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第十八ステージのレッドオーク戦では、魔法剣の兵器が導入された。
『魔法剣兵器発動! オーク達が呻いています!』
『兵器が止んだら、突撃するぞ!!』
兵器が停止すると、兵達は弱ったオークを叩きにいった。美桜とシメオンは、兵器から逃れたオークを追いかけて攻撃する。
「はぁ!!」
美桜は普通に倒せばオークを一突きで殺す事が出来る。しかし、それをしない。殺さない為に、ステータスにレベル低下の呪いをかけていた。一度、二度、三度と剣で敵を刺す。最後にシメオンがオークを切り捨てて、敵は動かなくなった。遠くで勝どきがあがる。兵士達が、兵器にかかったオークを残らず殺したのだろう。今回の戦いも、快勝と言えた。その時、シメオンの後ろに気配を感じた。美桜は剣を引き抜く。倒れたオークが起き上がり、襲いかかって来る。シメオンも剣を構えたが遅かった。美桜は、咄嗟にステータス解除を行いレッドオークを一刀両断した。
「ガッ……!」
レッドオークは短く悲鳴をあげて、地に倒れる。倒れたオークを見た後に、シメオンがこちらを睨む。美桜は胃がキリっと痛むのを感じた。しかしシメオンは何も言わず、その場から馬を返して戦場を後にした。美桜も黙って彼の後を追いかけた。
砦についた後も彼はだんまりで、料理を運んでも、手を付けてくれなかった。
「シメオン様……」
長い沈黙が部屋に落ちる。
「……なんだ」
彼は視線を反らして窓の外を見たまま答える。
「お食事をとってください……お体に障ります」
戦争後で疲れているだろうに、彼は水も飲んでいなかった。
「……おまえは、何が目的なのだ」
シメオンが尋ねる。
「私の望みは、シメオン様をお守りする事だけです」
「そんなはずはないだろ」
「何故ですか」
「おまえ程の力があれば、もっと多くを望めるはずだ」
「……そのような事は……」
「高い実力がありながら、私の下にいるのは、『権力』が目的なのだろうと思った。けれど、ならば何故カミロの元に行かない。第一王子のあの男の下の方が、おまえは得するところが多いだろう」
「……もしも私が『権力』を望むのなら、そうですね」
美桜は静かに答える。
「おまえの望みはなんだ」
もう一度、彼は尋ねる。
「何度言われても私の答えは同じです。私の望みはシメオン様をただ守る事にあります。貴方の生存を望んでいるんです」
「……理解できないな……」
「あの、シメオン様は騎士道物語をご存知ですか……?」
「荒唐無稽な物語の事を言っているのか」
「はい……私が殉じているものは、その騎士道と言う物と似ています。物語の中で騎士達は、心に決めた人や物、信念の為に命を賭けて戦います。傍目から見れば、それは酷く馬鹿らしいものです。けれど、彼らにとってはそれが生きる事の本質なのです。ただ一つを心に決めて、その為に生命を燃やして生きる。それが彼らの生き方なのです。いつ失うかわからぬ命だからこそ、自分で決めた事に全てを注ぎこみたいのです」
「……おまえは、それを私に決めたのか」
「はい、ただ一人、貴方の為に命を使うと決めました。だから、私の心が他の人の元に揺れる事は無いのです」
美桜は真剣に彼の目を見た。
「……おまえは何故、それ程強い思いを抱いたのだ」
「……シメオン様がお美しかったからです」
素直に言うと、シメオンは奇妙な顔をした。
「物語の騎士も、美しい女性に理由も無く誓いをたてるものです。時には、夫のいる女にすら。美しい者に、尽くしたくなるのは普通の事です」
「私はおまえを女として好きになる事は無いぞ」
「はい、心得ております。私の忠誠はあくまで自己満足なのです。貴方の心が返って来なくても成立します。私はただ、貴方が生きていらっしゃればそれで良いのです」
美桜は笑みを見せる。
「……理解しがたい」
「私の言葉に偽りはありません。だからこそ、誓約を交わしました。けして貴方を裏切りません」
長い沈黙が落ちる。
「……わかった、下がれ」
美桜は頭を下げた。
「失礼いたしました」
部屋を出る前に見たシメオンは、思案するように窓から遠くを見ていた。
つづく




