5話「間違いとは」
試験的にタイトル入れてみました。
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「一馬君どうでしたか?」
「いや、どうって何ですかアレ」
猿梨先輩はニコニコと質問してくるが、どうだった?と聞かれても何もかもが唐突過ぎるし、ツッコミ要素が多過ぎて反応に困る。強いて言うなら、仁井が饒舌になったときは、多重人格者なのかと本気で疑った程度である。いや、人を本気で多重人格かと心配するとか、普通は人生に一度あるかの珍事だ。危ない。既に思考が毒されつつある。
「ま、普通そーなるよね」
「逆に満点の回答はなんですか?」
「すげぇ!俺もやってみてぇ!とかかな。それじゃあ、敗者の沙也加ちゃんは斎藤君に、ウチのルールを説明して下さい!」
「僕は、いよいよ部長の人間像が分からなくなってきましたよ」
「敗北者早く説明」
「敗北者…?」
「長くなるんで、取り消して下さい」
仮に十分な説明されても、理解できる気がしないことは口に出さないでおこう。
「それじゃあ、説明させてもらうけど、その前に一つ。君は哲学を何だと思ってる?」
その目は真剣だった。
「曖昧な回答になるけど、その人にとっての生きていく理由だとか、矜恃だとかを突き詰めた学問かなと」
「うわっ。痛っ」
「斎藤君。いい趣味してるね!」
「あぁ。鬱だ。死のう」
「あ、それ私の決まり文句です!」
「先輩メタい」
真面目に回答した結果がこれだ。穴があったら入りたい。いや、縄があったら首括りたい。こっちの方が状況的には、合っているのかもしれない。まぁ、どちらにせよ、恥死しそうだということに変わりはないのだが。
「あはは。半分は冗談だよ」
「もう半分は何なんですかね…」
「まぁまぁ。尖ってないってないと哲学者は務まりませんし」
「いや、別に哲学者に成りたいって訳じゃないですから」
「さて、さっきの質問。哲学とは何か、だけどね。正解は【そんなものに答えはない】なんだ」
「もう、哲学って学問自体が、胡散臭い気がしてきたんだが」
「妥当な反応だね。でも、そんなインチキ臭くて、不明瞭な学問であるからこその利点もあったりするのさ」
「お前さ。実は哲学嫌いだったりするだろ?」
「いやいや。僕は大好きだよ?哲学」
「否定しておいて、どの口が言うんだ」
「この口だね。それに僕は清濁併せ呑めとて、信者ではないのさ。哲学がインチキ臭くて、不明瞭なのは事実なんだから、それはハッキリそう言うよ」
「単なるネガキャンじゃないんだな」
「7割程はね。さて、続きだ。続き。哲学とは何か。さっき僕は、そんなものに答えはない。そう答えたね」
「あぁ。そうだったな。それがどうかしたのか?」
「ここで一つ問題だ。一体、答えのない学問の向かう場所はどこなんだい?」
「いや、何処もなにも、答えが終着なんだから、それがないなら彷徨うしかないじゃないか」
「そう。その通りだよ。答えがないから、彷徨い続ける。つまりそれは、どんな時代の、どんな形態のものであれ、哲学であるなら、等しく【間違いではない】この事実の裏付けなんだ」
「それは、流石に論理の飛躍だろ。必ず間違いじゃないなんて、どうして言い切れるんだ」
「なら問おう。正解が分からない学問に於いて、誰が間違ってることを証明出来るんだい?」
「それは…っ…」
「ヘンペルのカラス的な話だよ。そんな証明は、誰にも出来やしない」
「いいや。いるさっ!ここにひとりな!!」
「そしてそれが、ここでのルールでもある」
「こ、こいつ無視しやがった…」
「いいかい。哲学に間違いはないんだ。だからこそ、他人の意見を【否定する】ことは御法度中の御法度。もし、しても見ろ。お前は死ぬより辛い目に合う」
「死ぬより辛いって、なんだよそれ…」
「まぁ、そのうち分かるだろうさ」
「なんかその発言、ババアっぽ…」
「何か言ったか?」
「決してババアっぽい。等とは言っておりませ…ハッ?!」
「残念だったな、トリックだよ」
「てめぇ、なんて怖く…ちょっと、どこから、その鉄パイプ持ってきたの?」
「フッ。いい台詞だ。感動的だな。涙ものだな。だが、無意味だ」
「冷酷!無慈悲!冷血漢!」
「何とでも言うがいい。ただし、僕は女だ」
「男装してるじゃないか」
「だが、女だ」
「髪も短いし」
「だが、女だ」
「む、胸もないし」
「だが、女…〇すぞ」
「仕方ないだろ、カンペ、カンペを読んだだけなんだ!」
「カンペで許されたら、警察は要らないんだよ!」
いや。そもそも、カンペで許されるって何だよ。とツッコミ前に、拳が飛んできて、そこで意識は途切れたしまった。後日談だが。それは、それは見事なラビットパンチだったそうな。鉄パイプを使って殴られなかったのは、彼女のひと握りの優しさなんだろうか。いや、意識不明はニュースで報道されるレベルの重体であることを考慮すれば、間違いなく犯罪者予備軍だろう。彼女の将来に一抹の不安を抱いた。