3話
話は入部届けを提出された時にまで遡る。
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「じゃあ、まずは自己紹介だね。私は2年で部長のリエラ・F・フリード!リエラって呼んでね!」
勧誘の時の彼女は、満面の笑みを浮かべてサムズアップしている。何がそんなに嬉しいのかは分からないが、歓迎されているのはいい事だ。もし、彼女が中東出身だったなら、僕はいよいよ、この学校をやめることになるだろう。米国出身であることを切に祈る。
「じゃあ、次は君の番!」
「あ、どうも。1年のさ、斎藤一馬です」
「斎藤一馬君かぁ。うん。いい名前!よろしくね!」
「あはは、どうも」
求められたので、手早く名前を述べる。若干キョドったが、これは誤差の範囲内だ。
「じゃあ、次はウチの部員の紹介かな。まずは、こっちの男装してる子が、1年の犬前沙也加ちゃん」
「あぁ。斎藤君だっけ?よろしくね、僕のことは好きに呼んでくれたまえ」
「えっ、女子!?」
目の前の犬前とかいう子は、その見た目こそ中性的だが、明らかに男装している。その髪こそショートだが、明らかに男装している。大事なことなので2回言った。それに、ボクっ娘である。まさか、現実で、それも高校でお目にかかれるとは、感慨深いものだ。ちなみに、この高校入ってよかったと思ったのは、これで2回目である。
「男女平等が謳われる今日なればこそ、社会も男女の在り方について、寛容になるべきだとは思わないかい?全く、前人的な考えを持った人間が多くて困るよ」
「彼女は、男装が趣味なの。校則には抵触してないし大目に見てあげてね」
「あっ、はい」
ちょっと驚いただけなのに、ここまでdisられるのはどうなか。ここがネットなら、間違いなくレスバに発展していたことだが、残念ながら、ここは現実であり、僕はコミュ障の為、秘技「愛想笑い」を使って切り抜けるしかない。今日も今日とてコミュ障が憎い。
「次に、そこのヘラってる子が〜」
「ヘラってる子?!」
「うん。ヘラってる子」
どうやら聞き間違いではないらしい。ヘラってる子と紹介される方もされる方だし、する方もする方だと思うんだが。ひょっとして、僕はとんでもない部活に入ったのではないか、と一抹の不安が脳裏を過ぎった。過ぎったというか、ここまでくると、確信なのだが。
「2年の猿梨梨花です。よろしくね、一馬君」
「はい。よろしくお願いします」
「ところで、一馬君は外部の子だよね?」
ひょんな事を聞いてくる先輩だ。となると、先輩は内部進学なんだろうか?まぁ、疚しいことでもあるでもなし、素直に答えるのが吉だろう。あと、名前呼びとか尊い。
「そうですね。先輩は内部ですか?」
「うん。私は内部だよ〜、外部ってことは、きっと頭良いんだよね。羨ましいなぁ」
「そ、それほどでも」
あの嫌がらせの入学試験で半分以上を取れるのだから、世間一般の平均より高いのは確かなのだが、この学校中では、下の下もいいとこ、というのが実情である。無垢な信頼が若干後ろめたいが、見栄を張るのが男という生き物だ。という至言がある。今は、それに従っておくとしよう。
「最後は、そこの机で突っ伏してる子だね。彼女は…」
「1年の仁井千枝。よろしく」
「うん。よろしく」
最後に紹介された子は面識があった。向こうが覚えているかは定かじゃないが、彼女はクラスメイトだ。今年の新入生総代を務めていたことは、記憶に新しい。噂では、一般枠で入学した天才で、勉強のし過ぎで感情を失い白髪になったそうだ。いや、一般枠云々はどうであれ、勉強のし過ぎで白髪や無表情になるとかいう話は流石に如何なものか。頭が良くて疎まれるとは、僕からしてみれば羨ましい限りである。
「寝癖の人」
「その覚え方はよくない」
「間抜けすぎて笑った」
流石に寝癖で覚えられてるとは思わなかったし、ほぼ初対面の人間に馬鹿にされるとは思わなかったが、美少女の笑顔との交換なら望むところである。にへらと笑う彼女の顔は、教室の鉄面皮とは別人に映って見えた。
「自己紹介も終わったし、それじゃあ、新歓といきましょうか!」
この後に、前述の通りジャンケンに敗れ見事ジュースを奢らされた訳である。ついでに、お菓子も奢らされたことも追記しておこう。それと、やはりここの生徒の金銭感覚はおかしいことを実感した。普通お菓子を買うのにデパートに行く奴があるか?ないだろ。ないと言ってくれ。心と財布が軽くなった。そんな一日である。