女神フレデリカ
初投稿です!
聖なる気配に満ち満ちた大理石の神殿は重力に逆らって宙に浮いていた。
神殿内部の通路の端には聖水が流れ、様々な髪色を持つ天使達がふわふわとそれぞれの目的地を目指して移動していた。
天使は頭に清らかな光を放つ光輪を持ち、個体別に定められたルールに則って行動する。
天使によって保持された天界にて処女神フレデリカは神杖を片手に下界の監視に励んでいた。
豊かにうねる茶髪は温厚な印象を与えるが、剣呑な雰囲気を持つ琥珀色の瞳は見る人に威圧感を与える。
清らかな白い布に覆われた身体は女神に相応しく豊満な胸が衣服を押し上げていた。
女性らしくしなやかな体躯であっても柔軟な筋肉に覆われている。
美しさを損なうことなく、いやそれ以上に女神としての神聖で近寄りがたい雰囲気を強めていた。
白魚のようにほっそりとした指を水瓶の鉢に這わせる。
真珠のように美しい掌には幾度も剣を振るったことでついた剣だこが、彼女をただの美しいだけの女神ではないことを証明している。
かつて人間であったフレデリカは剣の腕が立つ優秀な戦士だった。
全能神の権能を狙う魔神の侵攻を食い止めるため、防衛線に参加した彼女は魔神の配下と引き換えに勝利を齎らした。
その功績と剣の才能を認められ、天界へと召し上げられた。
堅実に実績を積み上げ、全能神の信頼を得て人の身から精霊へ、精霊から天使へ、そしてついに天使から小神へと昇格したのだ。
人の身でありながら神へと成り上がった彼女の逸話は人間の間で広く知られている。
『剣の処女神フレデリカ』。
彼女の加護を求めて信仰する人間は多く、その名を知らぬ人間はいない。
彼女が全能神より与えられた仕事は下界の管理。
その為に天使を鋳造し、様々な役割を与えて魂の管理を任せ、自分は監視に専念できるよう環境を整えた。
今日も今日とて、部下の天使が死者の魂を審判の間へと連れて行く。
監視に専念していたフレデリカは下界のなかの国の一つ、クラン王国の首都クインベルの異変を察知した。
部下の天使がすぐさま調査を終えてフレデリカへと報告する。
「フレデリカ様、下界にて異常な魔力蜂起が確認されました」
「規模はどれくらいかしら?」
「軍勢はおおよそ三百。このままでは都市の防衛配置が間に合わず市街地まで侵攻を許すでしょう。如何なさいますか、フレデリカ様?」
フレデリカは下唇を噛んで最悪の事態を想定する。
魔物に殺された死者の魂は魔神への供物となる。
一定量を超えればやがて魔神が下界に亀裂を開けて侵入し、さらに殺戮が起きるだろう。
そうなれば、この世界は宇宙に至るまで滅亡の運命から逃れることはできなくなるだろう。
本来は天使軍はいつか来たる最終戦争まで温存しておきたかったのだが、致し方ない。
「やむを得ないわね。天使軍第二十三師団と二十師団を派遣、二十二師団は不測の事態に備えて待機」
命令を書き留めた天使はすぐさま伝達係に書類を渡し、指令が下った天使軍が下界へと降り立って戦闘を開始する。
出現した魔物は人間には厄介ではあったが天使にとって大した敵ではなかった。
程なくして、異変を察知した人間の防衛が駆けつける頃には天使軍に勝利の天秤が傾いていた。
「我々の勝利です。後始末は人間に任せ、無用な混乱に巻き込まれぬうちに兵を引き揚げます」
「ええ、宜しく……ッ! この気配はまさかッ!!」
天使軍の上空に視認できるほどの異常な魔力の渦が発現した。
禍々しい気配を放つその存在に天使軍も気づく。
それぞれの天使が武器を構え、固唾を飲んで見守るなか魔力の渦が収束する。
闇を纏いながら一人の男が姿を現した。
「いいねえ、今日も天使の清らかな光で世界が眩しい」
飄々とした口振りで眩しそうに目を細めた男は悠々と辺りを見回す。
上半身は顔を除いて鮫肌に似た鱗に覆われ、邪悪に満ちた緑眼で世界を睥睨する。
足元に転がる魔物だった物体に気づくと口角を歪めた。
「あ〜らら、先に派遣したはずの俺の部下が全滅してるじゃないか。流石は剣の女神フレデリカの寵愛を受けた天使達だ」
周囲に散らばる自分の配下だった魔物の死体を足で退かしながら天を睨みつける。
彼の辞書に『部下を労わる』という感情はなく、そこにはただ女神フレデリカに狙いを定めるだけ。
「来いよ、フレデリカ。心優しいお前なら天使程度じゃあ、俺相手に時間稼ぎにもならないことは知ってるだろ」
その男の名前はジュダス。
かつて人間だったフレデリカを殺した裏切り者であり、魔神に忠誠を誓った男だ。
フレデリカが女神になったように、魔神はジュダスを認めて悪魔の一柱に迎え入れた。
ジュダスの言う通り、悪魔のなかでも上位に入る奴を相手に戦えるのは女神であるフレデリカだけだ。
「やっぱり私を誘い出してその隙に天界へ攻め入るつもりかしら」
「如何なさいますか、フレデリカ様?」
「そうねえ……ミカ、こっちへいらっしゃい」
下界を監視するための水鏡から目を離し、控えている天使の中で最も位が高く、信用に値する天使の名前を呼ぶ。
人と神、いずれにも属さぬ天使は用途に分けて髪の色や服装を分けている。
ミカと呼ばれた天使は文官である事を示す青い髪に管理者であることを示す装飾具を身につけている。
「はい、フレデリカ様。なんなりと御命令を」
ミカは恭しく傅いて創造主たるフレデリカの命令を待つ。
最悪の事態を想定しつつ、フレデリカは重々しく口を開いて命令を下した。
「これから私は降臨してジュダスを討ちます。私が不在の間、天界と下界の管理を貴女に一任します」
「仰せのままに、フレデリカ様」
決意に満ちた表情でミカは一礼し、フレデリカから神杖を受け取る。
神でなくとも天界の管理を行えるようになる祭具に僅かながらミカの顔に緊張が走る。
「ミカ、頼んだわよ」
「お任せください、フレデリカ様。この命に替えても人間を守護します」
「他の天使達もミカのサポートをお願いね」
「はっ、フレデリカ様の仰せのままに」
生真面目な性格のミカは力強く頷いた。
他の天使はミカをサポートするための体制を即座に整える。
その様子に安堵を覚えたフレデリカは天界と下界を天使達に管理を一時的に任せ、宿敵を討ち取るべく下界へと降り立つ準備を手早く進めたのだった。
百合に詳しいお方に聞きたいのですが女から男にTSして女の子とニャンニャンした場合これは百合に該当するのでしょうか?
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