ウチキちゃん5
恩人さんの弟弟子という人から面会を申し込まれる。
突然なんだろう、説教されるのかとどきどきしながらも、御礼は伝えなければと思い承諾する。
場所は向こうから指定される。
待ち合わせの時間より少し前についたが、向こうが先に来ていた。年齢は同じくらいか少し上くらいに見える男性。真面目そう見える銀色のメタルフレームの眼鏡がとても印象的だった。
意識に入っていないようで、必死に話しかけるが声が届かず、わたわたしているところを気がつき、少し驚いたような感じで、「ああ、さとりさんですか」と問われ、頷く。向こうの印象は、小さいとか目立たない、忍者かという感じだった。残念ながら忍術は使えないのですと小さく返事をしておく。
予約がとってあったらしく弟弟子さんが店との遣り取りをする。
店内は席の間隔が近くなく、賑やかではない飲食店。平日の夕方ということもあり、店内はゆったりとした雰囲気だった。
外食には良い思い出のないさとりにとって珍しく心地が良かった。
それにしても、弾まない会話。自己紹介後、「ほんとにこいつが」という心の声に小さく
「ごめんなさい」
と返事してしまう。その瞬間、空気が凍りつく。あ、またやってしまったと後悔する。弟弟子さんも本物だと気が付き、
「別に謝ることじゃない。」とぶっきらぼうに言いながらも心の中では、やっちゃったー としょんぼりとへこむ。
その様子を気にしていると、きっと睨み、ひっと怯え、お互いううーと悩む、悪循環。
「恩人さんに御礼を…」
と何とか切り出すと、
「おじいさん?」
「え、いえ、恩人さん…」
「はっ、オジンさん!? 誰それ!」
周りの音にかき消される。首を横に振ってもう大丈夫の意を伝える。お互いにしょんぼりする。
弟弟子さんは、表情を変えずにじーっとこっちを見ながら、兄さんもなんでこんなやつーと思い、はっ、ダメだったと慌てて気が付く声が聞こえていた。
見た目ほどクールじゃない彼を、雪で作ったカマクラの中みたいと思って、こっそりとカマクラさんと名付ける。
カマクラさんが
(そういえば、字の方がわかりやすいんじゃ)
と思い当たり、テキストチャット機能等で遣り取りができるコミュニケーションツールのアプリケーションのIDを問う。
さとりが首をかしげると、
(何だ、教えたくないのかー)
とイライラするカマクラさんに、困るさとり。質問を相当重ね、やがてカマクラさんが1つの結論に思い当たる。
(もしかして、知らない……)
なぜそんな意外そうに言われるのか疑問に思いながら、さとりは頷く。ガーンとショックを受けた表情になった。そして、女子高生なのに、とか理不尽な文句を言われる。
(もしかして…… スマホとかケータイも持ってないということは……)
となぜか、驚愕の目でみるカマクラさんに、再度、頷くさとり。
(終わった……。)
と絶望していた。
さすがに、それは存在くらいは知っている。使ったこともないし、必要になったこともないけど、と思ったが、ふと気が付く、あれ、今じゃんと。
もしかすると、あれを持ってないとだめなのかなぁとオロオロしはじめる。
オロオロしている様子に向こうも慌てはじめ、双方の思いが合致する。
(ああ、もう、帰りたい)と。
その後、予定された時間よりも早かったが、どちらからともなく面会を終了することになった。
迎えが来て、車にのり、さとりはしょんぼりしながら帰る。