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 伝達機の活躍のおかげで、ゴーレム戦での兵の被害は少なかった。とは言え、ゼロでは無い。まだ戦争序盤とは言え兵の実力はそれ程、高くない。美桜は繰り返し『ケムプフェンエーレ』をプレイした事で、序盤の兵育成がどれ程重要か知っている。先の敵を見越して兵を鍛えなければ、後半の強敵で詰むのである。もしも強い敵が出て来ても美桜自身が倒せば良いと思っていた。けれど、それでは兵が育たないのである。一度の戦争で得られる経験値は限りがある。誰にどれだけの経験値を注ぎ込むかも大事なのだ。それにこの広い戦場の敵を一人で全て担う事は出来ない。更に最大の理由は『シメオン王子の疑い』である。メイドの一人としてあまりにも突出した行動をとると、彼は美桜の事を疑う。彼の為に尽くしているとは言え、不審に思われれば解雇される可能性が高い。彼を守る為には、彼が死を迎える二五ステージまで彼の信頼を維持して側にいなければいけない。

(そう、だから私の実力は隠さなければ)

 長い修業と『学習能力』と言う特性のおかげで美桜は『化物』のようなステータスを作り上げてしまった。実はシメオンもその全貌を知らない。

(これ以上、彼の疑心を上げてはいけない……)

 美桜は頷く。そして、ノートを見下ろす。そこには、今後の戦いのステージのメモがとられている。

(最初はそう、資金の一番安い兵士を精一杯雇っても良いのよ。数で勝利に導けば良いのだから。資金と戦闘に余裕が出たら魔道士を雇う。ちょっと高いけど、魔法攻撃しか効かない敵もいるから必要な事ね。最初の山場は第六ステージの『ドラゴン』。空を飛ぶ彼らは、相手が難しい。けれど、既に主人公たちはそのステージを超えている。それなりに戦力はバランスよく整っているのよね)

 美桜は眉を寄せる。

(でも、詳細が知りたい……)

 一応戦場に出る兵士の一人として、軍内部の兵士達の規模は把握している。しかし、彼らの詳細なステータスは知らなかった。それは、書類にも上がって来ない事だからだ。しかし、美桜にはそれを知る手段があった。『アナライズ』と言う魔法を使えば相手が、どれくらいのレベルでどんな『特性』を持っているのか知る事が出来る。

「よし、調べに行こう!」

 ちょうど良く、兵士達の訓練が原っぱで行われているのだ。美桜は原っぱに立ち、遠くから兵士達の姿を見る。

(『アナライズ』発動!)

 すると美桜の目に、兵士達のステータスが見える。

(歩兵部隊はまだレベル一ばかりね…、騎馬部隊と魔法部隊も少ないしレベル一ばっかりか……)

 予想通りの結果に美桜は少し肩を落とす。序盤である。兵士達が殆どレベル一なのは、仕方ない事だ。視線を移し、主要メンバー達のレベルを見る。遠目に、カミロ王子・見習い騎士レオナルド・魔道士の姿が見えた。カミロはレベル二、騎士レオナルドは一、魔道士マリアはレベル二だった。

(うん……まぁ、こんなもんよね)

 ちなみに現時点でシメオンはレベル三である。メモをとっていると、突然後ろから抱きつかれる。

「わっ」

 振り向くと、獣耳の生えた男の子が見上げていた。

「お菓子か? お菓子持って来たのか?」

「えっ」

「あっ違うのか? お風呂は嫌だぞ!」

 男の子が後ずさる。その子供を美桜は知っている。それは、第三ステージで仲間になる獣人ユンバである。偶然、戦場に迷い込んで来た子で、戦闘中に接触をはかると仲間になるのだ。今まで見た事が無かったのだが、どうやらカミロ王子は彼を仲間にしていたらしい。

「こ、こんにちは」

「こんにちは!」

 ユンバは笑顔で答える。美桜はメイド服を着ている。ユンバはメイドからお菓子を貰ったのだろう。それで、同じメイドの美桜にも警戒心が無いのかもしれない。いや、そもそも彼は人の区別があまりできないタイプの子だった。作中でもよくカミロ王子と、レオナルドを見間違えたりしている。

