トオミミさん1
ブクマ、評価等ありがとうございます!
さすがに、桜と思われたことは初めてだ! 忍者とか地獄耳とかスパイとか色々言われてきたが。
遠耳の能力を持つ彼は苦笑する。
内気なあの子については、結構前から知っていた。
自分は遠くの音を聞くことができた。
といっても、然程聞いて面白いものなんてそんなにない。罵声だったり金切り声だったり、ぼーっとしてると大きい音ばっかり拾ってしまう。だからといって、小さい声に耳をすませても、悪口ばっかり。
つまんねー と思ってた頃に、変な子の噂を聞く。
その子は不思議な言動をするらしい。どうやらものすごく人見知りが激しいらしく、周りに人がいると急に緊張したり、ものすごく距離を取りたがるらしい。それから全然しゃべらない。何かを聞いても答えが返ってこないかものすごく声が小さいようで、そのうち周りも話しかけなくなったらしい。
もうね、聞いてて心配になるくらい会話してない…。生活音も静かで、本当に存在してる? 大丈夫? って思うくらい。
そんな怯えないで、もうちょい気楽に生きればいいのにねー なんて思いながら、ウチキちゃんと心の中であだ名をつけちゃうくらい。
ついつい気になって、任務や情報収集などとは関係なく聞いてしまう。絶対罵倒とかしないし、悪口もいわない。何より大きい声出さないからちょー安心する。
たとえると、重いニュースみた後に、動物が追いかけっこしてるような映像をみて癒されたくなるような感覚でたまに聞き耳を立てていた。でも、それほど微笑ましい状況でもないということを後に知る。
ある時は、こんなことがあった。
いつも、つまんねーことを計画している連中がいて、水かけて脅かしたらどんなリアクションするんだろうみたいな。今日はこいつにしよーぜと話すのが、その子の名前だった気がして思わず真剣に聞いてしまう。きたきた、とか小声で言って、ターゲットが近づいてくる気配。待ち構えていたら、急に何かを思い出したかのように踵を返して引き返して行ってしまったようで、なあんだよーって、失敗かよーって、笑っていた。
ふーん、怪しい雰囲気丸出しでバレたんじゃねーのー と思いながらも安心してたけど、もしかすると、何か秘密のある子なのかもしれない。実は名探偵もびっくりなものすごい注意力とか推理力とかがあったりして。
偶然、学校の後に神社へ頻繁に通っているらしい事を知る。その場所は遠くなかったので、行ってみる。特になんの変哲もない普通の神社だった。時期のせいか時間帯のせいなのか、人はほとんどいない。
その時はウチキちゃんらしき人物もいなかった。
その子がたまに話す、桜の木の方へいく。これがあの木か、と思いながら見上げる。
そして、ベンチを見つける。
おどかしてみようと思ったわけじゃないけど、なんか偶然持ってた虫の形をしたおもちゃを置いてみた。
その後ウチキちゃんが来たようでわくわくしながら聞いていた。うわとかびっくりした声するのかなとか。けど、まったくそんなことはなかった! どうやら全く気が付かなかったようだった。
うん、まあ野外だしな、虫は目立たないかと思い直し、後日回収し、今度は花を置いてみたらお供えと間違えられて、パンパンと手を合わせてなむなむ言ってた。違う! 神域だから神様はいるかもしれないけど、何の霊もいない! 多分! そもそも南無はお寺さんの管轄だし。
ヤバい、めっちゃ面白い、とハマってしまう。
その後も、いろんなプレゼントを試していた。が、あの時はめっちゃ焦ったなと思い出す。
紙風船1つであんなことになるとは……。今思い出しても冷や汗が出る。雑貨屋で目についたから買って膨らませて置いといただけなのに、ものすごい大事に捉えられてしまって、何だか申し訳ないことになってしまった。というか、そもそも、紙風船一つで警察が動くか! と思ったがあの慌て方からすると、もしかすると本当に占有離脱物横領罪が適用されることがあるのかもしれない。知らんけど。
すぐ次の日にメモを置いたのに、なかなか気づいてもらえない!
この能力、双方向じゃないから不便だなー。
会うか、でも、会ったら、やっぱり変な人って言われんのかなとか葛藤していたら、やっと気がついてくれたが、どうやら、あれはウチキちゃんの中では、桜からの手紙ということになっていた! 桜は字を書けるのか、書けるとしたら日本語なのか、全くウチキちゃんは面白いなぁと思いながら聞いていた。
そして、やっぱ、名探偵じゃなくて何か能力があるわけでもなくて、あいつらがへぼかっただけかーと結論づける。
今日置いたボールは大変気に入ってもらえたらしい。ついついにやにやしてしまう。バスケの話をしてたからボールを置いてみたが、とても楽しそうな音がしていた。
ポンポンとボールがはねる音から、鞠つきしてる姿を想像してしまう。
ウチキちゃんの家族構成は母親だけのようだった。父親はいないようで会話などでも出てこないところを見ると、死別か離縁かどういう形なのか知らないが、不自然ではない形で存在がないところを見ると、かなり昔から居ないようであった。
そもそも母子の間で会話できる時間が多くないようだった。それでも、わずかな短い時間、母親には、若干小さめだけどいつもより大きな声で、ゆっくりながらもスムーズに話しているのを聞くと、微笑ましいのを通り越して、しみじみとしてしまう。
そんなわけで、ウチキちゃんに会うのはやめておくことに決める。
異能力者とそうでない人の溝は大きいのだった。
なかなか理解されにくいのだ。説明しても、変な人だと思われるだけだった。どうせ、こっちも、異能力者じゃない人の気持ちなんてわかんないけどねー と思う。
この世界では、ほとんどの場合、異能力者は異能力者の家系に生まれる。だが、異能の家に生まれると、能力を持っていても持っていなくても大変な想いをする。持っていれば持たざるものを、持たぬものは持つ力を、羨み、恨み、やがて、疲弊していく。
それでも、同じ能力を持つ者が家庭にいればまた救われる。遠耳の能力を持つ彼もまた、家族が同じ能力を持っていたので、家族も「あー この子もかー 了解了解」くらいの反応だったし、能力の扱い方も教えてもらえた。
逆に、そうでない場合は本当に大変そうであった。理解もされず、制御の方法もわからず、身を滅ぼす者も結構いた。異能力者として望まれて生まれたとしても、期待も恨みも全部1人の背にのしかかってしまうことも多々あった。
そんな悲鳴を何度も聞いてきた。
異能力者なんていない方が良いのかもな、とたまに思うことがある。
ついさっきまで聞いていた家の話を思い出す。その家は異能力者の家系であるのだが、能力を持つ者が生まれないらしい。つい先日生まれた子どもも能力を持っていないようだった。異能力者だったじいさんがなくなってしまって、このままでは後を継ぐ者がいないと必死になっているようだった。
でも、別にいいじゃんと思っていた、能力なくても生きていけるんなら、それでさー、と。まあ、貴重な能力ではあったけどさー。人が考えてることなんてわからんねーと彼は思う。
読んでいただきましてありがとうございます。
遠耳さんめっちゃ聞き過ぎ! って思うけど、たとえば、ファミレスの後ろの席みたいな感じで、聞きたくなくても耳に入ってしまう能力なので許してあげてください…。
ちなみに、遠耳の解釈は色々あるけど、ここでは、遠くの音が勝手に耳に入ってきちゃうけど、頑張ったら聞きたいものを選んで聞くことができる能力という感じで。
ウチキちゃんこと、サトリちゃんとは違って、音になってないものは聞こえない。