4話
誤字等あったら、教えて下さい。オナシャス!
〜〜
近頃、一つ思うところがある。部活に入って数日経ったが、何ら活動してないのだ。いや、別に、こうして部室で先輩らとゲームに興じている方が、哲学を研究してるよりいいに決まっているんだが、哲学研究とはどんなものなのか。内なる好奇心が問いただせと命じるのだから、これは仕方ない。
「リエラ先輩。うちの部って活動しないんですか?」
「あ、そうだね…そろそろ来た頃かな」
「ここに、バナナの皮置いたの誰ですかぁ!」
「先輩ひっかかり過ぎ」
ゲーム片手に質問してみる。ちなみに、現在プレイしているのは、運ゲで知られる某レースゲームだ。順位はさっきから、仁井が1位を独占して、猿梨先輩は最下位続きという極端な展開が続いている。リエラ先輩と僕は2位から8位辺りを行ったりきたり。というか、仁井は強過ぎるし、猿梨先輩は弱過ぎるのだ。ダートに入るし、コースアウトはするし、果てには逆走する始末。この人が将来免許をとったら大変な事になる気がして止まない。ちなみに、犬前は「僕は、読書するから遠慮しとおくよ」と断っていたが、今は入りたそうに後ろでソワソワしている。愛いやつめ。
「よし、ゲーム終わりっ!」
「あー!せっかく11位だったのに…」
「いや、先輩それ低い」
部長の鶴の一声でゲームが中断される。話の流れ的に、どうやら真面目に部活動をするらしい。だが、僕は部長が2連続で甲羅をぶつけられて、最下位まで転落してから、電源を切ったのを見逃さなかった。妙なところで負けず嫌いな人である。
「で、一体何をするんですか?」
「それはねぇ…ジャンっ!」
「箱?」
部長がおもむろに取り出したのは、ポスト的な見た目をした箱だった。
「これは目安箱なんですよ」
「哲学研究とかいう怪しい名目では部活動を行う事が認可されなかったからね。学内に有益な活動を起こす。って条件付きで、同好会として、この教室を借りてるの」
「怪しいって自覚はあったんですね…」
「だから研究会」
「That's Right。部活は規約の名称独占に抵触するから名乗れないし、どうせ近く同好会じゃなくなる予定なんだからね」
適当な部活動として認可されてから、裏で哲学研究すればいいのでは。と思ったのは僕だけなんだろうか。
「ま、やってみるのが早いよ」
「早速読み上げましょう!」
拝啓。哲学研究会の皆様へ。
近頃、私は彼氏と喧嘩してしまいました。その理由が、きのこの里とたけのこの山の何方が美味しいのか。で口論になったからなのです。私はきのこの里の方が美味しいと思うし、彼はたけのこの山が美味しいといって譲りません。ですから、どちらが美味しいか哲学研究会の皆さんで決めて下さい。
2ーD 篠崎
「いや、なんですかこの惚気」
「同級生は彼氏持ちなのに…鬱だ。死のう」
「思い出したように、鬱言うのやめて下さい」
果たして、これに答えることが、学内に益をもたらすのだろうか。不純な異性間交流など、公共の風俗を乱すだけである。え?嫉妬?自分がリア充じゃないから?ちょっと、何言ってるか分からない。
「愛し合うが故に、時に仲違いをする。うん。これぞ青春だね!」
「たかがチョコレート菓子の好みで仲違いする程度の仲で、彼氏彼女だなんて、お笑いですよ」
「全く以て同意だ。それに、聞くまでもなく、美味しい方なんて、きのこの里に決まってる」
「は?」
「いや、アルフォ…なんでもないです」
きのこ派とたけのこ派。相容れぬ両者が揃えば、それは必然と起こる。
「「戦争」だ」
「あーこれはあれですね」
「梨花と斎藤君が審査員で、私が審査員長。勝者の意見を投書への回答と言うことに。それで、斎藤審査員は討論開始の合図を」
「えっ、なんですかこの流れ」
部長の目は、今までになく燃えてるし、いつも半死体の仁井が、何故か前髪を上げて目を見開いてる。
「今度ちゃんと説明するので、とりあえず乗って下さい」
「あっはい。それじゃあ、討論開始で」
「では、たけのこ側の仁井さん。主張をどうぞ」
「主張を始める前に、まずは、この討論に於ける帰結が、どちらが、より美味であるか。の一点である。ということ確認します。犬前さん。これに異議はありますか?」
「当然ないね」
