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美桜はシメオン王子の部屋へ行き、食事の配膳をして彼の目の前で毒味を行った。ほうれん草のソテーを口にした後、眉を寄せる。
「どうした」
美桜は、ハンカチにそれを吐き出す。
「毒が入っています」
美桜の身体に毒は効かない。毒師の元で修行したおかげであらゆる毒への知識がある。これは直接、戦争の攻略に役立つ知識では無いのだが、シメオンの食事にあまりに頻繁に毒が混入される事が多いので、美桜が必要に迫られて修得した知識である。
「なんの毒だ」
「ゾルダンと言う毒物です。自然界で偶然紛れ込む類の毒ではありません」
「故意の毒殺か」
「はい」
美桜は頷く。
「食事を下げろ」
「この砦に来てから、毒の混入が多いですね……暗殺者の数もですが」
妾の子、ケンドルとウチコフは未だシメオンを目の敵にしていた。
「城から離れた事で、むしろ手が出しやすくなったと思っているのかも、しれないな……」
「……シメオン様。あの二人を直接制裁しなくても良いのですか? ……ご命令いただければ、私がやりますが」
相手がこちらを殺そうとしているのだから、それに対して同じ手段でも応えても良いのでは、と美桜は思っていた。殺しはしなくても、多少痛めつけるくらいはしたい。
「迎撃はする。だが、こちらからは手を出さない」
「ですが……」
「暗殺依頼もタダでは無い。その行動を潰し続ければ、いずれ何も出来なくなる。卑怯者には、正当な方法で勝つ」
「……わかりました。シメオン様に従います」
美桜は静かに頷いた。
(シメオン様は、やっぱり毒殺をなさるような方じゃないんだ)
以前、ケンドルとウチコフがシメオンは自分の兄弟を毒殺したと言っていた。しかし、今のシメオンの返答を見ると、それが嘘なのだと思えた。美桜はほっとして小さく笑みを浮かべた。
つづく




