15
■
材料が砦に運びこまれ、一緒に職人達もやって来た。彼らに設計図を渡し、作り方を教えた。すると二週間で『伝達機』五十機を作ってくれた。『伝達機』は各部隊の隊長に配られ、次の戦争が始まるまで訓練の中で練習が行われた。最初戸惑っていた兵士達も、この魔具がとても便利な物だと気づき、上手く使い始めた。大将のカミロ王子の伝令は、一瞬で全部隊に伝わるようになった。これで情報不足で末端の兵士が消耗するのは避けられるだろう。『伝達機』はシメオン第二王子の抱える発明家が開発した事になっている。
異界のゲートが開く。
『第一斥候隊、情報の収集を頼む』
カミロ王子の声が耳元で聞こえる。シメオンと美桜は各自一つずつ伝達機を耳に着けている。二人は馬に乗って、カミロ王子の指示を待つ。美桜はシメオンの背中を見る。白馬に乗った彼はまるで、王子様のようだった。いや、実際王子様なのだが。その美しい背中は、他者を寄せ付けない空気を出している。
『カミロ様、ゲートから現れた敵は巨大な岩の塊が動いています!』
『新種か。敵の仮称をRとする。魔法部隊前へ!』
戦況の様子が次々報告に上がって来る。
『魔法部隊、敵Rにダメージを与えています!』
『よし、歩兵隊・騎馬隊突撃!』
するとシメオンが馬を動かす。遠くでも、人や馬の動く地響きの音がする。
「これが統率された情報の元に行う戦争か」
シメオンがそうつぶやいて、馬の腹を蹴った。美桜もその後に続く。
『三Bで敵と交戦中!』
戦場の地図はマス目が振られ、それぞれの場所が記号で表記されている。シメオンは陣の側面から敵に寄る。近づくと岩の塊と兵士達が戦っている。
「あれが、Rか」
それはゲーム中では『ゴーレム』と呼称される魔物だった。シメオンが剣を抜き、ゴーレムに斬りつける。すると、ゴーレムの肩は簡単に切り捨てられ落ちる。シメオンは馬上から次々、ゴーレムを切ってゆく。美桜は離れた場所からその様子を見ていた。時折襲って来るゴーレムを、剣で切り捨てる。
(たぶんそろそろ……)
注意深く見ていたゴーレムの残骸が、ぶるぶると動くのが目に入る。
「シメオン様!」
馬を走らせ彼の背後に周り、地面から飛んで来た岩の塊を剣で受け止める。シメオンが振り向きその敵を見る。
「なっ」
岩の塊に小さな手足が出来て動いていた。『ゴーレム』は切り捨てられ倒れた後も、『ミニゴーレム』となり再稼働するのが特徴の敵なのだ。しかも『ミニゴーレム』となった事で機動性能が上がる。
「くっ」
シメオンは飛びかかって来たミニゴーレムを剣で受け止め、切り捨てる。美桜も辺りのミニゴーレムを突いて殺す。ゴーレムを倒した周囲の戦場では同じように、小さなゴーレム達に兵士が襲われていた。
「落ち着け! 分裂後の敵は早いが、防御はそれ程でも無い! 一匹ずつ切り砕け! 複数匹から囲まれないように、崩れたR の瓦礫からは、離れるようにしろ!」
すると兵士達が指示を聞いて、ゴーレムの死体から離れ、なるべく各個撃破を主にして動く。
『Rは分裂する! 倒した後は死体から離れろ! 小さくなったR は動きが早い、落ち着いて一匹ずつ対処しろ!』
伝達機からシメオンの声がする。
『りょ、了解!!』
カミロ王子の返事が聞こえた。シメオンは再び戦闘に戻り、ゴーレムを切って回った。美桜は彼に危険が及ばないよう補助に回った。
つづく




