表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
「助けてお母さん」システムのせいで異世界に召喚されたようです  作者: ひよっと丸


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

20/34

だから、誰かが収拾しないとダメだって

その炎をみて、モリアナ公爵はようやく合点がいったと言う顔をした。

なるほど、普段それほど魔法を使っていないため、詠唱の手順を改めて考えられなかった。確かに言っていた。精霊に寄った呪文である。回りがブツブツしていたのは、口の中で詠唱をしていたからだった。

納得いかないのはハルス公爵である。その話、なぜに今する?我が妻と娘の死に関係しているのか?

「まだ分からない?」

トーマくんのお母さんは、ハルス公爵の顔を覗き込んだ。あんたの言ったこと、否定しないけど、肯定もしてないんだけど。

「『この世界の住人』たち、なぜお前たちは神に寄った魔法を使わない?」

トーマくんのお母さんの質問に、誰もが顔を見合せた。神の名に寄った魔法?そんなものは……

「神などいない、そんなものは無い」

ハルス公爵が断言した。今の公爵にとっては、神などいないだろう。神の使徒を名乗るもの達に、妻と娘が殺されたのだから。

「そうだね、今は、いない。ね」

トーマくんのお母さんは、ゆっくりと視線を動かし、王妃を見た。

「教えてあげよう」

あんたの知りたいこと、あんたの望むこと、教えてあげよう、叶えてあげよう。

「よく聞け、『この世界の住人』たち、教えてやる」

トーマくんのお母さんは、ベッドに横たわる2人を見つめた、悲しみとも、怒りとも、なんとも表現しずらい顔をしていた。 

「創世の女神-----の名において、かのものたちの魂にに安寧と安らぎを与えたまえ 蘇生」

聞いたことの無い呪文だった。

モリアナ公爵は、2度目のことだが、またしても聞き取れない箇所があった。

横たわる2人の体が、淡い緑の光に包まれた。見たことの無い魔法が展開されている。聞いたことの無い呪文。なんの女神だって?聞き間違えたか、聴き逃したのか?

王妃は、何かを感じ取っていた。ただ、それが何かは分からないけれど。懐かしい感じがした。

光が消えた時、ゆっくりと母の目が開いた。抱きしめる娘を見つめる。その髪は柔らかく蜜色で、ふっくらとした頬はマシュマロのようだ。尖り気味の唇は紅をさしたように赤く、閉じられた瞼には長いまつ毛の影がさしている。

なんと愛らしいことだろうか。

この子のためならなんでも出来る。

この子なためなら、命さえ捧げる。

大切な、大切な…

「ユーリ」

その名を呼び、髪をそっと撫でる。眠る我が子を起こさないように、でも起こしたいような。眠る?寝ている?

「ユーリ!?」

慌てて身を起こすと、回りは知らないものたちばかりが集まっていた。見知らぬ場所にいる。このベッドには見覚えがある。心臓がドキリと音を立てた気がする。ドクドクと血の流れる音が絶え間なく耳に響く。

