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第十四ステージに現れたのは、赤い毛玉だった。彼らは必ず十匹セットで移動する魔物である。しかしゴブリン程数が多いわけでもなく、狼のように組織だって動くわけでもない。酸性スライムのように特殊な技も持っていない。正直、箸休めの楽な敵なのである。弱く、倒しやすいわりに経験値が美味しい敵だった。
「雑魚だな」
シメオン王子が赤毛玉を剣で刺して殺す。遠くで、兵士達も毛玉をザクザク殺していっていた。伝達を聞く限り、苦戦している隊は無いようである。
(問題はこの後のステージよ……)
美桜は極力、毛玉を刺し殺さずに他の兵士達の経験値になるように務めた。半日程で戦争は終了した。こちらの兵士への被害は殆ど無い、心地の良い勝利となった。
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第十五ステージは『幽霊』が出て来る。彼らに効くのは魔法だけである。そして戦闘の要である『魔道士部隊』達は、マリアのおかげで無事に高い実力を積む事になった。マリアが厳し過ぎて、退団した兵士も居たらしいが、仕方の無い事だろう。
そして美桜は再び、マリアに森に呼び出されていた。
「今度はなんですか? あと、なんでいつも森に呼び出すんでしょうか?」
美桜は首を傾げる。
「私の実力を貴方に見せる為に呼んだに決まってるでしょ! それから、森に呼ぶのは他の人達に見られない為よ! 妙な噂を流されるのは困るわ!」
「そうですか……」
ひと目を避けてくれるのは、こちらとしても助かる。
「さぁ、私の『魔弾』を受けなさい! 今度こそあんたなんか倒してやるんだから!」
彼女の杖が光る。
(あ、上位魔法だ……)
彼女はたった二月で、上位魔法にいきついたらしい。ゲームでは最速でも二十ステージ目以降でしか覚えない魔法である。
(なるほど、ゲームでは無いからこそのイレギュラーも当然起きるわよね)
美桜は口元に笑みを浮かべる。魔弾が飛んで来る。バリアを張って、それを全て防ぐ。
(あ、一断層目のバリアにヒビが入った)
バリアが割れる。
(む、二断層にもヒビが入ってる)
「まだまだいくわよ!」
バリアが再び割れる。更に強くなった魔弾は、バリアを次々割っていく。
「たおれろーーーーーー!!!!」
バリアが三枚一片にはじけ飛んだ。
「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ……ちょっと、あんたどうなってるのよ……!」
攻撃を終えた彼女が肩で息をしている。最大出力を限界まで出し切ったのだろう。
「な、なんで倒れないの!」
美桜の張ったバリアは、八断層まで砕かれた。しかし、残りまだ五断層ある。
「何故でしょうね」
「何故でしょうじゃないわよ! 今の上位魔法よ! しかも『天才』の私が全力で放ったのよ!! 倒れないなんておかしい!!」
「まぁ、それはつまり。私がまだまだ貴方より強いって事ですよ」
美桜はわざとらしく、挑発するように笑みを作る。
「ぐっ、ぐぐぐぐぐ!! わかったわよ!! アンタは強いわ!! でもね! 絶対勝つ! 私が勝つのよ!!!」
マリアが地団駄を踏む。
「頑張ってください」
「なによそれ! 上から目線で!! 覚えてなさい!!」
ローブを翻して彼女は去って行く。
(もしかしたら、彼女はアレ以上の成長をしてくれるかもしれない)
これはゲームでは無い。彼女の上位魔法は『魔弾』で打ち止めである。それ以上の魔法は覚えない。けれど、現段階で『魔弾』を覚えた彼女なら、もしかしたらそれ以上の魔法を覚える可能性がある。
(ふふっ、ふふっ。期待してるわよ、マリア……!)
美桜はわざと彼女を焚き付けて、彼女のレベルが更に向上する事に賭けた。
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第十五ステージの敵、『レッドゴースト』は正直楽勝だった。平均レベル三の魔法兵士達が、『レッドゴースト』確認と共にすぐにゲート前方に集められゴーストを襲撃した。また、魔法剣を使える兵士達も応戦してゴースト達はサクサクと死んでいった。特に今回のMVPは魔道士部隊隊長の魔道士マリアだろう。
「あはははは!! 私の前に敵なんていないわよ!!」
ゲートから出て来る敵を次々、消し飛ばして彼女は高笑いを上げていた。まぁ、とにかく今回も問題無く勝てたのだった。
つづく




