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カミロ王子はレオナルドから、この戦争の真実を聞いたらしい。同時に、美桜は戦争で手に入れた魔法石資金の妙な流れに気づいた。
(……四割近くの資金が、どこかに行ってる……)
倒した敵の数と、得られる魔法石の量から計算して、手に入る資金を算出した。しかしその四割が、どこかに消えてしまっている。砦の会計係に問い詰めたが、知らぬ存ぜぬを押し通して話にならなかった。美桜は、カミロ王子の元に行ってその事を伝えた。
「資金の四割近くを誰かが、着服しているのか……」
「憶測ですけど……王の元に運ばれているんでしょうね」
「……わかった、その件については俺が調べる。ありがとうミオ」
カミロは少し疲れた顔をしていた。
(自分の父がよからぬ事をしていると知ったら、そりゃあ悲しいわよね……)
「カミロ様、あまりご無理はなさらないでくださいね」
「あぁ、ありがとう……」
彼は少し考え込む。
「君が俺のところにずっと居てくれたら、俺は随分楽なんだけどね」
その言葉に美桜は瞬きをする。
「俺はいつでも、君を歓迎するよ」
「もう……スキあらば、そう言う事を言うんだから……」
美桜は小さくため息をついた。
「そうだ、カミロ様。一つお願いがあります」
「ん、なんだ?」
「ロクス・プニャイ・ウェクシルムを作りましょう」
『ロクス・プニャイ・ウェクシルム(戦場の旗)』は、設置した場所の近くにいるキャラの性能をアップさせる効果のある兵器だった。
「ろくす、ぷにゃい?」
しかし、カミロは首を傾げる。
「ロクス・プニャイ・ウェクシルムです。知らないんですか……?」
「あぁ、初めて聞くな」
美桜は驚く。魔法剣の兵器は、彼はあらかじめ知っていた。だからロクス・プニャイ・ウェクシルムも、知っていると思っていたのだ。
(え、待って。どう言う事……)
「その、ロクスなんとかと言うのはなんだ……?」
「兵士達の力を増幅させる効果のあるアイテムです」
「そんな便利な物があるのか……!」
「ミオは、作り方を知っているのか?」
「いいえ、知りません……てっきり、国の軍なら作れる方がいるかと思っていたんですが……」
「今のところ、耳にはしないな……兵器研究者と話しをしてみると良いかもしれないな」
「そんな部署があるんですね!」
美桜は現場にいる兵士達以外の、事はあまり知らなかった。
「わかりました……行ってみます……!」
「あ、ミオ! 先程の話! 本気だからな!!」
カミロ王子の声が後ろから聞こえる。
「お気持ちだけ、いただいておきます!!」
美桜はカミロ王子の部屋を出る。しかし、兵器開発部ではなく自分の部屋へ行った。
「無いのなら、私が作ればいいのよ! そんで設計図を渡して、作って貰えば良いわ!」
ノートを開いて設計図を書く。失敗、失敗、失敗、失敗、失敗……!
「あれ? なんで?」
開発できなかった。美桜の発明家レベルは五である。出来ないはず無いのである。なのに作れない。
(もしかして、それだけ世界を動かす発明って事?)
美桜の頭には、この世界の既存の知識しかない。それを組みあせて、新しい物を開発するのである。しかし、この知識の中に無い全く新しい技術を使う場合、開発は不能になる。美桜は頭を抱える。
(何がなんでも、ここの研究者に開発して貰わないと!!)
砦の離れにある兵器開発部に行く。
「すいません」
部屋をノックすると爆発音がする。
「!?」
扉が開いて、煙が溢れる。
「ゲホゲホ!!」
白衣を着た研究者達が数人咳き込んで出て来る。
「ビルギルが多すぎたんだ!! これじゃ、まだ実戦に使えない!!」
金のウエーブかかった髪を後ろで三つ編みにした男が呻く。
「あの……」
「なっ! 君は!」
この世界では珍しく、メガネをかけている人だった。彼は美桜を見て、目を見開く。
「私は、シメオン様付きのメイドの美桜と申します」
彼が近づいて来て、美桜をじっと見る。
「もちろん知っている!! 君の事はよく知っているぞ!!」
彼は大きな声で言う。
男の異様な剣幕に美桜は首を傾げる。
「まぁ、研究室に入りたまえ。煙も抜けたようだ」
彼に促されて、研究室に入る。まだ煙臭いが、思ったより部屋の中は汚れていない。部屋の真ん中の机の上の機材が割れているぐらいである。それを他の研究者達が片付けている。美桜はふと研究室の中を見渡して、固まる。
「え……」
「実は我々は、君のファンなんだ」
部屋の中には、おそらく美桜をイメージしたのだろう絵が何枚も飾られている。何故か、マネキンが美桜と同じメイド服を着てご丁寧に剣まで腰にさしていた。
「なんですかコレ」
「だって、戦うメイドだよ。メイドさんと言うのは、もうそれだけで素晴らしい存在なのに、剣を腰にさして戦場を駆けてくれるなんて……! おぉ!」
男は叫ぶ。他の研究者達はその言葉に頷いている。
(オタクだ……いや、気持ちはわからない事もないけど……)
美桜はしばらく眉間に皺を寄せた。
「まぁ、その、お気持ちはありがたく頂いておきます」
応援されて嫌な気にはならない。
「我々の天使が微笑んでくれたぞ」
男は大げさな身振りで喜んだ。
「その、本題に入っても良いでしょうか」
「ん? そういえば、ミオ殿はどうしてここへ?」
「兵器開発主任とお話があって来ました」
「あぁ、それは僕だよ。ムグレンと呼んでくれ」
(なんとなく、そんな気はしていた……)
「貴方にお聞きしたい事があるのですが……ここでは、戦場で使う兵器を開発しているんですよね?」
「あぁ、そのとおりだ」
「では、質問です。設置する事で兵達の能力を向上させる兵器の開発予定はありますか?」
するとムグレンは目を見開く。
「な、何故知っているんだ!?」
「予定があるのですね」
美桜はほっとする。
「それは僕が個人的に開発している兵器だ。けど、実用性の目処が立たなくてね……」
「え、そうなのですか!? そこを、なんとなりませんか?」
確か、ゲームでは一八ステージ目から開発可能になっていたはずである。
「そうは言うけど……僕の力ではなんとも……」
そこでふと、美桜は気づく。
(兵士達にもレベルがあるのだから、この研究者達にもレベルがあるんじゃないのか?)
