トオミミさん8
最終話です。
怖い思いをさせてしまったが無事犯人を捕まえることができた。
一応行動を注意して見ておいてよかったと思った。
というか、さとりの家の現当主に危険な可能性を伝えたはずだがと内心憤る。
ウチキちゃんの怯えた声を聞いたときは、肝が冷えてすっごい焦った。間に合って本当によかったと思う。
マジメガネにちょっと協力してもらって氷の礫をぶつけてやった。怪我させないくらいの硬さと大きさで、というと、「兄さんは相変わらず無茶なことばかり」と言いながらも実行するから真面目だ。氷なら落ちてしまえば溶けて、蒸発するから証拠も残らないだろうと。
これで、彼が危険な人物であることははっきりしたわけだ。相当物騒なことも企んでいたようで、そのような所持品も警察に押収されていた。
でも、あの家では、ウチキちゃんを守りきれないこともはっきりしてしまった。
彼は権力者の息子のようで、異能力者との縁を持ちたがっていたようだった。あの家にとっては、”良い条件”で交渉できていたようで、見合いに関して見直すように言ってもあれだけ渋っていたわけだとわかる。
このままにしておけば、同じようなことが起こるのだろう。もしかすると、もっと巧妙な手口になっていくのではないかというおそれすらある。
それならば、こちらから推薦してみるか。
だが、ウチキちゃんの結婚相手として、ふさわしそうな人物かー。
色々考えた結果、マジメガネを推薦してみるかと思い打診したら即断られる。
「絶対嫌です。」
「お前なら安心なのになー」と呟くと
「そもそも部外者である僕らが考える話なんですか。」
という。
「冷たいこというなよー」
ほっぺたうりうりしながらいう。「だってウチキちゃん他、友達いないし」
「僕も友達になったつもりはないですけどねっ」
うりうりを手で払いのけながら言う。
「メル友だろ」
という。唯一のと。
「兄さんもメアド聞けばいいじゃないですかっ」
全く正論だった。「そんなに気になるなら兄さんが立候補すればいいじゃないですか、結婚相手」
と言う。それは正直考えたことがないわけではなかった。
「それは、向こう次第だからねー」
と言いながらその実現は低そうだと思っていた。共感系の能力同士の結婚はなかなか成立しにくいのだった。
と思っていたのに、マジメガネと別れて、家に帰ると現当主である父親におかえりより先に
「いいんじゃないか」とにやにやして言われる。期待しかけるのを「向こうは知らんけど」と釘を刺される。
ふと思いついて1つの考えを提案してみると、遠耳の当主はあっさりやってみろと許可を出す。
遠耳の彼は覚悟を決めて1つのメールを出す。
「うちきちゃんにオレのアドレスにメールくれるよう伝えてください」
と、マジメガネに。
メール見た時、いちいち巻き込むな、とイラっとしたようだったが、数分後電話がかかってくる。
どんな伝え方をしたのか若干怯え気味だった。
「うちきちゃん、オレオレ」という声を聞いてかなり安心したようだった。
そして、家出の誘いをする。「うちにこない?」と
こうして、彼女は再び少ない荷物をまとめ、うちに来ることとなった。
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「口実は、異能力のコントロールの実習のためとかでいいかね」
マジメガネに顛末を話すと、呆れたように
「いっそ、結婚するためって言ってしまえばいいんじゃないですか。」
という。
「それはうちきちゃん次第だからねー。」
ウチキちゃんは困ったように笑っている。
マジメガネはため息をついていた。
いつもどおり、マジメガネと話し合う日がきたので、ウチキちゃんを連れて行ってみることにした。
