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 第一三ステージのレッドウルフは、群れで攻撃して来る厄介な敵ではあったが、どうにか対処する事が出来た。前回のレッドゴブリン戦より、兵士達の練度が上がったおかげだろう。撤退させられたシメオン部隊の弱い兵士達も、あれから必死に鍛錬してレベルアップに努めている。

(歩兵ユニットの三割が、レベル二。二割が、レベル三。一割がレベル五までの鍛錬を出来ている……配置さえ間違わなければ、死ぬ事は無いわね)

 原っぱで全体訓練を行っている兵士達を見張り台の上から見る。アナライズで、ステータスを確認する。

(騎馬ユニットはみんなレベル三になったわね)

 美桜は笑みを浮かべる。

(魔法兵は……あら?)

 美桜は魔法部隊を見て驚いた。

(待って、まだ、全体的にレベル二しかないの?) 

 魔法部隊もきちんと鍛錬は行っているはずなのだ、それなのに他の兵士達と比べてレベルが低すぎる。この時点で、せめて全体的にレベル三まで到達していなくてはいけない。更に半分はレベル四。一割はレベル五にしていないといけないのだ。

(ヤバ……このままじゃ、一五ステージで詰む……)

 一五ステージの敵はレッドゴーストである。剣が効かないので、魔法の使える兵士しか役にたたない。歩兵・騎馬ユニットもレベル三以降なら魔法剣が覚えられる。けれど、チャージが遅い。なので基本ゴースト戦は、魔法兵士が戦いの要になるのである。

(うぅ……しまった。やっぱり、書面の上の報告だけじゃわからないわね……!)

 書面の上では、魔導兵士はきちんと鍛錬をこなしていたはずなのだ。しかしこれは現実である。ゲームのように、確実に彼らの実力が上がるわけではない。

(魔導兵士の隊長は確か、マリアさんよね)

 遠視で遠くにいる、隊長のマリアを見る。彼女のステータスは、残念ながら以前と同じレベル二のままであった。

(弱い!!! メインユニットなのに、弱すぎよ!!)

 美桜は立ち上がる。

(このままじゃダメだわ……ちゃんと鍛錬で、レベルを上げて貰わないと)

 美桜は唇を噛んだ。


***


「魔法兵士達が鍛錬不足?」

 カミロ王子は首を傾げる。

「そうです、このままではいずれ足を引っ張ります」

「そ、そうなのか……うーむ。……隊長のマリアの話では、鍛錬はちゃんとやっているようなのだが……」

(マリアさん、そう言えば以前カミロ王子に兵士への鍛錬が厳し過ぎる事を進言していたわね……もしかして、自分の担当する魔法兵士だけ、鍛錬を減らしていたのかしら……)

 美桜は眉間に皺を寄せる。実は、この世界でレベルは可視化出来ない。美桜のアナライズには、兵士達のレベルまで表示されるのだが、普通『レベル』と言うわかりやすい概念は無い。だから、鍛錬不足なのもわかりにくいのだ。魔導兵士は特に、後方支援なので能力不足なのが気づかれにくいのだろう。

「しかし君の言う事なのだから、本当の事なのだろう。俺からマリアに、兵達の鍛錬をもっとするように言っておくよ」

「よろしくお願いします」

 美桜は頭を下げる。

(これで、上手くいけば良いのだけど……)

