない! ワードナはエクセラマクロで、帝国の人的リソースの管理まで行なっていたというではないか!

 魔術は我ら人間が使うもので、魔術が人間を使うなどとは、言語道断!」


「ワードナはエクセラマクロを用い、人間を堕落させようとしているのだ!

 そしてゆくゆくは、この帝国を支配しようとしているに違いない!」


「我ら元老院は、宮廷魔術師ワードナの追放を要求するっ!」


 帝国の年寄りどもは、自分の利権を守るために、俺の魔術を邪悪なものとして糾弾。

 そして俺は帝国外へと追放されてしまった。


 俺は帝国外の国をあてもなくさまよい、ある日、行き倒れたところをひとりの少女に救われた。

 少女はピリアといって、若くして両親を失い、小さな武器屋をひとりで切り盛りしている。


 彼女は今日も、夜遅くまで居残り仕事をしていた。


「ピリア、まだ起きてたのか」


「あ、ワードナ。キミこそまだ起きてたの?

 もうちょっとで今日の売上の計算が終わるから、あとは仕入れのリストを作ったら寝るよ」


 ピリアは長い髪にハチマキをして、追い込みをかける受験生のように台帳とにらめっこしている。

 これが繁忙期ならともかくほぼ毎日なのだから、俺は彼女が身体を壊さないか心配だった。


 だから、長いこと使わなかった力を使うことにした。

 俺は帝国のときには肌身離さず身に付けていたガントレットを左手に付け、彼女の隣に座る。


「なに? どうしたのワードナ?」


「ちょっとどいてみろ、俺が手伝ってやる」


「え? ワードナって台帳を付けたことがあるの?」


「いや、付けたことは一度もないが、付けさせるのは得意だ」


 「え?」と不思議そうにするピリアを横にどかし、俺は机へとむかう。


 ガントレットに嵌められた石板の上に、魔法文字が浮かび上がった。

 指で触れると文字はずらずらとスクロールしていく。


「自動計算の術式は……あった、これだな」


 俺は帝国で様々なことをエクセラマクロで自動化し、その術式をガントレットにストックしてある。

 自動計算の術式に触れると、ガントレットの指先がほのかに光る。


 邪魔なものを片付けた机の上に指を走らせ、魔法陣を描いた。

 薄暗い部屋の中に光がたちのぼり、ピリアは「わぁ……」と感嘆の声をあげる。


「ワードナって魔術師だったんだ」


「ああ、もう引退するつもりだったんだがな」


 俺は答えながら、魔法陣の上に開いた台帳とインク壺を置く。

 あとは羽根ペンを、魔法陣の上に浮かべてやれば……。


 ……ふわり。


 羽根ペンは鳥の翼に戻ったかのように、ふわふわと空中に浮く。

 ペン先は氷の上を滑るかのように、滑らかに台帳の上にインクを刻みはじめた。


 ガリガリと音をたてて、どんどん台帳の欄が埋まっていく。

 まさに魔法といった光景に、ピリアは「うおっ!?」と目を剥いていた。


「ぺ、ペンが勝手に動いてる!? しかもこれ、計算してくれてるの!?」


「ああ、台帳の計算をエクセラマクロで自動化したんだ」


「でも、ソロバンとか全然使ってないよ!? 本当に合ってるの!?」


「疑うなら、試しに検算してみたらどうだ」


 ピリアは机の端にあったソロバンを手に取り、リストの中のいくつかと照らし合わせながらパチパチと玉を弾く。

 そして「ぜ、全部合ってる……」と唖然としていた。


「魔術っていうと、火の玉を出したり怪我を治したりするのは知ってるけど……。

 こんな魔術、初めて……!」


「地味だが便利だろ?」


「便利なんてもんじゃないよ! ああっ、あと1時間はかかるはずの計算が、もう終わっちゃった!?」


 まるで朝起きたら、貯めていた夏休みの宿題が全部できていたみたいに、信じられない様子で台帳を眺めるピリア。


「この机には自動計算の魔法陣を書いておいたから、これからはぜんぶエクセラマクロがやってくれるぞ」


「ほ、本当!? それって夢みたい!

 でもこれで、来週の仕入れを考えることができるよ!」


「よし、それじゃあソイツも自動化してやろうか」


「えっ、仕入れまで考えるのは無理でしょ!?

