表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
37/40

37

 

 シメオンはベッドの上で、窓から遠くを見る。負傷した体の節々は痛く、生きているのが不思議なくらいだった。内臓も随分と、やられていたらしい。けれど、シメオンは生きている。

「ふっ」

 生きているのは、彼女のおかげだろう。彼女がシメオンを鍛え、そして助けてくれる仲間を育てた。それらは全て、シメオンの為なのだと彼女は言う。

 シメオンは、首にかけた鎖を取り出す。その鎖の先には黒い指輪がついている。

『どんなに辛くても、誇りを忘れてはいけません。まっすぐに、正しく生きなさい』

 それが亡き母が最後に残した言葉だった。

 シメオンはその言葉に従い、できる限り誇りを持ってまっすぐに生きて来たつもりだ。もちろん、生残る為に敵と見定めた相手には非情になる事もあった。けれど、それでも誇りを持って生きて来られたと信じている。

 黒い指輪を握りしめる。

 この指輪は、母が父に渡す事が出来なかった指輪だ。

『貴方の一番大事な人に渡しなさい』

 そう言って、この指輪を母は渡してくれた。手を開いて、形見の指輪を眺める。

『貴方のプライドの高さが好きなんです。シメオン様は山のように高いプライドをお持ちなので、それを実現する為に努力なさいます。そう言う所が好きなのです』

 それはミオに貰った言葉だった。余程自分にとって衝撃的な言葉だったのだろう。シメオンは、その言葉を何度も何度も思い出した。

 それはシメオンの人生に対する肯定の言葉である。

 誇りを持って、正しいと思う道を信じて努力し続けるこの道が間違っていないのだと、言われているようだった。

「大事な人……か」

 以前、剣の師であるビュロに言われた事がある。

『ミオは本当に貴方を愛しているようだ。あれは無償の愛と言う奴ですよ』

 その時は、ミオを信用していなかったので、失笑して聞いた。けれど、今更その言葉が真実なのだと感じた。戦場で、死の間際に何度も名前を呼ばれた。彼女の悲痛な言葉は今も耳に残っている。あれは本当に、悲しみに満ちた声だった。血だらけになりながら、必死にシメオンのマントを掴んで行かせまいとした彼女の姿を思い出す。

「無償の愛か……」

 ミオは自らが言っている。この愛に代償はいらないと。彼女はただ、シメオンの生存を望んでいて、それこそが最大の成果なのだと。

 シメオンは静かに目を閉じる。

 胸に、じわりと感じた事のない、感情が滲んでいくのを感じた。



 美桜はシメオンの部屋を尋ねる。彼はベッドの上に横になり、本を読んでいた。身体にはまだ包帯を巻いている。それでも彼は生きている。

「シメオン様、今日からまたお世話をさせていただきます」

 美桜は頭を下げる。

「おまえの傷はもう良いのか」

 美桜もまだ包帯を巻いている傷があったが、内臓の方はすっかり完治していた。

「えぇ、大丈夫です」

 自分相手ならば、荒療治的な治療も行えた。

「ふっ、さすがだな……」

 彼が本を閉じる。

「ミオ、私はおまえのおかげで、どうにか生き残れたらしい」

「そ、そんな! 私は、あの時取り乱して大した役にもたたずに……」

「いや、おまえが、私を鍛えてくれたから、私はギリギリ生き残る事が出来たのだ。それに、おまえの育てた弟子達のおかげもあったな」

 カミロ王子・マリア・レオナルド・そしてユンバの事を言っているらしい。

「あ、あれは、私も想定外でした……まさか、彼らが助けに来てくれるなんて……」

 彼らの助けがなければ、シメオンは死んでいただろう。

「……全てはおまえのおかげだ」

 彼が柔らかく笑みを浮かべる。その表情に美桜は見惚れる。

(あんな優しい顔で笑うシメオン様、今まで一度も見た事がない)