 美桜は不安を抱えたまま、カミロ王子の部屋を後にした。


 数日後、美桜は魔道士マリアに、砦の離れの森に呼びだされた。部屋の扉の下に、手紙が置かれていたのだ。

「それで、なんのご用でしょうか」   

 森にやって来た美桜は、マリアと見つめ合う。マリアの方は、腕を組み、あからさまに美桜を睨んでいる。

「ねぇ、カミロ王子に妙な進言をしたのは貴方でしょ!」

「妙な進言ですか……」

「私の魔導兵が鍛錬不足だなんて! 適当な事を言って、カミロ王子の点数稼ぎでもしようって言うの!!」

 マリアが叫ぶ。彼女は、城の中でも特に若い娘だった。確か、一六才である。多少、情緒が不安定でも仕方ない。

「点数稼ぎなんて、するつもりはありません。私は、必要な事を言ったまでです」

「やっぱり、貴方が言ったのね!!」

 確信は無かったらしい、カマを掛ける言葉に引っかかってしまった。しかし、それは問題無い。美桜も彼女と直接話しをするべきだと思っていた。

「えぇ、私が言いました。別部隊の人間から見ても、貴方達の練度不足は明らかな物でしたから」

 これは嘘である。魔道士部隊は、今の段階ではまだ上手くやっている。しかし、このままいけば彼らの力不足は露見してカミロ軍は致命的敗戦をするだろ。だから、そうならない為に先を見て魔道士部隊を鍛える必要がある。

「ふん! シメオン第二王子に仕える、ただのメイドが何を言うの!」

「ただの、メイドですか……」

 確かに美桜は兵士として、特に具体的な肩書があるわけではない。強いて言えば、シメオン第二王子の戦闘補佐官である。

「ねぇ、貴方。私の兵が……いいえ、私が練度不足だって言うけど、この攻撃を避けられるかしら?」

 彼女は人差し指に光を集める。

「!」

 彼女が攻撃を放った瞬間、素早く避ける。

「あら、避けるのね。ふーん、口だけじゃないんだ」

 美桜のいた後には、黒い光線で焼かれた跡があった。あの場にいたら、太ももを撃ち抜かれていただろう。

「それじゃ、これはどう?」

 彼女は周囲に光のタマを浮かばせる。

「ほら!」

 球が次々飛来する。当たり前だが、触れれば火傷ではすまない。

(やっぱり……惜しい才能だ……)

 メインユニットである彼女にも特性がある。それは『魔道の天才』だった。レベル二でありながら、彼女の使用する魔法はレベル五相当の威力を持っている。彼女は天才なのだ、きちんと育てればカミロ軍の大きな主戦力となる。特に魔法戦では、攻略の要と言える。

「ふふっ! 見たかしら、私のどこが練度不足だって言うの?」

 光弾を打ち終わり、勝ち誇った声で彼女は言う。周囲には、土煙が舞っている。

「えぇ、本当に。貴方は素晴らしい才能をお持ちです」

 土煙が晴れて行く。美桜は傷一つ追わずに、その場に立っている。

「なっ!」

 マリアが目を見開く。彼女はきっと、美桜がうずくまり倒れていると思ったのだろう。それが、服すらも破れていないので驚いているのだ。

「ど、どうやったの!」

「簡単な事です。私は貴方より強いので、貴方の攻撃を防ぐ事など造作も無いんですよ」

 美桜は笑みを浮かべる。

「嘘よ!」

 今度は大きな光弾が飛ばされる。

(詠唱時間も早いな)

 飛んできた光弾を、魔法のバリアで止める。

「あ……!」

 彼女は目を見開く。

「あ、あんたも魔法を使うのね……!」

「えぇ」

 この世界では、剣術と魔術両方を修めている者は少ない。

「しかも……高位魔法じゃない……!」

 マリアが唇を噛む。

(一瞬でコレが、下位魔法じゃなくて、高位魔法の方のバリアだって見抜いている……)

「た、確かにあんたの方が実力は上みたいね……」

「ご理解いただけて感謝します」

 美桜は笑みを浮かべる。

「その上で再度、進言いたします。『魔道士部隊』の鍛錬をもっと行うべきです。良いですか、彼らは貴方のように『天才』では無いのですよ?」

 マリアが大きな目を広げて、まばたきをする。

「マリア様は『魔法の天才』ですから、短い訓練時間で多くを得る事が出来ます。しかし、普通の兵士はそうではありません。マリア様の三分の一も学べるか怪しい程です」

「そ、そうなの?」

 彼女は本気で驚いている。

(やっぱり、そう言う事なんだ……『天才』と『凡人』による認識の差って奴ね……)

