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■エピローグ


 城に帰ってからも一悶着あった。そもそもこの戦争が、王の勝手な異国への進軍が原因である事をカミロは糾弾した。なおかつ、戦争で得た魔法石を横領していた事も指摘した。結果、王は大臣達に退位を迫られ、新たにカミロが王として即位した。戦争後だと言うのに、慌ただしい限りである。

 シメオンとカミロは英雄と呼ばれた。城下では『英雄』達の帰還に大いに喜び、人々の間では多くの英雄の物語が流布されたらしい。その中に、メイド服の兵と言う色物まで混ざっていたのだとか。

 シメオンの命を狙っていた、妾の子二人は暗殺の裏をとられて完全に城から追放された。ひとまず、シメオンを陥れる人間はいなくなったと言える。

 そして美桜は帰って早々、シメオンに部屋に呼び出された。部屋には何故か剣の師のビュロも居た。

「来たか。そこに立て」

 言われて、シメオンの隣に立つ。目の前には机が置かれていて、その上には紙が置かれていた。その紙にシメオンが自分の名前をサインする。

「名前は書けるか?」

「あ、はい」

 美桜は羽ペンを受け取って、カリカリと自分の名前をシメオンの名前の下に書く。

(これなんの紙だろう?)

 美桜は疑問に思いつつ、サインを終えてしまった。書いた紙を、ビュロが持ちあげて眺める。

「うむ。婚約おめでとう、二人とも」

 彼はまるで父親のような優しげな笑みを浮かべた。

(ふぁっ!?)

 その言葉に美桜は驚く。

「婚約の事は、今日の祝賀パーティーの時にみなに伝える。ミオ、おまえはドレスを持っているか」

 大きく首を横に振る。

「では、私の妻に選んで貰いましょう」

「頼む」

 ビュロの妻は、この城で長年メイドを務めていた。


 美桜は黄色のドレスを着せられて、内心パニックを起こしていた。

「ほおら、かわいい」

 ビュロの奥さんが、美桜にドレスを着せて化粧までしてくれる。見栄えの良い、アクセサリーまでつけてくれた。

「ひっ」

 鏡の中に写る自分に悲鳴をあげてしまう。

(誰だこれ)

 盛りまくった美桜は、とても綺麗なお嬢さんに仕上がっていた。

「シメオン様との婚約おめでとうございます。あなたはいつも、シメオン様の為に尽くしていましたもんね」

 同じメイドなので、美桜も彼女の事を知っている。

「は、はい……出来得る限りは……」

「シメオン様は幼少の頃から大変な苦労をなさった方です。どうか、貴方の大きな愛で幸せにしてあげてくださいね」

 美桜は混乱しつつも、その言葉にコクコクと何度も頷いた。


 夜の祝賀パーティーで、美桜はかなりきょどりながら会場内を歩いた。なにぶん、戦う事にステータスを全振りしていたので、ドレスを着た場合の美しい振る舞いと言うのがわからなかった。美桜は周りの娘達を見て、必死に付け焼き刃の技術を覚えていった。

 一時間程でどうにか、それらしい振る舞いができるようになった美桜の元にカミロ達がやって来る。

「わぁ、誰かと思いました」

 カミロは大げさに言う。

「えへへ……馬子にも衣装と言う感じです」

「そんな謙遜なさらないでください。本当に綺麗ですよ」

 カミロが目をキラキラさせて言う。褒められて、美桜は照れる。

「ふーん、まぁ悪くないんじゃない?」

 同じようにドレスを着たマリアが言う。マリアは美しく、ドレスを着こなしていた。ちょっと過剰なくらい胸の谷間を強調している。

(カミロ、マリアちゃんのアピールに気づいてあげて)