「そ、そんな! 恐れ多い言葉です!!」

「ふふっ……」

 シメオンが笑みを浮かべる。

「おまえに頼みたい事があるのだが、この戦が終わったら……」

 その時、ノックの音がする。

「兄上! 入ってもよろしいか!」

 カミロ王子の声だった。

「間の悪い男だ……入れ」

 カミロ王子が入って来る。

「失礼する!」

 包帯を巻いたカミロ王子がシメオンを見て笑顔を浮かべる。

「兄上、お喜びになってください! 今回の戦場での成果を聞いて、国が兄上と私に勲章をくれるそうです!!」

「まだ、敵を完全に殲滅出来ていないのに、気の早い事だ……」

「貰える物は貰っておきましょう!」

 カミロは箱をシメオンに差し出す。中には、銀色の勲章が入っている。

「……まぁ、悪くないな」

「これで国も、兄上を見る目が変わりますよ」

「……さて、どうかな」

「なにしろ『英雄』ですから!」

「英雄は貴様だろう、カミロ」

「いいえ、俺達が『英雄』なのです!」

 カミロは笑顔を見せた。

「ふん」

 シメオンは興味なさそうに鼻で笑うが、どこか少し嬉しそうにも見えるのだった。



「ミオ様ーーー!!!!!!」

 研究者のムグレンが走り寄って来る。

「ついに『ロクス・プニャイ・ウェクシルム(戦場の旗)』の最終改造が完了しました!!」

 見れば、『ロクス・プニャイ・ウェクシルム(戦場の旗)』はレベル五になっていた。

「よくやってくれました、ムグレンさん!!」

 ムグレンが頬を赤くして、頭を掻く。

「それで、もう一つお見せしたい物があります」

 美桜は研究開発室に連れて行かれた。開発室の外に置かれた兵器を見て、目を丸くする。

「なんですかアレ!?」

「敵の兵器を見て、開発しました!!」

 そこにあったのは、巨大な大砲だった。

「この砲弾から打ち出された弾は生物の魔力に反応し、内側から壊します」

「つまり?」

「最凶の兵器です!!!」

 美桜はぶるっと、身震いした。

「こわっ!」

「そうでしょうとも!!」

「けど、よくこんなの開発する時間があったわね?」

「えぇ、ちょっと、無理をしました」

 ムグレンが頬を掻く。

「実はミオ様に貰った栄養ドリンクを我々で改良、製造して使ったんです」

「ちょっ!!!」

(さすが開発者!)

「大丈夫なんですか」

「えぇ、まぁ、二年ほどしばらく寝っぱなしなると思いますが。今が正念場ですからね」

 ムグレンは笑みを浮かべる。

「是非、次の戦場で使ってください」

「ありがとう、ムグレン! 必ず使わせて貰うわ」

「あ、ただこの大砲、一発しか打てませんので」

「え」

「魔力に反応すると言う構造上、大砲を破壊しながら撃つ事になるんですよ」

「い、一発勝負かぁ」

 美桜は額を押さえた。しばらく、大砲を撃つ兵士の訓練が必要そうだ。  



 第二十六ステージは、沢山のグリーン毛玉と、巨大な毛玉がボスとして三体現れる。しかし主戦力が、未だ戦場に出れないので動ける者だけで戦闘をする事になる。

「あははは!! 燃えちゃえ!!」 

 マリアが豪快に毛玉の敵を燃やしていた。

『ねぇどっちが先に敵を倒せるか、勝負しましょうよ!』

 とマリアが誘って来たので、美桜はそれに了承していた。彼女は、ライバルが居た方がやる気が出るタイプだからである。

「この勝負、私の勝ちね!!」

 マリアの相手する敵は、炎の中で身悶えている。美桜はその様子を横目で見て、剣を鞘に戻す。

(まぁ、せっかくだし使っちゃうか)