美桜は咄嗟にアナライズを行う。
(うっ、兵器開発レベル2……!!)
レアアイテムのロクス・プニャイ・ウェクシルムを開発するには、レベル不足と言えるだろう。
(そうか……兵器を戦場で使ったのが遅かったから……!)
魔法剣の兵器はついこないだ戦場で実戦使用したばかりである。兵器は費用が高いので、兵士登用を優先していたのだ。ゲームはそれでも良かったが、この現実世界では研究者に開発の経験値が入らない事になってしまった。
(しまったーーーー!!! 痛恨のミス!!!)
美桜は眉間に皺を寄せる。
「あの、どうかした?」
ムグレンが不安そうに聞いて来る。
「い、いえ。大丈夫です」
(いえ、でもそう。ようは、経験を積ませれば良いのよね。そうよ!)
「貴方には是非、その魔法兵器を作って欲しいんです! その為に、私は協力します!!」
「ええっ! そんな!!」
ムグレンは顔を赤くした。
「この戦争の勝敗が貴方の作る兵器にかかってるんです!!!」
(本気で!)
「わ、わかった! 僕は貴方の期待に応える為に頑張るよ!!」
ムグレンがやる気を出してくれた、他の研究者達もやる気満々のようである。
「まず、ここでは現在、何を作れるんですか?」
「『魔法剣』と、『爆弾』、それから『歩行妨害』の兵器が作れます」
それらは、ゲーム中でも最初から作れる魔法兵器達だった。
「実際に見せて貰えますか」
「は、はい! こちらです!」
小屋から出て、大きな倉庫に連れて行かれる。倉庫の中に、兵器があった。美桜はそれらをアナライズしてレベルを確かめる。
(『魔法剣』レベル二、『爆弾』レベル二、『歩行妨害』レベル一……ヤバイわね)
「ま、まずは、これらの兵器の性能アップから始めましょうか」
「せ、性能アップですか……!?」
研究者達が顔を見合わせる。
「どうかしましたか?」
「性能アップしたいのですが、なにぶん予算が限られているので……」
「……ちなみに今はどれくらい、予算を貰っているんですか?」
ムグレンが恥ずかしそうにこしょこしょと小声で教えてくれた。
(うっ、雀の涙程の予算……)
しかし兵器開発にお金を回さなかったのは、美桜の進言のせいもある。
「わかりました、少々お待ちください」
美桜は倉庫を出て、早足にカミロの元へ戻る。
「カミロ王子!」
「わわっ!」
カミロ王子が紅茶を飲みつつ、おやつを食べていた。
「兵器開発に予算を回してください!!」
「へ、兵器開発部かい……! べ、別に構わないけど、いくらくらいいるのかな?」
「今月の予算の四割を兵器開発に回します」
「四割!? そ、それは随分思い切った事をするね」
「仕方ないのです。今、注力しなければ今後に響きます」
「わ、わかった。君の進言ならば聞こう。四割の予算をそちらに回せるように、調整するよ」
「ありがとうございます!」
彼に礼を言って、部屋を出る。急いで兵器開発室に戻る。
「予算とれましたよ! 今月は全体軍事費の四割をこちらに回して貰える事になりました!!」
「よ、四割!! 零・四割の間違いではないですか!?」
「きっちり四割です!」
「ほ、ほが~」
「さて、では一番開発費の安い爆弾から性能アップを頑張りましょう」
「はい!!」
研究者達が、慌ただしく動き始める。
「良い報告を楽しみにしています。困った事があったら、私に声をかけてくださいね」
「はい!」
美桜は部屋を出た。
三日後、兵器開発部から連絡が来る。
「新しい爆弾の製造に成功しました。性能を見てください!!」
人のいない荒野に埋められた爆弾が爆発する。土煙が舞う。
「なかなかの物ですね」
「えぇ! 頑張りました!」
しかし彼らのレベルは上がっていなかった。
(まだ、開発経験値が足りてないの……)
「次は魔法剣の性能アップをお願いして良いですか?」
「もちろんです!!」
一週間後、彼らは魔法剣をレベル三に性能アップさせた。荒野では、魔法剣が地面から突き出している。
「素晴らしい」
ついに彼ら自身もレベルアップして、研究者達の平均レベルが三になっていた。
「では次に、『歩行妨害』の性能アップをお願いします」
「はい! もちろんです」
二週間後、『歩行妨害』の性能は一気に二段階押し上げられた。
「ミオ殿が予算を回してくださったおかげで、いっきに開発が進みました!! ありがとうございます!!」
「いえ、こちらこそありがとうございます」
今月中にはさすがに、『ロクス・プニャイ・ウェクシルム(戦場の旗)』の開発は出来なかったがこのペースなら一ヶ月後には開発が出来るようになっているだろう。
「皆さんに作っていただいた兵器、次の戦争でしっかり使わせていただきますね」
「うぅ、ありがとうございます!! 開発者冥利につきます!!」
ムグレンはうるうると涙を浮かべた。
つづく




