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 第八ステージの戦争が終わった後、美桜は改めて作戦の練り直しを考えていた。ゲームであれば兵士を動かすのはプレイヤー一人である。変化する敵に驚いても、プレイヤー一人が落ち着けば問題無い。けれどこれはゲームでは無い。兵士達はそれぞれ意思を持っている。混乱して敵前逃亡だってする。その統率をとる為に、得た情報の共有は必要なのである。しかし残念ながらこの世界には、言葉を遠くに伝える魔術が無かった。離れた兵士達は、それぞれ単独で戦う事になる。兵士の消耗は極力避けたい。

 美桜は腕を組む。

「伝達機って作れないかしら……」

 なんと美桜は発明家に弟子入りして、『発明』スキルを持っていた。ゲーム中で発明家は『兵器開発班』に所属して爆弾等の兵器を作成していた。けれど、伝達機も作れない事は無いのではなかろうか?

「よし、やってみよう」

 机の上にノートを広げて、『発明』スキルを発動させた。すると勝手に手が動き始める。ノートに次々文字が書き込まれる。更に図面も書き込まれて行く。美桜の頭の中では演算が勝手に進んで行く。頭の中だけで、実験が繰り返される。失敗、失敗、失敗、失敗、失敗……成功! 美桜の手が止まる。

「出来た……」

 ノートに、伝達機の図面が出来あがる。

「後は『工作』スキルを発動させれば出来るわね……」

 しかし、ノートに書かれた材料を見て眉を寄せる。

「魔法石と金がいるのか……」

 魔術を使った伝達機なので、魔術式を組み込むのがメインではあるのだが、それを受ける基盤として魔力伝達の良い貴金属が必要なようだった。量産となると結構な額がかかる。

「むむむむ……」

 軍全体のお金は貴重な物である。極力、兵士達の強化に回したい。けれど、今後の戦闘に伝達機は欲しい。美桜はノートを睨む。

「用意した軍資金を使うか……」

 美桜は鞄の中に入った紅い魔法石を取り出す。

「『表示』」

 すると宝石の表面に現在持っている金額が表示される。表示された金額は、一億二千万ゴールドである。これは美桜が九年間で得た技術を使ってコツコツ貯めたお金である。

「伝達機をそれぞれの部隊に持たせるとして……五十個もあれば足りるかな」

 予算を出す。更に鞄の中から金と魔法石を出す。

「まずは一つ試作品を作る……」

 道具を並べてスキル『魔道具作成』を発動させる。すると勝手に手が動いて、設計図どおりの伝達機が組み上がる。魔術式も完璧に組み込んだ伝達機を二つ用意する。これで送受信が出来る。試しに自分の耳と口に、当てて音を聴く。

