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 一月後、次の戦争が始まった。美桜はシメオンに付いて騎馬隊にいる。カミロ王子は、軍の最前列にいる。総大将は安全な場所に居た方が良い気がするのだが、総大将が前に出て共に突撃する事で兵士達の士気が上がるらしい。

(まぁ、カミロ王子は他の兵士に比べれば強いのよね……ちょっと攻撃受けたくらいじゃ、死なないでしょう……)

 しかし、そこで美桜はハタと固まる。『ケムプフェンエーレ』は、主人公のカミロ王子が死ぬとゲームも一緒にゲームオーバーになって終了してしまった。

(いや……やっぱり、カミロ王子に死なれるのは困るよね……兵士達の士気もダダ下がりするだろうし……それはシメオン様の生存フラグにも関わるかもしれない……)

 美桜は眉を寄せる。

(やっぱり、カミロ王子も極力守るようにしないと)

 とは言え、最前列にいるカミロと、後方の騎馬部隊を率いているシメオンとでは場所が離れ過ぎている。

(……分身を飛ばしておこう)

 美桜は髪を一本抜いて、遠くへ飛ばした。それは妖精のような姿をとって飛んでいった。意識すれば、妖精の視界を見る事も出来る。ある程度は、自動コントロールも可能である。

(『カミロ王子の命が危なくなったら守りなさい』)

 美桜は妖精に、そう念を送った。

 ところで兵士の配置についてはプレイヤーが戦略を練って好きに配置出来るのだが、この世界ではカミロ王子がその配置を決めている。今回の陣形は、上向きの三角のような『魚鱗』の陣だった。カミロ達は、次になんの敵がどんな風に来るのかわからないので、陣形に関しても手探りになってしまう。

(まぁ、現段階ではあまり心配はしてないけど……)

 ゲートはまず起動が確認された後、しばらく敵は出て来ない。その間に素早く陣形を組んで待ち構える。そして今、ゲートの色が赤に変わって中から魔物が姿を現した。遠見の魔術で魔物を見る。

「ゴブリンのようです」

 シメオンが頷く。美桜は妖精の視界に切り替えて視る。


 最前線の映像が見える。

「はぁ!!」

 カミロ王子が大将らしく戦闘に飛び出して、ゴブリンを切り捨てる。作中もっとも雑魚敵のゴブリンは一刀の元に倒される。

「さすがですカミロ様!」

「素晴らしいです!」

 お付きのマリアとレオナルドが声をあげる。美桜は視線を移動して、そのゴブリンの死体をじっと見る。

「さぁ、どんどん行くぞ!」

 カミロ王子が剣を構えて、ゴブリン達に突撃する。

「ふふっ、私達もけっこう戦闘に慣れて来ましたよね」

 魔道士のマリアが笑顔で言う。

「えぇ、危なげなく戦えています」

 見習い騎士のレオナルドが頷く。

「今回は、兄上に怒られなくて済みそうだ!」

「あんな、冷徹男などいなくても私達だけで勝てるってところ見せてやりましょう!」

 マリアが魔法を放つ。

「うわぁーー!!!」

 レオナルドが悲鳴をあげる。そちらを向けば、彼の足元に『ウルフ』が居て取り囲まれている。カミロが急いで彼の側に寄り、剣でウルフを薙ぎ払う。

「大丈夫か!」

「も、申し訳ありません! ま、魔物が突然妙な事になって!!」

 見習い騎士レオナルドが慌てている。

「妙な事……?」

「きゃっ!」

 今度はマリアが悲鳴をあげる。すると彼女の目の前に居た『ウルフ』が姿を変えて、『毛玉』の魔物に変わる。

「ま、また変わった!!」

 他の魔物達も一斉に毛玉に変わる。

「これは……」

 カミロが魔物達を睨む。美桜はそこで視界を切る。

「シメオン様、どうやら敵は『姿を変える魔物』のようです」

「姿を変える?」

「えぇ、ウルフになったり、ゴブリンになったり、毛玉になったりするんです。強さとしては前回の魔物とあまり変わりません」

「……面倒だな」

「兵達が動揺しないように、情報を共有させましょう」

 シメオンが後ろを振り返る。

「兵士達よ聞け! これより対峙する敵は、何度も姿を変えて我々を翻弄する! しかし、姿を変えても所詮下賤な魔物だ。落ち着いて急所を狙って殺していけ!」

 変化する度に急所の位置が変わるのが厄介なのだが、シメオンの担当する精鋭部隊なら問題は無いだろう。

「伝令兵、各部隊にこの情報を伝えろ!」

 伝令兵が走って行く。

(そうだ……この世界って、情報通信装置が無いから、情報の伝達が遅いんだ)

