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第二八ステージが、最後の戦いである。敵はグリーンドラゴン。巨大な敵で、一匹だけではあるが今までの敵の中でもっとも強力と言える。(魔法砲弾よりは脅威では無いのだが)美桜は兵士達のステ―タスチェックを行い、備蓄の最終チェックを行って、シメオンの部屋を訪ねた。
「戦争の準備は万全に整っています」
「あぁ、私の身体も全快した」
彼は夜のバルコニーに立って、遠くを見ている。
「……おまえは、あの夜の事を覚えているか」
唐突な質問に美桜は驚く。
「夜?」
「おまえと私が初めて会った夜の事だ」
「お、覚えております!!」
運命の出会いだった。あの時、彼に出会わなければ、美桜はここにいないだろう。
「おまえは、詳しい事も聞きもせずに私の事を助けたのだったな」
「は、はい……」
「……私はそのおかげで、死に際の母に会う事が出来た」
「え!?」
美桜は驚く。
「私の母は、病で死んだ。それは人に伝染る病でな、引き離されてずっと会えなかったのだ……。あの夜……近い内に母が、城を出される事を知っていた私は、どうにか母にひと目会おうとしていたんだ……」
「そう……だったんですね……」
シメオンが首から鎖を取り出す。その先には、黒い石の指輪が付いている。
「おまえのおかげで私は最後に母に会う事が出来た。これは、母の形見だ」
鎖を外して、指輪は手の平にのせる。
「ミオ、こちらへ」
呼ばれて美桜は慌てて彼の元へ行く。彼は美桜の左手を取って、薬指にその指輪をはめた。
「これは、おまえにやろう」
「えっ!」
美桜は驚く。
「いえいえ、貰えません! こんな大事な物!!」
美桜は指輪を外そうとする。
「この指輪は大事な人に渡す指輪らしい、だが母は父に……その指輪を渡す事が出来なかった」
シメオンの父は、当然なのだが現国王である。
「だから私はおまえに渡す」
「え、えっと、それは……」
「私にとっておまえは、大事な人だ」
「あ、あ、あ、ありがとうございます!!」
美桜は豪快に頭を下げる。
「わ、わたし、これからも誠心誠意、シメオン様の為にお仕えします!!」
美桜は顔が熱いし、嬉しさで涙が出る。しかしそれは次の言葉でひっこむ。
「……妻に欲しいと言ったのだが」
シメオンがなんと言ったのかわからず、背中に汗がふきだす。
(えっ????????)
「私はおまえを妻に欲しいと言ったのだ、ミオ」
彼の手が肩に触れる。顔を上げれば、美しい顔がこちらを見ていた。銀の髪が、月の光で輝いている。
「しょ、しょうきですか????」
「もちろんだ」
「答えはどちらだ、よもや断るつもりはあるまいな」
彼がきっと美桜を睨む。
「はい! 滅相もありません!!」
「うむ、ではこの戦争が終わったらすぐに婚儀をあげよう」
「はい!!!」
(あれ?????)
返事をしながら美桜は混乱していた。
(わ、私、気づいたらシメオン様と結婚する事になってない??? これは夢??)
自分の部屋に戻って、左手を見ると、綺麗な黒い石のついた指輪がばっちり薬指にあった。
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ゲートから、巨大な身体が現れる。グリーンドラゴンは、最後の敵に見合った巨大で凶悪なドラゴンだった。大きな声をあげて、咆哮する。
「よし、行くぞ!!」
カミロ王子の号令の元に、兵士達が突撃する。カミロ王子は先頭で、敵に斬りつける。兵士達の士気は高く、みんな竜を前にしても引く気は無い。側面から、シメオンの部隊も突撃する。シメオンの兵士も士気が高く、隊長のシメオンに果敢に着いて行く。マリアも、レオナルドの部隊も一斉に攻撃を仕掛ける。竜の鋭い爪の攻撃で兵士達がなぎ倒される。負傷した兵はすぐに後ろに下げられ、予備の兵がその穴を埋める。竜が火を吹けば、魔導部隊が防壁を出して仲間達を守る。竜の尻尾の攻撃は、タイミングを見て一斉に避ける。長く共に戦った仲間達は、みんな息のあった動きで戦場で戦った。
(長い……戦いだった……)
美桜も槍を繰り出して、竜の身体を突く。竜が少しずつ弱って行くのを感じる。
「ミオ、一旦下がれ」
シメオンに注意されて後ろに下がる。シメオンが魔法剣で竜を攻撃する。固い鱗が溶けて、皮膚が顕になる。そこを美桜が槍で攻撃する。
「ーーーーー!!!!」
竜が呻いた。
(本当に長い戦いだった……)
竜が血を吐き悶える。マリアを中心とした魔法部隊が頭上から攻撃して、竜の羽根や頭部を狙う。下からは、胴体が串刺しにされる。遠くから、狙いを定めだ巨大大砲の一撃が竜の胴体にぶつかる。
「ーーーーーー!!!!」
竜がうめき血を吐く。
「兄上! 決めるぞ!!」
遠くでカミロの声が聞こえる。
「あぁ!!」
シメオンが剣を構える。二人は突撃し、両側から竜の身体を刺し貫いた。
「ーーーーーーー!!!」
竜は長い悲鳴をあげて、身悶えた後に地に倒れた。
「ゲートが崩れるぞ!!」
兵士の声を聞いてゲートを見れば、異界に繋がるゲートが崩れ落ちていった。
「勝った……俺たち勝ったんだ!!」
兵士達の勝どきの声が上がる。
シメオンが剣を引き抜き、崩れたゲートを見る。
「……終わったのか……」
美桜は涙を流して頷いた。彼に背を抱かれて、美桜は泣き続けた。
(私は、やったんだわ。シメオン王子をついに助け出せた!!)
美桜の長年の悲願は達成された。
つづく




