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美桜は寝苦しくて目を開ける。
「……ん」
目を開けて戸惑う。
「……え……」
美桜は何故か固い床の上で寝ていた。身体を起こすと、他にも寝ている子達がいる。みんなみすぼらしい服を着ている。そして、美桜のいる空間はガタゴトと揺れている。隙間から光の射す布をかき分けると、泥の道が見える。
「……!」
頭が混乱する。なんでこんなところにいるのだろうか。見下ろした自分は他の子と変わらないボロ布をまとっている。
「な、なんで……」
「ん……」
寝ていた子の一人が目を開ける。
「ミオ、もう起きたの?」
茶色のくるくるした髪の彼女は目をこすりながら尋ねる。
「だ、だれ」
「えー、寝ぼけてるの? アンナだよ」
彼女はにっこり笑い、隣にやって来る。
「もうすぐお城だね」
「お城……?」
「そうお城だよ」
彼女は笑う。
「みんなまだ寝てるから、静かにしてよう。ほら、ミオも寝よう」
手を引っ張られ、彼女の隣に寝かされる。
「次、目を覚ましたらお城だよ……」
彼女は笑みを浮かべて、すぐに眠りにつく。美桜は戸惑いながら、目を閉じる。
(夢……だよね? なら、これで目が覚めるかな)
夢の中で目を閉じて眠りについた。
ガタンと揺れて目を開ける。
「へ」
「おし、おまえら下りろ!」
大きな声がする。周りの子達が起き出して、馬車を下りて行く。美桜はそれを呆然と見送る。
「早くしろ!」
男に怒鳴られて、美桜は慌てて馬車を下りた。外には少女達が並んでいる。
「一、二、三、……七人ね」
顔のきつい女が少女達を数えて、男に小袋を渡す。金属のぶつかり合う音がしたので、きっと金だろう。
「さぁ、それじゃ行きますよ」
女の後をついて行く。そこはお城の裏口のようだった。石の廊下を歩いて地下に下り、女は広い部屋に少女達を連れて来て立ち止まる。中に入ると、メイド服を着た年上のお姉さん達がいる。
「まずは身体を洗いなさい」
少女達が入るやいなや、メイドのお姉さん達が掴まえて服を脱がせ、桶に入ったお湯で身体を拭く。美桜も捕まって服を脱がされ身体を拭かれた。その時、気づいたのだが。美桜の身体はどうも小さい気がする。もうすぐ高校生になるはずだった美桜の身体は、十歳程度にまで縮んでいた。
(な、なにこれ!?)
戸惑う間に身体を拭かれ、服を着せられる。
「ふむ、良いかしらね」
少女達は、エプロンのついたワンピースを着せられている。顔のきつい女が手を叩く。
「いいですか。皆さんは今日からここで、メイドとして働きます。皆、孤児だったのでしょうが、ここではちゃんと働けば毎日ごはんが食べられますよ」
美桜はその言葉に驚く。
(私が、メイド……!?)
「私はメイド長のロランスです。これから、あなたがたを、みっちり指導しますからね」
ロランスは笑みを浮かべる。
「まずは食事です。食堂に行きますよ」
ロランスの後に着いて、食堂へ行く。長テーブルの前に座って、運ばれて来た食事を見る。木の器に盛られたシチューはいい匂いがする。
「神に祈りを捧げましょう」
皆が目を瞑って俯く。美桜もそれにならって、目を閉じる。
「主よこの素晴らしい、恵みに感謝します」
目を開けると、みんなが食事を始める。美桜はパンに手を伸ばしてちぎり、シチューにひたして食べる。
(美味しい)
スプーンでシチューをすくって食べる。
「美味しいね、ミオちゃん」
隣に座ったアンナがにこにこ笑う。
「こんな美味しい物初めて食べた」
彼女は本心から、そう言っているようだった。
「……そうだね」
美桜は頷き、シチューを食べた。
その後、簡単なメイドとしての仕事の説明があり、明日からの日程の連絡があった。それが終わると、大部屋に連れて行かれベッドで休むように言われた。美桜は暗い部屋で天井を見つめる。隣からアンナの寝息が聞こえる。
(この夢、いつ覚めるんだろう)
美桜は、小さくため息をついて眠りについた。
つづく




