トオミミさん5
こっそり聞いてるのがバレるとさすがに引かれるんだろーな。
薄暗くなった窓の外から明るい部屋の光を見つめながら遠耳の能力を持つ彼は思う。
それは、昔から、散々言われたことだった。
生まれた時から遠耳だった。
物心がつく前から、能力をコントロールすることを学ぶ。
でもなんで、兄弟の中で自分だけやらなきゃいけないんだろう。家の外の人間と関わることで、段々と言われた意味がわかってくる。自分は異能力者なのだと。足が速い子がいるように、物覚えが良い子がいるように、遠くの音が聞こえるだけとは言いつつも、理解されない。盗み聞きしているとか、こういうのも聞こえるんだろと言われた。まあ、確かにその通りなんだけどさー
ため息が出る。それ以上にさー わかってんのって思うよねー 遠くの会話だって聞こえるってことは、常に音だらけだってこと。すっげーたくさんの音の中からほんの少しの聞きたい情報を探し出して俺は生きてる。俺は結論付ける。みんなは、たとえば世界の音が無数のラジオだとして、それらは自動で電源オフになるのを自分は手動でパチパチ消したり、聞きたいラジオだけ音量あげたりしているだけなのだと。
今も聞きたい局は恐ろしく音量が低い。
あの真面目な眼鏡がオロオロしている様子が聴いてるだけでわかる。
ウチキちゃんの言葉ぜんぜん伝わってねー
くっくっくっと笑ってしまう。
ウチキちゃんは聞き取れすぎて、マジメガネは聞き取れなさすぎて、お互い表現するの下手すぎて、しょうがないねー
それでもお互い諦めず一生懸命な様子がわかる。
それが一番大事。相手をわかろうとし、伝えようとする気持ち、忘れなきゃ、いつかは上手くいく。微笑ましい気持ちで見守る。
それから、ウチキちゃんが一生懸命伝えていたが伝わらなかった伝聞ではない直接の礼には「はいよ」と受け取っておく。あれは、そんな気にしなくていいのにな。こちらも、あちらさんも、メリットのある打算だらけの話だったのだから。つまり、君だけにデメリットが大きかったんだ……。
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そして、面談が終わって、店の前でどんよりと立ちすくむマジメガネに「お疲れー」と手を挙げて声をかける。
「聞いていたんでしょう。兄さんが行けばよかったのに」と言うのを笑ってスルーする。
「ウチキちゃんはどーだった?」
と印象を聞いてみる。マジメガネはものすごく悩んで言葉を選んでから、
「相性が悪い」と答える。
「だろーねー」
と答えた。心の中読まれたくないマジメガネと、それを読んじゃって狼狽えるウチキちゃん、笑えるほどお互いうまくいかなすぎていた。
それを察して、マジメガネは不機嫌そうな顔をして不満を訴える。「やっぱ兄さんが行けばよかったじゃないですかー」と。
共感系の異能力はただでさえ負担が大きいのに、ほかの共感系の能力がいると余計に負担がかかる。特に無意識に読んでしまう系にはつらかろう。その理由は言わずに、笑って誤魔化す。
店を出た後、迎えの車に乗って去っていった向こうの様子を聞いてみる。ウチキちゃんの方も、うまく話せなかったことを落ち込んでいるようだった。やれやれと思う。
向こうにも「あんま気にすんな」と言ってやりたい。場数こなせばうまくいくもんだと。
マジメガネがむーという不満げな顔をしながら、
「というか、彼女は兄さんが気にするほどの人なんですか。」
と問う。そうは思えないけど、と。これまで、あんまり一人の人間に気にかけたりしなかったじゃないですかと訴える。
「なんか気になっちゃうんだよなあ」と笑って言うと、マジメガネはなぜかすごく驚いていた。