「ここは? 私は?」

両の手で顔を触る。そして、その手を見る。髪は?娘と同じ蜜色の髪。着ていたドレスはそのままで……何があったか?確か、とても、とても、恐ろしい……

「 あなた?」

視界に、夫たる公爵の姿があった。

そう、確か……

「アザレア、お前 生きて、傷が、火傷が、治っているのか?ユーリも?」

ハルス公爵は、信じられなものを見る目で、妻と娘を見た。

「お、お前、いや、その方、違う、貴方様」

ハルス公爵は軽くパニックを、起こしていた。それはそうなのだ。

「無理してくれなくていい」

トーマくんのお母さんは、ハルス公爵の肩を軽く叩くと夫人の顔を覗き込んだ。

「顔色は、いいね。お嬢ちゃんも、大丈夫そうだね、うん」

夫人は、まだ現実を把握しきれていない様子で、トーマくんのお母さんを凝視している。

「今日は、ゆっくりと休むといい。後で色々聞きたいことがある」

トーマくんのお母さんは、そう言って夫人の頭を撫でた。まるで子どもをあやすかのようだった。

「じゃあ、ちょっとこれごと戻すねー」

トーマくんのお母さんは、ハルス公爵をひょいっとベッドの上に座らせた。まるで子どもを寝かしつけるように。

「うん、元の場所はぁ あきら」

呼ばれてあきらは、トーマくんのお母さんの元に駆け寄った。あきらは、ベッドの横に立つと天蓋の柱に手を添えた。

「どうでしょう?」

「良さげだねぇ」

トーマくんのお母さんは、あきらを見てニコニコしている。なにか、始めるらしい。

「あ、ちゃんと座っててね。ちょっとだけ揺れるから」

それを合図に、あきらは、靴のつま先をトントンと床に打ち鳴らした。魔法陣が広がりベッドの床いっぱいの大きさになる。

「んじゃ、おうちで仲良くしてねぇ」

それを合図に、ベッド毎ハルス公爵家族は謁見の間から消えてしまった。


「さて」

トーマくんのお母さんは、謁見の間にいる男たちをぐるりと見渡した。凄惨なものを見せられてから安らぎを与えられ、そして、その人物から見つめられる。

命を、生死を操る魔法を操る魔道士に、自然と緊張が走る。

「黒き魔道士よ、先程のが神に寄る魔法と言うのか?」

王が問うた。

傍らに控える宮廷魔道士が、なにやら耳打ちしているようだ。

「だとしたら?」

「我らの知らぬ神の名を崇めている。と、言うことか」

王は、聞き取れなかった神の名を、他国の神と認識でもしたらしい。

「ハズレ」

トーマくんのお母さんは、ゆっくりと王に近づいた。

ハズレと言われて、王の片眉がビクリと上がる。

何かを言いかけた王の口を、トーマくんのお母さんの指が押える。

「よく聞け、『この世界の住人』よ。先程私が唱えたのは、お前たち『この世界の住人』が忘れし神の名だ。お前たちが忘れたことにより、『この世界』から神が消えたのだ」

トーマくんのお母さんの言葉は、謁見の間にいた男たちに衝撃を与えた。忘れし神とはなんなのか?

「では、4番目の神がいるというのですか?」

王妃が、ようやく口を開いた。まだ、衝撃の余韻が残っているのか、顔色は、あまりよろしくない。だが、しっかりと立ち、真っ直ぐにトーマくんのお母さんを見ている。

「4番目?」

トーマくんのお母さんは、口元に笑みを浮かべていた。

「違うと申されるか」

王妃は、考えた。3人の女神がいる。その女神の名前をこの魔道士は言わなかった。だから、4番目の神の存在を考えたのだが……

「一つの可能性を考えついたが、ここで口にするのははばかれる」

モリアナ公爵が口を開いた。自分の邸で、この黒い魔道士とその弟子の少年が調べていたのは歴史。神の由来。調べた書物の種類も分かっている。そこから導き出される答えの可能性は、口にするのがはばかれる事だった。

「そう?さっきの公爵は口にしてたけど」

トーマくんのお母さんは、モリアナ公爵の耳元でそっと言った。状況が違う。と言いたかったが、モリアナ公爵は苦笑いするしか無かった。

「じゃあ、考えて『この世界住人』たち、お前たちが答えを見出さないと、その神は姿を現せないよ」

トーマくんのお母さんは、モリアナ公爵の横を通り過ぎ、王妃の前で止まった。もちろん、その前にいた王は素通りである。さっき相手をしてあげたから。

「よく、考えるといい。あまりにも長い時間『この世界の住人』は忘れていた。だから、考えることも忘れてしまった。一つ、一つ、考えるといい」

王妃は、頭の中でたくさんの考えを持っていた。だが、口に出来ないでいた。幼い頃から女の子は考えなくていい。難しいことは男が考えることだ。そう教えられてきたから。

「ゆっくりと考えればいいのですね」

王妃は、その言葉をゆっくりと胸に刻んだ。


「じゃあ、帰ろうか」

トーマくんのお母さんはそう言うと、ドアに向かってスタスタ歩いた。

「あきら、おいで」

無造作に鍵を鍵穴に差し込む。謁見の間にいた騎士たちが慌てるが、トーマくんのお母さんは意に介さない。そのまま鍵を回すと、扉を開いた。

扉の向こうには、王宮の廊下はなく、見知らぬ部屋が見えた。

「じゃあ、よーく考えてねぇ」

トーマくんのお母さんは、手を振り挨拶をする。

「あ、モリアナ公爵、早めに帰ってきてね」

それだけ言うと、あきらと共に扉の向こうに行ってしまった。扉が閉まると、もうそこには黒い魔道士はいなかった。再び開けても、そこには王宮の廊下があるだけだった。



「あれ、ここ」

元気よく帰ってきたのは、モリアナ公爵邸にある公爵の書斎だった。

「あ、魔道士様!」

奥の方から声がした。セラスが駆け寄ってきた。その後ろにアルクもいる。

「で、なんでそこから帰ってきてんだ?」

アルクは扉をしげしげと見た。転移門はあっちにあるのになぁ、と考えていると

「これ、使ったんでね」

トーマくんのお母さんが取り出したのは魔法の鍵だった。

「うぉぉ、魔道具だぁ」

アルクが大声を出した。そのあまりの興奮振りにセラスがたしなめる。あー、ヤバいという顔したアルクを、部屋の奥にいた夫人が睨みつけていた。

「皆さんお揃いで」

トーマくんのお母さんは、平常運転だった。


なぜだか分からないが、公爵の書斎に食事を用意させ、こじんまりとした食卓であっさりと晩餐が終わった。みんな揃って公爵の帰りを待つことになってしまったのだ。意外と庶民派なのかなぁ?と思いつつ、食後のお茶でまったりとしていた。

「お父様、遅いですね」

セラスが壁の時計を見ながら言った。

確かに、随分遅い。もう、お肌のゴールデンタイムになっている。

「ゆっくりと考えろ。って言ったのに」

トーマくんのお母さんは、そう言ってため息をつくが、

「それだけの事があれば、事後処理が大変になっています」

夫人は、すました顔で相づちを、うった。夫人は既に3個目のケーキにてをつけていた。

「お母様、食べ過ぎでは?」

さすがにセラスが止めに入ったが、夫人は構わずケーキを口に運ぶ。夕飯食べたあとのケーキ3個はスゲーな、なんて思っていたら、転移門に公爵の姿が現れた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