ウチキちゃん6
やっとスマートフォンを手に入れる。
あの恐怖の面会のあとお願いしてみたのだ。
正直、あまり快い返事をもらえなかったが、数日するとまるで向こうが提案してきたような形で、非常に上から目線で支給される。どうやら、恩人さんからの強力な根回しがあったようである。たまに、こんな風に、お願いをすると、その場では、渋い顔していたのに、後日「わたしたちも内心そう思っていたのである」みたいな形で、願いが成就していた。得られることには全く文句はないので大人しく受け取っておく。そして、「恩人さんありがとう」とつぶやく。
それにしてもなんでこんなに色々助けてくれるんだろうと考える。
恩人さんは神様みたいだとさとりは思い始めていた。
そんなわけで、たまーに、カマクラさんとメールをする。
というか、カマクラさんしか、アドレス帳に入っていない。これまで、この手の機械を使ったことがないさとりにはメールでもハードルが高かった。「こんにちは、さとりです」のメールを一つ作りあげるのに、数日かかる。他の機能は使い方が全くわからず断念する。
メールアドレスをゲットするときも、「なんで僕が」と言い続けていて、本当は会いたくはないんだろうなとしゅんとする。
今まで、言葉の上だけでも会いたかった、なんて言われたことないけれど。
メールで恩人さんはどんな人かを聞く。
「すごい人」らしい。前回会った時にきいてしまったが、さとりと同様に、助けてもらったことがあるらしい。それで、深く恩義を感じているのだとか。
似たような人が何人もいて、「すごい」らしい。能力については、深くは知らないようで、すごく集中力がいる能力らしい。さとりの能力とは違って。
(自分のこの能力はそもそも誰かの役に立つのだろうか。)
と少し落ち込む。
ある日、以前住んでた場所の話をする。
あの桜の神社の話題が出る。
さとりはびっくりした。あの神社知ってる人珍しいと。石段を登って高い所にあるせいか、あまり人が来なく、さとりにとっては居心地の良い場所だった。
「ああ、その神社で池に落ちたサッカーボールを救出したことがある」という文字を見る。
さとりは、ボールの無事を喜ぶ。いろいろあって忘れちゃってごめんねと。
もしかしたら、カマクラさんは桜さんなのかもしれないと。
でも、桜さんにとっては思い出すこともない些細な出来事だったんだなと思い、勝手なことだが少しショックだった。
あーあ、カマクラさんが桜の神様だったんだ……と呟く。