大丈夫か、本当に良いのかウチキちゃんは何度も確認していたが、知らない相手じゃないし大丈夫大丈夫と軽いノリで答える。マジメガネはウチキちゃんの姿を見て一瞬驚いたようだが、ふうんという感じであっさり受け入れ、そのことに、ウチキちゃんはとても驚いていた。それからすごく安心したようだった。
いろんな近況について話したあと、いつものように雑談をする。
「そういえば、カマクラさんに会えなくなっちゃってごめんね。」
と言うと、ウチキちゃんは、おろおろとする。触れちゃいけない話題だったのかなぁと思い始めると、こっそりとマジメガネを指で示して
「カマクラさんです。」
と遠耳にしか聞こえないくらいの声でいう。
「まじかー……」
色々悩んだのに結局こういうことかと不思議と少しほっとした気持ちでもあった。
疑問符が頭にうかんでいるであろうマジメガネに、
「ウチキちゃん、相当悩んでたんだぞー。向こうが会いたいっていうくせに、実際会うと、会いたくないみたいなこと言うってー」
わざとちょっと責めるようにいうと
はっ、としてその後、マジメガネはため息をつき、きっと睨んで
「兄さんのせいじゃないですか! 兄さんが無理やり会って来いとか言うから…… って勝手に思考読んで笑わないでください! それから、二人共、人に勝手に変なあだ名つけるのやめてください!」
と怒鳴る怒鳴る。なるほど、カマクラねえ……と思いながら改めて見る。幕府でも、地名でもなく、スノードームの方ってわけかと。今はカマクラというより、マグマさんな感じにも思えた。
心を読んでいる、うちきちゃんが楽しそうな感じなので、まいっか、と思うことにした。
「遠耳さんはなんて呼んでいるのですか。」
「マジメガネ。真面目で眼鏡だから。既に、マジメもメガネもいたから、合わせてマジメガネにしたけど、今度からカマクラにするかなぁ……」
「もう好きにしてください……」
と彼がいうと、うちきちゃんが
「じゃあ、私がマジメガネさんと呼ぶことにします。」
と宣言する。少し驚いてから珍しく笑って
「その呼称はやめてください」と怒った風に言う。
「わかりました」
と、うちきちゃんも笑う。
仲良さそうで羨ましいぞーと思いつつも、微笑ましく思いついつい感動的な気持ちになってしまう。
「やっぱり、立候補しようかな……」
と不穏なことを呟きながら席を立つ。つい顔を見ると、不敵な顔をして「冗談ですよ。」と涼しい顔で言う。うちきちゃんの顔を見ると微笑んでいるので、心配いらない、いや、今心が通じ合ったから? とおろおろと動揺すると、マジメガネ改めカマクラは、そのままじゃまたと手を振って去っていく。
カマクラが去って、ウチキちゃんが真面目な顔になって言う。
「遠耳さん今まで色々とありがとうございます。」
「待って、それ、別れの言葉じゃないよね。」
つい確認してしまう。ウチキちゃんは、少し驚いて首をかしげる。
「お礼を言いたかったから……」
と呟く。「はじめて、迷惑をかける存在じゃないと思えたの。」
「ここにいてもいいのかなって。」
うちの家族は皆、異能力者に慣れているので疎ましがるどころか、可愛い女の子だと大歓迎で、歓迎されることになれてないウチキちゃんがむしろオロオロしていた。
でもここ数日で少しずつ慣れて行ってるようで、格段に言葉数も表情も増えた。
「もうここ以外どこにも行けないし、ここ以外ではどこでも生きられない。」
ウチキちゃんは言う。
「そんなことないよ。どこにでも行けるし、どこでだって生きられるよ。」
と不安そうな顔を見ながら言う。「ただ、どこにいても、笑い声は聞きたいな」悲しそうな声などはもういっぱい聞いたから、きっと、次はいい事いっぱいあるよと思いながら言う。
すると、
「遠耳さんの近くにいたら笑っていられる気がします。」
「じゃあ、そばにいてよ。」
と手を差し出すと
「はい」と笑顔で手を取った。
読んでいただきましてありがとうございました。
とりあえずここで完結です。