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諸事情を踏まえて、今後を考えます

公女は、動き出した冒険者たちを見て、慌てて立ち上がった。

自分も、公女としてやらなくてはならないことかがある。襲われた馬車を探すと、いまだ無惨に馬車は街道脇に崩れていた。

繋がれていた馬は見当たらない。

逃げてしまったか、賊に他の場所に隠されたか、馬がなければ馬車は動かない。


しかし、公女は馬車の中に入り込んだ。

動かない馬車ではあるが、まだ中に何かが残っているようだ。

崩れた馬車の中を不安定な状態で見渡し、そうして、公女は深いため息をついた。

「使い魔まで……」

馬車の天井付近に、変わった色のシミがあった。

小物入れほどの大きさの出っ張りに、刃物が刺さったあとがある。

そこから、しみがひろがっていた。


実家である公爵家に、唯一取れる連絡手段が失われていたことに脱力感が襲ってきた。

冒険者たちにたのんで、早馬をしてもらうか、他の通行人を待つか、護衛の兵士がいなくなった公女は途方にくれるしかなかった。


が、

「これ、使うかい?」

いつの間にかに黒い魔道士が馬車の中に入ってきていた。その後ろで、メイドが不満げな顔をして覗き込んでいる。

大切な公女様と同じ空間に、得ないのしれない魔道士がいることが許せないのだ。たとえ、命の恩人であったとしても。

何か言いたそうなメイドの顔を見遣りつつ、

「よろしいのですか?」

公女は申し出を素直に受け取った。

「もちろん」

黒い魔道士は、使い魔を公女の手にそっと乗せた。

そして、馬車の扉を後ろ手で閉めた。

「あっ」

メイドが抗議をしようとしたようだが、もう声が聞こえない。

「悪いな、誰も信じちゃいないんでね」

黒い魔道士がそう言って公女の口に指を当てた。

喋るな。そういう合図だ。

「誰に連絡をとりたい?」

「お父様に」

公女は即答した。


公女も誰も信用していなかった。




使い魔を飛ばし、公女は、黒い魔道士のあとについて再び洞窟に入った。

冒険者たちが死体の選別をあらかた終えていた事に、労いの言葉をかける。

公女である自分にはできないこと。

金さえ積めばなんでもやる。とは聞くけれど、この中には、冒険者たちの仲間もいることだろう。

特に、あの少年たちはこういったことが初めてようだったし……

そんなことを考えながら、一人一人の確認して行くと、あまりのことに足が止まった。

護衛の兵士はみな、死んでいる。

死んでいるのだが、2人ほど、黒焦げになっていた。


黒焦げに。


つまり、雷に打たれたのだ。


「これは」


裏切り者がいたのだ。

だから、こんなにも都合よく襲われて、使い魔も殺されて殺されなかったのは女の冒険者たちだけだったのだろう。

移動速度も調整されて、襲いやすい状態にされていた。

なるほど、この状況では、誰も信用できない。


「使い魔を放ちました。救援が来るでしょう」

それを聞いて、冒険者たちは安堵したが、少年たちは身を寄せあって所在無さげに黒い魔道士を見ていた。

何かを言いたい。聞きたい。けれど、言葉にするのが恐ろしい。

そんな少年たちを見て、黒い魔道士が口を開いた。

「知っているとは思うけどらこの世界に蘇生魔法はないよ」

それを聞いて、少年たちの肩がピクリと動いた。1番反応が強かったのはヒロシ。

顔をゆがめて、口が大きく開く、続いてゆっくりと声が出てきた。

「う、うぁ……あ、あぁ」

泣き声とも叫び声とも言いづらい。

生まれて初めて《死》というものを知った。

ここは現実。

ゲームではないのだ。

唐突にヒロシが走り出した。

しかも、洞窟の出口ではなく後ろに向かって。

「あ、ヒロシ!」

残された少年が慌てて名前を呼ぶがヒロシは走り去ってしまった。

「……ヒロシ」

追いかけようとする少年を、黒い魔道士が止めた。

「裏は逃げ口があるから、森に出たかもしれない。魔物に襲われないように気をつけなさい。」

「はい、お母さん」

反射的に少年が返事をすると、

「だから、お前のお母さんじゃねーよ」

ほっぺたをつねりながら、少年の手に何やらのアイテムを渡した。

「聖水と戻り玉」

ゲームでは、お約束の初期アイテムなのだが、

「キッズは持ってないだろ」

無課金で遊んでいた少年たちは、毎日特典のアイテムは貰えない。、貰えないので買うしかないので、だから、買わない。

「ここに戻れる。お前たちには念の為防御の結界を張っておく」

「ありがとうございます」

礼を言うと、少年たちは走り去ったヒロシを追いかけた。



「念の為に、お姫様にもね」

黒い魔道士が手をかざすと、公女の周りに薄い膜がはられた。

「これは」

「念の為に、ね。何かあるか分からないから、救助が来るまでまだ時間ありそうだし」

黒い魔道士は、メイドを見て、それから冒険者たちを見た。

「あんた達は、自分でなんとか出来そうだからな」

冒険者たちは無言で頷いた。

仮に魔物が来たとしても、武器を取り戻しているので戦うことはできる。自分の身は自分で守る。冒険者の基本である。

「あの子は、関係ないと判断してもらえるかな?」

黒い魔道士が、公女に訊ねた。

あの子、と言われてそちらを見る。

なんだか分からないうちに、賊に切り殺された少年。

名前も、知らない。

こちらでは聞きなれない名前を言っていた気がするけれど、覚えていなかった。

「そうですね」

公女の言葉を肯定ととって、黒い魔道士が少年を抱き上げる。

「奥に湧き水があった。それで清めてやるつもりです」

そして、弔いも……

黒い魔道士は、親代わりなのだろう。この世界ではよくある事だ。

「お邪魔致しません。 あの、もしこの先の街に来られるのでしたら、公爵家にお立ち寄りください。」

「わかった」

黒い魔道士は、公女を見ないまま返事をすると、そのままヒロシたちが消えたのとは違う方向へと歩いていった。




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