 ゲームのプレイ画面のように俯瞰して戦況を見て、兵士を細々動かす事も出来ない。

(何か対策を考えないと……)

 美桜は唇を噛んだ。前方で交戦の音がする。

「側面から敵を叩く! 突撃!」

 シメオンの声につづいて、騎馬兵が馬を走らせる。美桜もそれに続く。意識の端には、カミロ王子の元に飛ばした妖精の映像も見えている。

(うわっ、危ない!)

 カミロ王子が危うくなる度に、美桜は遠くから妖精を使って魔法で攻撃した。混戦しているので、気付かれる可能性は少ない。一方、美桜の前方にも敵の姿が現れる。スライムが飛びついて来たかと思うと姿を変えてゴブリンが短剣を構えていた。

(なかなかやるじゃん)

 そのゴブリンを剣を抜いて切り捨てる。

「ミオ、気を抜くな!」

「えぇ、気をつけます」

 シメオンに小さく笑みを向ける。妖精を自動操作にして、目の前の戦いに集中した。前方の兵士達は、魔物を前に逃げ惑っている。姿を変える敵に驚いて、混乱しているのだ。

「落ち着いてください! あの魔物達は姿を変えるだけです! 急所を狙えば死にます!」

 そう叫びながら、近くの敵を切り捨てる。ゴブリンは簡単に切り捨てられる。変化はするが、大して強くないのだ。すると逃げていた兵士達が足を止め、こちらを見る。

「一匹ずつ対処してください。そうすれば勝てない敵ではありません!」

 ただのメイドの言葉がパニックを起こす彼らに伝わるなどと思わない。他者を圧倒するシメオンの姿を見て、勝手に修得した『言霊』のスキルを使用する。

「よ、よし! やるぞ!!」

 すると兵士達が目の前の敵に切りかかってゆく。スキル『言霊』は洗脳に近い。耐性の無い人間なら簡単に言葉に操られてしまう。美桜の言葉に操られて、彼らは敵を倒し始めた。敵が倒れる事に、歓声があがる。

(ここはもう大丈夫ね)

 美桜はその場を離れ、次の場所に移動した。


 第八ステージはシメオンの機転により、大きな被害を出さずに勝つ事が出来た。変化する敵に慌てていた兵士達だが、美桜とシメオンの『言霊』スキルにより平静をとり戻し敵と戦えた。それでも兵士達の被害はそれなりに出た。戦場を見渡す、シメオンが厳しい目をしていた。

「毎回これでは、いずれ戦えなくなる……」

 美桜もそれに同意だった。まだまだ兵士の鍛錬が全く足りていなかった。

「それにしても、おまえには『人を率いる』才能もあったのだな」

「そんな、恐れ多いです……」

 言霊スキルはシメオンの物に比べれば、一段劣った。それに本当に人を率いると言うなら、カミロの『カリスマ』スキルの方が強いだろう。なにしろいずれ王となる人である。その力は絶大だった。彼が一声上げれば、多くの兵士達が死地に着いて来た。

「謙遜をするな。いずれ、おまえにも一つ部隊を率いて貰う」

「ありがとうございます。ですが、私は極力シメオン様のお側にいたいです。貴方をお守りしたいのです」

「この戦争に速やかに勝つ事が、私の命を守る事と知れ」

「……それは、そうなのですが」

 美桜は少し困ってしまった。

(部隊持って、別働隊にされちゃうとシメオン様が心配なんだけどな)

「何、この程度の戦場で死ぬ程、私は弱くない」

 彼は鼻で笑った。



つづく


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