ウチキちゃん2
今回は、こんな感じでウチキちゃん視点とトオミミさん視点を交互に続いていきます。
この頃は、ボールの忘れ物が多いようだった。
あの次の日は予定通り早めに学校へ行き、宿題を終わらせる。クラスメイトは何事もなかったように接する。なかったようには見えるけど、心の中は違っていて、嗤う声や真似る声が複数聞こえる。意識してしまうと声はもっと小さくなってもっと出て来なくなるけど、意識しないようにと考えれば考えるほど、意識してしまうのであった。
結局、放課後になるまで、まともに言葉が通じなかった。
そんな時は桜に会いに行こう、とつぶやく。
石段をのぼりながら、ボールの忘れ物の理由について考える。
運動をしている人が多いのかもしれない。神社広いし。それとも、さとりはふと思い当たる。桜さんが運動不足を解消しようとしているのかもしれない!
頭の中で、桜の枝の色をした長い髪の女性を思い浮かべた。ジャージは桜色で。他の木々とボールを優雅でかつ巧みに、操って遊んでいる光景を思い浮かべた。そういえば、バスケも、バレーボールも身長が、高い方が有利だ。イチョウの木が頭の中でダンクシュートを軽々と決め、杉の木がバレーボールをブロックする。さとりは納得する。
彼女らが、ゼッケンをつけて試合に臨む姿を思い浮かべたが、ああでも、残念なことに、
「体育館には桜の木は入れない……」
呟いて、想像を終える。
いつも通り、神社にきたら手を合わせてお祈りしてから、桜の木の方へ向かう。
今日は、ちょっと小さめなサッカーボールがベンチの下に落ちていた。屋外ならいくら身長が高くても大丈夫である。
「リフティングってやったことないや…」って思って、さとりはやってみることにした。ボールを、落とさないように、予め池からは距離を取る。
曲げて構えた膝にボールを落とす。その後、地面に落ちて、てんてんてんとボールは転がっていった。「あれー 意外と難しい…」とつぶやきながら、拾いあげて、もう一度挑戦してみる。ボールを膝で浮かせて、慌てて足の甲で蹴った瞬間、きれいに弧を描いて池の中に落ちていった。あー、やってしまった。もう絶対、手が届かない場所で、水の中に入らなければ取れなそうだった。もちろん、水着は持っていない。たとえ持っていたとしても、この池に入る勇気は持っていない。お魚もびっくりしてしまうし。
うーんうーんと色々策を考えた結果、物を移動させる能力がないか試してみることにした。意外と窮地になると発揮するものかもしれない。見よう見まねで、両手をボールに向けて念を送る。数十秒程経った。が、何も起こらない。水の色も変わっていないし、量も増えたり減ったりしていないようにみえる。
それから、「良かった、物を爆発させたりする能力もなかったみたい」だった。
でも、ボールは池に落ちたままだった。
さとりは少し考えて、心で願ったことを引き寄せる法則と言う話を聞いたことがある! とひらめく。だけど、どうしたら、いいんだろう。毎日紙に書いてみる? 言葉に出してみる? 使っていないノートに書いてみて、更に、ボールを池から取れますようにと、3回つぶやいてみた。
「ワールドカップ出場の夢を諦めさせちゃって、ごめんなさい桜さん」と謝る。桜はいつものように応えずに揺れた。
あと出来ることは、とベンチに荷物を取りに行く。さとりは、神様にごめんなさいして帰ることに決めた。