 だってどんな物を仕入れれば売れるかなんて、魔術でわかるわけがないし!」


「ああ、エクセラマクロというのは人間ほどの思考はできない。

 だが、大量のデータから、ひとつの答えを瞬時に導き出すことができるんだ。

 この店の過去の台帳はあるか?」


 するとピリアは、母屋の離れにある倉庫に案内してくれる。

 この店は500年ものあいだ続いてきた歴史ある店で、500年間の台帳がギッシリと詰まっていた。


 俺は、彼女がひとりになってもなお、店を潰さずに続けてきた理由がわかった気がした。


 しかし感傷に浸っている場合じゃない。

 俺はガントレットを使い、倉庫のまわりをぐるりと囲むように魔法陣を描いた。


 そして、台帳を書いていた母屋の一室へと戻る。

 羊皮紙の上にはすでに、『来週の仕入れのオススメ』が書き出されていた。


 その書きかけを覗き込んで、ピリアが読み上げた。


「えーっと……来週は耐毒装備と解毒ポーションが、あればあるだけ売れる……って書いてあるよ。

 まさかぁ、耐毒装備も解毒ポーションも、このあたりじゃ滅多に売れないよ」


「待て、選定理由が下に書かれていってるぞ」


「なになに、来週は100年にいちど、ポイズンスパイダーが異常発生する週……。

 過去500年、毎度起こってきたこと……。

 発生すると作物は壊滅的被害を受け、解毒が間に合わなければ死者も多数に……って、本当に!?」


「エクセラマクロは、倉庫にあった台帳をすべて調べて、この答えを導き出しているんだ。

 きっと来週はポイズンスパイダーで大変なことになるのは間違いないだろう」


「もしそうだとしたら、商売なんてやってる場合じゃないよ!

 耐毒装備と解毒ポーションをありったけ仕入れて、みんなに配らないと!」


 ピリアはエクセラマクロのオススメを全面的に信じ、近隣の街にある耐毒装備と解毒ポーションを、借金をしてまでありったけかき集めた。

 ギルドにもポイズンスパイダーの発生を報せ、撃退要請をする。


 ピリアは街の人たちからの信頼が厚いようで、多くの冒険者が彼女の考えに賛同してくれた。


 そして俺は気が進まなかったのだが、ピリアは隣にある帝国配下の街にも報せに行った。

 しかし帝国のヤツらは、誰ひとりとして信じなかった。


「エクセラマクロ? そりゃ帝国じゃ、悪魔の術とされてるんだよ!

 帝国の各地で使われてたけど、ワードナの追放といっしょにほとんどが廃止されたんだ!」


「エクセラマクロが教えてくれたって、そんなことあるかよ!

 だって、どんな高位の魔術だって未来は占えないんだぜ!」


「やっぱり人間が自分たちで考えて、行動するのが何よりも正しいんだ! そうに決まってる!」


 そして次の週に、運命の時はやってくる。

 山のほうから有象無象ポイズンスパイダーたちが、死の波となって押し寄せてきたのだ……!


 しかしポイズンスパイダーの群れは、俺たちのいた街を避けるようにスルーしていった。

 なぜならば、ギルドの連中がクモ避けの薬剤を撒いていたうえに、入り込んだクモも耐毒装備で固めた連中が撃退していたからだ。


 となると当然、クモたちは帝国の街に襲いかかる……!


 あとは自業自得の地獄絵図となったのは、言うまでもないだろう。


 そしてピリアは領内の被害を食い止めた功労者として、国王から勲章をもらった。

 褒美として100年に渡る税制優遇を受けたうえに、彼女の武器屋は多くの客が訪れるようになった。

このお話が連載化するようなことがあれば、こちらでも告知したいと思います。


それとは別に「面白い!」と思ったら、下にある☆☆☆☆☆からぜひ評価を!


「つまらない」の☆ひとつでもかまいません。

それらが今後のお話作りの参考に、また執筆の励みにもなりますので、どうかよろしくお願いいたします!

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― 新着の感想 ―
[良い点] 全体的に軽い感じでさらっと読むことが出来た。 [気になる点] 短編で終わらすには惜しい気がする。 [一言] 長編はきついかもしれないが、中編なら楽しめそうなので続きを書いてください。
[気になる点] ポインズスパイダーと書かれている部分があるのですが ポインズスパイダーは新種ですか?亜種ですか? それとも単なる間違いですか?
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