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 第十六ステージの敵は、レッドスライムである。分裂するのは厄介ではあるが、そこまでの難敵ではない。しかしその次の第十七ステージではレッドドラゴンがやって来る。シメオンと美桜が合流する前の第六ステージのドラゴンはどうにかこうにか倒したらしい。しかし、第十七ステージのドラゴンは一つの難所だった。美桜もゲームではココで詰まった。

(戦力の確認をするわよ)

 机の上に紙を広げる。

(まず、歩兵三千人、騎馬兵千人、魔法兵千人。雇用人数はこれで丁度いい。次に彼らを鍛錬させて、レベルをあげて行く……。)

 歩兵は数が多い。同じ鍛錬をさせても、全ての兵士のレベルを平等に上げる事は出来ない。ゲームでも、費用と相談しながらのレベル上げをしていた。現状、歩兵達は千人がレベル一、更に千人がレベル二、そして五百人がレベル三、五百人がレベル四となっている。このレベル四の兵士達の中から、精鋭を選びだして二百人をレベル五部隊にしたいところである。実は、最近あった全体演習の時にその精鋭二百人の目処は付けてあった。兵士本人のやる気と、彼らがそれぞれ持っている特性技能を見て選抜した。名簿は既にカミロ王子に渡してある。上手くいけば、レッドドラゴン戦までにレベル五部隊の準備が整うはずだ。

(さて次は騎馬兵達……千人の騎馬兵はみなレベル三になってるわね)

 騎馬兵のレベル上げには金と時間がかかる。強い兵士ゆえ仕方のない事である。

(魔法兵士は……うん平均レベル三。その内、三百人はレベル四。悪くないわねー、魔法兵士隊長のマリアは既にレベル五になってるし……あと百人くらいを、ゆっくりレベル五まで上げて行こうかしら)

 そちらの選抜は既にマリアが行っているようで、なかなか厳しい訓練を行っているらしい。

「ふふっ……」

 美桜は笑みを浮かべる。一般兵達の育成は順調である。次に、メインユニット達のレベルを確認する。

(カミロ王子は、既にレベル五、剣聖になってる。素晴らしい)

 ノートを捲る。

(シメオン様もレベル五! 鍛錬を怠らない方だし、戦場では率先して敵を倒してる。現状問題無いわね)

 美桜は笑みを浮かべる。

(さて、魔道士マリアはレベル五……そんで、騎士レオナルドがレベル三か……)

「うーん、レオナルド……大丈夫かな……いや、真面目な子ではあるんだけど……」

 騎士レオナルドは頻繁に鍛錬場で剣を振っている姿が見られた。しかし彼の特性は『大器晩成』である。つまり、最初はあまり突出した能力が無いのだ。後半からステータスの伸びが大きいのだが、ステータスが伸びるまで、死なないように守る必要があった。実は美桜は、レオナルドを使用ユニットから外してプレイする事が多かった。他のメンバーを育てた方が、効率が良かったからである。しかし、ここでは戦場から外す事も出来ない。

「どうにか生き残って欲しいわね……」

 しかし、美桜にはどうする事も出来なかった。 

(カミロ王子みたいに、自分から鍛錬してくれって頼んで来たなら、喜んで育てるんだけどね……)

 美桜は小さく息を吐いた。


***


 地下鍛錬場に行くと、レオナルドの姿があったので驚く。

「あの、カミロ王子はどちらに?」

「ミオ様に、鍛錬をお願いしたく、変わって貰いました」

 彼が大きな背を折って、頭を下げる。

「鍛錬?」

「はい。カミロ王子が最近、めきめきと腕をあげられたのは、貴方のおかげだと聞きました」

 美桜は頬を掻く。

「カミロ王子、ご本人の努力によるところが大きいですよ」

「もちろん、それは理解しています。ですが、やはり師の力は大きいものです」

「師って……」

「どうか、私にも鍛錬をお願いします……!」

 深々と頭を下げて彼は言う。

「……どう言った経緯で私の事をお聞きになったんですか?」

「俺は……弱いので、カミロ王子に鍛錬を付けて欲しいと頼んだんです。するとカミロ王子が自分よりも適した人がいるとおっしゃいました」

「何故、弱いと思ったんですか?」

「……私は騎馬兵なのですが、今度作られた精鋭隊の中に私の名前が無かったのです」

「そ、そうなの」

 騎馬兵の精兵部隊は、レベル四の者を中心に選んでいる。レベル三のレオナルドは確かに入れていない。

(それで……訓練を付けて欲しいって、なったわけね……)

「ふぅ……わかりました、鍛錬をつけて差し上げます」

「本当ですか!」

「えぇ」

「ありがとうございます!」

 彼は右手に大きなランスを持っている。美桜も持参して来た槍を構える。

「さぁ、槍を構えて」

「はい!」

「かかって来なさい!」

 彼が、槍を構えて突撃して来る。体格の良い男だ、長い槍を身体の一部のように上手く使いこなしている。

「はっ!」

 一撃一撃も重く、良い腕を持っている。

(とはいえ、一般兵レベルなのよね……)

