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いわゆる進路指導的なもんです

湧き水がある所が、この洞窟の隠れ家の台所的な場所だったらしい。

構造と設備を考えると、ちょっとした要塞にも見える。まぁ、今回のことを考えると、昨日今日で考えられたことでは無いのだろう。護衛も抱き込んでいる辺り、報酬が中途半端ではないはずだ。ただの賊ではなく何かしら大きな組織が絡んでいる事は容易に想像がつく。

少年を、作業台(調理用と思われる)にねかせると、ぬらした布で体を軽く拭いてやった。

大量の血が流れ出たせいなのか、顔色が恐ろしく悪い。まぁ、死んでいるので顔色が良かろうが悪かろうがどうでもいいことなのだが、

「さて、と」

念の為に結界を張り、首をコキコキ鳴らしながら少年を見る。

「使えるはずなんだよね、この世界がアレの平行世界だとしたら」

少年の体を仰向けに寝かせて、呼吸を整える。

マスクを外して、手袋を外す。

「さて、やってみますか。 実験台みたいで申し訳ないけど、根拠の無い自信だけはあるんだよね」

黒い魔道士は、なにかをブツブツと呟き始める、

「----創世の女神 --- の名において……」

柔らかい緑色の光が少年の体をつつみ始めた。

それを見て、手応え感じたのか、黒い魔道士の口元がほころぶ。

「蘇生」

緑色の光が強く輝くと、やがてゆっくりと光が終息して行った。

「出来たな」

黒い魔道士は、満足そうに笑うと、改めて少年を見つめた。

生気を取り戻した顔は、本来の色を取り戻し、呼吸の音が聞こえてきた。

やがて、少年は目を開き、目の前にいる黒い魔道士を凝視した。

「あ、あーーーー!」

ガバッと起き上がり、黒い魔道士の肩をつかむ。

「トーマくんのお母さん」



お互いの顔を見て、思わず無言になる。

そして、

「あーーーー」

と、頭を抱えたのは黒い魔道士であった。

「見覚えがあるなぁ、とは思ったんだよね」

年甲斐もなくひらきなおって、作業台の上に腰を下ろした。

「えーっと、あきらくん だよね?」

気まずすぎて、正面から話ができない。

「はい」

あきらも、横目で黒い魔道士をみる。

家で、親と向かいあわせで会話なんてしない。思春期だし、話すことないし。

「トーマくん、いないんですか?」

なんとなく、まずいかなぁとは、思ったけれど何を言っていいのかわからず、思わず口にしてしまった。

「うん、いない」

あっさり答えられて、拍子抜けした。口にしてしまってから、相手の反応が怖くて横が向けなかった。ほんの僅かな時間だったけれど、一瞬で疲れた。

「一緒にあそんでた?」

「いえ、約束はしてましたけど」

「そうかぁ」

「お母さんと一緒じゃなかったんですか?」

「いや、寝てたんだ」

「そうなんですね」

「ログインしていたかも分からないからね」

「ギッズタイムを使って遊ぶんで、時間が来てすぐにログインしてたんです」

「そうか」

「でも、集合場所に集まっていたわけじゃないんです。ログインして、気がついたらこっちにいたって感じで」

「なるほどね」

天井をみて、足をブラブラさせている仕草は、子どもみたいだ。ゲームが好きで、小さい頃はよく取扱説明書を読んでもらったり、サポートしてもらったりしていた。

トーマくんのお母さんを、みんな羨ましがっていた。なにしろ、ゲームばっかりして、とか、1日30分よ、とか宿題してからゲームしなさい。なんて言わないから。

トーマくんのお母さんは、ゲームは一日30分とか言ってたら、クエスト終わらんわー、とか、宿題なんかゲーム終わってからにしろ、とか言ってくるのだ。

子どもからしたら実に羨ましいお母さんだ。


で、そのお母さんが目の前にいるのだが、ゲームでは無いのだが、ゲームのような、それでいてゲームのような格好をしている。

自分もだけど。

「他の2人はヒロシくんを追いかけて行ったよ。ヒロシくん、君が死んじゃったのダメだったみたい」

「はぁ、そーですか」

返事がしずらい、今生きてるし。

「戻り玉と聖水渡しといたから、そのうち戻ってくると思うけど」

よっ、と作業台からとびおりると、トーマくんのお母さんは、あきらに向き直った。

「悪いんだけど、あの3人には合わないで欲しい。私が蘇生できると知ったら、絶対無茶をする」

言われてあきらは黙って頷いた。

それは、わかる。

「ギッズのくせして、っーか、ギッズだからなのか、めちゃくちゃなんだよね。状況も確認しないで行動するし、他力本願すぎるし、お調子者なんだろーね、あの子は」

言われて、まぁ、否定することも無い。だいたいそーだし、ヒロシたちは、いわゆるキッズプレイヤーそのまんまで、自制がきかないのだ。

「あとさー、君、課金者でしょ?」

トーマくんのお母さんは、そう言うと、あきらの装備をつついた。

「はい」

苦笑いしながら、返事をする。

だから、なのだ。

「課金者だから、前に押し出されたんでしょ、あの子たちと装備が違うもんね。 っても、この世界の人から見たら、みんないい装備してるんだけど」

トーマくんのお母さんに言われて、あきらは自分の装備を見た。軽くて丈夫な鱗の鎧だ。それなりにお高いだろう。

「あの、質問なんですけど」

あきらは、トーマくんのお母さんに聞いてみた。

「はい、どーぞ」

「ボクの推測だと、ここはゲームの世界……に限りなく近い現実世界に感じます。だとすると、蘇生魔法は存在しないはずですけど?」

あきらが質問をすると、トーマくんのお母さんは、ニンマリ笑った。

「だいたい正解」

そうして、地面にあぐらをかいて座ると、あくまでも私の推測なんだけどね。と前置きをして話し始めた。


「まず、この世界があのゲームの世界とほぼ同じなのは間違いないと思う。はえている草木の感じとか、出てくる魔物とか、見覚えのあるものばかりだ。」

あきらは頷く。

トーマくんのお母さんは、話を続ける。

「で、肝心な事だけれど、この世界にもあのゲームにも、蘇生魔法は存在する。誰も、呪文を知らなかっただけ」

一瞬驚いた顔をしたあきらだったが、言われて納得した。だって、自分は蘇生してもらったのだ。

「じゃあ、トーマくんのお母さんは呪文を知っているんですね」

「そ、知ってる。探し出したんだ」

ものすごーく自慢げな顔をして、どやっているのがなんだか良く似合う。

「じゃあ、なんで普及しないんですか?」

素朴な疑問だ。

「いい質問だね。凄くいい質問だよ」

言って、トーマくんのお母さんは、ニヤニヤしている。

「呪文だけ分かっても、蘇生魔法は使えない。祈りの対象となる神の存在を知らなければ発動しないのさ」


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