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美桜がいない時も、シメオンは過酷な訓練を続けた。美桜に勝ちたい一心なのだろう。美桜はそんな彼の姿を遠目に見て、兵器開発室へ行く。
「美桜様!!」
ムグレンが笑顔で、兵器を差し出してくれる。
「ついに! ついに! ついに!! 『ロクス・プニャイ・ウェクシルム(戦場の旗)』の更なる改良に成功しました!!」
アナライズすると、レベルは三だった。
「うん! ありがとう、ムグレン!! これなら、勝てるわ!!」
もちろん目標は最大レベルの五ではあるが、これ以上のレベル向上にはまだ時間がかかるだろう。例のあの、栄養ドリンクはあまり多用出来ない。
「ミオ様のおかげです! ずっと日陰者だった我々兵器開発部に力を貸してくださってありがとうございます!!」
「あ、あはは」
(いや。日陰者にしちゃった原因は半分以上私にあるのだけど)
「ミオ様、その、さしでがましいお願いなのですが、我々にサインをいただけませんか?」
「へ」
「この白衣に書いて欲しいのです」
「な、なんでサインなんか欲しいの?」
「それはもう、ミオ様のファンだからです! やる気が出るのです!!」
「そ、そう……」
サインくらいでやる気が出てくれるのなら、安いものだ。美桜は白衣にサインした。
「はぁああ!!! ありがとうございます!!!」
ムグレンが白衣にキスしている。他の研究者の白衣にもサインをした。皆、喜んでくれている。
「ところで、なんか、グッズ増えてませんか……?」
研究室の中には、以前よりも美桜を模したらしいメイドグッズが増えている。
「じ、実は仲間内でも人気なんです……!」
「ここの研究室のお仲間さんですか?」
「ココだけじゃなくて、遠い城下に住んでる仲間達です……!」
「へ?」
「実は、こんな凄い人がいると手紙で書いて送っていたら、友人達もはまってしまって……それで、いろいろ絵やグッズを作って送って来てくれるんです」
「な、なるほど」
棚に並べられたグッズを眺める。
「これとか、よく出来てますね」
陶器で出来た置物を手に取る。
「そ、それ。仲間内でも人気グッズなんです!!」
「もしかして、売ったりしてるんですか?」
彼は、はっとした顔をする。
「あ、いえ、怒ったりはしませんよ」
すると、ほっとした顔をする。
「う、売ってます……実は本も……」
「本?」
「空想小説の一環としてですけど……へへっ、そう言うの書くの得意な小説家がいるんです」
ムグレンは笑みを浮かべる。
「人気のほどは?」
「そりゃもう! 僕達みたいな奴には大人気ですよ! 世は空前のメイドさんラブ時代です!!」
「……皆さんが楽しいのなら良いです……」
苦笑いしつつ、美桜はそっと棚に人形を戻した。
「シメオン王子やカミロ王子とのラブ・ロマンス小説も出てますよ!!」
「はっ!?」
「いえ、全て空想ですので! 庶民はそう言うのが好きなんですよ」
ムグレンは笑う。
「そ、そうなんですね、はははは……」
(シメオン様と私の夢小説一冊欲しいな)
美桜は真面目にそう思った。
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美桜はシメオンと剣で打ち合いをする。一月前よりも、更に剣戟の激しさが増している。正直、美桜もたじたじである。
(さすがシメオン様、成長がお早い!)
美桜はにこにこしながら、彼の剣を打ち返す。
「何を笑っている」
「あぁ! すいません! つい、嬉しくて!」
彼の急所を狙って剣を繰り出す、それを彼が剣で弾く。
「ふん!」
「素晴らしい!」
以前なら避けられなかった突きを、既に彼は見切っている。シメオンが今度は、美桜に突きを放つ。
「!」
それを、剣で捌いて寸でで避ける。
「おぉ、危ない!」
「まだ、余裕があるな。底知れない奴だ」
シメオンがにやりと、笑みを浮かべた。それに、美桜は驚く。
(ひ、久しぶりに笑ったところ見た……!)
「呆けた顔をするな」
「はいぃ! 申し訳ありません!」
美桜は慌てて口を閉じて、剣を受けた。
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第二十四ステージグリーンウルフ戦。レベル三の『ロクス・プニャイ・ウェクシルム(戦場の旗)』のおかげで、難なく勝つ事が出来た。オオカミの鋭い牙も、大きな胴体も、今の私達の軍には通用しない。
(おほほほほ!! 圧倒的って奴ね!!!)
美桜は内心、大いにほくそえんだ。
つづく