 たぶんマリアはカミロの事を好きなのだろうが、ゲーム作中でも二人がくっつくようなストーリー進行はしなかった。今後二人がどうなっていくのか、美桜にもわからない。

「ミオ!」

 振り向くと、ユンバが腰に抱きついていた。

「ユンバ!」

 彼もきちんと礼服を着ている。

「あら~ちゃんと脱がずに着てるわね」

 マリアがからかう。

「あたりまえだろ!」

 ユンバが胸を張る。

「ミオ、僕はお医者さんになる事に決めたよ!」

「まぁ! そうなんですね」

 衛生班でも、良い働きをしてくれたと聞いている。

「応援してますよ」

「えへへっ!」

「私の話しも聞きなさい!」

 マリアが間に入って来る。

「私は、武者修行に出るの!」

「武者修行ですか」

「そうよ! あんたなんかより、ずっとすごい魔道士になってやるんだから!!」 

「それは、ふふっ。楽しみにしています」

「もう、相変わらず余裕ね! 見てなさいよ!」

「あの、自分はカミロ様の右腕として今後は仕えていくつもりです」

 レオナルドが言う。

「うん、がんばってねレオナルド」

「はい、師匠に鍛えていただい経験を忘れません」 

 彼が軽く頭を下げる。

「カミロは王様かぁ。これから忙しくなるね」

「うん。けど、まぁ頑張るよ」

 彼はにこっと笑った。父王を退位させる事を彼は、とても悩んだ。けれど、あの王の治世が上手くいってなかったのは事実だった。大臣達の後押しもあって、彼は王となった。

「何か困った事があったら言ってくださいね。私も出来る限り手助けしますから」

「ありがとう。君は、これからどうするんだい?」

 カミロが首を傾げて尋ねる。

「私は……」

「ミオ」

 そこにシメオンがやって来る。

「あぁ、これは兄上」

 カミロが軽く頭を下げる。マリアとレオナルドがかしこまる。

「カミロか、丁度いいおまえに聞いて欲しい事がある」

「俺にですか?」

「実は昨晩、ミオと婚約したのだ」

「へ」

「今日のパーティーでそれを皆にも伝えようと思っている。王であるおまえも、一緒に来てくれないか」

 カミロはしばし固まっていた。

「……お、おめでとうございます」

 そして絞り出すように祝の言葉をくれた。

「あぁ、ありがとう」

「す、少しお待ちください。俺は今、驚きで混乱している」

「そのようだな」

 彼は手で額を押さえた後、持っていたドリンクをいっき飲みした。

「ミオ、おめでとう。良かったじゃない、玉の輿ね」

(マリアちゃん!!! それシメオン様がいる時に言っちゃいけない奴ぅ!!)

「あ、ありがとう」

「おめでとうございます、ミオ様!」

「ありがとう」

 レオナルドに笑みを返す。

「よ、よし。どうにか、頭が回って来た」

「では行こうか」

「はいっ!」

 まだ動揺した様子のカミロ王を引き連れて壇上に上がった。

「みな、聞いてくれ!」

 カミロが大きな声で言う。

「今日、この日、この喜ばしい日に、もう一つ報告したい事がある!!」

 彼がシメオンと美桜の方に手を向ける。

「我が兄シメオン=クロトフが、こちらの女性と婚約した! 戦場を共に駆けたものならば、知る者も多いだろう。あの、戦場の女神ミオが我が兄と結婚を決めたのだ!」

 すると、会場内に若干、トーンダウンした声が響いた。

(戦場の女神ってなんですか)

 そんな名称、美桜は初耳だった。

「悔しい涙は飲み込んで、どうか二人の幸せを祝福して欲しい!!!」

 すると大きな拍手が鳴った。指笛の音も聞こえる。

「兄上! どうかお幸せに!!!」

 カミロ王子は泣いていた。

 シメオンは寡黙に小さく頷いた。



 カミロは酔っていた。レオナルドは彼を背おって部屋に連れて行っている。

「うぅ……失恋だ……」

「えぇ、盛大な失恋でしたね」

 レオナルドは、階段を登る。

「あれ程、魅力的な女性はもう現れない気がするんだ……」

「そうでしょうか? 世界は広いですよ。きっと、これから先も素晴らしい出会いはあります」

(特にマリアはいい線いっていると思うのだが。カミロ王子はまだ気づいておられないのだろうか?)

「そうか……?」

「そうですよ! 素晴らしい出会いを夢見て、これから王として頑張りましょう!!」

「おぉ……」

(あと五年もしたらマリアも立派な大人の女性になるだろう。そうしたら、カミロ様も気づくかもしれないな)

 レオナルドは密かに笑みを浮かべた。



 そして一月後、結婚式が開かれる事になった。

(ど、どうしてこう言う事になったんだっけ)

 美桜は鏡の前で白いドレスを着た自分を見ながら、首を傾げる。

(いや、シメオン様に妻に欲しいって言われて、了承したから、こう言う事になったのよね)

 美桜は額を軽く押さえる。

(いやいや、おかしいよね……私、シメオン様と結婚しちゃうの????)

「ミオ様、出られますか?」

「は、はい!」

 美桜は立ち上がり、メイドに促され廊下を歩く。

(本当に私がシメオン様の妻になるの?? マジで??)

 美桜は顔をあげる。すると遠くに、シメオンの姿が見える。白い礼服を着た彼はとても美しく輝いて見える。その目は以前の他者を寄せ付けない冷徹な目では無く、親愛の滲んだ優しい目をしていた。

(あ、私、シメオン様のお嫁さんになるんだ……!)

 美桜は彼の元にヘ行き、呆然として見上げる。

「どうした、驚いた顔をして。よもや、夢だとでも思っているのか」

「はい……夢だと思ってました……」

 彼が美桜の頬をつねる。

「どうだ」

「いたいです……」

 夢では無い。彼がつねった頬をそっと撫でる。

「では、行こう」

 右手を差し出されて、美桜は彼の手に左手を添えて前を向いた。

(私、この人の妻になるんだ!! うん、これからもずっと、彼の事を守って行こう!)

 美桜はとびきりの笑顔を浮かべて、赤いカーペットに踏み出した。



おわり






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