トオミミさん7
結局、見合いは流れたようだった。
と他人事のように思う。
結局、ウチキちゃんも頑張って伝えていたが、いつものように保留とか言っていたので、こちらから、ちょっと強引な手を使って見合いを破談させてしまった。
目の前でひらひらと手が動く。
「おー マジメガネ」と声を掛けると、
「何ニヤニヤしてるんですか。」
心底冷たい目が見下ろしていた。
「それより、ウチキちゃんは見合いやめるらしいぞー」
言うと、マジメガネはため息をついて
「それはよかったですね」
と呟くように言う。「だからこんなテンションなのか」と。
「良くないかもしれない。」
「えっ」とマジメガネが顔を上げる。
「つまり、見合い相手は、内面に、何か問題があるってことだろ」
マジメガネがはっとしたような表情をする。
「兄さんの方では何も聞いてないんですか。」
その問いに頷いて答える。その話が出てから、その人物の動向をしばらく注意して聞いていた。だけど、特に問題がありそうな発言などは聞いていなかった。
「まー 所詮、聴覚からの情報だけだもんなー」
と言うと、マジメガネは真面目な表情で、
「兄さんはすごいです」と言う。
別に凹んでいたわけでも、能力を卑下していたわけでもないが
「ありがとー もっと言って」と笑うと、マジメガネはむっとした表情になる。でも、すごい、あと感謝してると続ける。「兄さんがいなかったら、僕はきっと生きてられなかった」と。
「そんなことねーよ」と言いながら頭をなでる。
能力があってもなくても、誰かに出会っても出会わなくても、みんな生きてる、煩いくらいに。
ぐしゃっとした髪を鬱陶しそうにかきあげながらマジメガネは
「でも、兄さんはあの子が好きなんでしょ」とちょっと拗ねた感じで言う。
その言葉に、一瞬、コントロールを失って頭の中に音が溢れる。
「うちきちゃんは好きな人いるっぽいんだよな…」
「聞いたことないですよ。そんな話したこともないですが。いつも兄さんの話しかしてないです。」
「そんな頻繁に話してるのか!? 聞いてないけど!」
「メールですが……。」
心なしか視線が冷たくなった気がする。
「メル友なの!?」
「使い方教えてるだけですけど……」
「でも仲いいじゃん。」
マジメガネは少し困った表情で悩み、そしてため息をつく。
「兄さんに頼まれたからやってるだけです。一応、責任もって面倒みなければと。」
そして少しためらって付け加えるように言う。「メールなのは会うのが少し怖いから」と。そして、自分を怖がる人もこんな気持ちだったのかなと消えそうな声で言った。
「まあ、それがわかるのは……」
ウチキちゃんだけだねぇと続けようとした。
そんな時、微かに小さな声を拾う。