 マリアは軍を率いるには、まだ若すぎたのだ。まだ自分と他者の違いをきちんと理解して、折り合いが付けられていない。

「そうです。きちんとご自分の軍の実力を見ていますか? 彼らはマリア様と同じ量の訓練をこなしても、同じだけの実力は手に入れられていないのです」

 マリアは思い当たる節があるのか、口を手で覆って考え込む。

「ですから訓練量を増やしてください。そうしなければ、いずれ自分の兵を失う事になりますよ」

 美桜は真っ直ぐに彼女を見て言う。

「……わかったわ……確かに……そうなのかもしれない……えぇ……おかしいと思っていたの……どうして同じ訓練をやっているのに、みんな下位魔法しか使わないのかとか……そうなのね……彼らはまだ、中位魔法を使える程の実力も無かったのね……」

 マリアは頷く。

「進言感謝するわ。たまには、年上の話も聞くものね。ありがとう、おばさん」

 マリアは微笑んだ。一切の、悪意も無い微笑みだった。

(おば……おばさん……)

 美桜は思わず、唇をひくつかせてしまった。

(二十歳過ぎの人間におばさんは、まだ早くない? それとも、生前の年齢と足し合わせた場合、私の精神年齢がだいぶ高いせいかしら……)

「いえ、良いんですよ……」

 美桜はどうにか微笑んだ。

「けど、私はあんたに負けたなんて思ってない。私は『天才』だから、鍛錬してすぐにあんたなんて追い越してやるんだからね」

 彼女は不敵に笑う。

「カミロ王子は絶対に渡さないわ!」

 それだけ言って、彼女は踵を返して去って行った。

(……あれ、やっぱり嫌味だったかのかな……まぁ、やる気出してくれたのなら、良いか……)

 

***


 マリアはイライラしていた。

「もう! もう! もーーーー!!! むかつくわねアイツ!!!」

 マリアは叫びながら、下で逃げ惑う魔道士達に爆撃を食らわせていた。

「ほらあんた達! ちゃんと防衛しなさい!! バリア切らせたら、死ぬわよ!!」

 部下に優しい、甘々上司マリアちゃんは一夜にして、鬼上司へと豹変した。

 魔道士部隊の訓練はどの部隊よりも厳しいモノとなっている。

「マリア様ー!!! 死んでしまいます!!」

 兵隊が悲鳴をあげる。

「死ぬ気で戦いなさい!! ほらっ! ほらっ!」

 兵士たちは必死にバリアで防衛し、時折スキを見ては魔法でマリアに攻撃した。もちろんマリアもバリアを張っているので、効果はない。ただし、三十回攻撃出来たら爆撃は止むと言う条件が最初に決められていた。なので兵士達は、必死に様子を伺いながら攻撃を続ける。

「はぁ、あぁ。よわよわね。こんなんじゃ、あの女に勝てないわ!!」

 マリアは大きな火の弾を出現させ放つ。

「私は、絶対あの女に勝つのよ!!」

 部下達が張ったバリアは彼女の火の弾によって、次々破壊された。

「わぁあああ」

 綺麗に吹き飛ばされていく部下達。

「はぁ、まだこんなんじゃダメね。もっと厳しくしないと」

 出力を落とした、中位魔法の一撃程度で壊滅した陣営を見て、マリアは小さくため息をつく。

「あんた達、寝てるんじゃないわよ! 起き上がりなさい!!」

 兵士達はプルプル立ち上がって、再び配置についた。

 マリアの鬼訓練は、まだまだ続くのだった。


***


 その後、魔法部隊は鬼のようなハードな訓練を行い、ぐんぐん実力をあげ美桜の想定よりも高いレベルへと仕上がっていったのだった。



つづく



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