「あーあー」

『あーあー』

 音が聴こえる。

「よし」

 伝達機は完成した。

「しかしコレを量産するとなると、大量の金と魔法石の確保。それから、腕の良い技師が必要になるわね……」

 美桜個人ではどうしようも無い。

「うーん、こう言う時は権力の力を借りようかな……」 

 立ち上がり、部屋を出て上の階のシメオンの部屋を尋ねる。部屋からは明かりがもれている。緊張しながら部屋をノックする。

「……誰だ」

「美桜です。少々、お話があります」

「……こんな時間にか」

「はい」

「急ぎの話です」

「……入れ」 

 部屋に入ると、ヒラヒラの寝間着姿のシメオンが居た。寝る前なのだから、寝間着を着ているのは普通である。

「あ……」

「どうした」

「い、いえ」

 不意打ちに美しいものを見て動揺してしまった。

「それで、話とはなんだ」

「コレです」

 美桜は『伝達機』を見せる。

「……なんだそれは」

「この耳飾りを付けた者同士は遠くの人と話が出来るんです」

 トランシーバーのような物である。彼に耳飾りを一つ手渡す。

「これを耳に付けてください。赤い宝石に指で触れると音声が入ります」

 彼は疑り深い顔をしながら耳飾りを付ける。

「少しお待ちください」

 部屋を出て廊下の一番奥に行く。美桜も伝達機を耳に付けて、指で押して起動する。

「シメオン様、聴こえますか?」

 指を宝石から離す。シメオンから返事は無い。

「シメオン様?」

 しばらくすると彼の部屋の扉が開く。目を見開いて、美桜を見ている。驚いた顔のシメオンを見るのは初めてである。美桜は軽く頭を下げる。

『こちらへ戻って来い』

 耳元でシメオンの声がして、ぞわっとする。

「はい」

 美桜は緊張したまま彼の元に戻った。部屋に入るとシメオンは腕を組み、何か考えている。

「これは……誰が作った物だ?」

「……私が作りました」

 すると、シメオンが美桜を見やる。

「おまえが?」

「はい、設計も全て私が行いました。同じ物を作っている者は、おそらくまだいないでしょう」

 彼は再び腕を組んで考え込む。

「以前より、このような物があれば便利なのではと思っていたのです。試作を繰り返して、完成させました」

 本当は半日で作ったのだが、それは言わない。

「ふむ……これはなんと言うのだ」

「『伝達機』です」

「……一瞬で兵に情報伝達が出来るのだな」

「ただ、通信距離は五〇キロ程なので、都市から都市への長距離の伝達には向きません」

 そこまで広範囲の伝達機となると、もっと複雑な式が必要になる。

「ひとまず、この戦争に使うのには十分か……」

 彼は頷き、伝達機を眺める。

「この魔法具の量産にはどれ程かかる」

「腕の良い職人ならば、一日三つは作れます」 

「……そうか、では量産させて次の戦争から使用する事にする」

「シメオン様」

「なんだ」

「量産には高価な金と魔法石が大量に必要です」

「そのようだな」

「ですのでコレを……」

 美桜は腰鞄から、袋を差し出す。中には大量の金貨が入っている。

「コレを資金の足しにしてください」

 頭を下げて差し出したが、反応が無い。

「なんだこれは」

 顔を上げると、彼が怒っていた。恐ろしい顔をしている。

「お、お金です」

「これ程の大金をどうしたのだ」

「わ、私が稼ぎました」

「どうやって稼いだ」

「いろいろな方に弟子入りした際にお給料や報酬を貰う事もありました。それを貯めておいたのです」

 シメオンは美桜の手元のお金を睨む。

「五十万ゴールド以上は入っているな」

「はい……」

「これ程の大金を持っていながら何故おまえは私の下につくのだ」

「そ、それは、それは私がシメオン様にお仕えしたいからです」

 シメオンが美桜を睨む。

(しまった、彼に疑われちゃった。そりゃそうだよ、メイドがこんな大金持って来たら疑うよ!)

 伝達機の完成に浮かれて、そこまで頭が回っていなかった。

「おまえは高い給金に惹かれて私の下に就いているのかと思ったが、どうやらそうでは無かったらしいな」

 確かに美桜の最近の給金は、ただのメイドの頃に比べて五倍近く増えている。美桜は冷や汗をだらだら流す。

「ふんっ……おまえの忠誠の理由については疑いがあるが、その『伝達機』の量産は一任する。だが、その金は受け取らん。材料の金と魔法石の確保はこちらで行う」

「は、はい……」

「話は終わりだ、部屋を出ろ」

「し、失礼しました」

 部屋をとぼとぼと出る。廊下を歩いて自分の部屋に戻って来て、頭を抱える。

(やっちゃったーーーーー!!)

 シメオンは疑り深い人なのである。美桜の行動に不審があれば、疑いを持つのは当然である。きっと彼は今まで美桜の『忠誠』の理由をお金だと思っていたのだろう。

「どうしよう……」

 つぶやいて見たものの、過去は変えられない。

(今後は、突飛な行動をとる時はシメオン様に疑われないようにしなくちゃ……)

 美桜は爪を噛んで、眉を寄せた。


つづく


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