「お菓子頂戴!」

「すいません、お菓子は持っていないのです。三時になれば、お菓子が食べれますから、それまで我慢してくださいね」

「むぅ、仕方ないな。じゃあ我慢だ!」

 ユンバが、またにこっと笑う。

「おまえは何をやっているんだ?」

 彼は首を傾げる。

「皆様の訓練ぶりを見ていたんです」

「そうなのかー、オレは訓練嫌いだぞ」

 ユンバはむぅと言う顔をしている。

「オレは綿毛でも追いかけてる方が楽しいぞ!」

「ふふっ、確かにその方が良いですね」

 すると後ろで草を踏む音がする。

「お、ユンバがココにいるなんて、珍しいじゃないか。訓練しに来たのか?」

 後ろから聞き覚えのある声がする。

「ちがうよーだ! 俺はカミロ王子みたいに、汗まみれになるの、大嫌いだもん」

 振り向くと、カミロ王子が居た。彼と視線が合う。

「あっ」

 こちらに気づいたカミロ王子の頬が赤くなったように見える。それとも、訓練して汗だくなせいだろうか。

「こんにちは、お邪魔しております」

 美桜は頭を下げる。

「あ、いや、じゃまなんて、そんな事!」

「訓練をされていたのですね」

「えぇ!」

 彼は典型的な熱血主人公タイプだった。とても素直で、真面目な子なのである。美桜はシメオン一筋なのだが、彼の主人公としての真っ直ぐなキャラクター付けは嫌いでは無かった。なにより彼は、作中シメオン王子にどんな嫌味を言われても、シメオン王子を嫌いになる事が無かった。シメオン王子が死んだ時、彼は泣き、自分の無力を嘆いた。そしてシメオンの死後も彼は度々、シメオンの事を思い出してくれたのだ。だから、美桜は彼の事を好ましく思っている。

「お疲れ様です。そのように真剣な王子の姿を見れば、兵の指揮も自然と上がるでしょう」

 笑みを向けると彼の顔がわかりやすく赤くなる。

「ありがとうございます。俺は……がんばります、皆を導けるように」

「貴方は立派に皆を導いていますよ」

 彼は良い王子である。将来立派な王となるだろう。カミロは照れた様子で、頭を掻く。

「あの、ミオさんはどうしてこちらに? 訓練ですか?」

 何があるかわからないので、美桜は常に腰に剣を下げている。

「いえ、今日は兵の様子を見に来たのです」

「兵の様子ですか?」

「自分のいる軍が、どのくらいの実力を持っているのかを見ているのです」

 カミロ王子が瞬きする。

「あの、失礼なのですが、美桜さんはメイド……なのですよね。兄上に仕える」

「はい、私はメイドです」

「何故、帯刀して共に戦争に行かれるのですか?」

「……私に戦う力があるからです。私はシメオン様を守る為に鍛えて参りました。ならば、彼と共に戦地に赴くのは当然の事かと。貴方の友人二人が、貴方の側で戦うのと同じ事ですよ」

 笑みを浮かべる。

「な、なるほど。……では、兄上の事を友人のように思っているのですね」

「いいえ、そのような立場をわきまえぬ事は思いません」

 その言葉に首を横に振る。

「私はただのメイドです。私はあの方に『忠誠』を誓っているのです」

 カミロがじっと美桜を見る。

「とても強い忠誠心をお持ちなんですね……」

「はい」

 美桜は頷いた。カミロが笑みを浮かべる。

「貴方の兄上への忠誠は、本物なのでしょう。俺は戦場で何度も貴方の姿を見ました。貴方は常に兄上の様子を気にして、動いていました。自分の武功の為では無く、ただ兄上に危険が及ばない事だけを考えて戦っていた……正直羨ましいです」

「ふふっ、貴方にも素晴らしいご友人がお二人いらっしゃるじゃないですか」

「彼らは、えぇ、俺にとってかけがえのない友です」

 彼は遠くに立つ二人を見る。

「……だから、失いたくないのです」

 美桜はカミロを見る。

「貴方はこの戦争をどう見ますか」

「……とても厳しい戦いが続いていますね」

 カミロは頷く。

「戦場に立つ度に、俺は何度もあの二人を失うかもしれないと思った瞬間がありました」

 美桜は俯く。

「俺は二人を失いたくない。無事に生き残って、また城に帰りたいんです」

「その気持はとても大事な物だと思います」

「……恥を忍んでお聞きします。貴方は、我が軍にあと何が足りないと思いますか?」

 美桜は驚く。

「どうしてそれを私にお聞きになるのですか?」

「俺は、貴方がとても優れた方だと知っているからです。それこそ、この軍の中でもっとも優れた方だと感じています」

 美桜は目を見開く。美桜は確かにこの軍の中でもっとも優れた人材だろう。けれど、それがバレないように隠していた。ステータスを低下させる魔法具をわざわざ着けているくらいだった。それを彼は見抜いたのだ。

(カミロ王子……人を見る目が優れてるんだ……これが王の資質って奴か……)

「……私の本当の実力に関しては、内密にしていだけますか」

「……能ある鷹は爪を隠すと言いますからね。心得ました」

「では、その代わり助言をいたしましょう」

 美桜はカミロを見て笑みを見せる。

「備蓄を見たところ、修理の為の石材の確保が少ないように思います」

「石材ですか?」

「えぇ、ゴーレム戦でも壁を壊す者がいたでしょう。もしも敵に壁を重点的に壊す者が現れたら危険です。すぐに修理出来るように石材の確保が必要です」

「ふむ、確かに。兵の増強ばかりに気をとられて、補修で減った石材の確保が出来ていませんでした」

 カミロが唸る。

「ありがとうございます。次の戦争が始まる前に、石材を確保しておきましょう」

「聞き入れてくださって、ありがとうございます」

 美桜は軽く頭を下げた。


つづく


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