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事情はまだ分かりません、多分



激しく咳き込んで目が覚めた。

いつもの発作だ

明け方とか、空気が乾燥してくると咳が出る。

おそらく、仰向けに寝ていたせいで、気道の奥の方まで乾燥したのだろう。

横向きになって、体を抱え込むような形をとって激しい発作に耐える。

反射で起きてい事だから、止めたくても止まらない。とにかく咳が出て、咳が出て、吐き出す一方の為苦しくなる。

少し落ち着いたところで薬を吸おうと手を伸ばした.........。


ない。


手を伸ばした先に薬がない。

おかしい。

寝室には誰も入ってこないはずなのに、薬がサイドテーブルから落ちるはずがない。


いや、まて、


「ここ、どこだよ」


ベッドに寝ていなかった。

肌に触れるのは、何故か草だった。

いや、それよりも、もっと重大なことに気がついた。

パジャマを着ていない。

この格好は、これは、

伸ばした手を見てみる。

曲げた体の周辺をみてみる。

「なんでこんな格好、ねおちした?」

ゲームのキャラに着せている服装だった。

黒い革手袋、黒いマント、黒い革靴、全身黒尽くめ、

考えに集中するために呼吸を整える。右手を口元に当てて自分の吐き出す二酸化炭素を感じる。

少しだけ落ち着くが、呼吸するたびに喉からヒューヒューと笛の名のような音がして、考えがまとまらない。

「試してみるか」

口元に当てていた右手を、胸元に当て直す。

「……治癒」

胸に温かい何かが流れ込んでくる。

ゆっくりと呼吸をすると、いつもの薬を吸った時以上に楽になっていた。

「治った?」

ゆっくりと起き上がって当たりを見渡す。

まるで熱帯雨林のジャングルのような景色、どことなく見覚えがあった。

最近はほとんど行かなくなったけど、ゲームにあった森だ。

真ん中に遺跡があって、道が迷路になっていて、隠し通路があったあの森。町からの入口は針葉樹なのに、突然沼地があってそこからいきなり熱帯雨林になっていたむちゃくちゃな森だ。

「運良く沼地の直前に倒れたわけ?マップの切り替わりだから、敵もいないって?」

ゲームのシステム上、敵の強さが切り替わる場所なので何もいないらしい。


『…けて、……』


聞こえた。

誰かの声が。

見渡しても誰もいないのに。

微かに聞こえる、自分を呼ぶ声。

「呼ばれたからこんなとこに来ちゃった?そんな設定とかシステムとか運営に頼んだ覚えないんだけどなぁ」

やれやれ、という感じで声のする方を向いてみた。




ほぼ同時刻、やっぱりゲームの格好をした少年たちがテンプレのイベントを見つけて歓喜していた。

「これこれ、お約束でしょ」

賊に襲われて後ろ手に縛られて連れていかれるお姫様とメイドさんらしき人影。

倒れている兵士といかにもな柄の悪そうな男たち。

この光景を見て、岩場の影からとても楽しそうに1人の少年が連れの少年たちに言う、

「これはもはやテンプレでしょ、助けちゃうでしょ」

おそらく、この少年たちのリーダーなのだろう。他の3人の少年たちに同意を求めている。

「え、でも、ぼくたち魔道士がいないんだよ。攻撃魔法ないんだよ近接戦で人助けできるほどの腕はないよ」

4人組の少年たちは、リーダーの少年を含めて皆似たような戦士系の装備をしていた。腰には剣を提げていて、金属で出来た鎧を着ている。

デザインに多少の違いはあるけれど、4人ともほぼ同じ格好をしていた。

「なーに言ってんだよ、あきらビビってんじゃねーよ。

イベントでしょ、フラグでしょ、回収でしょ」

リーダーの少年は、そう言ってあきらと呼んだ少年の肩を叩いた。

「え、でも……」

あきらと呼ばれた少年は口ごもった。

でも、でもさぁ、血の匂いがするんだけど。ゲームだったら匂いなんか感じないはずなんじゃないのかな。

と、思っているのに口に出せない。

これ、絶対違うよ。ゲームじゃないよ。なんかおかしいよ。

いっぱいいっぱい思っているのに、言葉に出来ない。

もごもごしているうちに、他の3人のに引きづられるように賊の後をついて行った尾行なんてものじゃなく、だいぶ大雑把に。


そして、


「助けに来ました!」


声を張り上げたのはリーダーの少年。

背中を押されるようにして、剣を構えて賊の前に立ったのはあきら。

「……」

何も言えなくて、ただ剣を構えて立っているだけだった。

頭の中では、違う絶対違う!これゲームじゃないよ!って思っているのに、リーダーのサトシが強引で、自分じゃやらないくせに何でも押し付けてくる。

絶対違う!ゲームじゃないよ!

あきらの頭の中ではこの言葉が繰り返されていた。


「なんだよ、小僧」

賊のひとりがお約束のような顔つきであきらを睨んできた。

「なんだなんだぁ 随分いい鎧きてんじゃねーか」

「お姫様のお連れかなぁ」

「ガキだから、身ぐるみ剥いで売り飛ばせそーだなぁ」

見ていたより、やっぱり賊の数は多かった。

そう、後ろからも出てきたのだ。

複数の声を聞いて振り返った時、あきらは既に切られていた。

腹部に鈍い痛みが広がる。ついで地面にたたきつけられた衝撃で右肩が痛かった。

が、

それだけでもう立てなかった。

声も出なかった。

「あ!」

別の少年が声を出した。

吹き飛ばされたあきらを中心に血が広がっているのだ。

そんな光景を生まれて初めて見た少年たちは、すぐに戦意を喪失した。

腰を抜かして3人まとめて座り込んでしまったのだ。

「え、なんで?」

目の前で起こった光景に、サトシは自分の目を疑った。

ゲームでしょ?ゲームだよね?だって俺たちゲームの格好してんじゃん?なんであきらから血が出てんの?

なんであきら動かないの?

動かなくなった友だちから、溢れかえる血の匂いがして、完全に思考が停止した。



どうして……どうして、この少年たちはここに来てしまったのだろうか?

黙って逃げていれば、襲われた馬車の残骸を見つけられたのに、質素だけど、紋章の入った馬車を見つけられれば使い魔で助けを呼べたのに。

少年たちは知らないのだろう、伝書鳩のように使える鳥の魔物を。幼くて、おそらく、貴族ではなく平民の出ならその様な魔物を見たことがないのかもしれない。

血溜まりの中に倒れる少年を見ながら、ソリアは悲しくなった。

そもそも、賊に襲われたのは自分のせいで、公女なのに魔法が使えないばっかりにこのように拘束されている。

魔法が使えれば、隠密に移動できたのに、魔法が使えれば賊を返り討ちに出来たのに、

公女なのに、魔法が使えない。そのせいで、少年が1人死んでしまった。

守られる立場だから、と甘えてしまえばそれまでだけれど、公女だからこそ、民を守らなくてはならないのだ。なのに、自分は魔法が使えない。学校に行って、教師に教わって、訓練をして、それでも、魔法が発動されない。

こんなに役立たずなのに、公女と言うだけで利用価値があるにはあるのか、こうして賊に囚われる。

なんて自分は役立たずなんだろう。

一緒に捕らえられてしまった侍女のリサをみて申し訳ない気持ちでいっぱいだった。


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