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 馬車に揺られてやって来たクベロと言う地は、城から離れた辺境の土地だった。周囲には草木しかない土地である。馬車は、草原の真ん中で停車する。

「あれか……」

 のどかとも言える草原の中に、異様な建造物が見える。それは、白く大きな壁だった。白く大きな壁が長い距離で続き、カクッと曲がってまた続いている。その壁は何かを囲むように四角く張り巡らされていた。

「……異界のゲートは突然、この土地に現れたらしい」

 シメオンがマントをひらめかせて馬に乗っている。美桜も馬に乗って後に続く。美桜はメイド服の上から、簡素な皮の鎧を着けている。壁に近づくと、鉄の扉の前に兵士がいた。シメオンの姿を見て扉を開く。二人、その扉をくぐる。すると、薄暗い廊下が奥へと続いている。

「そのゲートからは、見たこともない魔物が次々と現れた。会話は不可能で、凶暴な魔物達は周囲の草木を荒らし、動く物があれば襲った。派遣された兵士達は、魔物達を退治した。しかし、魔物は定期的にゲートから出てきたそうだ。魔物は出て来る度に強くなった。魔物を取り逃がせば、村に被害が出る。魔物を完全に討伐する為に、国はゲートの周りに高い壁を作った。魔防の壁で囲み、四方と天井を囲み、その中で戦争を行った」

 長い通路の先には、再び鉄の扉があった。

「さぁ、戦争へ行くぞ」

 兵士が鉄の扉を開く。開いた瞬間、爆発の音がする。美桜はそちらを見る。どうやら、魔法爆弾を使ったらしい。周囲を見ると、四方が厚い魔防の壁で囲まれていた。天井から空が見えるが、見えない魔防の壁が張られているようだった。戦場となる場所は、草木が抜かれ見晴らしの良い荒野になっていた。土煙の上がる戦場に目をこらせば、ずらりと横にならんだ槍兵が、長い槍を突き出して魔物と戦っている。その後ろに、弓兵が居て、矢を射っている。更に後方では、魔法部隊が詠唱をして攻撃の準備をしている。

「基本通りの采配だな」

 シメオンはざっと周囲を見渡して呟く。

「……シメオン様……人の軍は、押されていますね……」

 魔力で遠見を行い、魔物の姿を見る。緑色の肌のオークが棍棒を手に襲いかかっている。

「あの戦法はあくまで、武装した人対人の戦いを想定した戦い方だからな……魔物相手にどこまで効くか……」

 馬を走らせながら話をしていると、兵士を吹き飛ばして、オークが飛び出して来る。それをシメオンが馬で駆け寄り、槍で突き刺す。戦列に近づくと、オークが次々現れる。美桜も手に持った槍で応戦する。

「完全に列の崩れた場所があるな……」

 槍兵が倒れ、後ろの弓兵や魔道士がやられている。シメオンがその場所に向けて馬を走らせる。一箇所隊列が崩れれば、そこを基点にしてどんどん負けが広がっていく。兵士は人間だから、『士気』と言う物がある。三分の一も味方兵がやられれば彼らの『士気』は下がり、戦意を失って逃亡してしまうだろう。だから、崩れた隊列のフォローにすぐ入らないといけない。

 馬で駆けるシメオンの後を着いて行く。銀の鎧を着て白のマントを翻して走る彼は、とても早かった。ゲーム途中での追加キャラの彼は、他のキャラより一回り上のレベルをしている。なおかつ、『魔法騎士』で強かった。向かって来るオークを次々に一刀の元に倒していく彼の姿を後ろから見て、美桜は笑みを浮かべる。

 開けた場所にやって来ると、オーク達に少数の兵士が囲まれている。シメオンは駆け出し、オークを切りつける。次々と倒れて行くオーク。すると、離れた場所にいる兵士がオークに襲われようとしているのが目に入る。美桜は槍を投げて、そのオークを刺し殺した。馬で軽く駆け寄って、槍を引き抜く。

「隊列を乱すな! 空いた分の穴は詰めて埋めろ!! 負傷兵は後ろに運び、衛生兵に任せろ!」

 シメオンが叫ぶ。すると、乱れていた隊列が徐々に形を成す。空いていた穴は埋められた。 

 周囲を見渡した後、シメオンがこちらにやって来る。

「情け無いなカミロ」

 そう言ってみやったのは、美桜の後ろに倒れる兵士だった。その兵士は、よく見れば銀の鎧に青いマント、そして茶色の髪をした青年である。

(あ、カミロ王子!)

 彼は、『ケムプフェンエーレ』の主人公である。

「兄上……!」

 カミロ王子は驚愕に目を見開き、慌てて立ち上がる。

「ふん、王族が倒れるなどみっともない」

 シメオンは侮蔑を込めた瞳で、カミロを見る。

「申し訳ありません、油断しました……精進します」

 カミロは腹を押さえてうなだれる。

「カミロ様!」

 遠くで倒れていた、魔道士が走り寄って来る。

「大丈夫だよマリア」

 マリアと呼ばれた女は、ふらつくカミロの身体を支える。

「申し訳ありません、カミロ様……」

 一緒に走り寄って来た、金の短髪の男は申し訳なさそうに眉尻を下げる。彼は、レオナルドと言う騎士見習いである。

「兄上、助けてくださって本当にありがとうございます。貴方が来なかったら、俺達はきっと助からなかったでしょう」

「……ふん。王族を守るには随分、弱い付き人達だな」

 マリアとレオナルドは、何も言わずに目を伏せる。

「俺たちは自分の力を過信していたようだ……心を入れ替えて、鍛え直します……」

「無駄に部下を失って、無能な王子と言われぬように精々励む事だな」

 シメオンはマントを翻してその場を離れる。美桜は頭を下げて、シメオンの後に続く。

「あ、待って。君の名前を教えて欲しい!」

 呼び止められて美桜は振り向く。

「シメオン様付きのメイドの、美桜と申します」

「ミオ。助けてくれてありがとう」

 美桜は小さく頭を下げて、その場を立ち去った。

 主人公達は、『経験値上昇』と言う特殊なスキル持っているので、普通の兵士達より強くなるのが早い。彼らとは、これから度々ココで顔を会わせる事になるだろう。



つづく


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