「では、主張を開始させて頂きます。まず、たけのこの山が何を以て、きのこの里より美味であるか。という点ですが、これは明確に味覚センサーによって、たけのこの山の方が美味であると、判断されていることを提示します。又、今年に開発元の行った世論調査の結果も、僅差ながらも、たけのこの山が勝利に終わった。という点も留意しておくべきでしょう。以上の事実から、世俗的意見を以て、たけのこの方が美味であることに、疑いの余地はありません。衆寡敵せず、とはよく言ったもの。大衆の意見こそが、王道です。なればこそ、たけのこの山の方が美味しいことは、明らかでしょう。以上で主張を終わります」
「では、きのこ側の犬前さん。主張をどうぞ」
「事前の主張により、帰結は確定している為、確認は省略させてもらうよ。何か異議は?」
「ないですよ」
「では、主張を開始させてもらうね。まず、きのこの里、たけのこの山の両者がチョコレート菓子であることを提示したい。この事実から、我々は何方を食べるにせよ、チョコレート菓子を食すことを目的とする訳だ。それはつまり、この両者の優劣が、チョコレート自体の内容量に由来することの証明に他ならない。ここで、両者のチョコレートの量を比較する。その結果として、きのこの里は、たけのこの里に対して、約1.4倍もチョコレートが多いという事実が浮かび上がった。この点から、チョコレートを食すことを目的とする、この両者に於いて、きのこの里の方が美味であることは、明らかである。以上で主張を終わらせてもらうよ」
「では、たけのこ側の仁井さん。主張に対して反論をどうぞ」
「反論を開始させて頂きます。まず、犬前さんは、両者がチョコレート菓子であり、それらを食する場合は、チョコレートを食することを目的とする為に、チョコレートの内容量が多い方が優れている。と述べました。犬前さん。これに相違はありますか?」
「いいや。その通りだね」
「では、ここで本討論の帰結を確認します。本討論の帰結は、どちらが、より美味であるか。の一点である。審査員長。これに違いありませんね?」
「はい。それで間違いありません」
「では、以上のことから、犬前さんの主張は、美味しいさ。ではなく優劣についてを述べたものであり、何方が美味しいのか。についての本討論に於いは、その主張に根拠がない為、無意味な主張であることを提言します」
「ふむ。犬前さん。このことに対しての反論はありますか?」
「お菓子として優れている。ということは、必然的に美味である筈だ。それらを加味しての発言だったんだけど、言葉足らずだったね。それについては、ここで謝罪させてもらうよ」
「と、ありますので、先程の主張自体の正当性は確保されました。ですので、討論を再開します。仁井さん。問題ありませんか?」
「いえ、審査員長。犬前さんの反論に、一つ間違った点があります。追求の為に、主張する機会を頂いてよろしいでしょうか」
「反論に間違いがあると。討論とは相違する主張の正当性を追求するものです。個々人の意見に絶対的な間違いは存在し得ない筈ですが?」
「いいえ。それは、主張が正常である場合に於いてのみのです。犬前さんの主張には、明確に間違いがありました」
「主張自体が異常であったと。いいでしょう。では、間違いを述べて下さい。しかし、追求が無意味なものであった場合は、然るべき処置を取らせて頂きます。よろしいですか?」
「はい。結構です」
「では、間違いの提示をどうぞ」
「ここで、一つ確認させて頂きます。お菓子として優れている。ということは、必然的に美味である筈。この発言は犬前さんが、ご自身でされたものですね?」
「っ…!」
「違いますか?」
「犬前さん。返答を」
「…そうだ」
「では、必然的に美味しい筈。という部分を間違いとして提出します。理由は、発言からして、美味しさが必然的であるにも関わらず、筈という言葉で、その必然性を否定している為です。自己矛盾していると言わざるを得ません」
「あ…これは決まりですね」
「犬前さん。何かありますか?」
「あはは。相変わらず強いね。降参だよ」
発端が惚気であることや、議題が、どうでもいいチョコ菓子であることは、この期に及んで一切の意味を持たない。
「斎藤君。ようこそ哲学研究会へ」
ニヤリと笑う部長の顔は、心底愉しげなものだった。