 両手を上げて、詠唱する。

『火の精霊よ、我が求めに答え、なんじの力をここに解放せん』

 周囲の魔力が美桜に集まり、目の前の巨大毛玉二体が火柱に飲み込まれ燃えて消えた。

「なっ」

 後ろで、マリアの相手していた一体の毛玉の断末魔が聞こえる。

「私の勝ちですね」

 美桜は笑みを浮かべる。

「あ、あんた!! それ、精霊詠唱じゃない!!!」

 精霊詠唱は、精霊の力を借りる魔法で、幻の魔法と言われている。

「ど、どういう事よ!!」

「そうですね、端的に言えば、私はマリアさんより優れた魔道士って事ですね」

 勝ち誇ったように言うと彼女は顔を真っ赤にする。

「あんた! あんた! 私、いずれあんたを抜いてやるわ!! そんで、世界で一番の魔道士になってやるんだから!!」

「楽しみにしてますね」

「てか、そんな技持ってるなら、もっと戦場で使いなさいよ!!」

 もっともな意見である。

「精霊詠唱っていろいろ使う条件が厳しいんですよ。さすがにそう、ポンポン打てません」

「ま、まぁ……そうよね」

(本当は、ポンポン打てるんだけど、私一人だけ強くなっても意味が無いから、ずっと封印してたのよね)

「えぇ、そうなんです。でも、マリアさんならいずれ、自由に精霊詠唱が出来るようになるかもしれませんね。だって、天才ですから」

「あたりまえよ! 私はあんたなんかより、ずっと先を行ってやるわ!!」

 再びやる気を出したマリアさんが、大股で歩き去って行った。



 二七ステージ目はグリーン幽霊とのバトルである。

(とは言え、今の魔道士部隊なら楽勝よね……)

 やる気を出したマリアが、全ての魔導兵をレベル五にしてしまっている。何か、余程の配置ミスをしない限り楽勝だろう。部屋で、ノートを眺めていると、ノックの音がする。

「はい」

 ドアを開けると、カミロ王子が立っていた。

「……どうなさったんですか、カミロ王子」

「少し話があるんだ、外に出ないか」

「……わかりました」

 彼は緊張した様子だった。美桜は内心、首を傾げながら彼と砦の外に出る。近くの丘まで歩く。

「息詰まるとここに来るんだ。遠くを見てると、気持ちが落ち着く」

 丘の上からは、遠い山と草原が見えた。

「息抜きは大事な事ですね」

 美桜も精神的に参った時は、お風呂に入ってリラックスした。

「その……」

 カミロ王子が何かを言おうとしている事に気づく。しかし、彼はなかなか言葉が出て来ない。

「俺は……君にとても助けられた……君のおかげで、強くなれた」

「私もカミロ王子に助けられた事は多くありますよ」

 彼が優秀な王子だったからこそ、兵士達の士気も高い状態で保てた。

「それなら嬉しい……それで……」

 美桜は首を傾げる。

「君には誘いを何度も断られたのだが、やはり諦めがつかない。俺の妻になって欲しい!」

 美桜はぎょっとして、カミロを見る。

「正気ですか」

「もちろんだ。君のように素晴らしい女性は見た事が無い」

「ただ、ちょっと強いだけですよ……」

「いや、君は賢く頭がよくて、それに優しい……国の妃と言う役名だってきっとこなせるだろう」

 美桜は眉を下げる。

「だから、俺の妻になってほしい」

 彼は真剣に美桜を見ていた。シメオンの死亡フラグを折った今、美桜にこれ以上の目標は無い。

(けど……)

「申し訳ありません。私は、カミロ様の妻にはなりません」

 美桜はそれを断った。カミロ王子は、目を見開く。

「何故だ……」

 美桜は目を伏せる。

「私はシメオン様にお仕えしたいからです」

(私はこの先もあの人の側に居て、あの人に尽くして生きたいんだ……それが私の幸せ)

「……貴方はやはり、兄上を心の底から愛しておられるのですね」

「はい」

 美桜は頷く。

「では、俺は諦めるしかありませんね……」 

 カミロは悲しそうに笑みを浮かべた。

「カミロ様、貴方のお気持ちはとても嬉しかっです。これからの貴方の道行きに、幸が多い事を願っています」

「ありがとう、俺も君の幸せを願っているよ」

 静かに暖かな風が吹いた。



 二七ステージ目のグリーン幽霊は、予想の通り圧勝となった。戦場に、マリアの高笑いが響く。

(魔道士部隊の全員をレベルカンストさせるとか、私もやった事ないわよ)

 被害ゼロの圧倒的な勝利に、美桜は苦笑いした。



つづく


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