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 第十六ステージのレッドスライムは、一定回数切ると分裂する若干厄介な敵ではあった。しかも、分裂後は四方に逃げていく習性があった。それを機動力の優れた騎馬隊が追い立てて、一箇所に集めで討伐する作業を行った。スライム達は馬達に踏み潰されてあえなく、死亡していった。勝鬨が上がった時、その戦いの中心にはレオナルドの姿があった。

『騎馬精鋭部隊、無事に最後の敵を倒しました!』

『よくやったぞ、レオナルド!!』

『ありがとうございます! カミロ様!!』

 その通信を聞いて美桜は笑みを浮かべた。



 第二五ステージでシメオンを生存させられれば彼の死亡フラグは折れると考えていた。けれど、事はそう簡単にはいかないらしい。美桜は夜の城の中を走って、影の人物にナイフを投げる。

「ぐっ!」

 呻き声をあげて、そいつは倒れる。美桜が近づいて確認すると、その男は既に毒を飲んで事切れていた。

「……また暗殺者か……」

 男の身体を調べたが、身元の特定が出来そうな物は持っていなかった。男の遺体は城の集団墓地に埋めて隠す。

 シメオンの部屋に戻る。

「また、暗殺者が出ました」

「……そうか」

 彼は夜の窓辺で本を読んでいる。

「シメオン様、どうかお気をつけください……」

 戦争が始まって、シメオンに暗殺者が差し向けられたのはこれで十一回目だった。あまりにも多すぎる。

「ふっ、そう言うおまえが私を殺すのではないか?」

 彼は冷徹な笑みを浮かべる。

「そのような事はありません……! 私はけしてシメオン様を裏切りません!」

 それは誓って言えた。

「……では何故、カミロ王子と密会している」

「!」

 美桜は驚く。カミロ王子との鍛錬は夜中に地下で行っている。カミロ王子の部屋に行く時も他の人間に見られないようにしていた。魔道士マリアや、騎士レオナルドとも表だって関わりは持っていない。シメオンのメイドと言う立場上、彼らと関わり過ぎるのはよくない事だと考えていたからだ。彼らにもその事は伝えてある。

「私が気付いていないと思っていたのか?」

「申し訳ありません……」

 美桜は頭を下げる。

「どちらを選ぶか決まったか」

 その言葉に美桜は驚く。

「どちら……」

「私とあの男、二人に取り入る事で、どちらでも選べるようにしているのだろう?」

 自分の保身の為にカミロ王子に取り入っていると思われたようだ。確かに、傍目からならそう見える。

「裏切ると言うのなら、好きにするが良い。それとも、あの男から私の動向を伺うように既に命令を受けているのか?」

 シメオンは笑みを浮かべる。美桜は背中に冷や汗をかく。

(まずい、まずい、まずい……! いつからバレてたんだろう! シメオン様気づいた後も指摘しなかったのは、私がいつ裏切るか見てたんだ!)

 しかし美桜に裏切る気など全く無い。

「シ、シメオン様! 私の忠誠は貴方だけの物です!」

「どうだかな」

 彼は鼻で笑う。

「ち、誓いをたてます! 貴方をけして裏切らないと言う誓いを!」

 美桜は腰のバッグから黒のチョーカーを取り出した。

「これは『誓約のチョーカー』です……着けて誓えば、その言葉を違える事は出来ません」

 『誓約』の魔道具は、破れば命を失う。奴隷相手に使う、人権無視の魔道具だった。それをシメオンに手渡し、彼の前に膝をつく。

「確かに本物のようだ……私に命を捧げると言う事か」

「はい……」

 美桜は首を差し出す。シメオンが美桜の首にチョーカーを巻く。

「『我が身を、シメオン様に捧げる』」

 チョーカーが青白く光った後に、おさまる。

「これで私はシメオン様の命令に逆らう事は出来ません。貴方の不利になる行動を故意に取れば、身体に拘束がかかります。また、シメオン様の命令があれば私の命を奪う事も可能です」

「ミオ、『右手を切り落とせ』」

 美桜は驚く。すると身体が勝手に動いて、自らの剣で右手を切り落とした。激痛が走り、噴き出した赤い血がカーペットを汚す。

「くっ……! うっ……」

 美桜は痛みに呻き、脂汗を浮かべる。すぐに、痛覚遮断の魔法を使う。

「本当のようだな」  

 床に美桜の右手が転がっている。

「おまえの忠誠、今一度信じてやろう。しかし、何故カミロ王子と通じたのか、その理由を申せ」

 美桜は顔をあげる。

「シメオン様を守る為には、軍内部の情報に詳しくなった方が良いと思いました。その為には、隊長であるカミロ王子に取り入って情報を聞き出すのが最善だと考えました」

「……必要な情報は聞き出せたのか」

「はい。一定の信頼を得て、軍の采配への進言も聞き入れて貰えるようになりました」

「ほぉ……末恐ろしい女だな。戦争に口出しをするとは」

 シメオンは歪んだ笑みを浮かべる。

「全てはシメオン様の為です」

 シメオンが美桜の顎に触れて、顔をあげさせる。

「いいか、次、不審な行動をとれば私はおまえを信用しない」

「心得ました」

 彼がじっと美桜を見る。美桜はまっすぐに彼を見返した。

「ふん、下がって良い」

 美桜は頭を下げ、右手を拾い上げて部屋を出た。廊下に出た瞬間、すぐに魔法で右手をくっつける。

「ふーふー……」

 痛覚を戻すと、しばらく痛みが右腕に広がる。顔をしかめながら、夜の廊下を静かに歩く。

(これで良い……)

 カミロ王子と接触した事で、いずれシメオンに疑いを持たれる事はわかっていた。その為に、『誓約のチョーカー』を用意していた。彼は言葉を信用しない。ならば、具体的に行動で忠誠を示すしかない。



つづく






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