 メインユニットとしては弱い。

「良い? 貴方に必要なのは、とにかく実戦よ!」

 経験値をどんどん積ませて、さっさとレベル四まで上げるしかない。そうすれば、ステータスが顕著に上がる。

「は、はい!」

「そう言うわけだから、魔物を呼びます」

 美桜は腰のバッグからベルを取り出す。それを振ると、瞬間そこに魔物が現れた。

「なっ!」

「ほら、ひるまず倒しなさい!」

 レオナルドは、慌てて槍を構えて魔物に切りつけた。これは『魔物のベル』と言うマジックアイテムである。鳴らせば、この世界の魔物を呼び寄せて召喚出来る。残念ながら、異界の魔物程経験値を得られないのだが、レオナルドには数を積み重ねて貰うしかない。

「はぁっ!!!!」

 槍が魔物を貫き殺す。

「よく出来ました。さぁ、次にいくわよ!」

 再びベルを鳴らして魔物を呼んだ。

「ぐっ、はぁあああ!!!」

 レオナルドは次々現れる魔物を槍でなぎ、貫いて殺す。

「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ……す、少し休憩させてください……」

 二六体目で彼は根をあげる。美桜はアナライズでレオナルドのステータスを見る。レベル四向上までの残り経験値は、あと五二〇〇もある。今まで倒した敵は一体あたり、五程度の経験値しかない。ざっと計算しても、あと千四十体は倒さないといけない。

「じゃあ、少しだけ休憩ね。でも、休んでる暇、正直無いよ?」

 レオナルドが膝をついて息をする。

「あのねレオナルド。騎馬兵精兵部隊の本格的な訓練は、五日後に開始される。それまでに貴方は、精鋭部隊に入れるまでの実力を積まなきゃいけないの。具体的に言うと、一日二百体ぐらいの敵を倒さないと追いつけないのよ」

「に、にひゃく……」

 レオナルドが青い顔をしている。

「諦めるのなら、私はそれでも良いのよ?」

 レオナルドは正直、攻略に必ずしも必要なユニットでは無い。彼を育てるより、カミロの育成に集中した方が美桜には得だった。

「いえ、諦めません!! 私は精兵隊になり、必ずカミロ様のお側にいるのです……!!」

 彼は強い意思を持って立ち上がる。

「休憩はもう良いの?」

「はい続けてください」

 美桜はベルを鳴らした。巨大なカエルの魔物が現れる。それを、彼は槍でひと突きで倒す。

「次をお願いします!」

「やる気があるのは、良い事ね」

 ベルを鳴らして、次の魔物を出した。彼は、汗を流し、息を乱しながら、必死に眼前の魔物を倒し続けた。百体目で、ベルを鳴らすのを止める。レオナルドは膝を降り、地に手をついてぜーぜーと荒い息をする。

「レオナルド、貴方はどうして精兵隊に入りたいんですか?」

「カミロ様をお守りする為です」

「どうして、カミロ様にそこまで忠誠を誓うの?」

「あの方に、命を救われたからです」

 それは初耳だった。『ケムプフェンエーレ』はメインのタワーゲームの合間に、オマケのように短いテキストが入る。全てのテキストを合わせても、三万文字程度のシナリオ量しか無いだろう。なので、作中で語られていない事も多い。レオナルドも、カミロの幼馴染で、彼を慕い忠誠を誓っている事しか書かれていなかった。

「カミロ様は……俺を差別しなかった……重犯罪者の息子である俺を、友人として扱ってくれたのです」

 美桜は驚く。

「重犯罪者……?」

「俺の父は、この国の王の治世のあり方を糾弾し、多くの民を扇動しました。結果、捕まり死刑となったのです……」

「こ、殺されてしまったんですか?」

「えぇ……犯罪者の息子である俺にも、裁きの目は向きました。皆、俺を犯罪者同然に扱いました……」

 レオナルドは目を伏せる。

「しかし、カミロ王子は違いました。俺は、偶然にもカミロ王子と出会い、彼に助けられたのです。石を投げられ、孤児院からも追い出された俺を道端で彼が拾ってくれたんです……」

「そうだったんですね」

「俺が誰の息子なのかを聞いても、カミロ王子の意思は変わりませんでした。カミロ王子は優しい人です……今も……昔も……だから俺は……あの方の隣に居たいのです……どんな事からも守ってさしあげたい……あの方はこの国に必要な方です……こんな戦争で命を落として良い方じゃない……」

 彼は涙を流し、言葉を詰まらせながら言う。

「そう、そうよね……」

 美桜は頷く。

「わかりました。貴方の意思を理解しました」

 レオナルドが顔をあげる。

「強くなりましょう。カミロ王子を守れるように」

「はい……!」

 レオナルドは立ち上がる。

「次をお願いします……!」

 彼は強い意思で、そう叫んだ。その日の彼は、ノルマの二百体を倒しきってから気を失った。その強い意思に、美桜の心も動かされる。

(この人を、カミロ王子の隣に並べるように育ててあげたい……)

 美桜は自然とそう思った。 


***


レオナルドは無事に一日二百体と言う、とんでもない数の魔物を五日連続で倒してレベルを四に上げた。そして騎馬兵の精鋭部隊に選ばれたのだった。

「ミオ様のおかげです……!」

 レオナルドが頭を下げる。

「いやいや、レオナルドの頑張りだよ」

 レベル四を超えて、頭角を現した彼は精鋭部隊内でも目立つ存在になっているようだった。

「いえ、ミオ様がいなかったら俺はただの一般兵から抜けられなかったでしょう……! 本当にありがとうございます!」

 レオナルドが真直角の礼をした後に頭をあげる。

「何か困った事があれば、俺に声をかけてください! 必ず手助けします!!」

「……ありがとう。困った事があったら、声をかけるよ」

 美桜は笑みを返した。



つづく



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